• リスクは起こる可能性のある影響、機会は取り組むのに適した状況
  • 影響の大きいリスクや効果の大きい機会を優先して取り組む
  • 製品などの適合への潜在的影響に見合ったものを選び取り組む

ISO9001は品質マネジメントシステムに関する規格であり、商品・サービスの品質向上のために「リスク及び機会への取組み」は重要な取組みの一つです。

しかし、ISO9001取得に向けて活動している企業の中には「ISO9001におけるリスク及び機会って具体的に何を指しているの?」「どのような取組みが求められているかわからない」とお悩みのISO担当者の方もいるのではないでしょうか。

そこで、この記事ではISO 9001:2015要求事項箇条6.1「リスク及び機会への取組み」についてわかりやすく解説します。

ISO9001要求事項の「リスク及び機会」とは

まずISO9001:2015の要求事項に記載されている「リスク及び機会」に該当する部分を以下に抜粋しました。

6.1 リスク及び機会への取組み
6.1.1
品質マネジメントシステムの計画を策定するとき、組織は,4.1 に規定する課題及び 4.2に規定する要求事項を考慮し、次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない。

a)品質マネジメントシステムが、その意図した結果を達成できるという確信を与える。
b)望ましい影響を増大する。
c)望ましくない影響を防止又は低減する。
d)改善を達成する。

6.1.2
組織は、次の事項を計画しなければならない。

  • a)上記によって決定したリスク及び機会への取組み
  • b)次の事項を行う方法

1)その取組みの品質マネジメントシステムプロセスへの統合及び実施(4.4 参照)
2)その取組みの有効性の評価
リスク及び機会への取組みは、製品及びサービスの適合への潜在的な影響と見合ったものでなければならない。

注記1 リスクへの取組みの選択肢には,リスクを回避すること,ある機会を追求するために そのリスクを取ること,リスク源を除去すること,起こりやすさ若しくは結果を変え ること,リスクを共有すること,又は情報に基づいた意思決定によってリスクを保有 することが含まれ得る。
注記2 機会は,新たな慣行の採用,新製品の発売,新市場の開拓,新たな顧客への取組み, パートナーシップの構築,新たな技術の使用,及び組織のニーズ又は顧客のニーズに 取り組むためのその他の望ましくかつ実行可能な可能性につながり得る。

【出典】JIS Q9001:2015 (6 計画)

荻野祐行(ISOコンサルタント)

埼玉大学工学部卒業。卒業後は自動車業界の生産技術で生産準備、車両開発業務に携わる。その後、会社の仕組み及び安定した黒字化を目標に業務改善を経験。ISOとの関わりはTQCが盛んな頃からで会社の事務局を長年経験。現在は、その経験を生かしISOコンサルとして業務に携わっています。得意な業界は製造業ですが、建築業、IT業界他を広くサポート。

ISOの要求事項のポイントは以下の通りです。
  1. リスクに関して、ISO9001では”不確かな影響“と記載されている。また影響とは、”期待されていることから、好ましい方向に乖離すること”と定義されている。
    • 不適合製品の流出、不適合サービスの提供
    • ユーザークレームの発生
    • 外部から提供されるプロセス、製品/サービスにに関する不適合(不具合品の納入等)
    • 機会に関するISO9001での定義はない為“何かをする良い時期”という意味合いで考えると良いでしょう。
    • リスク及び機会を決定する手順までは規格では要求されておらず、手量的なリスクアセスメントや会議体での検討など、組織規模や性質により検討する。④リスク及び機会への取り組みに関しては、リスクマネジメントの為の特定の方法やプロセスを要求していない。
    • QMSが意図した結果達成できないリスク、QMSが望ましくはない影響の基となるリスク、継続的改善の機会を決定し、優先順位を考慮した取り組み計画を作成し有効性を評価することが重要。
    • 有効性の評価には、たとえが、マネジメントレビューがあげられる。

    6.1.1と6.1.2について具体的に以下にまとめました。

    6.1.1

    1. 4.1の「組織内外の課題」や4.2「利害関係者からのニーズや期待」を考慮したうえで「リスクと機会」を特定します。
    2. 特定した「リスクと機会」を、a)~d)のために取り組む必要性や優先度について分析します。
    3. 品質マネジメントシステムにおける活動内容を決定します。
    荻野祐行(ISOコンサルタント)

    埼玉大学工学部卒業。卒業後は自動車業界の生産技術で生産準備、車両開発業務に携わる。その後、会社の仕組み及び安定した黒字化を目標に業務改善を経験。ISOとの関わりはTQCが盛んな頃からで会社の事務局を長年経験。現在は、その経験を生かしISOコンサルとして業務に携わっています。得意な業界は製造業ですが、建築業、IT業界他を広くサポート。

    1については次のポイントを抑えて取り組みましょう。
    • 4.1、4.2を考慮する(規格要求では考慮のみ)
    • リスクは挙げだしたらきりがありません。今、目の前で起こっていることを取り上げると分かり易い。
    • Q,D,Cに分けるとより具体的になる。

    2については、経営層とも相談をすると良いでしょう。
    3を行うことで、6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定につながります。

    6.1.2

    6.1.1で決定した取組む「リスクと機会」において、以下の3つを計画します。

    1. 「リスクと機会」に取組む内容(何を行うか)
    2. 品質マネジメントシステムプロセスへの統合と実施方法(どのように取組むか)
    3. 取組みに関する有効性の評価方法(どのように活動を評価するか)

    簡単にまとめると、4章の組織の状況にて出た課題を解決するために、リスクと機会を洗い出し、重要度に応じて優先順位づけ・取捨選択をして、何にどう取り組むかを決め、実施後に何をもって良し悪しとするかの評価方法を決めましょうということです。

    仕事を進める中で、すでに普段皆様がやっていることかもしれません。ここからは一つひとつ紐解いて解説しますので、参考にしてみてください。

    荻野祐行(ISOコンサルタント)

    埼玉大学工学部卒業。卒業後は自動車業界の生産技術で生産準備、車両開発業務に携わる。その後、会社の仕組み及び安定した黒字化を目標に業務改善を経験。ISOとの関わりはTQCが盛んな頃からで会社の事務局を長年経験。現在は、その経験を生かしISOコンサルとして業務に携わっています。得意な業界は製造業ですが、建築業、IT業界他を広くサポート。

    次のポイントを抑えて取り組みましょう。
    1. 現在、あまり問題となっていないものは優先度を下げること
    2. 効果のあるものに絞る
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    「リスク」と「機会」とは

    そもそも、「リスク」と「機会」とは何を指しているのでしょうか。ここでは、「リスク」と「機会」について解説します。

    リスクとは

    リスクとは、「マネジメントシステムにおける将来起こる可能性のある影響」のことです。一般的には好ましくないことを指しますが、組織にとって悪影響となることだけでなく、計画や予測を大きく上回るような本来プラスな結果に対しても、組織にムリが生じる可能性があり、リスクとして扱います。

    機会とは

    機会(opportunity)とは、「取り組むのに適した状況や時期であること」です。例えば、技術革新や顧客ニーズの変化、規制緩和などが挙げられます。リスクとは異なり、ISOの用語で明確に定義されていません。

    ISO14001やISO22000、ISO27001などのISO規格における「リスクと機会」の例は以下の記事をご覧ください。

    関連記事:【具体例あり】ISOの「リスクと機会」とは?目的や概要を解説

    リスクと機会は表裏一体

    リスクと機会は、組織の立場や捉え方でどちらにもなり得ます。
    技術革新があった際に、対応できないことはリスクですが、その技術があれば新商品を開発できる場合は機会となります。また、規制があることで参入障壁が高い市場においては、その市場にいる組織にとって規制緩和はリスクであり、その市場にいない組織にとっては機会となるのです。

    リスクと機会を洗い出す際には、この視点を持っておくといいでしょう。

    「リスク及び機会」の分析方法

    「リスクと機会」を特定する際に役立つ分析方法の一例として、ISO規格では方法としては要求されていませんがSWOT分析について分かり易いので解説します。

    SWOT分析とは、自社の内部・外部環境のプラス面とマイナス面を洗い出すことで、自社の現状を分析する分析手法です。以下のような表を作成します。

    プラス面マイナス面
    内部環境S(Strength:強み)W(Weakness:弱み)
    外部環境O(Opportunity:機会)T(Threat:脅威)

    ISO9001の場合、例えば以下のように活用します。

    プラス面マイナス面
    内部環境
    • 特許技術で他社と差別化している
    • 取引先からの長期にわたる受注契約を継続できている
    • 自社ブランドを海外進出している
    • DX化が遅れている
    • 職人の人材不足
    外部環境
    • 顧客単価が向上している
    • 海外における自社ブランドのニーズが増している
    • 競合他社が増えてきている
    • 原材料の高騰

    SWOT分析は必須の取り組みではありませんが、自社のリスクと機会を把握する際に活用できるでしょう。

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    組織が行うISO9001「リスク及び機会への取組み」

    「リスク及び機会」を特定したら、組織はそのすべてに必ず対応する必要はありません。
    「リスク及び機会」において、その影響の大きさに応じて「取り組む必要がある」「取り組まない」ことを決定します。

    リスクへの取り組み

    ISO9001におけるリスクへの取組み例には、以下のようなケースが挙げられます。

    • 人的ミスによる不良品を防ぐために、設備導入による自動化を実施する
    • 不良品の発生率を下げるために、従業員の作業環境を整備する
    • 部品の価格が高騰しているが、取引を継続する
    • 製造ラインの速度を制限することで、ミスや不具合の発生確率を低減する

    リスクは回避するだけが対策ではありません。一般的にはリスクの性質や影響度などを踏まえて回避、軽減、移転(共有)、保有の4つの方法があります。自社の社内外の状況に応じて対策方法を考えましょう。詳しくは以下の記事をご覧ください。

    関連記事:4つのリスク対応

    機会への取り組み

    ISO9001における機会への取組み例も以下にまとめました。

    • 新製品の開発・発売
    • 新規顧客を開拓するためのマーケティング施策の実施
    • 新たな技術を利用する
    • 業務提携を実施する

    リスクと機会は表裏一体であるため、1つの事象において両方の側面を考慮したうえで取組みを決定することが必要です。

    ISO9001「リスク及び機会への取組み」の具体例

    ここでは、ISO9001における「リスク及び機会」の具体例を紹介します。「リスク及び機会への取組み」を検討する際に参考にしてください。

    課題:他社との競合で販売シェアが落ちている

    リスク価格競争が激化する
    機会製品・サービスの差別化を強化する→シェア巻き返し・新ビジネスのチャンスにつながる

    課題:従業員の平均年齢が上がり、高齢化している

    リスク熟練者の退職により、技術力の低下やノウハウの消失が発生する
    機会技術・ノウハウをデータベース化する→組織の資産として蓄積できる

    課題:設備が老朽化している

    リスク設備故障による生産停止・製造プロセスへの影響(納期遅延)、不良品の増加が発生する
    機会設備投資を行う→新規受注につながる可能性がある

    課題:顧客からのコストダウンの要求があった

    リスク売上の減少、標準化工数の見直しや作業手順見直しによる管理業務の負荷が増大する
    機会顧客要求を受け入れる→同顧客より他の製造案件につながる可能性がある
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    【サンプル】「リスク及び機会」一覧表

    最後に、「リスク及び機会」一覧表のサンプルを作成しました。作成時の参考にしてください。

    NO区分具体的事例リスク及び機会評価基準取組みQMSへの統合実施部門
    1内部課題ベテラン職人の不足品質低下C新技術の導入新マニュアルの作成製造部
    2内部課題設備の老朽化納期遅延・不良品の増加B新しい設備の導入作業手順書の改訂製造部
    3外部課題原材料の不足・高騰納期遅延・顧客からの信頼喪失A新たな取引先の選定マニュアルの改訂購買調達部

    まとめ

    この記事では、ISO9001における「リスク及び機会への取組み」について詳しく解説しました。

    事前に「リスク及び機会」に対応することで、悪影響を最小限に留め、機会による良い結果につなげる可能性を高めることが可能です。まずはSWOT分析を活用し、自社の「リスク及び機会」を特定するところから始めてみてはいかがでしょうか。

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