ISO9001の要求事項を満たす文書管理とは?押さえたいポイントを解説
- ISO9001の要求事項には文書管理が含まれている
- 品質マネジメントシステムを構築・運用するためには、適切な文書管理が必須
- ISO9001の要求事項にある文書管理のルールを明確にする必要がある
ISO
9001とは、組織が提供する製品やサービスの品質
マネジメントシステム規格
です。
製品やサービスの品質管理のためのルールが定められており、その中には組織が扱う文書に関する管理方法が定められています。
品質管理マネジメントを構築・運用するうえで、適切な文書管理は欠かせません。
ISO9001を取得、継続するためには、要求されている文書管理のルールを明確にし、組織として確実に実現することが求められます。
この記事では、ISO9001や文書管理の概要、ISO9001において求められている文書管理の条件について解説しています。
目次
ISO文書管理とは
ISO規格の要求事項にある文書管理について解説します。
ISO文書管理の概要
ISO文書管理は、社内にある紙の書類・電子文書などの文書を作成してから破棄するまでのサイクルに応じて一元管理することです。文書の具体例には、業務マニュアルや資料、契約書、請求書などが挙げられます。
文書管理を行う際には、文書管理規定と呼ばれる文書管理におけるルールを定めることが必要です。文書の保管方法や利用方法、廃棄方法などを定めることで、スムーズな運用が可能になります。
ISO規格では、文書化した情報に関する要求事項があります。ただし、必ずしも文書化を求めている訳ではありません。
ISO文書管理の目的
ISO文書管理の目的には、業務効率化とリスク管理の2つがあります。
業務効率化
特に紙文書の際の問題に、検索性と保管場所が挙げられます。「どこに文書があるかわからない」「文書の保管場所が増えて、通路が狭くなっている」といった煩雑さがあると、作業効率は低下してしまうでしょう。
文書管理を適切に行うことで、管理だけでなく使用者の利便性も向上し、業務効率化につながります。
リスク管理
文書には、社内外のさまざまな情報が記載されています。しかし、「誰でも自由に閲覧・編集ができる」、「持ち出しのルールが決まっていない」などの文書管理に問題がある状態では、文書の盗難や紛失、情報漏えいなどさまざまなリスクにつながる可能性があります。
文書管理を適切に行う過程で、保管・運用ルールを明確に決めるため、こうしたリスクを低減できます。
ISO9001で求められる文書管理とは
そもそもISO9001とは、品質マネジメントシステムに関する国際規格です。国際的な品質基準を満たす製品・サービスを提供するための仕組みづくりのガイドラインともいえます。
適切なマネジメントを行い、お客様が求める良い製品・サービスを提供し、顧客満足度の向上を目指すことがISO9001の目的です。
ISO9001の詳細については、以下の記事をご覧ください。
組織が活動を行ううえで、文書を管理することは大切な業務のひとつです。
それでは、ISO9001ではどのような文書管理が求められているのでしょうか。ここでは、まず対象となる文書や保管期間など基本的な情報を解説します。
文書化した情報に求められること
文書化した情報の作成や更新を行う際に、組織は次の3点を実行する必要があります。
- 適切な識別および記述
-
文書化した情報が必要なときに、情報を探しやすくするための記述です。
適切なタイトルや日付、文書番号などが該当します。 - 適切な形式
-
文書化した情報を扱いやすくするための形式や保存媒体を選定します。
図表を活用する、写真や動画で保存するなど、適切な形式を選択し、取り扱いに応じて紙文書や電子文書で記録します。 - 適切性および妥当性に関する、適切なレビューおよび承認
-
適切な内容を文書化した情報に記載するために、レビューや承認フローを作成します。
現場レベルで文書に関する知見を持った担当者を文書の責任者とすることも有効です。
ISO9001の対象となる文書
2つの観点で、ISO9001が対象とする文書が定められています。
- ISO9001が要求する文書化した情報
- 品質マネジメントシステムの土台となる文書で、業種を問わずに必ず作成します。
- ISO9001の有効性のために必要であると組織が決定した、文書化した情報
-
手順書を作成したうえで遵守することが有効な職種もあれば、臨機応変な対応が必要で、手順書を作ることが必ずしも品質向上につながらない職種もあります。
このような業務の実情にあわせて、文書の要否を組織が判断します。
ISO9001の文書管理における保管期間
要求事項として、特定の期間は定められていません。
しかし、組織には、保管する期間とそのために用いる媒体を決定する責任があります。顧客や法的な要求、製品及びサービスの寿命に応じた保管期間を決定し、定められた期間文書を保持した後に、廃棄を行います。
また、以下のような保存期間が定められている法廷保存文書については遵守しましょう。
法廷保存文書 | 保管期間 |
---|---|
仕訳帳など取引費に関する帳簿 | 7年 |
従業員の身元保証書や誓約書など | 5年 |
健康診断個人票 | 5年 |
監査報告・会計監査報告 | 5年 |
労働者名簿や雇用・退職に関する書類 | 3年 |
災害補償に関する書類 | 3年 |
社会保険(健康保険・厚生年金保険)に関する書類 | 2年 |
ISO9001に適合した文書管理のメリット
ISO9001に適合した文書管理を実施するメリットを解説します。
ナレッジの共有・蓄積
社員それぞれがもっているナレッジを共有し、蓄積していくことは会社の財産となります。属人化することを防ぎ、正確に情報共有するためには文書管理することが適しています。
人材の流出によるノウハウの消失を防ぎ、新入社員を育成するうえでも、形にしておくことが重要です。
リスクマネジメントの強化
ただ文書にするだけでなく、文書を管理していくことが非常に重要です。作成者や更新日がわからない場合には改ざんされたり、有効性が損なわれたりするリスクがあるでしょう。
文書を適切に管理することで、こうしたリスクが低減するとともに、トラブルが発生した際にも事態の把握や対策が練りやすくなります。
業務効率化
適切に文書管理が実施されると、リスクマネジメントが強化されるだけでなく、必要な文書を必要なときにすぐ活用できるようになります。そのため、文書を検索するための時間がかからなくなるでしょう。また、利用時や保管時のルールも明確に周知されているため、管理自体の手間もかかりません。
顧客満足度の向上
文書管理により、製品・サービスの製造工程の作業が一本化されることで、業務効率化や質の向上が見込めます。質が高い製品・サービスを安定して提供できることで、顧客満足度の向上につながります。
また、製造工程に是正点が発生したり、変更したりしても、文書化してあればスムーズな対応が可能です。そのため、顧客に問題のある製品・サービスを届けてしまうことを低減できます。
ISO9001の文書管理における要求事項とは
文書管理について、ISO9001の7.5.3「文書化した情報の管理」で要求される項目の詳細を解説します。
項番 要件 要件詳細 7.5.3.1 品質マネジメントシステム及びこの規格で要求されている文書化した情報は、次の事項を確実にするために、管理しなければならない。 a) 文書化した情報が、必要なときに、必要なところで、入手可能かつ利用に適した状態である。 b) 文書化した情報が十分に保護されている(例えば、機密性の喪失、不適切な使用及び完全性の喪失からの保護)。 7.5.3.2 文書化した情報の管理に当たって、組織は、該当する場合には、必ず、次の行動に取り組まなければならない。 a) 配付、アクセス、検索及び利用 b) 読みやすさが保たれることを含む、保管及び保存 c) 変更の管理(例えば、版の管理) d) 保持及び廃棄
※ISO9001 7.5.3 文書化した情報の管理 より抜粋
【7.5.3.1:文書化した情報一般】
文書化した情報を適切に利用でき、かつ十分なセキュリティ管理で保護されていることを要件としています。
その要件を満たすために、どのような対応が考えられるのかを解説します。
- a)紙媒体であれば適切な配布方法やファイルなどの保管場所を定め、必要な人が、不便なく情報へアクセスできなければなりません。電子データであれば、適切な保管環境の用意と、必要な時にアクセスできる経路を構築します。
- b)紙媒体であれば鍵のかかるキャビネットやそれに準ずる環境での保管が考えられます。電子データについては、セキュリティ対策はもちろん、適切なアクセス権限の設定が重要です。人事異動等で、既にデータへのアクセスが不要となった従業員の権限が残っているような状態にならないよう、十分に管理する必要があります。
【7.5.3.2:作成および更新】
文書化した情報の管理方法として、組織が取り組むべきことが要件化されています。
その要件を満たすために、どのような対応が考えられるのかを解説します。
- a)7.5.3.1と通じますが、利用者が必要な時に情報へアクセスできるよう、環境を整えます。配布方法やデータアクセスの利便性を保つことが求められます。情報が散乱し、どこにあるのかわからない状態にならないように適切な管理が必要です。
- b)文書のメンテナンスを継続しながら保管、保存を行います。実際の業務や状態との整合性を保つために内容のレビューを行い、運用フローを構築することなどが考えられます。
- c)文書の変更を行うときは、変更した箇所を残して、最新版との違いを明確にする必要があります。変更履歴を残し、担当者だけではなく誰が見ても変更や版管理の内容が明確にわかるようにします。
- d)組織で定めた保管期間中は要件に従った管理を行い、保管期間の後に廃棄を行います。
【2015年度版】ISO9001改訂の文書管理に関する変更点
ISO9001が2008年度版から2015年度版に改訂された際、文書化の要求が廃止される変更が行われました。
2008年度版では品質マニュアル
や文書管理方法など、作成するべき文書の要求がありましたが、2015年度版では廃止されています。
しかし、必ずしも文書化を行う必要がなくても、業務によっては文書が重要になることもあるでしょう。作業手順書や内部監査手順など、必要であると判断したものは文書化することで品質向上につながります。
また、企業のシステム化が進んでいることから、電子文書データに関する要求が追加されました。電子文書データは、紙文書と比較して管理しやすくなる一方、以下の項目に対応することが必要です。
- サイバー攻撃や情報漏えいなどから、データを適切に保護する
- アクセス権を適切に管理する
- データを保存・管理しているシステムを適切に管理する
- データを定期的にバックアップする
2015年度版の改訂について、以下のページで詳しくまとめていますので、あわせてご覧ください。
ISO9001を取得するうえで、適切な文書管理は肝と言える重要な部分です。
取得に向けて、しっかりと理解しましょう。
ISO9001要求事項を満たす文書管理の手順
ISO9001要求事項を満たす文書管理の手順を解説します。
1.文書体系図を作成する
文書体系図とは、品質管理の向上において重要な文書かどうかという基準で、上位文書から下位文書までのカテゴリに分けた図のことです。
例えば、上位文書から順に「品質管理マニュアル→規程(ルール)→手順書、計画書や台帳、フォーマット→運用記録」といった具合に定義づけられます。
文書管理を行うメンバーで、文書の種類ごとの重要性を共通認識できるため、まずは体系図をつくることがおすすめです。
2.文書管理規程を定める
文書管理規程は、文書管理におけるルールのことです。ISO9001の要求事項に則って、文書管理規程を作成しましょう。
その際には、文書ごとに「番号・作成部署・承認者・保管場所・保管期間・更新頻度・廃棄方法・罰則」などのルールを定めましょう。
3.文書管理を実施する
文書管理規定に則り、文書管理を実施します。
文書管理規程を作成しても、従業員がきちんと運用できなければ意味がありません。ISO9001の審査においても、運用できているかどうかは問われることになるでしょう。そのため、従業員が一丸となり管理することが必要です。
ただし、現場の実情に適していない文書管理になっていると、従業員の業務効率を低下させ、文書管理が形骸化するリスクがあります。審査前に行う内部監査において、実施状況を確認するとともに是正点があれば改善するようにしましょう。
ISO9001における文書管理のポイント
ISO9001の要求事項にある文書管理のポイントを紹介します。
ISOコンサルに依頼する
ここまで文書管理の概要や手順について解説しましたが、「イメージが曖昧にしかできない」「自社に適した形式で管理できるか不安」などの場合には、信頼できるISOコンサルに依頼するのがおすすめです。
実績のあるISOコンサルに取得サポートを依頼すれば、要求事項と照らし合わせて、自社に足りない部分を指摘してもらえます。また、文書作成や運用記録の作成など、文書管理に関する工程をサポートしてもらえるため、自社の社員が行う工数を大幅に低減できるでしょう。
実際にISOプロを運営するNSSスマートコンサルティング株式会社が行った「ISO認証取得企業に向けた取得の理由に関する調査」によると、58.5%と半数以上の企業がISO認証取得時に外部のコンサルタントに取得サポートを依頼しています。
気になる文書管理における課題ですが、ISO認証を取得後の課題に「書類作成や記録に工数がかかる」ことを挙げている企業が39.5%と最も多くありました。この課題の原因には、要求事項を満たすために、自社の実情に合わない文書管理を無理やり行うことで工数がかかってしまうことが挙げられます。
そのため、実績豊富なコンサルに依頼することで、文書管理を最適化し、社員の負担を低減できるでしょう。
文書化する範囲を明確にする
ISO9001の要求事項には、文書作成すべき文書の分類や作成方法について明確に記載されていません。それは、業種や業務内容などの違いにより、作成すべき文書が組織によって異なるためです。組織が業務の実情に適した文書を、適切な形式で文書化しなければなりません。
そのため、業務フローに沿って「何を文書化すべきか」を定めることが重要です。文書化する範囲が広すぎる場合には運用や管理が煩雑になり、従業員の負担となる可能性があります。一方、文書化が足りない場合には、運用した際に個々の従業員のスキルやノウハウに頼る部分が出てくるなど問題点が発生するでしょう。
文書管理規程を定めて徹底する
文書管理規定とは、自社に適した文書管理を実施するためのルールのことです。契約書や請求書、各種申請書、各種資料、マニュアルといった文書の取り扱いを定めます。
しかし、ただ定めるだけでは意味がありません。これを従業員にきちんと周知し、ルールどおりの運用を徹底することで、はじめて適切な文書管理となるのです。そのため、どのように社内に周知するのかも重要なポイントといえるでしょう。
また、場合によって文書管理システムを導入し、システム化することで文書管理ルールを徹底することもおすすめです。膨大な量になる可能性のある記録文書や品質文書、外部文書などを体系的に管理することが可能なうえ、多機能なシステムも増えているため、自社に必要な機能を確認してみるとよいでしょう。
必要に応じて文書管理システムを導入する
紙文書では、ISO9001の要求事項を満たした文書管理を実施するのは難しい可能性があります。というのも、企業が取り扱う情報は膨大であるため、適切に管理するには手間がかかるためです。
そのため、最近では文書管理システムを導入し、文書管理を電子化・一元化する企業も増えています。文書管理システムを導入すると、以下のようなメリットが考えられます。
- アクセス権や更新権限の設定機能があるため、セキュリティ対策ができる
- 文書の検索性に優れているため、可用性が向上する
- 文書作成・更新の際に、スムーズな承認作業ができるため、業務効率化につながる
紙文書の管理に負担を感じている場合には、文書管理システムの導入により解決できる可能性があります。自社の状況に応じて、導入を検討すると良いでしょう。
まとめ
ISO9001取得においては、お客様が求める製品・サービスを提供して顧客満足度の向上につなげる仕組みづくりを構築・運用します。
そのためには、自社の事業活動に適した文書管理を行うことが重要です。文書化した情報を保護しつつ、社員が適切に使用できる形式や記述などで作成・更新しましょう。
より自社に適した文書管理を目指したい場合、プロのコンサルティング業者にサポートを依頼することがおすすめです。
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また、マニュアル作成など御社に合わせたムダのない運用を心がけており、既に認証を取得しているお客様においてもご提案しております。
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