ISO17025とは、試験所や校正機関が、正確で信頼できる測定・校正を実施する能力があることを示す国際規格です。

製品・サービスの品質に対する要求は日に日に高まっており、品質の証明のために試験・校正を実施する機会が増えています。その際、企業は正確な結果を導き出せる能力がある試験所や校正機関に依頼したいでしょう。

その際にISO17025を取得していると顧客からの信頼性の獲得につながります。あまり馴染みのない規格かもしれませんが、国内外での取引において高いニーズがあります。

そこで、この記事ではISO17025の概要や目的、要求事項ISO9001との違いについて解説します。

ISO/IEC17025とは?

ISO17025とは、試験所や校正機関といったラボラトリが「正確で信頼性の高い測定・校正を行う能力があること」を示す国際規格です。そのため、「試験所認定」とも呼ばれています。

「正確な測定・校正結果を生み出す能力がある試験所・校正機関」であると第三者認定機関から認定されることで、ISO17025を取得できます。

ISO17025の最新版は「JIS Q 17025:2018(ISO/IEC17025:2017)」で、2017年に改訂されています。

ISO/IEC17025の3つの分野

ISO/IEC17025の3つの分野

ISO17025では、ラボラトリ(laboratory)の活動を、以下の3つの分野に区分しています。そのうち、一つ以上の活動を行う機関が認証の対象です。

試験
試験所が、試験依頼を受けた製品や製品の機構部品・材料・原料の特性、性質などについて、規定された試験方法にもとづいて、正確に実施しているかどうかを審査します。
校正
校正機関が、「計測機器に表示される値」と「その値に対応する既知の値(国際標準など)との関係」について、特定の条件下で確認する一連の操作で適切に実施しているかどうかを審査します。
試験または校正に付随するサンプリング
試験または校正に付随して必要となるサンプリングについて、サンプリングを行う場所で利用できる計画・手順を定めたうえで実施しているかを審査します。

ISO17025の認定範囲

ISO17025の対象となる、試験所や校正機関の具体的な認定範囲を以下にまとめました。

試験所校正機関
  • 電気試験
  • 機械・物理試験
  • 化学試験
  • 食品・医薬品試験
  • 生物科学試験など
  • 電気的校正
  • 機械的校正
  • 化学的校正
  • 質量・力・計量機器校正
  • 熱力学的校正など

ISO9001との違い

ISO/IEC17025とISO9001の違い

ISO17025とISO9001は、目的や対象、要求事項の項目などさまざまな点が異なります。

ISO9001とは、品質マネジメントシステムに関するISO規格です。
企業が提供する製品・サービスの品質を向上させるための体制を構築・運用することで、顧客満足度の向上を目指します。そのため、ISO9001の取得企業の多くは製造業や建設業などのモノづくりに関わる企業です。

以下に両者の主な相違点をまとめましたので、参考にしてください。

ISO9001ISO/IEC17025
対象すべての企業・組織試験所・校正機関
目的品質向上による顧客満足向上試験・校正の技術能力証明
技術能力の規定なしあり
主な取得組織製造業・サービス業など幅広い業種製品・サービスを試験・校正する試験所・校正機関

ISO9001の詳細は、以下の記事をご覧ください。

関連記事:【基本】ISO9001とは?概要や認証方法をわかりやすく解説

ISO17025の必要性

ISO17025の必要性

ISO17025の必要性は、試験・校正結果が「正確で信頼できるものである」と客観的に示すことができる国際基準であることにあります。

製品の安全性や性能を証明するうえで、試験・校正データの信頼性は欠かせません。しかし、依頼先の試験所や校正機関の技術力がわからない場合、その結果が本当に正しいのか判断できなくなってしまいます。

そのため、ISO17025を取得していれば、国内外のどの試験所であっても一定の技術能力を有することが証明されます。特に、海外機関の評価が難しい場合にも、ISO17025認定は第三者からの信頼を得るための重要な根拠となります。

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試験所・校正機関がISO/IEC17025を取得するメリット

ISO/IEC17025を取得するメリット

ここでは、試験所や校正機関がISO17025を取得するメリットについて解説します。

組織内の体質改善につながる

ISO17025の試験時において、認定機関は正確で信頼性のある試験結果を導き出せるかどうかを審査します。そのため、組織内だけでは発見できなかった点も確認できるでしょう。

また、審査の結果によっては改善すべき点も指摘してもらえます。試験所にとっては業務実施能力の評価を受けて体質改善につながるチャンスになるのです。

顧客からの信頼性を高められる

認定を受けると、認定シンボルが付与されます。試験成績書や校正証明書に記載することで、ISO17025の認定を受けた試験所・校正機関であることを対外的にアピールできます。

試験所認定は、試験所や校正機関の技術能力の指標として国内外において高い評価を受けています。社会的なニーズを満たすうえで必要なものであるため、取得することにより顧客からの信頼を高められるでしょう。

また試験所認定は、技術や能力のある試験所を認定するものです。
万が一試験報告書の内容について不都合が生じた場合にも、試験所としての能力があることの証明にもなります。

ワンストップテスティングが可能になる

ISO17025を取得した試験所・校正機関で得られたデータは、国際的に統一された基準にもとづいているため、国内外で同等に信頼されます。
その結果、一つの試験所で取得した試験・校正結果を、取引先や海外規制当局など、あらゆる相手にそのまま提示できる「ワンストップテスティング」が可能になります。

例えば、製品を海外へ輸出する場合、通常であれば輸出先ごとに試験を受け直す必要があります。
しかし、ISO17025認定試験所で評価されたデータであれば、海外での再試験が不要になるケースが多く、コストの軽減や市場投入までの時間短縮などのメリットが見込めます。

ISO/IEC17025の要求事項

ここでは、ISO17025の要求事項について解説します。

要求事項の構造

ISO17025の要求事項

ISO17025の要求事項には、ISO9001やISO27001など他のISO規格と異なり、HLS(マネジメントシステムの上位構造)が採用されていません。そしてISO17025の要求事項は、大きく以下の2つに区分されます。

マネジメントシステム要求事項

マネジメントシステム要求事項では、試験・校正結果の品質を保証できるようにマネジメントシステムを構築・運用することが求められています。

なお「マネジメントシステムに関する要求事項(8.2~8.9)」は選択制となり、選択肢A(8.1.2)もしくは選択肢B(8.1.3)のどちらかを選択します。ただし、選択肢BはすでにISO9001を認証している組織が対象です。

関連記事:【初心者向け】ISO9001とは?メリットや要求事項を徹底解説

技術的要求事項

技術的要求事項は、正確な試験や校正結果を導く能力・技術が要求されるISO17025において重視される部分です。「資源に関する要求事項」や「プロセスに関する要求事項」が、技術的要求事項に含まれます。

以下に、要求事項をまとめました。

1.適用範囲
2.引用規格
3.用語及び定義
4.一般要求事項
  • 4.1 公平性
  • 4.2 機密保持
5.組織構成に関する要求事項
6.資源に関する要求事項
  • 6.1 一般
  • 6.2 要員
  • 6.3 施設及び環境条件
  • 6.4 設備
  • 6.5 計量トレーサビリティ
  • 6.6 外部から提供される製品及びサービス
7.プロセスに関する要求事項
  • 7.1 依頼,見積仕様書及び契約のレビュー
  • 7.2 方法の選定,検証及び妥当性確認
  • 7.3 サンプリング
  • 7.4 試験・校正品目の取扱い
  • 7.5 技術的記録
  • 7.6 測定不確かさの評価
  • 7.7 結果の妥当性の確保
  • 7.8 結果の報告
  • 7.9 苦情
  • 7.10 不適合業務
  • 7.11 データの管理及び情報マネジメント
8.マネジメントシステムに関する要求事項
  • 8.1 選択肢
  • 8.1.1 一般
  • 8.1.2 選択肢A
  • 8.1.3 選択肢B
  • 8.2 マネジメントシステムの文書化(選択肢A)
  • 8.3 マネジメントシステム文書の管理(選択肢A)
  • 8.4 記録の管理(選択肢A)
  • 8.5 リスク及び機会への取組み(選択肢A)
  • 8.6 改善(選択肢A)
  • 8.7 是正処置(選択肢A)
  • 8.8 内部監査(選択肢A)
  • 8.9 マネジメントレビュー(選択肢A)
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ISO/IEC17025の要求事項を満たすポイントとは?

ISO17025の要求事項のポイント

ISO17025の要求事項を満たすポイントは、「計量トレーサビリティ」「測定の不確かさの評価」「技能試験」「データ管理と情報マネジメント」の4つの観点です。それぞれ、具体的な対応方法、意識すべき点について解説します。

なお、技術的要求事項では、組織の力量が求められる部分が多くあります。取得を検討している組織は、プロのコンサルティング業者に相談することがおすすめです。

計量トレーサビリティ

計量トレーサビリティは、ISO/IEC Guide 99に「それぞれが測定不確かさに寄与している、文書化された切れ目のない校正の連鎖によって計量参照に測定結果を関係付けることができるという測定結果の性質」と定義されています。

ISO17025では、測定結果の計量トレーサビリティを確立し、維持することが求められています。

測定の不確かさの評価

ラボラトリは、測定の不確かさに影響する成分を特定したうえで、重要な成分を適切な分析方法によって考慮することが必要です。

技能試験

ラボラトリは、他のラボラトリとの結果の比較によってパフォーマンスを監視することが求められており、技能試験への参加はその手段の一つです。技能試験への参加は、試験所の能力を実証するための機会となります。

データ管理と情報マネジメント

現在の2017年版に改訂された際に、大きく変更された要求事項「7.11データの管理及び情報マネジメント」の部分です。情報管理がシステム化されたことでより現代のIT技術に適した内容へと変更されました。

必要なデータや情報を利用できる状態として「データの判読性」「データへのアクセス保護」「データが存在すること」を確保することを求めています。この他にも、以下のような内容について記載されています。

  • ラボラトリ情報マネジメントシステムを構築し、データの完全性を保つこと
  • データサーバーを離れた場所に設置した場合にも、要求事項に適合させること
  • データ転送は、適切かつ系統的な方法でチェックすること

ISO/IEC17025取得の流れ

ISO17025取得にかかる期間・費用

最後に、ISO17025取得にかかる期間と、基本的な取得の流れについて解説します。

取得にかかる期間

ISO17025の審査申請~認定登録されるまでにかかる一般的な期間は、6か月~10か月程度です。審査方法や校正方法によっては、取得を決定してから認定登録されるまでに1年以上かかることもあります。

ISO17025は文書だけでなく「運用での正確性」が厳しく評価されるため、運用の準備期間も含めると、取得の意思決定から登録まで約1年〜1年半を見込んで準備することがおすすめです。

取得の手順

ISO17025取得の手順

以下に、ISO17025の基本的な取得の手順をまとめました。

1ISO17025取得に向けた体制の整備 ISO17025取得に向けた体制の整備として、トップマネジメントによる方針の明確化、必要な人員・設備・環境などを揃えます。

また、ISOコンサルタントの取得サポートを受けるかどうかも早めに検討しましょう。

2ISO17025の要求事項を満たす取り組み体制を固めた後は、ISO17025の要求事項に沿って文書類や運用ルールを整備します。
3審査機関に認証審査を申し込み準備が整った段階で、認証機関に認定審査の申請を行います。
4書類審査提出したマニュアル・手順書・記録類がISO17025の要求事項を満たしているか、記載内容に矛盾がないかが詳細に確認されます。
5第一段階審査(活動や施設・設備の確認)書類審査が完了すると、審査員による現地訪問が始まります。
第一段階審査では、試験所の施設・設備・環境条件、日常の運営体制が規格要求に沿っているかを中心に確認します。
6第二段階審査(システム面・技術面の審査)第二段階審査では、試験所の技術能力そのものが評価されます。
試験方法の妥当性確認、測定不確かさの推定、計量トレーサビリティ、などのISO17025の技術要求が審査対象となります。
7認定登録第二段階審査を通過し、すべての不適合が是正された後、認定機関による最終承認が行われます。
承認されると、試験所はISO17025認定試験所として正式に登録されます。
8決定の通知後、認定証が発行される認定登録が完了すると、ISO17025の認定証が発行されます。
認定後も品質管理システムを維持するため、初回認定の1年後、維持審査を受ける必要があります。

「5.書類審査」~「7.第二段階審査」の間に不適合があれば、是正処置を実施したのち、再度審査を受けることが可能です。

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まとめ

この記事では、ISO17025の概要や目的、要求事項について解説。また、ISO17025とISO9001との違いをまとめました。

製品・サービスの信頼性の要求を高めるためには、品質を正確に試験・校正できる試験所・校正機関が求められています。国際的な基準であるISO17025を取得することで、試験・校正結果が信頼性のあるものと判断しやすくなります。

ISO9001と比較しても要求事項が細かく定められていますが、取得できれば自社の技術力やマネジメント体制を国内外にアピールできるでしょう。

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