【初心者向け】介護事業者がBCPを策定する方法とは?目的やメリットについても解説
- BCP策定は、介護事業者としての役割を果たすうえで重要な要素
- 緊急時にBCPを適切に実行するためにBCMSという仕組みがある
エッセンシャルワーク(生活に必要不可欠な仕事)の一つである介護事業においては、BCPの策定は、自社の事業継続のためだけでなく、多くの利用者の生活を守るために欠かせません。
しかし、どのようにBCPを策定すればよいのかわからないという介護事業者も多くいるのではないでしょうか。
そこで、本記事ではBCPの目的や役割、メリット、BCPの作成方法について詳しく解説します。
目次
BCP(事業継続計画)とは
BCP(Business Continuity Plan)とは、「事業継続計画」のことです。自然災害や感染症、テロ等の事件などの不測の事態に遭遇しても、経営資源の損害をできる限り抑えつつ、重要な事業を中断させない、もしくは早期復旧させる方針や体制、基準などを示した計画になります。
BCPの目的
BCPの目的は、事業活動レベルの落ち込みを小さくし、復旧に要する時間を短くすることです。
介護事業者においては、災害が発生すると、主に以下のような損害による影響を受けて、利用者へのサービス提供が困難になることが予想されています。
- 建物設備の損壊
- 社会インフラの停止
- 災害時対応業務の発生による人手不足など
こうした災害への具体的な方法を決めておくことで、実際の非常事態においてスムーズな対応が可能になるのです。
防災計画との違い
BCPと防災計画とは、目的や対象範囲が異なっています。そこで、以下に、BCPと防災計画の違いについてまとめました。
BCP | 防災計画 | |
---|---|---|
目的 |
・身体、生命の安全確保 ・事業の継続または早期復旧 |
・身体、生命の安全確保 ・物的被害の軽減 |
対応のリスク範囲 | 感染症、自然災害、IT障害、テロ攻撃など事業が中断する可能性のある、あらゆるリスク | 拠点付近における自然災害 |
対策の検討範囲 |
・全社 ・取引先などのステークホルダー |
自社の拠点ごと |
このように、BCPは防災計画も含めたうえで、さらに事業継続を目指した対策が求められます。そのため、非常に幅広い範囲で対応が求められるでしょう。
BCP対策の詳細は下記よりご覧ください。
介護事業者にBCP策定が求められる理由
介護事業にBCP策定が求められる理由は、医療などと同じく「有事であっても継続が求められる事業」であるためです。
介護事業所の利用者の多くは、日常生活・健康管理・生命維持の大部分を介護事業者の提供するサービスに依存しているため、事業停止により、利用者の生活・健康・生命の支障に直結するおそれがあります。
そのため、他の業種よりも介護施設等はサービス提供の維持・継続の必要性が高く、BCP 策定など災害発生時の対応について準備することが求められます。
こうした背景を受け、厚生労働省は「令和3年度介護報酬改定」にて、介護事業者に対しBCPの策定・研修・訓練などの緊急時の対策が義務化することを決定しました。すべての介護事業者は2024年4月までに対応を完了させなければなりません。
介護事業者のBCP義務化について、別記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
介護事業者がBCPを策定するメリットとは
BCP策定の目的や役割である入居者や地域の安全を守ること以外に、介護事業者がBCPを策定するメリットについて解説します。
安全配慮義務を違反することによるリスク回避
介護事業者と利用者は介護サービス契約を結んでいます。その契約により、介護事業者は利用者の安全に配慮し、生命身体財産に損害を与えてはならないという義務が発生しています。
そのため、今後、BCP策定の義務化の経過措置が終了したのち、BCPを策定しなかったことで職員や利用者に大きな損害を与えてしまうと、安全配慮義務の違反につながる可能性があるのです。その場合、賠償損害の支払いといった法的責任や社会的な責任を追及され、事業の存続が難しくなるかもしれません。
BCPを策定することで、こうしたリスクを回避できるのです。
節税優遇や金融支援が受けられる
BCP認定を受けることで、国による支援となる「中小企業強靱化法案」の支援を受けることができます。ここでは、その支援内容をご紹介します。
まず、中小企業・小規模事業者は、「中小企業防災・減災投資促進税制」により、設備投資に対する特別償却が受けられます。
対象は、事業活動に与える自然災害や感染症の影響を軽減させる機能をもつ設備です。
減価償却資産の種類 | 対象となるものの用途例 |
---|---|
機械・装置(100万円以上) | 自家発電設備、浄水装置、揚水ポンプ、排水ポンプ、制震・免震装置 |
器具・備品(30万円以上) |
自然災害:すべての設備 感染症:サーモグラフィ装置 |
建物附属設備(60万円以上) | 自家発電設備、キュービクル式高圧受電設備、変圧器、配電設備、電力供給自動制御システム、照明設備、無停電電源装置、貯水タンク、浄水装置、排水ポンプ、揚水ポンプ、格納式避難設備、止水板、制震・免震装置、架台、防水シャッター |
また、金融支援では、事業継続力強化計画の認定を受けた中小企業に以下の金融支援を行っています。
- 信用保険の保証枠を別枠追加
- 津波・水害及び土砂災害に係る要対策地域に所在する者の土地に係る設備資金について、貸付金利の引き下げ
- 事業継続力強化計画の認定を受けた中小企業・小規模事業者の防災に係る設備資金の貸付金利を基準金利から引き下げ
詳細については、以下のリンクからご覧ください。
このように、国はBCP策定を支援しています。企業に求められている社会的な責任の一つであるため、積極的に取り組みましょう。
感染症発生時にワクチンの優先接種を受けられる
「新型インフルエンザ等対策特別措置法第28条」により、以下の業種において登録事業者となる条件を満たすと、優先接種を受けることができます。その条件の一つに、BCP策定が含まれているのです。
【対象となる業種】
- 医療を提供する業務
- 国民生活・国民経済の安定に寄与する業務を行う事業者の従業員
- 新型インフルエンザ等対策の実施に携わる公務員
介護事業所においてBCP(事業継続計画)を策定する手順
BCP策定は、「自然災害」と「感染症」それぞれに対応するための計画を立てることが必要です。以下の手順で策定しましょう。
該当の自社サービスを確認する
「感染症」用のBCPの策定においては、以下の3つのタイプごとに必要項目が異なります。そのため、自社のタイプをまずは確認してください。
入所系
施設利用者の入浴や排せつ、食事などを介護するサービスが該当します。具体的には、以下のような施設のことです。
- 特別養護老人ホーム
- 養護老人ホーム
- グループホーム
- 軽費老人ホーム
- サービス付き高齢者向け住宅
- 有料老人ホーム
通所系
「要介護」認定された利用者が、施設に訪れてサービスを受ける事業所のことです。入浴や排せつ、食事などを介護するサービスが該当し、具体的には老人デイサービスセンターなどが挙げられます。
訪問系
居宅で生活を送る「要介護」認定された利用者の自宅に、介護福祉士や訪問介護員が訪問して、入浴や排せつ、食事などを介護するサービスのことです。
ガイドラインを確認する
自社の事業所のタイプを確認したら、厚生労働省が公表しているガイドラインを確認してください。BCP策定の全体像のイメージに役立ちます。
・新型コロナウイルス感染症
・自然災害
BCPのひな型に沿って対応を決定する
介護事業のタイプごとにBCPのひな型が用意されていますので、該当のひな型をダウンロードしましょう。
ひな型に沿って記入することで、自社の現状を把握します。フローチャートのとおりに記載していくことで、対策に必要な内容の漏れを防ぐことにつながります。不足点や課題点があれば、ピックアップし、新たに対応を決めていきましょう。
演習の実施
「自然災害」「感染症」それぞれの計画に沿い演習を実施していきます。実際に演習を行うことで、机上では見えなかった課題に気づくことができるでしょう。また、地域によっては季節ごとに対策が異なる可能性があります。そのため、定期的な演習を実施するようにしましょう。
効果的な訓練を実施するには、従業員が積極的に取り組むことが必要です。事前にBCPや演習の意図を説明し、全社的な協力体制を築くことを心がけましょう。
課題への対応・フィードバック
BCPは、一度内容を決定して完了するのではなく、実際に演習を行った結果について振り返り、改善しながら運用していくことが重要です。そのため、演習を実施する際には、結果の振り返りがしやすいように、フローチャートに沿って、結果を記録するようにしましょう。例えば、BCPを発動してから避難場所に移動するまでにかかった時間などをメモしておくことで、改善すべきかどうかについて振り返ることができるようになります。
このように、振り返りを実施したら、ひな型に次の課題について記入し、課題解消に向けて対策を講じていきましょう。
また、自社のBCPを策定したら、利用者やその家族にも共有しておくことで、安心して利用いただけるとともに、非常時のスムーズな対応につながります。
介護事業者のBCP(事業継続計画)の内容とは
それでは、介護事業者のBCP策定に掲載すべき内容について解説します。BCPに掲載すべき事項は、手順でご紹介した、厚生労働省が公表しているBCPガイドラインのひな型を活用しましょう。
自然災害への対応計画
自然災害に対するBCPでは、以下の内容を取り入れましょう。
カテゴリとしては、「1.総論」「2.平常時の対応」「3.緊急時の対応」「4.他施設との連携」「5.地域との連携」の5つに分けられています。
それぞれのカテゴリにおいて、必要な内容については以下のフローチャートを確認しましょう。
「1.総論」でBCPの大枠が決まるため、慎重に検討することが重要です。その中でも、リスクの把握を的確に実施することで、その後の対応内容が変わってきます。そのため、事業所においてどのようなリスクがあるのかを明らかにしましょう。ハザードマップや地域の特性 を確認するなどして、情報収集をしっかり行ってください。
感染症への対応計画
感染症に対するBCPでは、事業所のタイプ(入所系・訪問系・通所系)に応じて、取り入れるべき内容が変わってきます。自事業所におけるタイプの確認方法は、後ほどご紹介します。ここでは、新型コロナウイルスのBCPをもとに、解説していきます。
入所系・訪問系のカテゴリは「0.平時対応」「1.感染疑い者の発生」「2.初動対応」「3.検査」「4.感染拡大防止体制の確立」の5つに分けられています。
一方、通所系は「0.平時対応」「1.感染疑い者の発生」「2.初動対応」「3.検査」「4.休業の検討」「5. 感染拡大防止体制の確立」の6つに分けられています。
それぞれのカテゴリにおいて、必要な内容については以下のフローチャートを確認しましょう。まず、入所系・訪問系について紹介します。
入所系・訪問系のサービスにおいては、ほぼプロセスは変わりません。ただし、入所系の場合には、「2.初動対応」が非常に重要になってきます。正しい情報を収集し、その情報をもとに施設内の清掃や消毒を実施することが必要です。
事業を継続しながら、感染拡大を防止する対策を実施します。保健所と連携し、情報共有を適切に実行しましょう。
通所系のサービスにおいては、陽性者が出た場合に「4.休業の検討」というプロセスが入ってきます。休業にあたっては、代替サービスとして訪問サービスの実施の検討や、利用者やそのご家族への説明が必要になります。
より実効性の高いBCPを目指したい介護事業者の方へ
BCPだけでなく、BCMS(ISO22301)の構築・運用により、より長期的な緊急時の備えが可能になります。
BCMS(事業継続マネジメントシステム)とは
BCMSとは、「事業継続マネジメントシステム」のことを指します。
BCPを策定しても、計画を立てただけで終わってしまう組織も少なくありません。そこでBCMSでは、緊急事態において経営と一体化したシステムを構築・運用することにより、BCPの実効性を高めることを目指しています。
そのため、より強固な事業体制づくりにつながることから、近年注目を集めています。
ISO22301とは
ISO22301とは、BCMSに関する国際規格 のことです。審査機関による第三者認証 であることから、取得することで事業継続における体制づくりが国際基準レベルに達しているという証明になります。その結果、事業体制の強化や企業価値の向上、顧客からの信頼獲得といった効果につながっています。
2012年に発行された新しい規格であることから、取得している企業数はまだ多くありませんが、イオン株式会社などの大手企業が取得するなど、業種関係なく注目されています。
BCMS(ISO22301)の詳細は、以下の記事をご覧ください。
より実効性の高い事業継続性を有した事業体制を目指す場合、ISO22301の取得がおすすめです。
まとめ
2024年4月までに、介護事業者はBCPを策定し、運用することが義務付けられました。感染対策用と自然災害用、2つのBCPを策定し、運用していくことで、非常事態における対応を明らかにし、スムーズな事業継続・早期復旧を目指しましょう。 しかし、リスク全体に対応していくために、それぞれのBCPを用意して対策を講じていくことは管理が煩雑になる可能性があります。そこで、事業継続を経営活動の一部として取り組んでいくISO22301取得が注目されているのです。 平時だけでなく、緊急事態が発生した際にも、入居者や従業員に安心してもらえる事業体制をつくるために、ISO22301の取得を目指してみてはいかがでしょうか。ISOプロでは月額4万円から御社に合わせたISO運用を実施中
ISOプロではISO各種の認証取得から運用まで幅広くサポートしております。
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