• 内部監査員は、内部監査をマネジメントシステムの「改善の機会」に導くことが重要
  • 内部監査は、実施前後の計画やフォローにより質が左右される

今回のテーマは「一歩踏み込んだ内部監査」ということで、現場視点で内部監査を効果的に実施するポイントについて解説します。内部監査の基礎知識や監査の進め方などの解説は本サイトで別途取り上げていますので、そちらをご覧ください。

内部監査=組織における「改善の機会」

内部監査の実施については、ISO 規格 の種類に関わらずISO規格共通の要求となっています。ISO規格に関連する仕組みは色々ありますが、「共通」ということはマネジメントシステムにおいて内部監査の評価は組織における「改善の機会」としてとても重要であることを意味しています。

では、内部監査の役割とは何でしょうか。
一歩踏み込んだ内部監査

組織によってマネジメントシステムの導入目的は異なりますが、内部監査の役割はマネジメントシステムの「仕組み」を活用して事業や業務上(プロセス)の問題点・課題を洗い出し、品質改善 の機会につなげることです。経営の最終目標である売上の拡大、企業存続するためのツールとしてマネジメントシステムを活用し、適用対象となるプロセスや製品・サービス等を取り扱う部署は、内部監査により明らかになったリスクおよび課題の改善・解消に取り組むことで管理業務および作業工程等の効率化を図ります。また、ルールやマニュアルが整備され、運用を記録していくことで、内部統制の強化も見込めます。

認証 機関によって行われる外部監査とは異なり、自社内の仕組みになるため、適合性の判断が行いやすいことや、不具合があった際に対処しやすいといったメリットが挙げられています。そのため、内部監査を適切に実施することで、組織の体制を改善できるのです。

内部監査は無駄?成果なし?

認証取得後複数年経過してISO業務はルーチン化され、マネジメントシステムを維持・継続しているもののその成果を得られない、内部監査に期待する成果に首を傾げる企業は少なくないでしょう。

そのような状況に陥ってしまった場合、ISO業務の現状や内部監査がどのように進められているのかなど、諸々見直してみることです。

まずは、以下の3点を確認しましょう。

  • ISO業務の効率化が進み、惰性で業務が回っていませんか?
  • 内部監査は改善の機会として活用できていますか?
  • トップマネジメントや監査対象部門リーダーのマネジメントシステムおよび内部監査への取り組む姿勢は前向きでしょうか?

マネジメントシステムにおいてもリーダーシップ力はとても重要で、ISO規格要求事項でもそのリーダーシップ力について触れています。リーダーの取り組む姿勢や意思は関係者に伝播し、関係者から組織全体に「その程度のもの」「適当に」という雰囲気が形成されしまうケースも多くあります。

リーダーの方々は、以下に該当していないか自己を振り返りましょう。

  • 内部監査は監査担当者が対応しているので、認証更新は何とかなるだろう
  • 監査役である内部監査員に聞かれたことだけ適当に回答すればいい、これまで場当たり的な対応をしてきた
  • ISO業務に割く時間がなく、殆ど担当者に任せきり
  • 現場を見て回ることもなく関連規定に目を通す程度、ISO関連は聞いても正直よくわからない
  • 日頃から現状を適切に把握せず、一方的にISO業務担当者に指示/助言している

ISO規格認証を新規に取得する場合も、既に認証を取得してから数年経過する場合でも、内部監査の重要性は変わりません。リーダーは「内部監査」をどのように捉え、マネジメントシステムに現在どのように深く関与しているのか、導入原点に立脚し、現状の課題に向き合います。

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内部監査を効果的に行うためのポイント

内部監査では、内部監査員 だけでなく、被監査者側も効率良く監査目的が達成できるよう、保管文書や運用記録など準備(協力)しなければなりません。
被監査部門は通常業務で自社のマニュアルや各種社内規定・手順に基づいて業務を遂行します。しかし、PDCAサイクルの過程で適合性や有効性 が不十分として内部監査で指摘事項を受ける場合があります。

指摘事項には、大別すると不適合と観察事項があります。被監査部門は、内部監査で不適合の指摘を受けないようPDCAサイクルに取り組まなければなりません。
しかし、内部監査を改善の機会と捉えるならば、「改善の余地あり」という観察事項の指摘がなければマネジメントシステムの運用を見直す機会を失う可能性もあり、監査のマンネリ化・形骸化するのは必然的です。
内部監査で指摘事項をゼロにすることを目標にするのではなく、内部監査がマンネリ化・形骸化しないよう工夫することが重要です。

内部監査で期待する成果を出すためには、内部監査員は監査全体を把握し、要点整理や重要度・確認ポイントを明確にするなど、ISO業務の形骸化・マンネリ化の防止を図りましょう。費用対効果を高めることも必要です。詳しいやり方については、この記事で後ほど解説しています。

内部監査のポイント

内部監査を実施するためのポイントを、ISO9001を通してご紹介します。

ISO9001とは

ISO規格の中でも、特に取得企業数が多い規格にISO9001があります。ISO9001は、商品・サービスの品質の向上を目指す品質マネジメントシステムに関する規格です。

品質管理を実施していくISO9001の最終目標は、顧客満足の達成となっています。そのため、内部監査においても、顧客重視のマネジメントシステムになっているかを意識して取り組むことが重要です。

ISO9001の詳細は、以下の記事をご覧ください。

関連記事:ISO9001とはなにか?導入企業や他の規格との違いを徹底解説!

ISO9001における内部監査のポイント

ISO9001の品質マネジメントシステムは、7原則「顧客重視」 (*1)にあるように、顧客視点で製品・サービス品質を実現することが前提になっている規格です。そのため、内部監査においても、顧客重視を意識して取り組むことが必要です。

本来、全社的な組織の取り組みとしてマネジメントシステムに取り組むことが望ましいのですが、製品・サービスおよびプロセスなど適用範囲を特定して認証を取得するケースもあります。

しかし、その場合においても、顧客重視の品質保証が品質マネジメントシステムの基礎にありますので、マーケティングや製品問い合わせ~設計、製造、販売後の顧客フォローまで全工程、すなわち製品のライフサイクル を考慮して内部監査を実施する必要があります。

*1品質マネジメントシステム7原則の原則1「顧客重視」
【定義】
「品質マネジメントの主眼は,顧客の要求事項を満たすこと及び顧客の期待を超える努力をすることにある。」

組織は、自社が提供する製品・サービスを受け取る、または受け取る可能性のある個人や組織 (組織の内部又は外部のいずれでもあり得る) の要求に応えるべく、また期待される以上の製品・サービスを提供できるよう努力しなければなりません。また、顧客の要求/期待と言うと「QCD」(品質・価格・納期)を思い浮かべますが、QCDばかりではありません。顧客への迅速な対応であったり、わかりやすい・丁寧な説明(顧客フォロー)であったり、顧客満足の要素は多種多様です。製品・サービス品質と合わせて、顧客ニーズを的確に把握し提供することが重要です

監査対象となる業務内容は様々で、業務上で想定されるリスクも異なります。まずは、監査範囲 (広さ)全体のプロセスフローや、複数のプロセスが存在する場合は各プロセス間の関連性を理解します。前回の内部監査指摘事項や業務上のリスク、顧客要求事項、マニュアル・社内規定(手順)の要求事項等を参考に監査ポイントや監査範囲を絞りましょう。

ISO9001における内部監査(製造業)のチェック事例

内部監査の評価対象として、下記に製造業における活動領域(チェック項目)の事例を記載します。

◇組織の活動領域-例

  • 品質マニュアル、社内規程、管理手順書・実施手順書等の運用実績および適合性
  • 品質マネジメントシステムの有効性
  • 要員の教育計画(社内/外部認定資格の取得計画含む)および計画の達成度
  • 生産管理(受注~納品までの工程フロー)
  • 設備機械、工具/治具の定期点検、測定器の精度保証(校正)/トレーサビリティの運用
  • 材料調達および保管管理
  • 作業場所、作業およびプロセス管理
  • 製品・サービスの管理
  • 製品・サービスの検査記録および検査時の不適合管理
  • 社外/社内技術文書・品質記録など文書類の保管管理
  • 有機溶剤管理(識別、保管状態、持ち出し/残量管理等、安全データシートの現場設置)
  • その他、上記に該当しない活動

ISO9001における内部監査の手順やチェックするポイントについては、以下の記事をご覧ください。

関連記事:ISO9001における内部監査とは?内部監査の目的や手順を徹底解説
関連記事:ISO9001の内部監査でチェックするポイント
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内部監査のやり方


最後に、内部監査を行う方法について解説します。

1.監査計画を立てる

まずは、内部監査の計画を立てましょう。内部監査部門・監査部署は、監査日時や対象部門、監査員、監査目的・範囲といった概要を決めていきます。

内部監査では、客観性と公平性を保つために、自部門を監査できません。そのため、内部監査の日時は、被監査部門とも連絡を取り合い、調整したうえで実施します。

2.監査準備をする

内部監査の具体的な準備を決めていきます。
まず、被監査部門で実施されている業務や、構築・運用しているマネジメントシステムについて把握することが欠かせません。そのため、マニュアルや手順書、要領書、記録などを確認しましょう。

次に、監査するためのチェックリストを作成しましょう。内部監査の目的を達成できるようなチェックリストにすることが重要です。毎回、同じ質問を繰り返すだけのチェックリストでは、マンネリ化してしまい、実施する意味がなくなってしまいます。
そのため、マネジメントシステムを発展させられるようなチェックリストを作成してください。

チェックリストの作成ポイントの詳細は、以下の記事をご覧ください。

関連記事:【サンプルあり】内部監査チェックリストの作成!確認しておきたいポイントを解説

3.監査を実施する

準備した内容をもとに監査を実施します。
この際には、マネジメントシステムが要求事項にもとづいたものになっているのか、有効に機能しているのかを確認しましょう。質問の仕方は、「はい」か「いいえ」で答えられる質問は避けるようにし、5W1Hをもとに質問することがおすすめです。

また、内部監査は、マネジメントシステムをよりよい仕組みになるように改善するように心がけることが大切です。そのため、できていないことに目を向けて、揚げ足取りをするような監査をするのではなく、「どのような質問をすれば、構築・運用しているマネジメントシステムの改善につながるか」を意識して取り組みましょう。

4.監査報告の実施

監査を実施したら、経営層に監査結果の報告を行いましょう。被監査部門の不適合箇所や改善の機会における内容などを報告書にまとめます。できる限り、客観的証拠にもとづいて記載することが大切です。

報告前に、監査員の意図がしっかりと伝わるような報告書になっているかを確認しましょう。経営層が内部監査の報告書を読んだ際に、意図と異なる理解をし、改善につなげてしまう可能性があるためです。

5.監査後のフォロー

監査後のフォローとして、是正処置がどのように行われるのかという計画の策定から処置の効果の確認までを実施します。

フォローまで行うことで、マネジメントシステムが改善されることにつながります。そのため、内部監査を実施して完了ではなく、監査員が自身で感じた改善点を解決することが大切です。

まとめ

内部監査は、自社で構築・運用しているマネジメントシステムがISO規格の要求事項を満たし、有効な仕組みかどうかを確認するために非常に重要な工程です。
マネジメントシステムの目的を確認し、「改善の機会」ということを意識して実施すると、内部監査のマンネリ化を防ぐことにつながるでしょう。監査員だけでなく、被監査部門も保管文書や運用記録などの準備を行い、協力することでスムーズな監査の遂行が可能になるでしょう。

内部監査員と被監査部門がともに、自社のマネジメントシステムの改善を目指し、意味のある内部監査を実施してください。

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