ファイナンシャル・リスクマネジメント 第3講座 ~価値創出のフレームワーク~
ペンタゴン・フレームワークと企業価値の創出
ペンタゴン・フレームワークとは、世界的なコンサルティング会社のマッキンゼー社によって開発されたフレームワークで、経営戦略の強力なガイドであり、事業部と本社がどのような分担で戦略を構築すべきかを示すものであり、さらにペンタゴン・フレームワークは、コーポレート・ガバナンスはどうあるべきものなのかも示唆する、リストラクチャリング・フレームワークでもあります。
企業が自らの企業価値を最大化するプロセスを、5つのステップに分けてモデル化したものがペンタゴン・フレームワークです。
ペンタゴン・フレームワークの概要
1:現在の市場価値=企業価値
ペンタゴン・フレームワークのスタートは「現在の市場価値」です。それは文字通り現在の市場が評価している企業価値のことで、これを式で表現すると次のようになります。
負債と株主資本の時価の合計、それが市場価値です。非上場企業では上場企業の中の類似企業を見つけ、それをベンチマークとして現在の市場価値を推定するとよいでしょう。これを分解すると、事業が生み出すキャッシュフローに基づく「事業価値」と、事業とは直接結びつかない持ち合い株式・遊休地・ゴルフ場会員権・美術品など「非事業価値」とに分けられます。
つまり、企業の現在の市場価値から非事業価値を差し引けば、市場が評価する事業価値が求められることになります。
ポイントは、その値が正しいかではなく、そのように投資家は企業価値を評価している、ということです。
2:現状維持価値
第2ステップは「現状維持価値」です。それはその企業がこれまでの延長線上で活動を継続した場合に、今後に実現すると思われる企業の価値のことです。
これは、いわば基準点で、経営者の手腕とはこの基準点に対してどれだけ価値を創造して上積みできるかということになります。
現状維持価値は、現行の事業計画に基づいてキャッシュフローを予測し、その現在価値を求めると得られます。
現状維持価値と現在の市場価値を比較すると、現状認識のギャップを見ることができます。現状維持価値の方が小さい時は、株主の期待に応えていないことになり、経営者はこのギャップを埋める対策を講じなければなりません。それが第3ステップ以下で行うアクションです。つまり戦略及び業務上の改善の機会と捉え、改善の対策を講じるアクションです。
逆に大きいと、過小評価されているのであり、積極的にIR活動を行わなければなりません。
3:内部的潜在価値
第3ステップは企業価値を高めるための最初のステージです。事業戦略の構築と業務の改善によってキャッシュフローを増やし内部的潜在価値を増やすのですが、この施策は事業部自らが実行できるものです。事業部による事業戦略によって期待されるキャッシュフローの現在価値を、現状維持価値に加えたものが、第3ステップの「内部的潜在価値」です。
しかし、企業経営は各事業部による事業戦略の単なる総和ではありません。事業戦略に本社による企業戦略が加わってはじめて、企業経営と呼べるものになります。つまり企業戦略とは、各事業部の事業戦略によって創られる価値を、さらに高めることなのです。ISO マネジメントシステム規格 6.1リスク及び機会への取り組みの機会とは、この事業戦略による機会の創出と取り組みのことです。リスクとは内部的潜在価値の創出を脅かす不確かさの影響です。
4:外部的潜在価値
本社による最初の価値創造は、売却・買収の価値です。第4ステップは、事業の売却、分社化、不採算事業の精算など、第三者との間のシナジー効果が価値の源泉となる売却・買収によって、キャッシュフローを最大化させた価値を、内部的潜在価値に加えることです。売却・買収の機会を捉えて適時に実行することです。
5:最適リストラ価値
本社による第2の価値創造アクションは、資産の活性化です。非事業資産の見直しとレバレッジの方法で、キャッシュを生み出します。見直しとは、事業に直接関係ない資産を保有することでの経済的効果の見直しです。売却して他の事業機会に投資した方が経済的効果はあるのであれば、売却を進めます。
レバレッジとは、借入により資本コストを下げて企業価値を高める方法です。資本構成は適切か、総資本利益率が負債の利率より高ければ、負債比率を下げて安定したキャッシュフローを期待すべきか、などを検討します。
このような資産活性化による価値を、外部的潜在価値に加えたものが、第5ステップの「最適リストラ価値」です。
最適リストラ価値は、これ以上は価値を増やすことのできない、企業の潜在能力をフルに発揮した時に生み出される価値のことです。第5ステップの企業価値の創出とは、現在の市場価値と最適リストラ価値の差に当たる価値を創造することです。
この5つのステップは、企業価値創造の構造を示しています。この価値創造サイクルを効果的に機能させることが、企業価値創出の活動です。
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