マネジメントシステムでの方針策定プロセスの課題

マネジメントシステム は、方針及び目標を定めてこれを達成するシステムである、という定義から考えますと、方針策定プロセスも知識創造プロセスとしてとらえるべきです。そこでトップマネジメント及び経営層、推進メンバーは、暗黙の了解組織において今までに知識として何を共有し何を蓄積して来たのかを、再認識することから始めなければなりません。社是や社訓といった心構えの経営理念ではなく、自らの組織に蓄積されてきた自己知識を再認識し、置かれている「環境を認識し、情報を獲得・処理し、意思決定する『知的基盤』としての知識」として、経営プログラム(事業シナリオ)を再構築しなければならない のです。経営プログラムの中でマネジメントシステムを位置づけ、マネジメントシステムのなかで 品質 管理システムを定めるという手順になるはずです。

しかし残念ながらこのプロセスはおろそかにされたまま、構築され運用されている組織が非常に多いと感じます。だからありきたりの方針に溢れているのだと思います。2000年版で経営者の責任として強化されたにも関わらず、求められた方針の設定は高みから見る、形ばかりのありきたりなのです。枠組みがそうであるから、目標もありきたりにならざるを得ないのです。

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現場で知識創造プロセスの入口に立つ『気づき』

ありきたりの方針と目標を掲げ、現場というプロセスアナリシスに偏ってしまった組織を、どのような方法で変革したら、マネジメントシステムの有効性改善に、そしてパフォーマンス改善に向かわせることができるのでしょうか。 鍵は知識創造プロセスの入口まで誘導することではないかと思うのです。この入口に立つことを『気づき』といいます。そしてこの知識創造プロセスを実行することは、創造性の開発にほかなりません。

では『気づき』とはなんなのでしょうか。このことを少し論じておきたいと思います。気づきを言い換えると直観が働くということです。閃きと言ってもいいのですが単なる思い付きではありません。背景には蓄積され体化された知識の層がいくつもあり、それらの層が何かの影響で地殻変動を起こして、それらの層の中に今まで見えていなかった知識の連帯があることを現場で発見することであるのです。

例えば、新しい料理のレシピ開発、今まで思いもよらなかったある食材とある食材の組み合わせに、何かを契機にふと気づくことがあり、そこから始まることが多いのです。それは両方の食材の持ち味をよく知っていて、そこに調味料や香辛料についての知識、さらに調理法の知識が加わったときに起こります。レシピの開発はここからプランを作り、試作を作り、試食をし、修正し、完成させるという手順になりますが、これは現場での知識創造プロセスです。

『気づき』が暗黙知を明示知へ変換をもたらす

私は時々レシピの開発をします。開発したレシピの中には、三月初旬だったのですがカキとフキノトウの柚こしょう風味というものがありました。冷凍庫に大粒の冷凍生牡蠣があり、友人からフキノトウをもらってあったので、この二つを組み合わせてみることにしたのです。味は最初カキソースでと思いましたが、ふと柚こしょうを思い立ちます。でも作り方は洋風としました。フキノトウはよく洗って立てに二つに切り、カキは塩を振ってから水洗いし軽く塩コショウをしてから小麦粉をふります。湯に顆粒のチキンスープの素と柚こしょうを溶かしておきます。フライパンにオリーブオイルを入れ、熱してからフキノトウを炒め、カキを炒め、スープを注いで蓋をして少し蒸し煮にします。器に盛ってパルメザンチーズをトッピングします。初めて作った味は少し塩がきつく、柚こしょうも強かったので、次回のときは少し薄くしました。

入口に立つ『気づき』、その契機は、対話や議論の中が多いようです。カキとフキノトウの柚こしょう風味のレシピも、妻とどうしようかと対話するなかで発想しました。対話では互いの内部に体化している知識を出し合い、ぶつけ合うことになります。そうすることで互いに自分の中に体化していた知識を整理しながら顕在化させることができ、それが契機になることがあるのです。柚こしょう風味は、以前ベーコンとクレソンのスパゲッティで作ったことがありました。カキとフキノトウの持ち味に合うのではと対話のなかで閃いたのです。『気づき』による体化していた知識の顕在化、それは知力経営で言う、暗黙知が明示知へ変換することです。対話のなかで言語化された知識や思いは、明示知となり、変換のプロセス、つまり創造プロセスへの手がかりになり、マネジメントシステムの創造性コードを動かすことになるのではないでしょうか。

手がかりは『気づき』です。文芸評論家と作家の関係にも、同じような側面があるようです。評論家は作家の作品を評論しますが、作家はその評論から何か契機をつかんで新しい作品を創作する、そんな『気づき』を評論家は与えることがあるようです。

同じような関係で監査員は組織のシステムを評価したいものです。このとき新たな知識創造プロセスの入口に立てるような監査所見 と論評をしようと心掛けることです。しかしそれには『気づき』を与えるための対話の方法論が必要です。マネジメントシステムの創造性コードを動かそうという、監査員の意識と技術も必要です。

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