ISO14001の環境目標・環境方針とは?現役コンサルが実践方法を解説
ISO 14001を取得するにあたって、企業は環境 方針と環境目標というものを決定する必要があります。——今回は、この環境方針 ・環境目標について解説していきたいと思います。
目次
環境方針とは
環境方針とは、EMS(環境マネジメントシステム )の 規格 であるISO14001の中で環境目標を決定するための枠組みとなるEMS全体の方針のことを指します。
つまり、EMS全体の核となる環境に関する企業活動の方向性を示すものが環境方針ということになります。
組織の方向性と一致しており、地球の環境保全、法令順守、継続的改善といった内容が含まれており、環境保護、環境目標設定の枠組みを示していることが要求されています。
環境目標とは
環境目標とは、環境方針によって定められた方向に組織を動かすために必要な目標のことを指します。この環境目標は可能な限り定量的なものであったほうが望ましいとされていますが、必ずしも定量的な目標でなくても問題はありません。
——ただし、環境方針から逸脱するような環境目標は掲げないほうが良いでしょう。
環境方針と環境目標の関係とは
——さて、では環境方針と環境目標はどのような関係があるのでしょうか?先程の解説では、
- 環境方針・・・環境目標を決定するための枠組み
- 環境目標・・・定量的な目標
と解説しましたが、これはどういうことなのでしょうか?
少しイメージしやすくするために、私達の生活に置き換えて考えてみましょう。
私達は普段から電力を消費し、少なからず生活する中で環境に影響を与えています。これらの環境へ少しでも配慮しようとしたときにはどのようなことができるでしょうか。
- 消費電力を少なくする
- できる限り環境に配慮した製品や食品を購入する
- 割り箸は使用しないようにする
様々なことが思いつきます。——しかし、行き当たりばったり、思いついた限りの行動をしていくことはそれほど効率的ではありません。——家族の人数が多いならなおのことです。「一人ひとりが環境への配慮を心がけよう!」と言っても、そのルールを家族全員が守るでしょうか?
それよりも、「うちの家庭では、なるべく電力消費を抑えよう」という方向性を決め、「エアコンが稼働する時間を20%短縮しよう」「家の中の電球をLEDタイプに変更して消費電力を削減しよう」という具体的な取り組みを決めたほうが、家族全員の行動にまで落とし込みやすくなります。
この方向性と具体的な取り組みの関係こそが、環境方針と環境目標の関係なのです。
企業組織のように、多くの人が集まってできた組織の構成員を「一人ひとりの心がけ」などという精神論的なもので動かすのには限界があります。なぜなら、環境に影響しそうなものごとというのは、様々なものがあり、これを一人ひとりの判断に委ねていては、組織として進む方向性がバラバラになってしまうためです。
——そこで、組織全員が心がける「環境方針」というものを宣言し、その環境方針を達成するための具体的な環境目標をトップマネジメント(=組織のリーダー)が設定してあげる必要があるのです。
環境方針・環境目標は具体的にはどのようなものか?
さて、最後に環境方針と環境目標がどのようなものなのかということについて、例を挙げながらご紹介していきましょう。
環境方針の例
事業活動における、省資源・省エネルギーの推進、廃棄物の削減、臭気・騒音の低減等、健全な環境の維持向上を図ると共に、環境に配慮した製品の提供を推進し、汚染の予防に努めます。
事業活動のあらゆる面で、汚染の予防を図るため、以下の項目については重点的に推進する。
(1)環境に配慮した商品及びサービスの普及に努める。
(2)電力・コピー紙などの使用効率を改善し、省資源、省エネルギーの促進に努める。
(3)廃棄物の分別管理を徹底し、資源のリサイクル化の促進に努める。
(4)廃棄物の排出量抑制に努める。
(5)関連する法規制及びその他要求事項を順守する。
環境目標の例
- 電力消費量の前年比10%の削減
- 環境教育セミナーを年3回開催し、従業員の環境問題への理解を深める
- 社用車の買い替え予定がある場合は、EV車など環境に配慮した自動車にする
環境方針の策定にあたってNGな例
環境方針を策定するにあたり、気を付けないといけないポイントは、「自社の業種や製品・サービス」に合った方針であるかという点です。
例えば、「地球環境にやさしい製品やサービスを提供する」という方針では曖昧すぎるため、具体的に組織がどのようながどのような方向性で活動していくのかを判断できません。ISO14001における環境方針はあくまで、組織の目的や活動、製品やサービスに則した方針であることが必要です。
また、環境方針は環境目標を設定するうえでの指針となるべきものです。そのため、自社の状況とかけ離れている方針では、意味のないものになってしまいます。環境方針をもとに環境目標を設定するため、方針と目標の整合性が損なわれるということがないよう、組織として目指すべき方向をきちんと示した方針になっているかどうかを確認しましょう。
その他の要素としては関連する法規制を遵守すること、環境マネジメントシステムの継続的な改善をしていくことを方針に含めることも重要です。組織の目標、規模、活動、製品・サービス、状況に対して適切であるかどうかを確認することで、組織にとって有効な環境方針の策定につながります。
【現役コンサルが解説】環境方針・環境目標の実践方法
本記事監修の石井です。ここでは私の過去の経験などを踏まえて環境方針と環境目標についてより具体的に解説していきます。
環境方針の定義については先述のとおりです。では、これからISO14001の認証取得をしようとしている企業様において、どのように環境目標を策定すれば良いのでしょうか?
規格の要求事項では「省エネに対する考え方・法令順守・継続的改善などの内容を企業活動の状況に対して適切な方針を策定する」となっていますが、これを見て「よし早速、環境方針作ってみよう!」と思える方は少ないのではないでしょうか?
これらの要素を含めて環境方針を文書化する作業はいわゆる初心者の方にはハードルが高いです。もちろん規格の内容を一生懸命勉強して方針を策定するのも選択肢としてはありですが、コンサルタントなどに相談しながら進めた方が費用対効果(策定にかかる時間と成果物の完成度)は高いと思われます。
また、策定された方針は社内だけでなく、社外の利害関係者(顧客、取引先、近隣住民など)が閲覧できる状態にするという要求事項があるため、ホームページに掲載されている企業様がほとんどです。つまり、「社外の様々な人々に向けたメッセージ」であることも考慮に入れて方針を策定すると良いです。
環境方針に関する課題や問題点は策定段階よりも、その運用段階にあります。
- 環境方針が組織全体にうまく浸透出来ておらず、日々の企業活動に活かされていない
- 事務局(担当者)任せになっていて、経営層の理解が乏しい
- 外部環境が変化しているにも関わらず、方針の見直しが実施されていない
経営層の方々の積極的な関与や従業員への効果的なコミュニケーション・教育などで、環境方針を組織の戦略と結び付けて、全社的な活動の羅針盤のような位置づけにしていきましょう。
環境目標は環境方針を実現するための具体的な施策と考えると理解しやすいかと思います。
ただし、ISO14001の環境目標の設定にはいくつかのステップを踏まなければならないことが規格の要求事項です。
- 環境方針との整合性
- 環境影響の評価(=事業活動が環境に与える影響の分析)
- 法規制及びその他の要求事項(=地域の条例や顧客からの要望など)
環境目標を設定したら次は実行計画を策定します。下記内容を取り入れます。
- 実施事項(なるべく具体的に)
- 必要な資源(いわゆる人・モノ・金)
- 責任者
- 達成期限
- 結果の評価方法(数値化された目標に対する達成基準など)
また、部署ごとに役割が違うと思いますので、全社目標を達成するために各部署の役割に応じた部署目標の設定も必要です(全社的な活動にするため)。
環境目標における課題・問題点は下記のようなものが挙げられます。
- 過度に高い目標を設定してしまい、従業員のモチベーションが低下
- 目標達成のためのリソース(人材、設備、予算など)不足
- 事務局(担当者)のみが活動していて、全社的な活動になっていない
- 外部環境が変化しても目標が変更されない
マネジメントシステムにおける目標設定とその達成に向けた活動とレビューは最も重要な要素の一つです。
昨今は世界的な気候変動やSDGsの考え方の普及によって、地球の環境保全や社会への配慮が企業に対して以前よりも求められるようになりました。ISO14001はこれらの要求を満たす規格になっていますので、導入検討の際に参考していただければ幸いです。
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