【入門】エネルギーマネジメントシステム(ISO50001)とは?わかりやすく解説
- エネルギーマネジメントシステムは、エネルギー運用効率の最適化につながる
- エネルギー資源に乏しい日本企業にとって、エネルギーマネジメントは非常に重要
- エネルギーマネジメントシステムの国際規格にはISO50001がある
LNGや石油などにかかるエネルギー自給率が乏しい日本では、コスト削減のためにエネルギー運用の最適化が欠かせません。
こうした背景により注目を集めているのが、エネルギーマネジメントシステムです。コスト削減と環境問題への対応、リスク回避の点で導入する企業が増えています。
そこで、この記事ではエネルギーマネジメントシステムの概要や種類、導入メリットなどをわかりやすく解説します。
目次
エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは
エネルギーマネジメントシステム(EMS:Energy Management System)とは、「エネルギー使用状況を管理し、使用効率を最適化する仕組み」のことです。
日本国内では、原油コストの高騰や地球環境保護への対策が求められていることから、多くの企業でエネルギーマネジメントシステムの導入が進んでいます。特に、エネルギーマネジメントシステムは、エネルギーに関連する設備やサービスにおいて必要不可欠なシステムです。
エネルギーマネジメントシステムの必要性
エネルギーマネジメントシステムの必要性には、「エネルギー消費によるコストを抑えること」「限られた資源を効率的に使用することで、環境にかかる負担を抑えること」が挙げられます。
特にオフィスや商業ビル、工場においては、職場の照明や空調、電気製品、設備・機器の稼働などあらゆるところで電気をはじめとしたエネルギーを消費しています。
電気料金は値上がりを続けており、原油価格も高騰していることから、エネルギー効率を最適化することで、エネルギー消費にかかるコストを抑える必要があるのです。
また、世界中で環境問題に取り組むことが企業の社会的責任として求められています。持続可能な社会を実現するためにも、省エネを推進し、エネルギー効率を高めることが必要です。
エネルギーマネジメントシステムの種類
ここでは、エネルギーマネジメントシステムの種類について解説します。
FEMS
FEMS(Factory Energy Management System:フェムス)とは、工場を対象としたエネルギーマネジメントシステムです。
製品の生産計画や生産設備、サプライチェーンにエネルギー管理を組み込み、エネルギー消費量を抑え、生産性の向上を目指します。
BEMS
BEMS(Building and Energy Management System:ベムス)とは、オフィスや商業ビルなどを対象としたエネルギーマネジメントシステムです。
建物内にセンサーを取り付けてエネルギー消費に関するデータを「見える化」し、オフィスやビル全体の設備を制御して省エネを目指します。
HEMS
HEMS(Home Energy Management System:ヘムス)とは、家庭を対象としたエネルギーマネジメントシステムです。
照明や冷暖房、家電などの機器とセンサーを連携し、最適な消費量になるように自動制御したり、ガスや電気の使用量を「見える化」などを行ったりして管理します。
MEMS
MEMS(Mansion Energy Management System:メムス)とは、マンションを対象としたエネルギーマネジメントシステムです。
マンション内で使用する電気消費量を「見える化」、管理会社や運営会社が遠隔地でモニタリングし、空調・照明設備などのエネルギー効率を管理します。
マンションの建物ごとに管理することから、全入居者が一括で電力会社と契約することが必要です。
CEMS
CEMS(Community Energy Management System:セムス)とは、上記の建物を含めた地域全体の電力需要を管理するエネルギーマネジメントシステムです。
地域におけるエネルギーを「見える化」することで、電力の供給量と消費量のギャップに応じて「火力発電+風力発電」「火力発電+太陽光発電」などのエネルギー源と組み合わせるといった対策が可能になり、安定した電力供給と省エネ化につながります。
エネルギーマネジメントシステムの導入メリット
ここでは、エネルギーマネジメントシステムを導入するメリットを解説します。
消費エネルギーを見える化できる
エネルギーマネジメントシステムを導入する大きなメリットは、各設備・機器におけるエネルギー消費状況の「見える化」によりリアルタイムで把握できることです。
従来の方法では、エネルギーを使用したあとの電気料金やガス料金といったコストを基準にエネルギー消費量を把握していました。そのため、「いつ」「どの設備・機器が」「どの程度」エネルギーを消費しているかを確認できませんでした。
しかし、エネルギーマネジメントシステムを導入することで、各設備・機器におけるエネルギー消費量をリアルタイムで可視化できるようになるのです。
可視化されることで、対策を実施した際のエネルギー消費の効率化や環境に対する負荷の低減についての成果を算出しやすくなります。
非効率な改善箇所を特定できる
エネルギー消費状況を「見える化」することで、エネルギー消費にムダがある設備・機器や稼働効率が低い時間帯などを特定できます。エネルギー消費のデータを蓄積し、過去のデータと比較することで、異変も発見しやすくなるのです。
また非効率な設備・機器の原因が老朽化や故障の前兆である場合には、未然に設備・機器の停止や故障を防止することにもつながります。
エネルギー運用を最適化できる
エネルギー使用状況の「見える化」や現状の理解により、エネルギー運用を最適化するための具体的な対策を実施できるようになります。正確なデータをもとに対策を策定できるため、より最適化した運用につながるでしょう。
エネルギーマネジメントシステムのメリットを最大限に享受するには、「見える化→現状の理解→運用の最適化」といったPDCAサイクルによって繰り返し運用することが欠かせません。
社会情勢の変化や新技術の開発などによって、最適なエネルギーマネジメントも変化するため、期待どおりの成果が得られたとしても運用を継続しましょう。
エネルギーマネジメントシステムに関する規格「ISO50001」とは
ここでは、エネルギーマネジメントシステムに関する国際規格「ISO50001」について解説します。
ISO規格とは
そもそも[/s]ISO規格とは、ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)というスイスに本部を置く非営利法人が発行し、運営している国際規格[/s]のことです。
ISO規格の目的は、「世界共通の基準を設けることで国際的な取引を円滑化し、貿易の発展を支援すること」です。
例えば、各国の企業が自国の基準に則って商品・サービスを海外に輸出する場合、取引先となる国の企業は「どのような商品・サービスなのか」を理解するのには時間がかかるでしょう。また輸出先の国の基準に合わせて商品・サービスを改良しなければならない可能性もあります。
その際に、「世界共通の基準を満たした商品・サービス」であれば、こうした事態に陥る可能性を下げられるのです。
ISO規格の詳細は、以下の記事をご覧ください。
ISO50001とは
ISO50001とは、「組織のエネルギーマネジメントシステムに関する国際規格」です。
エネルギーを管理し、エネルギーパフォーマンスを継続的に改善することによる省エネルギー化やエネルギーコストの削減を目指します。
そのために、組織は管理するエネルギーパフォーマンスを設定し、継続的改善のための取り組みを実施します。エネルギーパフォーマンスとして設定される項目の例には、エネルギー消費原単位、エネルギー効率、エネルギー使用料、エネルギー起源の二酸化炭素排出量などが挙げられます。
ISO50001を取得する方法
ISO50001を取得するには、第三者機関である審査機関の認証審査を受けることが必要です。
審査では、「ISO50001の要求事項を満たすエネルギーマネジメントシステムを構築・運用しているかどうか」が確認されます。適合していると評価されれば、認証を受けられます。
ISO50001を取得するための流れを以下に簡単にまとめました。
1 | ISO50001取得のための事前準備を行う ISOコンサルの取得サポートを受けるかどうかを決める、ISO担当者を決める、認証取得に関する情報を収集するなどの事前準備を行います。 |
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2 | ISO50001の要求事項を満たすエネルギーマネジメントシステムを構築する 組織内外の状況を理解したうえで、エネルギー方針、エネルギーマネジメントチームを確立します。その後、現在のエネルギーの使用や使用量の分析にもとづき、エネルギーパフォーマンスの改善に向けた行動計画を立案します。 |
3 | 2で構築したエネルギーマネジメントシステムを運用する マネジメントシステムの運用に必要な資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の準備や従業員の力量の管理などを実施しつつ、行動計画にもとづいて運用することが必要です。 また、一定期間の運用後にはエネルギーパフォーマンスや運用状況の監視・測定、分析・評価を行い、内部監査・マネジメントレビューを実施します。不適合や課題が発見されれば、改善のための対策を立てて実行します。 |
4 | 審査機関による取得審査を受ける 一次審査では、マネジメントシステムの構築における文書を審査し、二次審査ではマネジメントシステムの運用状況を審査します。 |
5 | ISO50001への適合が認められたら、認証の取得となる 認証できた場合、認定証が送付されます。 |
ISO50001の取得事例
ここでは、ISO50001の取得事例について解説します。
株式会社東京エネルギーサービス
株式会社東京エネルギーサービスは、東京都区下の再開発地区において、電気供給、冷水・蒸気等の熱供給に関する事業を営むエネルギー供給業者です。
すでに環境マネジメントシステムに関するISO14001を取得しており、環境マネジメントシステムは構築・運用している状況でしたが、以下のような点によりISO50001を取得しました。
- 熱供給会社として環境変化に対応するために、よりシステマチックなエネルギーマネジメントに取り組む必要があったため。
- 設備の稼働から17年が経過し、設備更新の時期、今後数年間、主要設備の更新が続くことが予想されたことから、設備更新計画の評価に活用したいと考えたため。
- 東京都環境確保条例によって、最大8%の温室効果ガス(CO2)削減が義務付けられたため。
- 省エネ法で年平均1%以上のエネルギー消費原単位の改善が要求されたため。
- 2011年3月の震災以降、特に重要な課題となっているエネルギーセキュリティの向上、すなわち災害に強い一次エネルギーを確保し、エネルギーの安定供給を図る必要があったため。
ISO50001取得において株式会社東京エネルギーサービスが定めた内容や成果について以下にまとめました。
エネルギー目標 | エネルギー消費原単位の10%削減 |
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エネルギーパフォーマンス指標 | 冷凍機、ボイラー、コージェネ設備の効率 |
成果 | 原単位の10%削減達成(2010年比) |
株式会社オーエンス
株式会社オーエンスは、ビル管理業や公共施設の指定管理者受託業務などの幅広い事業を営むビル管理業者です。
本社や一部の管理物件では、ISO9001(品質マネジメントシステム)・ISO14001(環境マネジメントシステム)を取得しており、マネジメントシステムを運用している状況でしたが、以下のような点によりISO50001を取得しました。
- 物件管理に関連してエネルギーの使用に関連するコスト削減の要求が高まるなか、顧客への提案能力の向上につなげるため。
- 顧客からは、省エネやコスト削減の要望が常にあり、エネルギーマネジメントシステムの運用により得られたノウハウを利用して、顧客のニーズに応えることが可能になるため。
- 電気、ガス、水道などのコスト削減のためのコンサルティング力の向上にもつながることを期待しているため。
- 認証の対象とした施設は、事業者独自の管理方法を導入し、エネルギーコストの低減による顧客満足度の向上を図ることで、長期間に及ぶ管理委託業務の受注を目指しているため。
ISO50001取得において株式会社オーエンスが定めた内容や成果について以下にまとめました。
エネルギー目標 | エネルギー使用量を3年間で9%削減及び20%/年の削減(前年度比) |
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エネルギーパフォーマンス指標 | 年度のエネルギー使用量(原油換算) |
成果 | エネルギー使用量の20%削減達成(前年比) |
イオン株式会社
イオン株式会社は、小売やディベロッパー、金融業などを営む小売業者です。エネルギーマネジメントの対象は、イオン株式会社が行うグループ全体への統括的マネジメント活動です。
すでに環境マネジメントシステムに関するISO14001を取得しており、環境マネジメントシステムは構築・運用している状況でしたが、以下のような点によりISO50001を取得しました。
- 東日本大震災の際、店舗への電力の供給が途絶えたために、食品を廃棄せざるを得なかった経験があり、BCPの観点からもエネルギーマネジメントの確立が必須であると判断したため。
- 2012年8月に、2020年に向けBCPとエネルギーマネジメントの目標を定め、「イオンのecoプロジェクト」を発足。このプロジェクトの活動をISO50001の要求事項に照らして、より実効あるものにするため。
ISO50001取得においてイオン株式会社が定めた内容や成果について以下にまとめました。
エネルギー目標 | 延床面積当たりのエネルギー使用量50%削減(2020年度) |
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エネルギーパフォーマンス指標 | 延床面積当たりのエネルギー使用量 |
成果 | 2010年度比エネルギー削減目標達成 |
まとめ
この記事では、エネルギーマネジメントシステムとその認証制度であるISO50001について解説しました。
エネルギーマネジメントシステムを導入することで、エネルギー消費におけるコスト削減や環境問題への対応、リスク回避などのメリットにつながります。環境保護という社会的責任を果たすことで、顧客や取引先からの信頼の獲得も期待できるでしょう。
エネルギーの消費量が多く、コストが高額になっている企業や環境問題への取り組みを強化したい企業は、エネルギーマネジメントシステムの導入やISO50001の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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