ISMS教育とは?対象者や実施手順・ポイントをわかりやすく解説

- ISMS教育は、情報セキュリティの強化やISMSの運用に欠かせないプロセスの一つ
- ISMS教育を行うには、必要な力量を把握することが重要
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)を効果的に運用するうえで、従業員の教育・訓練は欠かせない要素です。特に、ISO27001では従業員が情報セキュリティリスクを理解し、日常業務の中で適切に対応できるように教育・訓練を行うことが求められています。
しかし、「どのように教育を進めればよいのか?」「教育の対象範囲や頻度は?」といった疑問を抱える企業担当者も多いでしょう。
そこで、この記事では、ISMS教育の概要から具体的な実施方法、教育内容や効果測定の方法まで、わかりやすく解説します。
ISMS教育とは
ISMS教育とは、「ISMSに関わる人たちに必要な力量を習得させるための手段の一つ」です。
ここでいう力量とは、「情報セキュリティリテラシー」「ISMSを運用するうえで必要となる知識・能力」などを指しますが、要求事項に明確な定義はありません。そのため、自社の実務に応じた知識・能力の基準を定める必要があります。
適切にISMS教育を実施することで、情報セキュリティに関する知識不足や認識の不一致、人為的ミス・事故を防ぎ、ISMS範囲内の従業員の情報リテラシーの向上につながります。
ISO27001における教育訓練の位置づけ
ISO27001の要求事項では、教育訓練はどのように記載されているのでしょうか。実は、ISMS教育訓練そのものに関する項目は存在せず、「7.2 力量」において以下のような内容が求められています。
- ISMSの適用範囲内で働く人々に求められる力量を明確にする
- それらの人々の現在保持している力量を評価する
- 力量が不足している場合には教育訓練を実施し、有効性(必要な力量を取得できたかどうか)を評価する
- 力量の証拠として、1~3までの記録を文書化して保持する
また管理策をまとめた附属書A「A.6.3 情報セキュリティの意識向上、教育及び訓練」においても、情報セキュリティに対する意識向上のために必要な教育訓練を実施することを求めています。
このように、効果的なISMS運用に欠かせない要素の一つとして、「力量」に基づいた教育訓練と、「意識向上」を目的とした教育訓練を位置づけているのです。

ISMS教育が必要である理由
情報セキュリティ対策というと、多くの人は「技術的な対策」を思い浮かべるでしょう。しかし、最終的に技術的な対策の運用を担うのは「人」であるため、従業員の情報セキュリティリテラシーの高さや知識、行動が情報セキュリティ対策の成否を左右します。
ここでは、ISMS教育が必要である理由について解説します。
情報セキュリティリスクに関する共通理解を促すため
組織内で情報セキュリティ対策を徹底するには、全社員が共通の認識を持ち、リスクへの理解を深めることが不可欠です。情報セキュリティに関する知識が従業員によって異なると、何らかの問題が発生した際の対応の一貫性がなくなり、脆弱なISMS体制になりかねません。
ISMS教育を実施することで、従業員は「情報資産とは何か」という定義から、外部からの攻撃・内部不正・ウイルスやマルウェアといったリスクの種類、それぞれのリスクに対する適切な対策について、具体的な事例を交えて学ぶことができます。これにより、組織内で「何が情報セキュリティ上のリスクなのか」「どのように対応すべきか」についての理解が深まり、セキュリティ意識を全社で統一・向上させることが可能になります。
また、経営層・管理職・一般従業員では、それぞれに必要な視点や責任範囲が異なるため、役割に応じた教育訓練の設計も大切です。のちほど、対象者ごとの教育訓練の例を解説しますので、そちらも参考にしてみてください。
人為的なミスや不注意を防ぐため
情報漏えい事故やシステムトラブルの多くは、外部からのサイバー攻撃ではなく、内部の人的ミスや不注意によって発生することが多い傾向にあり、以下のような例がよく見られます。
- ウイルス感染・不正アクセス
- 従業員が怪しいリンクや信頼できないWebサイトにアクセスすることによる情報漏えい
- 誤表示・誤送信
- 宛先を間違えたままメールを送信する、システムのアクセス権限に関する設定ミスによる情報漏えい
- 紛失・誤廃棄
- 情報を掲載している紙文書やデータを紛失する、誤ってデータを廃棄することによる情報紛失
実際の声について、IT企業以外の経営者約1,000人に実施したアンケート調査から紹介します。過去に情報漏えいが発生した経験があると回答した約1割の経営者に、その原因を尋ねたところ以下のような結果が得られました。
「情報漏えいが起きた原因は何でしたか?」
- 人為的ミス(35.9%)
- 外部からの攻撃(31.1%)
- 技術的な脆弱性(17.5%)
- 物理的な盗難(6.8%)
- クラウドサービスや外部データセンターのセキュリティの不備(6.8%)
このように、実は「人為的ミス」が最も多い情報漏えいの原因になりえることが調査からわかりました。人為的ミスを完全に防ぐことは難しいものの、教育によって「やってはいけない行動」を意識させ、日常的な注意力を高めることは可能です。
また、継続的な教育によって「慣れ」や「気の緩み」も防ぎ、長期的にセキュリティ意識を維持できます。
ISMS教育の対象者と教育内容例
ISMS教育は限られた部門や担当者だけではなく、組織全体を対象に実施する必要があります。
ここでは、ISMS教育の対象者と、それぞれに適した教育内容の例について解説します。
対象者
ISMS教育の対象者は、主に以下のように分類できます。
1.全従業員(一般社員)
日常的に情報資産へアクセスするすべての従業員が対象です。パソコンやスマートフォンを使って業務を行う営業職や事務職なども含まれます。人的ミスや不注意による情報漏えいのリスクを軽減するには、全社員への定期的な教育が最も重要です。
2.トップマネジメント
企業の経営陣からなるトップマネジメントは、会社全体の情報セキュリティの責任を担う立場であるため、情報セキュリティ全般をカバーする知識が求められます。
例えば、情報セキュリティ方針の周知徹底や提供している製品・サービスのセキュリティ面の仕様、実施している情報セキュリティ対策の状況の把握などが挙げられます。
3.情報セキュリティ責任者
情報セキュリティ責任者・技術担当者は、ISMSを構築・運用・改善に関する責任を担うことから、情報セキュリティに対する幅広い知識が求められます。また、最近の業界内のインシデント事例やサイバー攻撃の情報把握などの最新情報の把握も必要です。
4.情報セキュリティ担当者
ISMS全体の構築・運用・改善を担う情報セキュリティ担当者は、規格の要求事項や内部監査、リスクアセスメントなどの専門的な内容を含む高度な教育が求められます。
5.新入社員・中途社員
新たに入社した社員には、入社時に必ずISMSに関するオリエンテーションを行う必要があります。組織ごとの情報管理ルールや禁止事項、事故発生時の対応フローなどを確実に理解させることが重要です。
6.内部監査員
内部監査員は、ISMSの有効性を定期的に確認し、改善につなげる重要な役割を担います。また客観的な視点で業務を評価できるよう、監査の心構えや公平性・独立性の確保についても理解することが求められます。
教育内容の例
以下に、対象者ごとの教育内容の一例をまとめます。
対象者 | 主な教育内容 |
---|---|
全従業員 |
|
トップマネジメント |
|
情報セキュリティ責任者・情報セキュリティ担当者 |
|
新入社員 |
|
内部監査員 |
|
ISMS教育は、一度きりの実施ではなく、定期的に継続して行うことが必要です。
特に、法改正やルール・システム変更時、インシデント発生後などのタイミングで再教育を行いましょう。

ISMS教育の具体的な実施手順
ここでは、ISMS教育を効果的に実施するための基本的な手順を7つの手順にわけて解説します。
1.従業員に求める力量を明確化する
まずは、業務ごとに求められる情報セキュリティ上の力量を定義しましょう。
例えば、システム部門の社員であれば「脆弱性対策に関する理解」、一般社員であれば「パスワード管理・メールの取扱いに関する基礎知識」など、それぞれの業務特性に応じたセキュリティスキルを明確化します。
2.教育訓練の対象者を決定する
次に、対象者を役職や職種ごとに分類し、それぞれに合った教育内容を設計します。
- 一般従業員
- 管理職
- 情報セキュリティ担当者
- 内部監査員
- 新入社員・中途社員 など
対象者を明確することで、「誰に」「何を」教育すべきかが明確になり、効率的かつ効果的な教育計画につながります。
3.教育方法・教材を選定する
ISMS教育は、対象者や内容によって適切な教育方法を選ぶことが大切です。主な方法としては以下のようなものがあります。
- 講師によるセミナー・ワークショップ:専門講師による対面形式での研修。その場での質疑応答が可能。
- eラーニング:場所を問わず受講でき、記録管理がしやすい。
- 動画教材:視覚的で理解しやすく、繰り返し確認できる。
- 実務を通じたOJT:情報セキュリティに関するルールを実践できる。
- チェックシート・小テスト:理解度の確認に使用される。力量の証拠として保管できる。
その教材を通して教育訓練を実施することで、自社で設定した「必要な力量」を身につけられる必要があります。
4.教育訓練の計画を作成する
教育訓練の実施前に、「いつ」「誰が」「どのような教育訓練を実施するか」を明確にした教育訓練の計画を策定します。計画には以下のような要素を含むことが一般的です。
- 実施日程
- 対象者と実施形式
- 教材・講師
- 実施責任者
- 評価方法
5.教育訓練を実施する
計画に従って教育訓練を実施します。実施前の計画に変更が発生した場合には、計画書も変更したうえで実施してください。
6.教育の有効性評価を実施する
ISMS教育を実施したら、「必要な力量を習得するために効果的な教育訓練になったか」という有効性を評価します。評価方法には、テストやアンケートなどが挙げられます。
受講者の知識や能力が向上せず、成果が見られない場合には、教育訓練の方法や内容に問題がある可能性があります。その場合には、ISMS教育を見直すことが求められます。
7.教育訓練の計画・実施の記録を管理する
ISO27001の要求事項では、「力量の証拠」として教育訓練の計画・実施記録などを保管・管理する必要があります。具体的には、登録審査時に確認される証拠書類となる可能性があります。
- 教育訓練計画書
- 教育訓練の実施記録
- 教材
- テスト結果
- 有効性評価報告書
ISMS教育を実施するうえでのポイント
ここでは、ISMS教育を実施する際に重要な2つのポイントについて解説します。
効果測定・評価の実施が重要
ISMS教育においては、「実際の業務で適切に活用できるような、従業員にとって必要な知識やスキルを身につけること」が重要です。そのためには、教育訓練の効果を客観的に測定し、改善につなげる仕組みが不可欠です。
効果測定の代表的な方法としては以下が挙げられます。
- 理解度テストの実施:研修後に確認テストを行い、どの程度内容を理解できているかを確認する方法
- アンケート調査:受講者の満足度や難易度の印象をアンケートによって調査し、今後の教材や実施方法に反映する方法
- 実務評価:教育後に発生した情報セキュリティインシデントの件数や質を確認し、教育の実効性を間接的に評価する方法
これらの評価を通じて、「教育内容が実務に結びついているか」「今後改善すべき点はどこか」といった視点から継続的な見直しを行うことが重要です。
年1回以上実施することが重要
実効性のあるISMS教育を維持するには、最低でも年1回以上、定期的に実施することが大切です。例えば、以下のようなタイミングにおいては、教育訓練によって自社の情報セキュリティ体制を強化できます。
- 新入社員・中途社員の入社時
- 異動時
- 社内ルールの変更時
- 業界内や社内において、インシデントやトラブルが発生した場合
- 内部監査や外部審査で指摘を受けた場合
単なる教育訓練ではなく、「組織の情報セキュリティレベルを強化する継続的な取り組み」として位置づけることが成功のポイントといえるでしょう。

Pマーク教育との違い
ISMS教育とよく比較されるのが、プライバシーマーク(Pマーク)制度における「Pマーク教育」です。どちらも情報の取り扱いに関する従業員教育を求めていますが、その目的や実施義務、教育内容は大きく異なります。
ここでは、Pマークの概要やPマーク教育とISMS教育の違いについて解説します。
Pマークとは
Pマークとは、個人情報の保護・管理体制が適切に整備されていることを認証する国内規格です。正式には「プライバシーマーク制度」といいます。
JIS Q 15001(個人情報保護マネジメントシステム)に適合した個人情報保護マネジメントシステムを構築・運用し、審査を受けることで認証されます。認証されると、Pマークの使用が認められるようになります。
Pマークの詳細については、以下の記事をご覧ください。
Pマーク教育は「必須」で実施するもの
Pマーク認証を取得・維持するためには、全従業員に対して定期的な個人情報保護教育を実施することが「義務」として定められています。JIS Q 15001の要求事項にて求められており、教育訓練を実施していないと、認証取得できない可能性があります。
以下に、ISMS教育とPマーク教育の主な違いをまとめました。
ISMS教育 | Pマーク教育 | |
---|---|---|
主な対象 | 情報資産全般 | 個人情報 |
教育の義務 | 力量不足があれば教育が必要 | 教育実施が義務化されている |
実施頻度 | 年1回以上が望ましいが、組織判断による | 定期的な実施が必須(一般的に年1回以上) |
対象者の範囲 | 組織のISMS適用範囲に関わる従業員 | 全従業員(パート・アルバイト、派遣社員などを含む) |
まとめ
この記事では、ISMS教育の概要や具体的な実施方法、教育内容や効果測定の方法を解説しました。
ISMS教育は、ISMSを効果的に運用するために欠かせない要素の一つです。優れたシステムを導入しても、それを運用する人材が必要な知識・能力を備えていなければ、期待したような成果は得られないでしょう。
そのため、適切な教育訓練を実施し、従業員に必要な力量を習得させることが大切です。本記事で紹介した手順やポイントを意識して、効果的なISMS教育を実施しましょう。

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