• ISO45001は労働安全衛生マネジメントシステムに関する国際認証規格
  • ISO45001認証取得により、社内の労働環境の向上と対外的アピールに
  • ISO45001は2018年に制定されて以降、取得企業数は増加傾向

ISO45001とは、労働安全衛生におけるISO規格の一つです。負傷や疾病といった労働問題や労働環境に対する企業の取り組みが一層求められるようになっている昨今、ISO45001はどのような役割をもっていて、どんな効果が得られるのでしょうか?
この記事では、ISO45001の概要や取得企業、取得のための手順、要求事項、要求事項を満たすポイントをわかりやすく解説します。

ISO45001とは

ISO45001とは国際標準化機構(ISO)が発行する、労働安全衛生マネジメントシステムOHSMS:Occupational Health and Safety Management System)に関する国際規格です。

労働安全衛生マネジメントシステムとは、安全衛生管理における仕組みのことです。労働災害の防止や労働者の健康増進、快適な職場環境づくりなど事業場の安全衛生水準の向上を図ることを目的としています。

そのためISO45001を企業が導入することで、組織の労働環境の現状を把握し、労働安全衛生リスクを低減し、従業員が安全に働くことができる労働環境への改善が見込めます。

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ISO45001が発行された背景

ISO45001はISO規格の中でも新しい規格で、発行されたのは2018年と比較的最近です。
それまで労働安全衛生に関するニーズがなかったわけではなく、労働安全衛生に関する取り組みは1990年代にははじまっていました。

以下に、1990年代からISO45001が発行された2018年までの動向をまとめました。

1996年英国規格協会から労働安全衛生マネジメントシステムに関する国際規格(BS8800)が発行されたのをきっかけに、国際的な規格のニーズが高まった。
1999年はじめて国際的な規格として発行されたOHSAS18001をガイドラインとし、各国で労働安全衛生マネジメントシステムの認証制度が誕生。
2013年国際的な労働安全に対するニーズの高さを受けてISO45001策定が開始される。
2018年ISO45001が発行される。

なお、ISO45001の前身であるOHSAS18001は2021年3月で登録失効となり、OHSASを取得していた企業は失効前にISO45001へ移行することが求められました。

関連記事:OHSASとは?概要を分かりやすく解説
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ISO45001認証取得のメリット

ISO45001の目的は、労働災害などの危険源を排除し、安全で健康的な職場環境を提供することにありますが、認証を取得することにより企業は以下のようなメリットを享受できます。

労働安全衛生の合理的な管理が実現

ISO45001を取得し、労働安全衛生マネジメントシステムを構築・運用することで、適用範囲内を統一した仕組みで合理的に管理できるようになります。

一貫した管理により、労働安全衛生上の課題を発見しやすくなります。また、その後の対応策の立て方や効果測定の手順も明確化されるため、問題解決までの一連の流れをスムーズに実施できるのです。

業務効率化につながる

労働安全衛生マネジメントシステムを構築する過程で、労働環境の現状の見える化は必須です。
業務の無駄や非効率的な部分を見つけて改善することで、業務効率化につながります。

労働安全衛生に関するコスト削減

ISO45001を取得する過程で業務フローを可視化し、管理体制の改善を実施する必要があります。その中で、無駄な業務フローや人材配置があった場合、適切な体制に是正していくことで、コスト削減が期待できるのです。

また、PDCAサイクルを回し、継続的な改善が必要であるため、マネジメントシステム構築時だけでなく、長期的なコスト削減にもつながるでしょう。

求職者に安全性をアピールできる

少子高齢化が進み、人材不足が問題となっている現代において、売り手市場が続いています。求職者の企業を見る目が厳しくなっている中、安心・安全な職場であることを客観的にアピールできる国際規格の取得は、大きな強みとなるでしょう。

安全衛生マネジメントシステムを構築・運用し、負傷や疾病が減ると、離職防止にもつながります。離職率の低さは、採用活動を有利に進めるために重要な条件の一つといえるでしょう。

労働者の満足度向上につながる

労働安全衛生マネジメントシステムを構築・運用することで、労働者との信頼関係を深め、労働者の満足度向上につながります。会社から大切にされているという証明になり、従業員のモチベーションアップが期待できるでしょう。

また、業務効率化により、生産性が向上することも労働者満足につながる可能性があり、より快適な労働環境の実現が見込めます。

ステークホルダーからの信頼を獲得できる

ISO45001を取得しているということは、自社の労働安全衛生マネジメントシステムが世界的な基準に達しているという証明になります。
そのため、顧客や取引先などに自社の安全性をアピールできるのです。

企業との取引・契約が有利になる

ISO45001は、労働環境の安全性が求められる建設業や製造業での取得が特に多い規格です。そのため、ISO45001の取得が公共事業への参加条件であったり、入札時の加点になったりする場合があります。
また企業の中には、ISO45001の取得有無を取引条件に設定している場合もあります。

ISO45001を取得することは取引先との契約や公共事業の入札などが有利になる可能性があり、売上の向上も期待できるのです。

関連記事:ISO45001認証を取得することで得られるメリット5選
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ISO45001認証取得のデメリット

ISO45001認証取得に際し、企業は以下のようなデメリットが発生することも把握しておきましょう。

費用がかかる

ISO45001を取得・運用するためには審査を受ける必要があり、審査費用がかかります。
ISO45001を取得したあとも、適切に運用しているかを確認するための維持審査と更新審査を受ける際には、その都度審査費用が求められます。

またコンサルティング会社にサポートを依頼する場合には、その費用も必要です。ただし、コンサルティング会社に依頼すると、人件費の削減や確実な取得につながるため、多くの企業がコンサルティング会社にサポートを依頼しています。

このようにISO45001の取得には、審査費用やコンサルティング費用がかかります。
しかし、取引先の拡大や生産性の向上などの効果が期待できる場合が多いため、費用対効果を検討してうえで取得することがおすすめです。

関連記事:ISO継続に必須!更新審査・維持審査を解説

手間がかかる

ISO45001を取得するためには、要求事項に沿った労働安全衛生マネジメントシステムを構築・運用することが欠かせません。
その際には要求事項に求められている文書・労働安全衛生マニュアルの作成、運用の記録なども行うことが必要です。これまでになかった手間が発生し、従業員の負担になる可能性があります。

こうした手間や負担を低減するためには、自社の実情に適したマネジメントシステムの構築が大切です。要求事項をよく読み解き、自社の現状や課題を分析したうえで、マネジメントシステムの構築に移りましょう。
ただし、自社の実情に適したマネジメントシステムの構築は容易ではないため、信頼できるコンサルティング会社に依頼することも一つの手です。

関連記事:ISO認証取得にかかるISOコンサルタント業者の費用と選ぶポイント
関連記事:【初心者向け】ISO45001取得のメリット・デメリットとは?

ISO45001の取得企業数

2018年に発行されたばかりのISO45001ですが、取得する企業は年々増えています。
公益財団法人日本適合性認定協会が公開している「適合組織統計データ」(外部リンク) によると、2025年2月時点で406以上の企業がISO45001を取得しています。

そのなかには、「日本製鉄」や「明治」といった大手の鉄鋼メーカーや食品会社の名前もあります。

ISO45001を取得すべき業種

取得企業を産業別にみてみると、取得が多い分野は以下の業種です。

  • 食料品、飲料、タバコにかかる製造業
  • 基礎金属、加工金属製品にかかる製造業
  • 機械、装置にかかる製造業
  • 電気的及び光学的装置にかかる製造業
  • 建設業

いずれも製造や建設に関係しており、労働者のケガや病気のリスクが特に高いとされている業種です。
ISO45001は、労務中のケガや病気といった労働災害などの危険源を排除する仕組み構築のためのガイドラインなので、安全な労働環境がより求められる業種での取得が多いのは自然な流れといえるでしょう。

ただ、ISO45001を取得するメリットが大きい業種は、製造や建設以外にもあります。詳しくは以下の記事で解説しているので、ISO45001取得に興味のある方はぜひ参考にしてください。

関連記事:ISO45001を取得したほうが良い業種とは?
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ISO45001取得企業の例

ISO45001取得企業には、どのような企業があるのでしょうか。
「適合組織統計データ」によると、以下のような大手企業や有名企業もISO45001を取得しています。

【ISO45001の大手企業や有名企業の取得企業一覧:2025年2月現在】

  • キヤノン株式会社(取手事業所)
  • ルネサスエレクトロニクス株式会社(米沢工場、武蔵事業所など)
  • ローム株式会社
  • 住友化学株式会社(愛媛工場、大江工場など)
  • 太平洋セメント株式会社
  • 富士フイルム株式会社(マテリアル生産本部富士宮事業場)
  • 帝人株式会社(三原生産部)
  • 新日本電工株式会社(鹿島工場、富山工場など複数)
  • 日本精工株式会社(埼玉精機プラント、大津工場など)
  • 日本製鉄株式会社(名古屋製鉄所、九州製鉄所大分地区など)
  • 日立Astemo株式会社(袋井工場、上越工場)
  • 株式会社明治
  • 株式会社資生堂(掛川工場、大阪工場など)
  • 株式会社レゾナック(伊勢崎事業所、喜多方事業所など)
  • 積水化学工業株式会社(京都研究所、群馬工場など)

ここからは、実際にISO45001を取得した企業について紹介します。

株式会社ヤマタケ

株式会社ヤマタケは、三重県で建設業を営む会社です。

ISO45001を取得したきっかけには、以下の2つがありました。

  • 工事全般を取り扱うことから安全に対する姿勢をよく見られ、ISO45001を取得していた方がより好印象を与えられるため
  • 三重県では公共事業の入札要件に含まれていないものの、5点~15点加点される県があるため

ISO45001を取得後、まだ全社員にISO45001の考え方の浸透はできていない段階ですが、ISO規格に触れる機会やISO教育を行い、より強固な体制づくりをしている最中とのことでした。

株式会社ヤマタケのISO45001取得事例の詳細は、以下の記事をご覧ください。

関連記事:書類大幅削減を実現した建設業が取り組む3規格運用

旭精工株式会社

旭精工株式会社は、東京都でコインメカニズムに関する商品を生み出す製造業の会社です。

ISO45001を取得したきっかけには、以下の2つがありました。

  • 海外展開をしており、海外のお客様からの要望が強く、取引拡大のため
  • 「人こそ最大の資産」という考えのもと、従業員が健康で安全・希望・誇りをもてる職場づくりを目指すため

ISO45001を取得後、運用したばかりで広く浸透している実感はないものの、安全審議会で意見が出るようになり、危機管理の意識が変化してきたとのことでした。

旭精工株式会社のISO45001取得事例の詳細は、以下の記事をご覧ください。

関連記事:これぞ従業員の意識改革!製造販売業が取り入れた統合マネジメントシステム

ISO45001の要求事項

実際に企業がISO45001を取得するには、要求事項を満たす労働安全衛生マネジメントシステムを構築・運用することが必要です。スムーズに取得するためにも、まずはISO45001の要求事項の内容をよく理解しましょう。

ISO45001の要求事項は、以下の全10項目に分けられています。ここでは、ISO45001の要求事項の各項目について解説します。

  • 1.適用範囲
  • 2.引用規格
  • 3.用語及び定義
  • 4.組織の状況
  • 5.リーダーシップ及び働く人の参加
  • 6.計画
  • 7.支援
  • 8.運用
  • 9.パフォーマンス評価
  • 10.改善

1.適用範囲~3.用語及び定義

「1.適用範囲」~「3.用語及び定義」は、ISO45001の概要について解説している部分です。具体的な要件を述べているのは「4.組織の状況」以降です。

4.組織の状況

「4.組織の状況」では、組織の現状や労働者、利害関係者のニーズを特定し、正しく理解するよう求めています。そうした内容をもとに適用範囲を定め、PDCAサイクルを回しながら労働安全衛生マネジメントシステムを運用すべきと規定しています。

5.リーダーシップ及び働く人の参加

「5.リーダーシップ及び働く人の参加」では、労働安全衛生マネジメントシステムを構築する際、トップマネジメントだけでなく労働者も参加することを求めています。

労働安全衛生方針を定め、自社の目的や方向性を文書化し、組織内に共有します。

6.計画~7.支援

「6.計画」では、危険源やリスクの特定・分析・評価(リスクアセスメント)を達成するための計画策定が必要であるとしています。また、適用する法令について文書化し、最新版にして管理します。
「7.支援」は、労働安全衛生マネジメントシステムの運用に必要な資源・力量・認識・コミュニケーション・文書化された情報についての要件です。

「6.計画」にある「リスクアセスメント」について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

関連記事:ISO45001におけるリスクアセスメントの流れについて理解しよう

8.運用

「8.運用」では、「6.計画」で立案した対策を確実に実施することに加えて、緊急事態が起きた場合の準備や対応についても規定しています。

9.パフォーマンス評価~10.改善

「9.パフォーマンス評価」および「10.改善」は、計画・運用した労働安全衛生マネジメントシステムをどのように評価し、改善していくかに関する要件です。

要求事項の詳細について知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

関連記事:ISO45001の労働安全衛生目標・労働安全衛生方針とは?
関連記事:ISO45001とは?認証取得のキホンと規格要求事項を徹底解説【ISO45001入門】
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ISO45001の要求事項を満たすポイント

ISO45001の要求事項を満たすための3つのポイントを解説します。

トップマネジメントが主導する

ISO45001の要求事項に「5.リーダーシップ及び働く人の参加」とあるように、トップマネジメントにおけるリーダーシップの必要性が重視されています。
経営者や工場長など、トップマネジメントが労働安全衛生にかかわる方針を打ち出し、社内にしっかりと説明し、社員を支援していくことが大切です。

トップマネジメントが取り組みを主導することで、社内の新しい管理体制が根付いていくのです。

関連記事:ISOにおけるトップマネジメントとは

事業活動にかかわる「働く人」の積極的な参加

ISO45001の要求事項にはトップマネジメント以外に、「働く人のニーズおよび期待の理解」、「働く人」の参加についても記載されています。
労働者ではなく「働く人」と記載されている理由は、請負業者、派遣労働者、ボランティアなど事業活動にかかわるすべての人という広義での取り組みが求められているためです。

働く人が新しい管理体制の意義を理解できなかったり、働く人のニーズや期待とかけ離れていたりすると、積極的な参加にはつながりません。「働く人の安全を守る」というメッセージが伝わるよう周知していくことで、参加を促しましょう。

PDCAサイクルの運用

ISO規格は、PDCAサイクルを回すことで継続的な改善を目指すことが求められています。
そのため、ISO45001を取得して完了ではありません。常にPDCAサイクルを回し、安全に働ける環境づくりを目指しましょう。

取得後にP(計画)D(実行)を実施できる企業は多くありますが、C(確認)A(見直し)が疎かになってしまう企業も多くあります。その場合、労働安全衛生マネジメントシステムが形骸化してしまうおそれもあるため、PDCAサイクルの運用は意識的に行うようにしましょう。

関連マンガ:ISOって意味あるの!?内部監査員の悩み…形骸化した運用をスリム化!

ISO45001を取得するための手順

ここでは、ISO45001を取得するための手順を3段階にわけて解説します。

1.ISO45001を構築する

まず行うのは、ISO45001の要求事項に沿った労働安全衛生マネジメントシステムの構築です。
具体的には、「労働安全衛生方針と労働安全衛生目標の作成」「マニュアルや手順書などの文書作成」「帳票の整備」を行います。

2.ISO45001を運用する

労働安全衛生マネジメントシステムの構築が済んだら、実際にシステムを運用します。
その際、運用の記録や検証の結果を記録し、あとから振り返りができるようにしておきましょう。

運用中、ISO内部監査員による内部監査マネジメントレビューを実施し、労働安全衛生マネジメントシステムの評価・改善も行ってください。

3.ISO45001の審査を受ける

内部監査での評価を受けて労働安全衛生マネジメントシステムを改善し、3ヶ月~半年程度運用した後に、ISO45001の審査を受けます。

ISO審査員による第一段階審査と第二段階審査を受け、適合性が認められれば認証となります。万が一、不適格な箇所があった場合には是正処置を実施したのちに再度審査を受け、改善が認められればISO45001の認証取得に至ります。

ISO45001の取得の手順についてより詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

関連記事:ISO45001認証を取得する方法と流れを知ろう

ISO45001を取得するには、手順に則って構築・運用を進める必要があります。申請内容に不適格な箇所があるとその是正に時間がかかり、認証取得日が遅れてしまうため、要求事項をしっかり把握したうえで審査に臨むようにしましょう。

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まとめ

ISO45001は労働環境を向上させる仕組みであるため、取得すれば企業の対外的な評価の向上につながります。また、ISO45001の運用を通して、自社が抱える労働安全衛生上のリスクを体系的に管理できるようになり、継続的な労働環境改善も見込めるでしょう。
ISO45001の取得は、労働者が安全かつ健康でいられる職場を提供するうえで効果的です。ぜひ、取得を前向きに検討してみてください。

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