ファイナンシャル・リスクマネジメント 第10講座 ~事業ライフサイクルとキャッシュフロー~
キャッシュフロー形成サイクル
キャッシュフローは企業の体内を循環する血液のようなものです。キャッシュフローの流れには、運転資金サイクルと、投資サイクル、及び、負債などの増減と、税金・金利・配当などの流出があります。
創業のときを考えてみましょう。資本金としてのキャッシュがあり、ここから投資して固定資産の工場や製造設備などを造り、原材料をキャッシュで購入し、従業員を確保して、製品を生産します。生産された製品は一時在庫品として倉庫に保管され、棚卸資産となり、キャッシュは一時的に凍結されます。これが販売されると売掛金となり、回収されて再びキャッシュとなります。借り入れをすればキャッシュは増え、返済をすれば減ります。税金・金利・配当は流出になります。企業の財務活動はこのようにキャッシュフロー形成サイクルとして表現されています。
運転資金サイクルと投資サイクル
キャッシュフローを整理すると、キャッシュ⇒生産⇒棚卸資産の在庫⇒売掛金⇒回収⇒キャッシュ、のサイクルが運転資金サイクルです。
投資サイクルは、キャッシュ⇒投資⇒固定資産⇒減価償却⇒棚卸資産、となります。このサイクルで注目すべきは減価償却の機能です。棚卸資産に還流しますが、その意味は生産過程を通して固定資産の価値の一部が生産された製品に乗り移り、これを会計的に計算する作業が減価償却であるということです。固定資産がどんどん価値を減らして行くと、製品の販売・売掛金の回収を通して固定資産に投資したキャッシュが戻ってくるというわけです。そこで再投資をして事業の継続を図っていくことになります。このように、キャッシュは運転資本サイクルと投資サイクルにまたがって循環することによって増殖します。
キャッシュを増減させるのは、運転資本サイクルからの売掛金回収による流入と、材料購入及び固定資産への投資など投資サイクルでの流出です。このほか、増資、税金・金利・配当などの流出があります。キャッシュフローは利益とは違います。血液のように常に循環していないと、利益は出ても資金はショートし、倒産ということになります。
事業ライフサイクルとキャッシュフロー曲線
一般的に事業ライフサイクルは、導入期・成長期・成熟期・衰退期の4つの段階をたどるとされています。それぞれの段階で定石とも言うべき戦略がありますが、通常新製品はS字カーブを描き、それに応じて利益曲線とキャッシュフロー曲線も違ったカーブを描くので、それを把握した上で経営計画の立案を行って行く必要があります。
- 導入期
- 製品購入のメリットを消費者に認識させ、一定の市場を早めに占めることが重要課題です。競合製品も現れるので、競争優位を確立する必要があります。売上高は低く、利益はマイナス、キャッシュフローもマイナスです。
- 成長期
- 新製品が市場に浸透し、消費者が製品購入のメリットを理解してくれます。イメージの差別化やブランドの優位性を訴え、また、一般的に価格が低下してくるので、コストダウンが重要課題になります。売上高は急成長し、投資の関係から利益はピークとなり、キャッシュフローはプラスに転じます。
- 成熟期
- シェアは安定し、限られたパイの取り合いになります。競合他社の新製品にも注意すべきで、売上高は低成長になり、利益は低下、キャッシュフローは設備投資の関係から最高のプラスを維持します。
- 衰退期
- 新規投資の必要がないのでリーダー企業はキャッシュを生み出すことができます。下位企業は撤退かまったく新しい形の新製品開発かの選択を迫られます。売上と利益は低下、キャッシュフローは最高のプラスを維持します。
以上のような傾向を把握して、利益計画を立案する必要があります。
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントとキャッシュフロー
企業は主に次の理由から、多角化すなわち事業ポートフォリオを持ち、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントを実施します。理由のひとつはドメイン=事業領域を拡大して成長の機会を得るためであり、また、市場や時代の変化から事業環境が変わることによるリスクへのヘッジもあります。
事業ポートフォリオは3つのポイントがカギです。まず、市場規模、将来性、収益性からなる「事業の魅力度」で、つまり「儲かるか」です。つぎに自社の市場での地位、開発・物流・生産といった機能面での優劣からなる「競走上の優位性」で、すなわち「勝てるか」です。そして、販売網、ノウハウの共有・展開、人材といった「相乗効果はあるか」です。
BCG=ボストン・コンサルティング・グループのプロダクト・ポートフォリオにしたがって事業ポートフォリオを考えてみましょう。
プロダクト・ポートフォリオ
事業の魅力度としては市場の成長率を、また、競争上の優位性としては相対的市場シェアを物差しに、マトリックスを構成します。縦軸に事業の魅力度=市場の成長性、横軸に競走上の優位性=相対的市場シェアをとります。縦軸の上方向は成長性が高く、横軸の右方向は市場シェアが低いというマトリックスです。こうして事業を4つに分けることでポートフォリオを考えます。
右上は、シェアは低いが成長率は高い「問題児」です。ここに区分される事業は将来性を検討し、集中的に経営資源を投資してシェア拡大を図り「スター」になるように努力するものです。
左上は「スター」で、シェア、成長率ともに高く、積極的に資源を投入し、将来の「金のなる木」にするよう努力することが必要です。
左下は「金のなる木」で、シェアは高いが成長率は低く、投資はシェア維持の最低限に抑え、資金源としてキャッシュを極力回収します。
右下は「負け犬」で、早急に売却するか有利な方法で撤退する必要があります。
どの事業がどの区分なのかを把握し、管理会計の面からそれぞれの戦略に対して、資源配分の基準とする物差しにします。
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