• 企業の事業体制の強化において、BCP対策は有効
  • BCP対策は、策定後の運用が重要

災害やテロ攻撃など、現在の企業には、事業継続の危機に立たされる可能性が常にあります。そうしたリスクに備えて対策を立てることは非常に重要です。

そうした状況に対応できる対策としてBCP(事業継続計画)が注目を浴びるようになり、多くの企業が実施に向けて動き出しているのです。

そこで、本記事ではBCP(事業継続計画)の概要や目的、メリット、策定方法について詳しく解説します。

BCP(事業継続計画)対策とは

BCP(Business Continuity Plan)とは、「事業継続計画」のことです。自然災害や感染症、テロ攻撃などの不測の事態においても、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、重要な事業を中断させない、もしくは早期復旧させる方針や体制、基準などを、事前に取り決めておくことです。

BCP対策の目的

BCP対策の最大の目的は、「重要な事業の継続・早期復旧」にあります。
緊急事態が発生すると、事業資産において多大な影響を受け、事業の停止もしくは操業率の低下につながるおそれがあるでしょう。こうした場合に直面したときに、事前に方針や具体的な対策を練っておくことで、事業の継続や早期復旧が可能になります。

業務が停止している間、売上を上げられないだけでなく、取引先や顧客が競合他社に移ってしまう可能性も大いにあります。そのため、早期復旧できるかどうかが、事業の存続において非常に重要なポイントとなるのです。

BCP対策が必要な背景

近年、日本では、大規模な自然災害が多く発生しています。東日本大震災以降、震災や豪雨、台風、土砂災害などさまざまな災害が記録されており、そのたびに大きな被害が生まれています。

また、ITの進化によって便利になっている反面、情報セキュリティリスクについても対応が必要となりました。その他にも、感染症の流行やテロ攻撃、紛争など、さまざまなリスクが存在しています。

こうした背景により、それぞれのリスク一つひとつに対応するのではなく、包括的な対策として、BCP対策の重要性が説かれるようになりました。2021年には、介護報酬改定において介護事業者はBCPの策定・研修などが義務化されるなど、BCP対策を求める社会の声はますます増していくでしょう。

関連記事:介護事業者に義務化されたBCP(事業継続計画)とは?対策と策定方法を解説

BCM・BCMS・防災との違い

ここでは、BCPと混同されやすい言葉との違いについて解説します。
まず、BCPと防災との違いは、目的や対象範囲が異なっています。以下に、BCPと防災の違いについてまとめました。

BCP 防災
目的 ・身体、生命の安全確保
・事業の継続または早期復旧
・身体、生命の安全確保
・物的被害の軽減
対応のリスク範囲 感染症、自然災害、IT障害、テロ攻撃など事業が中断する可能性のある、あらゆるリスク 拠点付近における自然災害
対策の検討範囲 ・全社
・取引先などのステークホルダー
自社の拠点ごと

BCPは防災における目的や対応範囲を含めたうえで、さらに事業継続を目指した対策が求められます。

次に、BCM・BCMSとの違いは、以下のようになっています。

用語 日本語の名称 内容
BCP 事業継続計画 緊急事態が発生した際に、事業の継続あるいは中止した事業の早期復旧を継続させるための方法や手順を示した計画
BSM 事業継続マネジメント BCPの策定に加えて、緊急事態においてBCPに則った対応ができるように、平時からBCPを運用・マネジメントすること。社員の教育や想定訓練などを実施・BCPの改善などが含まれる。
BCMS 事業継続マネジメントシステム BCMに関わる活動を経営と一体化することで、平時においても長期にわたり、より実効性の高い運用の実現に向けてシステム化したもの。方針策定やマネジメントレビュー、内部監査の実施が含まれる。

事業継続における有効性は「BCMS>BSM>BCP」の順で、BCMSが最も高くなっています。ただし、難易度が最も高いことから、BCMSに関する国際規格 である ISO 22301の 要求事項 に則って構築・運用することがおすすめです。

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BCP対策を実施するメリット


BCP対策を実施するメリットについて解説します。

事業体制の強化

BCPを策定するうえで、自社の経営資源や業務フロー、潜んでいるリスクなどを洗い出し、整理して把握することが必要です。その過程で、無駄な人材配置やコスト、無駄な業務フローなどが見つかる可能性があるでしょう。

こうした新たな課題に取り組むことで、業務効率化や生産性向上などにつながり、事業体制の強化が期待できるのです。

企業価値の向上

BCPの策定有無を、取引先選定の重要な検討材料とする動きが出てきています。特に車や家電など、多数の供給元からの部品が必要な製品においては、供給元のうち、一つが事業を中断するだけでも製品の生産ができなくなってしまう可能性があるためです。

そのため、BCPを策定することで、事業を継続・早期復旧できる体制づくりに取り組んでいることを対外的にアピールすることができます。その結果、企業価値の向上が期待できるでしょう。

BCPを策定する手順


それでは、BCPを策定する手順について解説します。BCP策定を検討されている企業の担当者の方は、参考にしてください。

基本方針の決定

まず、BCPにおける基本方針を立案します。「BCPを策定する目的とは?」「BCP を策定・運用することに、どのような意味があるのか?」といった内容を決めていきましょう。

自社の経営理念や事業目的との整合性についても確認してください。BCPの基本方針と一致していると、対応の判断や優先順位に迷ったときの行動指針となります。そのため、従業員にもしっかりと共有することが重要です。

社内体制の整備

基本方針が決まったら、BCP対策を講じるための社内体制の整備を行いましょう。例えば、以下のような点について決定します。

  • BCP策定スケジュール
  • BCP策定の担当者やプロジェクトチームの発足
  • BCPの周知方法や従業員教育の方針

担当者やプロジェクトチームについて、事務局を設置する場合もあり、総務部が担当することが多いようです。しかし、BCP対策は全社的に関係する内容であるため、各部門から参画者を決めましょう。

中核事業の特定

複数事業を展開している場合には、継続や早期復旧を優先する中核事業を特定しましょう。非常事態においては、人材含めすべてのリソースが不足するおそれがあります。そのため、会社にとって最も重要な事業を選定することが必要です。
売上や利益率が高い商品・サービスや利用顧客が多い商品・サービスなど、客観的な指標をもとに、中核事業を特定してください。

中核事業を特定したら、その中核事業の継続・早期復旧に必要な経営資源を挙げていきます。「人材」「設備」「資金」「情報」などのカテゴリごとに、「必要不可欠なもの」や「一部、必要なもの」、「代替可能なもの」など、重要度別に整理すると対策しやすくなるでしょう。

また、中核事業が停止した場合を想定し、復旧目標日数と復旧目標操業率についても検討します。収入がなくなるため、「どの程度、自社の資金面での体力がもつのか」、「どの程度、収入が回復すれば事業を継続できるか」という観点から検討してください。

被害状況の分析

企業が受ける被害状況について分析します。被害状況は、起こりうる緊急事態によっても変わってくるでしょう。
例えば、以下の緊急事態が挙げられます。

  • 自然災害:地震、水害、台風、豪雪など
  • 感染症
  • ITシステムへの障害:サイバー攻撃、ITシステム障害、情報漏えい
  • 事故や人為的災害:火災、漏えい、紛争、テロ攻撃

またそれぞれの緊急事態において、自社にどのような影響があるのかについて、以下の要素をもとに検討してください。

  • インフラへの影響(ライフライン、情報通信、道路、鉄道)
  • 会社への影響(ヒト、モノ、カネ、情報)

このとき、「中核企業における重要な経営資源への影響はどの程度なのか」や「その結果、中核企業の操業はどうなるのか」という観点から分析していくことがおすすめです。

事前対策の実施

ここから、BCPの策定に入っていきます。中核企業において必要な経営資源を確保するための対策をピックアップしていきます。このとき、「平常時の対策」と「非常時の対策」に分けて検討・実施しましょう。
定めた対策においては、マニュアルを策定し、必ず文書化してください。訓練を重ね、改善した際には欠かさず最新版にアップデートするようにします。従業員には、変更点があったら必ず共有するようにしましょう。

また、中核事業の継続において「代替可能なもの」がある場合、その代替案を用意しておきましょう。特に施設や設備においては、事前に同業他社やレンタル会社の調査、協力関係を築いておくことが重要です。

緊急時の体制の整備

実際に、緊急事態が発生したときの体制を整備します。まず、「対応における意思決定や指揮・命令を行う統括責任者」を取り決めることが重要です。統括責任者が不在の場合があるため、代理責任者も決めておきましょう。

その後、「初動対応」や「復旧のための活動」について決定します。
「初動対応」においては、BCPの発動基準を具体的に定めることが重要です。例えば、中核企業が被害を受けるリスクのある緊急事態とその規模を決めておく、などの基準が挙げられます。
「復旧のための活動」においては、事前に各対策を実行するためのチームを設定し、トップダウンで動けるようにしておきます。例えば、施設や情報資産などの社内資源における復旧対応を行う復旧対応チームや、取引先など外部への連絡や調整を行う外部対応チームなどが挙げられます。

ここでご紹介した策定手順に関しては、中小企業庁のBCP策定運用指針に公表されているため、こちらもあわせて確認してください。

参考(外部リンク):「中小企業庁:中小企業BCP策定運用指針」
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BCP対策は「運用」が重要

実は、BCP策定だけでは、緊急時に十分に機能するとは言い切れません。日ごろから運用することが重要です。

継続的な訓練と改善を実施する

机上で考えたBCPが機能するかどうかは、訓練を実施し、検証することが必要です。
新たな課題が発見されれば、計画を改善して、再度訓練を行います。そのため訓練においては、結果を記録したり、従業員の声を聞いたりして、有効性について確認してください。
記録し、文書化したデータを蓄積することで、改善後にどの程度の効果があったのかを具体的に測ることができます。

また、従業員からの声についても対応し、迅速な対応が可能になる体制づくりを心がけましょう。よくある声として「訓練のときに対応する内容がすぐに思い浮かばない」という場合には、対応における手順や重要項目について記したカードを配布するなども体制づくりにおける一つの手といえます。

このように、PDCAサイクルを回していくことで、機能するBCPへと洗練されていくでしょう。

社内にBCPを定着させる

社内にBCPを定着させるためには、社員へのBCPの周知と教育が重要です。
BCPに関する意識を高めるためには、一方的に自社のBCP対策を共有するのではなく、従業員がBCP対策の一環を担っていることを自覚できる教育を行うことがおすすめです。

例えば、「復旧のための活動」のチームごとにディスカッションを実施し、取り組みにおける課題や改善策を話し合うといったことが挙げられるでしょう。まずは、BCPの共有と訓練の実施を行い、どの程度スムーズに対応を実施できるか確認してください。

BCP対策にはISO22301の取得がおすすめ

ISO22301(事業継続マネジメントシステム)は、機能するBCP対策として注目を浴びています。そこで、ここではISO22301について解説します。

BCP対策は、ご紹介したような運用を実施しても、緊急時における実効性が確保できない可能性があります。それは、平時における事業の経営には直接関係ないことから、優先順位が下がりやすいためです。

そこで、BCP対策に取り組みたい企業の方には、より長期的な目線で実効性を確保したISO22301の取得がおすすめです。

ISO22301とは

ISO22301とは、BCMSに関する国際規格のことです。
ISO22301は、審査機関による第三者認証 であることから、取得することで事業継続における体制づくりが国際基準レベルに達しているという証明になります。そこで、事業体制の強化や企業価値の向上、顧客からの信頼獲得といった効果が期待できます。

2012年に発行された新しい規格のため、取得企業数はまだ多くありません。しかし、NECグループなどの大手企業が取得するなど、業種に限らず注目されている規格です。

BCMS(ISO22301)の詳細は、以下の記事をご覧ください。

関連記事:ISO22301(BCMS)とは?概要やメリット、取得企業まで徹底解説

より実効性の高い事業継続性を有した事業体制を目指す場合、ISO22301の取得がおすすめです。

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まとめ

感染症の流行や自然災害の発生など、さまざまな非常事態が起きる可能性があるため、組織にとってBCP対策は欠かせません。BCP対策を実施すると、事業体制の強化だけでなく、対外的な評価にもつながる可能性があります。

形だけのBCP対策ではなく、実用性をもった対策を実施しましょう。

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