ナレッジマネジメントのシステム

マネジメントシステムの考え方はどこから来たのでしょうか。1990年頃までは、いくつかのマネジメントシステムのモデルがありました。

ISOの技術委員会がどのような経緯でマネジメントシステムを採用したかを私は知りませんが、私がナレッジマネジメント(Knowledge Management)手法の一つとして研究し活用してきた、1960年代のワークデザインから発展したカリフォルニア大学のJ.ナドラー名誉教授による「ブレイクスルー思考法」は、天才と言われる経営者、研究者、開発者の思考方法をシステムにしたものです。

その基本モデルはPTR(Purpose-Target-Result)といって「P=目的及びT=目標を定め、そのR=結果を出す」というものです。ブレイクスルー思考法ではこれをマネジメントシステムとは呼びませんが、「方針及び目標、並びにその目標を達成するためのプロセス」というマネジメントシステムの定義と同じです。

つまり天才的な経営者の手腕をシステム化すると、目的→目標→結果=方針→目標→達成のマネジメントシステムになるというわけです。これは現場のQC(Quality Control)ではなく経営者のナレッジマネジメント=知的経営です。

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上昇スパイラルの管理システム

いまやマネジメントシステムというとISOの独壇場です。ところが驚いたことにそのISOの、マネジメントシステムの認証審査を行なう日本の審査機関に、ナレッジマネジメントのシステムを対象にするという意識がありませんでした。

審査員にこうした方面の知識や力量を求めていないし、ナレッジマネジメントに関する研修も行われていません。どの審査機関も、またJABなどの認定機関も、マネジメントシステムはナレッジマネジメントも含む上昇スパイラルの管理と発展のシステムと認識していなかったではないでしょうか。9001規格の2015年改定では、組織の知識についての要求事項が盛り込まれて、ようやくナレッジマネジメントにも目が向けられるようになりました。しかしマネジメントシステムがナレッジマネジメントであるという認識は、まだあまり広がっていません。

それでも組織の目標達成プロセスとその結果の程度を見る有効性の評価、つまり組織のマネジメントシステムが目標達成のために効果的に運用されているかを評価すること が、今まで以上に大きな課題ということになってきています。

情報共有の知的活動

マネジメントシステムは、ブレイクスルー思考法のようなナレッジマネジメントの考え方がシステム論として時代的な背景にあって成立したものであったと思います。

目標=ターゲットとは近い将来に到達すべき未解決の課題の解決です。マネジメントシステムとは、組織の目的に対して適切な方針及び目標、その目標を達成するための一連のプロセスで、有効性とは「計画した活動を実行し、計画した結果を達成した程度」です。その改善とは「方針及び目標、並びにその目標を達成するための、計画した活動を実行し、計画した結果を達成した程度を、継続的に改善する」という方針のブレイクダウンによる情報共有を媒介にした知的活動なのです。

企業経営にはさまざまな課題があります。ISOマネジメントシステムの国際規格は、それらに対してどのような仕組みを作り、情報共有をして知的活動をすれば、企業は存続と発展が図れるかを示しています。

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経営システムのノウハウを網羅

一般的な経営課題に対して、ISO9001規格マネジメントシステムはどのように対応しているのかを整理してみました。

経営課題 ISO9001のマネジメントシステム
経営の主導 5.1コミットメントと9.3マネジメントレビューによるリーダーシップ
経営・組織戦略、経営の目的と組織化 4.1状況の理解4.2利害関係者のニーズ・期待の理解4.3/4.4マネジメントシステムの計画5.2/6.2方針・目標の設定5.3責任・権限の割
当経営の仕組みの原則 4.4.2基本マニュアルなどによる経営システムの明文化
経営主要課題の決定 9.3マネジメントレビューによる組織横断的な総括と指示
報告・連絡・相談、意思疎通の仕組み 7.4内外コミュニケーションの維持
社内原則と業務記録 7.5文書化された情報(文書)の管理
経営資源の投入と管理 7.1施設・設備・作業・プロセス環境の整備
人を育て生かす 7.2必要とする人材の確保と力量の育成・保証7.3認識の共有
営業展開、受注活動 8.2顧客要望・注文の把握と良好な関係構築・維持
顧客管理、基盤充実と拡大 5.1.2顧客ニーズ・シーズの把握9.1.2製品・サービス評価情報の収集
新規展開、研究・開発、新規契約 6.1リスク・機会への取り組み6.2目標計画7.1.6新知識の習得8.3設計・開発
仕入・購買、外注 8.4仕入先及び、発注、仕入製品、外注先の管理
製造・サービス・販売、主要業務の管理 8.5製品の製造、サービスの提供、販売・管理
製品履歴、納品から原料へ遡及 8.5.2識別とトレーサビリティによる履歴の確保
顧客からの支給品、預り物、管理下の外部供給者の所有物の保護・管理 8.5.3顧客・外部供給者の所有物の管理
在庫・出荷管理 8.6納品・提供までの製品・サービスの保存・管理、出荷の承認と記録
設備・機器・計測機器の管理 7.1(3~5)設備等の維持と計測機器の定期校正による製造条件等の維持管理
品質保証、不良品の流出防止 8.6製品化プロセスと製品のチェック・検査8.7不良品及びクレーム対応と管理
内部統制、問題発見 9.2内部監査により組織内部での組織全体のガバナンス維持
業務改善 9.1.3内部監査・監視測定を通じて10.3日常業務・経営レベルの改善
修正・是正、問題への対処・再発防止 10.2不良、クレーム、悪影響を及ぼす事象を修正し、かつ原因を除去、データに基づく10.3改善活動

このようにマネジメントシステム規格は、経営システムのノウハウなのです。

組織運営のノウハウ=方法論

組織の経営と運営が、意図した成果に対してどういう結果に達しているかを評価するのがISO9001規格における9パフォーマンス評価です。しかし個々の規格条項での、その要求事項の内容から画一的な鋳型にはめ込めてしまう例がまだ少なくありません。

マネジメントシステムとは、トップマネジメントの定める組織の目的や経営方針の実現のための、細部末端に至るマネジメント。つまり、調整された管理活動のシステム ということです。ですから会計・経理を除くほぼ全ての経営課題を、組織運営の方法論として網羅しているのです。

方法論であるので、その方法論を効果的に使っているかという視点が必要になります。しかしながら方法論は画一化した形で、組織の活動を縛ってはいけないのです。

次講座では94年版から2000年版への改定の意図を振り返ります。

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