ISO教育訓練とは?スキルアップや有効性の評価を徹底解説
- ISO9001やISO27001などさまざまな規格において、力量(=従業員が業務を遂行するための能力)の要求事項に教育訓練について記載されている
- ISO教育訓練では、有効性を評価することが求められている
ISO を運用する際、マネジメントシステムの構築・運用に欠かせないリソースに、人材が挙げられます。従業員の力量 を高めることで、マネジメントシステムの継続的な改善につながります。
教育訓練はISO規格 において、要求事項に規定されています。しかし、実際にどのように教育訓練を実施すべきかわからないという組織もあるでしょう。
そこで、この記事ではISO9001を例に教育訓練の概要や分類、手順、ポイントを解説します。
目次
ISOにおける教育訓練とは
ISOにおける教育訓練は、人材の「力量」を高めるための一つの手段として規定されています。ただし、教育訓練を実施すれば良いというわけではなく、要求事項を満たすためには人材の「力量」を管理し、適切な教育訓練を実施することが求められます。
そこで、ここから先は主にISO9001を例として教育訓練について解説します。
ISO9001における「力量」とは
ISO9001の要求事項では、「7.2 力量」に以下のように規定されています。
7.2 力量
組織は,次の事項を行わなければならない。a)品質 マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性 に影響を与える業務をその管理下で行う人(又は人々)に必要な力量を明確にする。
b)適切な教育,訓練又は経験に基づいて,それらの人々が力量を備えていることを確実にする。
c)該当する場合には,必ず,必要な力量を身に付けるための処置をとり,とった処置の有効性を評価する。
d)力量の証拠として,適切な文書化した情報を保持する。注記 適用される処置には,例えば,現在雇用している人々に対する,教育訓練の提供,指導の実施,配置転換の実施などがあり,また,力量を備えた人々の雇用,そうした人々との契約締結などもあり得る。
引用:ISO9001:2015
それぞれの項番が何を指しているのかをかみ砕いて解説します。
- a)品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人(又は人々)に必要な力量を明確にする。
- ISO9001において、経営資源の中で最も重要なのは人材と定義されています。適切な力量を備えた人材がいなければ、優れた設備・システムを導入しても効果的に活用することは難しいでしょう。
そのため、力量を備えた人材を確保するためには、従業員に必要な職務能力を明確にすることが求められています。すべての従業員というわけではなく、品質マネジメントシステムの管理下で、パフォーマンスや有効性に影響を与える業務を行う従業員に限定しましょう。例えば、ISO9001における各人材に必要な力量としては、「営業部門の従業員に必要な力量は、コミュニケーション能力や見積もりの作成能力」「設計部門の従業員に必要な力量は、検証能力や設計力」「製造部門の従業員に必要な力量は、設備運転能力や運転記録作成能力」などが挙げられます。
- b)適切な教育、訓練又は経験に基づいて、それらの人々が力量を備えていることを確実にする。
- a)で定めた職務能力を、働く従業員が教育訓練、経験によって備えているかどうかを確認する必要があります。
例えば、これまでの経歴や人格・コミュニケーション力などを考慮したうえで、力量の有無について評価します。
- c)該当する場合には、必ず、必要な力量を身に付けるための処置をとり、とった処置の有効性を評価する。
- 品質マネジメントシステムの管理下で働く従業員の力量が不足している場合、必要な職務能力を身につけるための教育・訓練などの機会を与えることが求められます。もしくは、職務能力を備えた人の雇用や契約を締結し、要員を確保します。
また教育・訓練実施後には、「実際に職務能力が身に付いたかどうか」という成果を確認して有効性を評価します。
- d)力量の証拠として,適切な文書化した情報を保持する。
- a)~c)を実施後には、証拠となる情報を文書化して記録として保管しておくことが必要です。
ISO9001における教育訓練の分類
ISO9001における教育訓練の主な分類を、以下にまとめました。さまざまな分類による教育訓練があるため、対象者に適した方法を選定して行いましょう。
教育訓練の開催場所による分類
開催場所による分類では、内部教育訓練と外部教育訓練に分けられます。
開催場所 | 内容 |
---|---|
内部教育訓練 | 組織内で教育・訓練、研修を行う教育 |
外部教育訓練 | 外部のセミナーや講習に出向いて行う教育 |
内部教育訓練では、作成したマニュアル・ルール、手順書などを用いて必要な力量について具体的に教育します。座学だけでなく現場での教育訓練を行うことで、従業員が実際にどのように仕事に活用するのかがイメージしやすくなるでしょう。
外部教育訓練の場合には、別途コストがかかるため、質の高い専門性の高い教育訓練に適しています。
教育訓練の目的による分類
目的による分類では、以下の4つの教育訓練に分けられます。
目的 | 内容 |
---|---|
ISO教育 | ISO規格の要求事項と現状とのギャップを是正するための教育 |
責任者認定教育 | 新たな責任者を認定する際に行う教育 |
新入社員教育 | 新入社員が入社した際に行う教育 |
スキルアップ教育 | 職務能力が不足している社員に行う教育 |
ISO教育は、審査・内部監査で受けた指摘事項に対する是正処置 や再発防止のための対策を効果的に進めるために重要な教育です。
責任者認定教育や新入社員教育などは従業員のキャリアアップに応じて行う教育です。業務に関する知識やスキルを高める以外にも、役職・役割によって必要な考え方、コミュニケーション能力なども含まれます。またこの他には異動があった際にも、教育が必要な場合があるでしょう。
スキルアップ教育は、従業員の力量が不足している場合に実施する教育訓練です。一般的には業務に関する知識や技能などを高める内容の教育や講習を行います。
教育訓練の方法による分類
教育訓練の方法による分類では、OJT教育とOff-JT教育に分けられます。
方法 | 内容 |
---|---|
OJT教育 | 実務を行いながら行う教育訓練 |
Off-JT教育 | 職場を離れて行う教育訓練 |
OJT(On the Job Training)教育では、職場の実務を行いながら、必要となる知識やスキルに関する教育訓練を実施します。新人教育の際に実務体験と教育訓練を兼ねて実施し、新人の適性を確認したり、業務全体の流れを把握したりすることがよくあります。
Off-JT(OFF the Job Training)教育は、職場を離れて職務の高度な専門性を高めたり、別領域の知識などへの見識を深めたりするために行われます。例えば、新人教育やビジネスマナー研修などが挙げられます。
ISO9001における教育訓練の流れ
ここでは、ISO9001における教育訓練の流れを解説します。
1.教育訓練計画書を作成する
まずは教育訓練計画書を作成します。
教育訓練計画書とは、「教育訓練を計画的に行うために、訓練内容をまとめた文書」のことです。具体的には、教育訓練の目的や対象者、実施時期、内容、評価方法などについて記載します。
教育訓練計画書を作成することで、教育訓練の全体像が把握しやすくなり、進捗の可視化が可能です。また必要な職務能力の評価にもつながり、教育訓練の証拠としても活用できます。
2.教育訓練の実施
教育訓練計画書のとおりに、教育訓練を実施します。
有効な教育訓練を行うためには、「理解したか」ではなく「実践できるか」を重視することが大切です。教育訓練の対象者や目的に応じて、開催場所や方法、内容を検討したうえで教育訓練を実施しましょう。
3.教育訓練記録を残す
教育訓練を実施したら、教育訓練の内容を教育訓練記録として作成します。
訓練実施日や対象者、内容といった計画書に記載した内容以外にも、「教育内容が適切だったかどうか」や「対象者の職務能力の向上につながったか」なども記録として残しましょう。
4.教育訓練の有効性を評価する
教育訓練記録をもとに、教育訓練の有効性を評価します。
教育訓練の目的が「必要な力量を身につけること」であるため、確認試験やレポート提出、教師による評価、実務での実践などにより、適切に評価しましょう。
ISO9001における教育訓練のポイント
最後に、ISO9001における教育訓練のポイントを解説します。
適正に管理できるスキルマップを作成する
スキルマップとは、「必要な職務能力を整理し、従業員の力量を管理するためのツール」です。
スキルマップ作成手順を以下にまとめました。
- スキルマップの目的を明確にする
- 必要な職務能力を業務別、工程別に洗い出す
- スキルの評価者・評価方法・評価基準を設ける
- スキルマップを作成する
- スキルマップを導入後、PDCAで運用する
スキルマップの作成例は以下のようになります。作成時の参考にしてください。
項目 | 必要スキル | Aさん | Bさん |
---|---|---|---|
製造部門/業務内容 | 〇〇加工 | 4 | 2 |
手削り作業 | 3 | 1 | |
工程内検査 | 4 | 1 |
(評価基準:4「指導できる」、3「一人で実施可」、2「補助つきで実施可」、1「補助できる」)
PDCAサイクルで教育訓練を実施する
一度の教育訓練で身につけられる人もいれば、そうでない人もいるでしょう。そのため有効性の評価を実施し、スキルが不足している場合には再度教育訓練を実施することが必要です。
というのも、ISO規格はいずれもPDCAサイクルを回すことで継続的改善を求めています。教育訓練も同様に、PDCAサイクルにより従業員の力量を高めていくことが欠かせません。
また教育訓練自体もPDCAサイクルで改善していくことで、より質の高い教育訓練につながります。すべての従業員が力量を備えることができるよう、継続的に教育訓練に取り組みましょう。
まとめ
この記事ではISO9001の教育訓練の概要や分類、手順、ポイントを解説しました。
経営資源において、最も重視されているのは人材です。すべての働く人々が必要な力量を身につけるための処置の一つとして教育訓練の実施が求められています。教育訓練を実施したら、記録をもとに有効性を評価し、PDCAサイクルを回しましょう。
また効果的な教育訓練を実施し、力量を高めるためにはコンサルに依頼することも手段の一つです。
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