• 2024年2月に、「気候変動への配慮」がISO9001追補事項に追記された
  • 大きな変更ではなく、移行審査もないもののスピーディーな対応が大切
  • 「気候変動への配慮」が自社と無関係と判断することも可能

近年、気候変動は企業経営にとって無視できない重大なリスクとなっています。自然災害の増加や自然資源の不足、サプライチェーンの分断などにつながり、業種や組織規模を問わず、事業継続に大きな影響を与えます。

こうした影響を考え、ISO では、品質マネジメントの国際規格であるISO9001をはじめとした多くのマネジメントシステム規格において、「気候変動対応」における内容が追補されました。

そこで、この記事ではISO9001に追補された気候変動への配慮について、概要や対応手順、具体的な対応例についてわかりやすく解説します。

ISO9001に「気候変動への配慮」が追補改正

ISO9001に「気候変動への配慮」が追補改正された内容や背景について解説します。

ISO9001とは?

ISO9001とは、品質マネジメントシステム(QMS)に関する国際規格です。組織の製品・サービスの品質向上や顧客満足度の達成を目指します。

組織の規模や業種を問わず適用でき、認証を取得することで対外的な信頼性向上や取引先からの評価向上につながるため、多くの企業が取得しています。

関連記事:【基本】ISO9001とは?概要や認証方法をわかりやすく解説

「気候変動への配慮」追加による要求事項の変更点

2024年2月に発行された改正(ISO 9001:2015/Amd 1:2024)によって、要求事項「4.1 組織の状況の理解」「4.2 利害関係者のニーズの把握」に、気候変動への配慮に関する一文が追加されました。
具体的には、以下のように変更されています。

変更された要求事項追加された文言
「4.1 組織の状況の理解」組織は、気候変動が関連する課題かどうかを決定しなければならない。
「4.2 利害関係者のニーズの把握」注記:関連する利害関係者は、気候変動に関する要求事項をもつ可能性がある。

大きな変更ではなく、「気候変動を検討すべきか否かを明確に判断・記録すること」が求められる形です。以下に、今回の変更に関するポイントをまとめました。

  • 追補は一行〜数行の追加が中心で、大幅な規格改訂ではない。
  • 移行審査は設けられていない。
  • 審査時に「気候変動を検討したかどうか」「検討の結果と根拠」を確認される可能性がある。

「気候変動への配慮」が追加された背景

今回の追補改正が行われた背景には、ISOが2021年に「ロンドン宣言(London Declaration)」を発表したことが挙げられます。この宣言により、気候変動への対応をすべてのマネジメントシステム規格に反映させる方針が明確になり、実際にISO9001に「気候変動を考慮する」という視点が追加されることになったのです。

近年では、気候変動が企業活動に直接的な影響を及ぼしています。豪雨や台風による生産ラインの停止、原材料の調達遅延や価格高騰などの気候変動リスクは、あらゆる企業の事業活動において問題となっています。

こうした背景から、ISO9001においても、気候変動を「無視できない品質リスクの一つ」として検討し、管理・対応することを組織に促す狙いがあるのです。

またISO9001は2026年9月ごろを目安に改訂される予定です。その際に、気候変動への対応が含まれる可能性があります。ISO9001の改訂に関する最新情報は、以下の記事をご覧ください。

関連記事:【最新】2026年9月に改訂へ!ISO9001の予定・改訂内容を解説
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ISO9001「気候変動への配慮」に対応する影響

ISO9001に「気候変動への配慮」が追記されたことで、「気候リスクに耐えられる仕組みを整えること」も、品質維持に欠かせない要素の一つとして重視されるようになりました。

ここでは、ISO9001に追記された「気候変動への配慮」に、企業が対応することによる影響を解説します。

気候変動対応とビジネスの関連性

気候変動は、今や環境問題にとどまらず、企業経営のリスクマネジメントとして取り組むべき課題となっています。ISO9001が重視する「顧客満足」や「安定した供給体制」は、気候変動の影響を受けると容易に損なわれてしまうからです。

以下のように、気候変動は多方面で事業活動に関係します。

業務気候変動による影響例品質マネジメントへの影響
生産活動豪雨・台風・猛暑による操業停止生産計画の遅延、納期遅れ
調達・物流原材料の不足、輸送ルートの寸断サプライチェーンの不安定化
顧客対応環境配慮型商品の要求増品質方針や設計基準の見直し
組織運営エネルギーコストの上昇、停電リスク継続的改善の阻害、コスト増加

こうしたリスクを放置すると、品質不良や納期遅延などによって顧客満足度の低下につながる可能性があります。一方、ISO9001の仕組みの中で気候変動を配慮し、管理・対応することで、経営の安定性を高める機会にもなります。

気候変動対応により企業が受ける影響

今回の追補改正により、組織は「気候変動を考慮する」か「考慮しない」と判断し、その根拠を示す必要があります。「気候変動を考慮する」と判断する場合、ISO9001運用において以下のような影響が想定されます。

リスク軽減と事業継続力の強化
気候変動を組織の外部要因として把握することで、豪雨・猛暑などによって起きる環境リスクを早期に特定・対策することとなります。その結果、サプライチェーン断絶、原材料の高騰などの気候変動によるリスクが軽減し、事業継続力を強化できます。
ESG・サステナビリティ経営への発展
気候変動対応を通じてESG(環境・社会・ガバナンス)経営を進めるきっかけにもなります。
気候変動を経営戦略の一部に取り込むことで、グローバル企業や投資家が求めるESG要件を満たしやすくなったり、環境対応を重視する新規取引・市場へのアクセス拡大につながったりする可能性があります。

このように、ISO9001に「気候変動への配慮」に対応することで、企業はリスク管理だけでなく、持続可能な経営基盤の強化や新たな事業機会の獲得につながる可能性があります。

ISO9001「気候変動への配慮」への具体的な対応手順

ISO9001の追補改正により、組織は「気候変動」を品質マネジメントシステムにおけるリスク・機会として捉え、計画・実行・評価のPDCAサイクルに反映させることが求められます。

ここでは、組織が行うべき具体的な対応手順を6つのステップに分けて解説します。

1.組織の利害関係者を見直す

まず、気候変動が自社にどのような影響を与えるかを考える際、関係する「利害関係者(ステークホルダー)」を再確認します。顧客、取引先、従業員、地域社会、行政機関、投資家など、組織に関わるすべての関係者が対象です。

例えば、取引先がサプライチェーン全体で脱炭素方針を進めている場合、自社にも温室効果ガス削減や環境対応が求められる可能性があります。

このように、利害関係者を整理することで、自社が優先すべき方向性が見えてきます。

2.気候変動対応の目的・範囲を決定する

次に、気候変動への対応を「品質マネジメントシステムのどの範囲で扱うか」「何のためにその対応を行うのか」を明確にします。具体的には、対象とする事業領域、製品、サービス、拠点などを定義し、目的を設定します。

例えば、「製造工程でのCO₂排出量を削減する」「災害発生時の供給体制を維持する」といった形で、具体的かつ測定可能な目標を設定することがポイントです。
これにより、組織の方針と整合性を保ちながら、実効性のある対応計画を策定できます。

3.気候変動による影響・リスクを整理する

気候変動によって、自社に与えるリスクや機会を洗い出し、どのような影響が想定されるかを分析します。

例えば、以下のようなリスクや機会が考えられます。

リスク機会
  • 集中豪雨や猛暑によるサプライチェーン寸断
  • 設備故障のリスク
  • 原材料価格の変動
  • 省エネ設備の導入
  • 環境配慮型製品の開発

4.課題の優先順位を決定する

洗い出したリスク・機会をもとに、重要度と影響度の観点から優先順位をつけます。

すべての課題に一度に対応することは現実的ではないため、影響が大きく、かつ発生可能性の高い項目から着手しましょう。

5.施策を決定・実施する

優先順位を整理したら、実効性のある施策を迅速に決定し、実行に移すことが求められます。気候変動への対応は一度きりの取り組みではなく、事業活動全体に影響を及ぼす継続的な課題であるため、現実的かつ自社の実情に合った対策を検討することが重要です。

具体的には、気候変動による影響を最小限に抑えるための「予防的措置」や、「対応手順の整備」「インフラ改善」などを柱として、品質マネジメントシステムの中で運用可能な形に落とし込みます。

6.定期的に進捗の確認・見直しを行う

施策の実施後は、定期的にその効果を確認し、必要に応じて見直しを行います。環境や社会の変化に応じて継続的に改善していくことが求められます。

内部監査マネジメントレビューの中で進捗状況を確認し、最新の情報やデータに基づいて目標や手順を更新していきましょう。

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ISO9001で求められる気候変動対策の具体例

ここでは、ISO9001で求められる気候変動対策の具体例を紹介します。

サプライチェーンリスクの管理

気候変動による自然災害や資源不足は、原材料の調達遅延や物流停止といったサプライチェーンの分断リスクを高めます。
そのためサプライチェーン全体で、リスクの特定と代替手段の確保を行うことが重要です。調達の安定性が維持され、事業継続力の強化にもつながります。

例えば、以下のような対応が考えられます。

  • 主要サプライヤーの気候リスク(洪水・干ばつ・猛暑など)を把握する
  • 複数調達先の確保や在庫の適正化を図る
  • サプライヤーにも環境配慮方針やCO₂削減への取り組みを求める

省エネルギーやCO₂削減目標の設定

エネルギー消費や温室効果ガスの排出は、気候変動の要因の一つです。「組織の課題」として環境要因を考慮し、品質と環境の両面で改善を図ることでコスト削減やブランド価値向上につながります。

例えば、以下のような対応が考えられます。

  • 工場やオフィスの照明・空調の省エネ化
  • 生産工程の見直しによるエネルギーロスの削減
  • 社用車のEV化やカーボンオフセットの導入

BCP(事業継続計画)の策定

大規模な気候変動や自然災害が発生すると、企業活動の停止や操業率の低下などの事業継続の危機につながるリスクがあります。

こうした事態に備え、BCP(事業継続計画)の策定を行うことが重要です。
BCPとは、不測の事態において、「重要な事業を中断させない」「早期復旧させる」ための方針や体制基準などを事前に取り決めておく」ことです。

関連記事:BCP(事業継続計画)対策とは?目的や必要性、策定方法を解説

顧客要求への対応

取引先や顧客の中には、ESG対応をサプライヤーに求める企業も増えています。
ISO9001に基づき、顧客要求事項の中で「環境配慮」や「持続可能性」に関する要件が含まれる場合には、品質マネジメントシステムに反映させる必要があります。

例えば、以下のような対応が考えられます。

  • 顧客からの環境要件(再生素材の使用・省エネ基準など)を仕様書に反映
  • 環境負荷低減を重視した製品・サービス設計

従業員への教育・意識向上

気候変動への対応は、経営層だけでなく全社員が共通認識を持って取り組むことが大切です。そのため、教育・研修を通じて従業員の意識を高め、日常業務に落とし込む仕組みをつくる必要があります。

例えば、以下のような対応が考えられます。

  • 気候変動や環境リスクに関する社内研修の実施
  • 環境目標の達成状況を社内共有し、モチベーション向上につなげる

ISO9001気候変動対策を成功させるポイント

ここでは、ISO9001気候変動対策を成功させるポイントについて解説します。

実効性を伴う対策を目指すこと

気候変動対策は、形式的な目標設定や報告だけで終わらせてしまうと、組織の実効性につながりません。
ISO9001の目的は「組織の継続的な改善」にあるため、気候変動対策においても成果が測定・検証できる仕組みにすることが重要です。

目標設定や形式的な報告で終始せず、定期的なモニタリング・評価による効果測定を行うことで、実効性のある対策を実現できます。

例えば、以下のような実践が効果的です。

  • 電力使用量、CO₂排出量などの省エネルギー活動の目標値を設定し、定期的にモニタリングする
  • 設備投資や業務改善による削減効果を数値で評価する
  • サプライチェーンリスクの特定に加え、複数経路での物流設計にまで落とし込む
  • 気候災害や物流停滞による原材料仕入れへの影響に備えた代替発注先のリスト化

環境負荷低減に関しては、定数目標を設定し、サプライチェーンに関するリスクに関しては、リスクの特定だけでなく対策方法にまで落とし込む形です。

目標達成に向けた取り組みの効果や、リスクに備えた対策状況の妥当性などを含め、効果測定・検証を考慮した対策を目指す必要があります。

PDCAサイクルを意識し、ISO9001に組み込むこと

ISO9001は、基本的にPDCAサイクルを回して継続的改善を図ることが求められます。気候変動対策もこの枠組みの中で実施する必要があります。

  1. Plan(計画):気候変動がもたらすリスク・機会を分析し、方針・目標、計画を設定する
  2. Do(実行):具体的な施策を実施する
  3. Check(評価):目標に関するデータをモニタリングし、効果を検証する
  4. Act(改善):評価結果をもとに対策を見直し、改善する

経営者が主体となり、全社的に取り組むこと

気候変動対策を組織に定着させるには、まずトップマネジメントが方針を示し、全社員にコミットする姿勢が大切です。また、従業員が適切に対策を実行できるように、必要なリソースを配分することも経営者の役割です。

現場任せの対策では、従業員のモチベーションが低下したり、実効性が薄れたりするリスクがあります。

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まとめ

この記事では、ISO9001に追補された気候変動への配慮について、概要や対応手順、具体的な対応例を解説しました。

ISO9001に追補された「気候変動への配慮」は大きな変更ではないものの、企業が主体となって気候変動に対するリスクを検討することが求められています。

迅速に対応することで、自社の事業継続性や信頼性を高め、顧客や投資家に対しても積極的な環境配慮の姿勢をアピールできます。この機会にISO9001を活用し、気候変動対応を自社ブランドの向上につなげましょう。

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