【具体例】ISO14001環境方針・環境目標とは?現役コンサルが解説

ISO14001における環境方針と環境目標とは、それぞれ「組織の環境に関する方向性(方針)」と「その方針を実現するための具体的な目標」のことです。
ISO14001を取得するには、要求事項に則って環境マネジメントシステムを構築する必要があります。その際、策定する環境方針・環境目標は、環境マネジメントシステムの構築・運用の方向性を指し示すため、重要な要素です。
しかし、環境方針・環境目標を策定する手順がわからない、策定時に注意すべきポイントを教えてほしいなど、お困りの企業も多いでしょう。
そこで、この記事ではISO14001における環境方針・環境目標の概要や策定の手順、ポイントについて解説します。また、環境方針・環境目標の具体例も紹介しますので、参考にしてみてください。
目次
環境方針とは?

環境方針とは、EMS(環境マネジメントシステム)の規格であるISO14001の中で、環境目標を決定するための枠組みとなるEMS全体の方針のことを指します。
EMSとは、事業活動が環境に与える影響を管理し、環境リスクを低減する仕組みのことです。環境方針は、EMSの核となる「環境に関する企業活動の方向性を示す指針」であり、企業がどのように環境リスクを低減するのか、という理念やビジョンについて示します。
ISO14001の要求事項「5.2 環境方針」では、環境方針が以下のポイントを満たすことが求められています。
- 組織の目的や方向性と一致していること
- 環境方針は、企業の経営理念や事業活動と矛盾しないよう整合性を保つ必要があります。
- 環境保護の観点を含むこと
- 資源の節約や廃棄物削減、汚染防止など、具体的な環境改善の方向性を明示することが求められます。
- 法令や規制を遵守する姿勢を示すこと
- 環境関連の法律や規制を順守する意思を明確に示すことで、組織としての信頼性を高めます。
- EMSの継続的改善や環境目標の達成に向けた枠組みとなること
- 環境方針は、環境目標や具体的な活動計画の出発点となり、PDCAサイクルを回す基盤として機能します。
環境方針は、全社が同じ方向を向いて環境への取り組みを実施するために欠かせません。また従業員や利害関係者に、組織の環境への姿勢を示す重要な意思表示にもなります。
環境方針の設定ポイント
環境方針を効果的に策定するには、組織の活動に実際に反映できる方針であることが重要です。設定時には、以下のポイントを押さえておきましょう。
利害関係者に伝わる表現にする
従業員、取引先、地域社会などの利害関係者が理解できる言葉で記載することが重要です。方針を読んだ誰もが方針の意図を理解できるように、わかりやすい表現を心がけましょう。
環境目標との連動を意識する
環境方針は単独で存在するものではなく、のちに設定する環境目標の枠組みとなります。策定時には、達成可能かつ測定可能な環境目標と結びつく内容にしましょう。
組織内部で浸透できる内容にする
方針を作成しただけでは、期待したような効果は得られません。環境方針は理念や方向性を示す文書ですが、方針に、環境保護や持続可能性の観点で組織として取り組むべき行動指針を盛り込むことで、組織内部で理解・浸透できる内容に近づきます。
環境目標とは?
環境目標とは、環境方針で示した方向に沿って、組織が具体的に目指すべき成果や状態のことです。つまり、環境方針が「進むべき方向」を示すのに対し、環境目標は「そこに向かうための具体的な到達点」といえます。
ISO14001の要求事項「6.2.1 環境目標」では、環境目標が以下のポイントを満たすことが求められています。
- 環境方針と整合していること
- 環境方針で示された組織の方向性に沿った目標にする必要があります。
- (実行可能な場合)測定可能であること
- 目標は、可能な限り、定量的な数値や指標で進捗を測定できるようにすることが望ましいです。
- 進捗を監視すること
- 目標の達成状況を確認し、必要に応じて改善できる仕組みを持つことが大切です。
- 組織内外に適切に伝達されること
- 関係者が目標を理解し、組織全体で共有できることが重要です。
- 必要に応じて見直し・更新されること
- 社会環境や事業活動の変化に応じて、柔軟に目標を調整することが求められます。
環境目標は、組織の改善活動や意思決定の指針として活用されるため、継続的改善の基盤となる重要な要素です。
環境目標の設定ポイント

環境目標を策定する際には、ISO14001の要求事項を満たすだけでなく、組織の実態や環境課題を踏まえた「運用しやすい、達成可能な目標」にすることがポイントです。環境目標の設定時には、以下のポイントを押さえておきましょう。
達成可能なレベルを意識する
目標が高すぎたり低すぎたりすると、従業員の意欲や改善効果に影響します。現状の実績やリソースを踏まえ、実行可能な目標にすることがポイントです。
組織内で共感を得られる内容にする
関係部署や従業員が目標の意義を理解し、日常業務で取り組みやすい内容にすると、実効性が高まります。
環境側面の重要度を踏まえて優先順位をつける
環境側面とは、組織の事業活動や製品・サービスが環境に与える影響の要因のことです。例えば、工場での生産活動によるエネルギー消費、生産活動に伴う廃棄ガスの排出などが挙げられます。
こうした環境側面がある中で、特に環境影響が大きいものや改善効果が高い領域を優先して目標化することで、現実的で効果的な取り組みが可能になります。
環境方針と環境目標の関係性とは?

環境方針と環境目標は、「方向性を示したもの」と「具体的行動を示したもの」という関係で成り立っています。簡単にまとめると、「環境方針=企業の理想、向かうべき方向性を定めるもの、環境目標=環境方針に近づくための具体的な取り組み」といった関係性です。
この関係性は、日常生活に置き換えるとイメージしやすくなります。
例えば、「家庭として電力消費を減らしたい」という方向性(=環境方針)を決めたとします。これに対し、以下のような具体的な行動が、環境目標に相当します。
- エアコンが稼働する時間を20%短縮する
- 家の中の電球をLEDタイプに変更して消費電力を削減する
企業においても同様です。しかし、多くの人が働く組織では、個々の感覚や判断に任せていては取り組みが曖昧になりやすいのです。
そこで、組織全員が心がけるべき理念として「環境方針」を宣言し、その環境方針を達成するための具体的な環境目標を、トップマネジメント(=組織のリーダー)が設定する必要があります。
【業種別】環境方針・環境目標の具体例
最後に、業種別の環境方針と環境目標の具体例を紹介します。自社の環境方針・環境目標を策定する際の参考にしてください。
環境方針の具体例
以下に、業種別の環境方針の具体例をまとめました。
| 製造業の例 | 当社は、省エネルギーの推進、廃棄物削減、化学物質の適切な管理を通じて、製造活動に伴う環境負荷の低減に取り組みます。資源の有効活用と環境配慮型製品の開発を進め、持続可能な社会の実現に貢献します。 |
|---|---|
| 建設業の例 | 当社は、建設現場で発生する騒音・振動・粉じんなどの環境影響を最小限に抑え、資材の再利用・再資源化を推進します。環境に配慮した施工管理を徹底し、地域住民・地域環境と調和する事業活動を行います。 |
| 運輸・物流業の例 | 当社は、燃料使用量の削減と車両の適正管理により、温室効果ガス排出量の低減を図ります。安全運転とエコドライブを全従業員で徹底し、環境負荷の少ない物流サービスの提供を目指します。 |
| その他の例① | 当社は、事業活動における、省資源・省エネルギーの推進、廃棄物の削減、臭気・騒音の低減等、健全な環境の維持向上を図ると共に、環境に配慮した製品の提供を推進し、汚染の予防に努めます。 |
| その他の例② | 事業活動のあらゆる面で、汚染の予防を図るため、以下の項目については重点的に推進します。
|
環境目標の具体例
以下に、業種別の環境目標の具体例をまとめました。
| 製造業の例 |
|
|---|---|
| 建設業の例 |
|
| 運輸・物流業の例 |
|
| その他の例 |
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【現役コンサルが解説】環境方針・環境目標の実践方法

本記事監修の石井です。ここでは私の過去の経験などを踏まえて、環境方針と環境目標を実践する方法を具体的に解説します。
環境方針

策定した環境方針は、「文章化した情報として維持する」「組織内に伝達する」「利害関係者が入手可能である」という3つの状態を満たすように管理する必要があります。
このうち、利害関係者とは、顧客や取引先、近隣住民などを指すことから、ホームページに掲載することが一般的です。
環境方針に関する問題点は策定段階よりも、その運用段階にあります。
- 環境方針が組織全体にうまく浸透出来ておらず、日々の企業活動に活かされていない
- 事務局(担当者)任せになっていて、経営層の理解が乏しい
- 外部環境が変化しているにもかかわらず、方針の見直しが実施されていない
こうした問題点がある場合、経営層の方々の積極的な関与や従業員への効果的なコミュニケーション・教育などを実施することが大切です。環境方針を組織の戦略と結びつけて、全社的な活動の羅針盤のような位置づけを目指しましょう。
環境目標

環境目標を設定したら、運用の際に必要になる実行計画を策定します。実行計画には、以下の内容を取り入れてください。
- 実施事項(なるべく具体的に)
- 必要な資源(いわゆる人・モノ・金)
- 責任者
- 達成期限
- 結果の評価方法(数値化された目標に対する達成基準など)
また部署ごとに役割が異なる場合、全社目標を達成するために各部署の役割に応じた部署目標の設定も必要です。
環境目標における問題点には、以下のようなものが挙げられます。
- 過度に高い目標を設定してしまい、従業員のモチベーションが低下する
- 目標達成のためのリソース(人材、設備、予算など)不足する
- 事務局(担当者)のみが活動していて、全社的な活動になっていない
- 外部環境が変化しても目標が変更されない
こうした問題点がある場合には、環境目標が職場の実情に適していない、環境目標を立てた経営層と現場の認識にギャップがあるなどの可能性があります。環境方針との整合性は保ちつつも、現場の実情を正確に分析したうえで環境目標を設定しましょう。
まとめ
この記事では、ISO14001における環境目標・環境方針の概要や策定方法、策定する際のポイントについて解説しました。
環境方針・環境目標は、自社がどのような環境マネジメントシステムを構築・運用するかという方向性を定めるものです。そのため、自社の経営戦略と整合性を合わせ、トップマネジメントが従業員とコミュニケーションを図りながら策定することが大切です。
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