作業分解法とは

作業分解法とは作業を手順などで分解し、作業の中身を明らかにする方法です。分解法のやり方にはいろいろあるのですが、一つは生産ラインの構築とFMEAを目的にした綿密な分解法、次に新人教育のテキスト作成を目的にした分解法、それから作業の改善を目的にした作業解析のための詳細な分解法、などがあります。
ここでは、対象とする範囲が比較的に狭く、分解の精度もそれほど細かいものを要求されない、新人教育のテキスト作成を目的にした分解法から説明をすることが、この手法を理解するにはいいと思います。

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教えるための作業分解法

事例として事務所スペースの朝の清掃を、新人に教えるための作業分解をしてみましょう。面積はおよそ30坪、毎日一人ずつ当番で行う清掃の手順を教える分解法です。
道具:ハンディモップ、箒、掃除機、モップ、雑巾
所要時間:20分   材料:水

主な手順 成否・安全・コツのポイント
(1)ゴミ箱のゴミを集める 指定のゴミ袋にまとめる
(2)機器・本棚・書類ケースの上の埃を払う 電話は丁寧に、物を落とさないように
(3)机・椅子の下のゴミ・埃を掃出す 掃除機で吸引出来る位置に集める。大きなゴミはゴミ袋に入れる
(4)掃除機で床の埃・ゴミを吸引する 隅に埃を残さないように
(5)床にモップを掛ける 磨くように掛ける
(6)雑巾で机・カウンター上を拭く よく絞って水気を残さない
(7)窓ガラスを拭く 乾いた雑巾で仕上げる

主な手順は、このように「○○を○○する」と具体的に記述します。また、ポイントは「○○で○○するように」という表現などを用いて具体的に、成否、安全確保、そしてうまくやるためのコツを記述します。分かり易く具体的に記述することが重要です。
抽象的で良くない主な手順の記述例です。(1)モップ掛け(2)塵払い(3)掃き掃除(4)掃除機掛け(5)モップ掛け(6)拭き掃除(7)窓拭き。このように記述すると主な手順の欄には、ポイントの欄も同語が記述されることになります。教えるためですので、具体的で分かり易く理解し易いことが重要です。

教えるための作業分解は、その作業のSMPQCDを整理して記述したものになります。
作業が完了するまでの手順はこうです。=D
こうしないと怪我をしたり、物を壊したりします。=S
こうするとうまくやれます。=M
こうしないと作業の品質を損ねます。=Q
コツを覚えて作業が上手にできるようになり士気が上がり、熱心にもなります。
材料と所要時間を記述し、コストと時間当りの生産性の目途とします。=PC

自動車整備会社の業務改善指導で、この手法を用いたことがあります。ベテランの技術者が何人かいましたが、作業の手順書は整備されてはいませんでしたので、それぞれで教えるための作業分解をしてもらうことにしました。分解をする作業は、エンジンオイルの交換にしました。

比較的初歩的な作業でしたので、ベテラン同士でそんなに差があるとは思えませんでしたが、実際やってみると順番が違う箇所があったり、またコツにニュアンスの差があったりしたのです。今までお互いにこの作業の手順やコツについて話しをしたことはなかったようです。

そこで、それぞれの作業分解を突き合わせて説明をし合い、最もよいと思われる一つの手順を確立することにしました。しかし、業務改善のためにはもう少し精密な分解法があります。

改善のための精密な分解法

改善のための分解法は、まず1枚のカードに一つの動作を書き込むことから始めます。
事務所の朝の清掃を、改善のための分解法で分解すると、まず次のような何枚ものカードが作成されます。

  • ゴミ箱Aまで行く。2m
  • ゴミ箱Aを持つ。
  • ゴミ箱Bまで行く。2m
  • ゴミ箱Bを持つ。
  • ゴミ箱Cまで行く。1m
  • ゴミ箱ABをCの横に置く。
  • ゴミ箱Dまで行く。2m
  • ゴミ箱Dを持つ。
  • ゴミ箱Eまで行く。2m
  • ゴミ箱Eを持つ。
  • ゴミ箱Cまで行く。1m
  • ゴミ箱DEをCの横に置く。
  • ゴミ箱を一箇所に集める。延べの移動距離約10m
  • ゴミ袋を棚まで取りに行く。2m
  • 燃やすゴミ用と燃やさないゴミ用を一つずつ取る。
  • ゴミ袋を持って集めたところまで行く。
  • 燃えるゴミをゴミ箱から燃やすゴミ袋に移す。
  • 不燃物は燃やさないゴミ袋に移す。
  • ゴミ箱ABDEを持つ。
  • ゴミ箱を元の位置に戻す。10m
  • ハンディモップを棚まで取りに行く。

以上の分解から見出した改善点は、1.ゴミ箱を集めない、2.ゴミ袋を持ってゴミ箱を回る、3.ゴミ箱を元に戻す作業が不要になる、という3点で、作業量と移動距離が減りました。このあとの作業についても、例えば掃除機の使い方についての作業のムダが発見できます。

実地で生産プロセスを検証する時は、分解した単位動作の所要時間をストップウォッチで綿密に計測し、目標の時間を定めてその時間内にどうすれば納まるかを、一つ一つの動作について検討するなどの改善点探しをします。その結果として業務改善指導が有効に実現できる手法です。

ISO 9001:2015規格 7.2 力量 には「組織は,次の事項を行わなければならない。b) 適切な教育,訓練又は経験に基づいて,それらの人々が力量を備えていることを確実にする。」とあります。教えるための作業分解法は教育、訓練の手法として有効です。
また、10 改善10.1 一般には「組織は,改善の機会を明確にし,必要な取組みを実施しなければならない。c) 品質マネジメントシステム のパフォーマンス及び有効性の改善」とあり、作業時間の短縮などの目標を持った改善の取り組みには、精密な分解法が有効です。

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