経営戦略ツールとして充分に生かされてきたか

ISOマネジメントシステム国際規格は、経営戦略ツールとして充分に生かされてきたでしょうか。とはいえグローバル化の中で、この国際規格は存在意義を高めています。そして2015年版で、経営戦略ツールとして本当に生かせる運用が確立できる良い機会がやってきました。欠陥だけでなく可能性も見出し、目的に結びつけ、将来を見据えた活動を促し、知を結集し創造的な組織横断的PDCAをプルする仕組みを持つことが、求められたからです。

リスクを未然に防ぐことは企業経営の永遠のテーマです。品質環境、労働安全衛生、食品安全、情報セキュリティ、エネルギーなどの規格は、全てリスクを未然に防ぐフィードフォワードであります。しかし今まで、多くの組織のマネジメントシステムでは、経営のリスクマネジメント という戦略的で創造的なフィードフォワードが機能しないまま、組織学習を促し将来システムを活性化する機能が働かない結果に終わっていました。ISOマネジメントシステム上において、経営戦略と優秀な現場がシステムとしては出会えず、審査でも内部監査でも「重箱の隅をつつく」ばかりでなく、ひどい例では余計な文書を作らされ、将来システムが動かない危惧がありました。

2015年版はこのISOマネジメントシステムの危惧をブレイクスルーするフィードフォワードになりました。ISOマネジメントシステム規格に隠された創造性コードを始動する私の提案、ISO経営2015年版ツールは、単なるツールではなく、システム導きツールであり、2015年版に対応して経営戦略ツールの一部になります。
この講座では、背景とした経営学、ナリッジマネジメント論を、2015年版MSSのコンテキストでその意義について参照し直しながら論じ、適合の意義とその概要、さらに効果的な運用について論じ、構築の事例も紹介します。

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キーとなる用語について

この講座で、キーとなる用語について定義を確認しコメントを付しておきます。

方針(policy)
3.2.4「正式に表明された組織の全体的な意図及び方向付け」、方策の意味を含む。方針は目的(purpose)よりも、決意や意思を実現させる具体性が必要。
パフォーマンス(performance)
成就。計画された目標が達成され(achieved)、満たされた(fulfilled)結果の程度。個々のプロセス目標達成で、目的/方針・役割が成し遂げられ(performed)、意図した成果が達成された程度。
評価(evaluation)
価値、数量、能力などを評価すること。慎重に(十分に)考えた後で、事の価値や重要性を判断することを含意する。本質、能力、程度または重要さを見極める、または見積ること。(科学論文動詞集、日本語 Word Netより)
方針によるマネジメント
達成度が判定可能な目標を設定する枠組みを提供、組織の部門及び階層の自律的創造的な目標達成活動を指揮し管理するための調整された活動。(JIS Q9023)組織が置かれた社会と市場の状況判断に始まる。
リスクマネジメント
リスクへの取り組み。起きてはならぬ事象を起こさないために予め行うマネジメント。期待されていることから好ましくない方向または好ましい方向へ乖離する、その不確かさの影響(ISOガイド73、ISO31000リスクの定義から)に対処するマネジメント。経営では危機も好機、という考え方も考慮する。
リスク(risk)
危険、危害の恐れ。期待されていることから好ましくない方向へ乖離することで生じる危険の程度。その原因は物、状態、行為のハザード。
機会(opportunity)
偶然の意味を含まない好機、適切なタイミング。期待されていることから好ましい方向へ乖離することによってもたらされる、偶然ではない積み上げた結果の好機、確信のタイミング。
将来システム
ブレイクスルー思考のシステム次元の一つ、組織の将来に関わる仕組み。
レビュー〈review〉
3.8.7「設定された目標を達成するための検討対象の適切性、妥当性、及び有効性(のいずれか又は全て)を判定するために行われる活動」。精査、見直し。
システムレビュー(system review)
3.2.1+3.8.7「相互に関連する又は相互に作用する要素(プロセス)の集まり」の「設定された目標を達成するための適切性、妥当性、及び有効性を判定するために行われる活動」。システムマネジメントのために行う戦略的レビュー活動。
プロセスマネジメント(process management)
3.4.1+3.2.6「インプットをアウトプットに変換する、相互に関連する又は相互に作用する一連の活動を指揮し、管理するための調整された活動」。組織が運用する全てのプロセスが対象の継続的な指揮活動。
システムマネジメント(system management)
3.2.1+3.2.6「相互に関連する又は相互に作用する要素(プロセス)の集まりを指揮し、管理するための調整された活動」。組織が意図した成果達成のために運用するプロセスの集合が対象の、継続的な指揮活動。

ISOマネジメントシステムは経営戦略ツールへ

2000年版で品質保証システムがマネジメントシステムへと変えられたのは、意図した成果を達成するためには、品質を保証するだけでは不十分で、全体のシステム規格が必要だということでした。

品質保証の計画と管理をいくら徹底させても、必ずしも組織の存続と発展に結びつかず、むしろ品質が物の質に偏り、危機的な結果を招いてしまっていた例もありました。「モノづくり」の質の高さは標榜すべきですが、例えば「我社の製品品質は最高と認められており、売れ続けるだろうから、この品質の作り込みノウハウをブラックボックスで守れ」といった成功体験への過剰適応が経営を弱体化させたのです。良い製品を作れども戦略で敗れ、存続の危機に直面したということです。

こうした危機を乗り越えるのは経営者のマネジメント手腕です。トップがコミットメントつまり心血を注いで専念するもとで、危機を打破すること、現場の知を経営が生かしきり、組織横断的PDCAサイクルを回しきることです。

私は、知=ナリッジのマネジメント(Knowledge Management)の一つ、カリフォルニア大学のJ.ナドラー名誉教授による「ブレイクスルー思考」を研究し活用してきました。それは天才的な経営者、研究者、開発者の思考法とマネジメント手腕をシステム化したものです。

基本はPTR(Purpose-Target-Result)「P=目的及びT=目標を定めR=結果を出す」というもので、天才的な手腕をシステム化すると、目的⇒目標⇒結果、つまり方針⇒目標⇒達成であり、マネジメントシステムの定義と同じです。これは経営者のナリッジマネジメントです。いまやマネジメントシステムというとISOの独壇場であり、2015年版ではその仕組みの再構築が求められています。

マネジメント(management)とは「組織を指揮し、管理するための調整された活動」です。これはまさに事業を遂行する経営ですが、経営よりも細部で末端の管理活動まで含みます。マネジメントシステムはトップの定める組織の目的や方針実現のための、細部末端に至る調整された管理活動のシステムです。だから2000年版規格は、会計を除くほとんどの経営課題を組織運営の方法論として網羅しようとしました。しかし経営戦略に関しては序文にはありましたが要求事項として充分でなかったのです。

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