2017年9月、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」として諮問され、2019年4月「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」という正式名称を持った通称「働き方改革関連法」という形で施行されます。
皆さんも一度は「働き方改革」というキーワードを耳にしたことがあるのではないでしょうか? しかし、その内容については「法律の改正」というかたっ苦しいものであるため、「よくわからない」という人も多いと思います。
今回は、
- 働き方改革とは何なのか?
- 法律が施行されると何が変わるのか?
- 法律に違反すると罰則や刑罰はあるのか?
などなど、働き方改革に関する様々な疑問に答えていきたいと思います。
目次
働き方改革とは?
働き方改革とは、「少子高齢化による労働人口の減少」「育児や介護と仕事の両立ニーズの多様化」などに対応しながら日本の経済を発展させていくために必要不可欠な改革です。
厚生労働省の公式HPを見てみると、働き方改革とは何かということについて以下のように説明しています。
「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
「働き方改革」の実現に向けて – 厚生労働省
日本はこれまで世界のどんな国も経験したことがない「超高齢化社会」に突入しています。この高齢化は「労働人口の減少」「経済の停滞」「保険料の増加」「介護問題」――この他にも様々な課題を浮き彫りにしました。こういった課題が浮き彫りになった現在、今までと同じような社会システムでは対応ができなくなってきたのです。
――特に問題とされているのが、労働人口の減少です。出生率は年々減少しており、高齢者は増えるばかり。グラフを見ても分かる通り、1990年頃をピークに労働人口は年々減少しています。
保険料の負担は若者にのしかかり、若者が貧困することでさらに出生率が減少……このままでは「働ける人間がいない国」になってしまいます。また、グローバル化が進む時代ですから、日本という国家に見切りをつけて他の国に国籍を移そうとする人も増えてきます。
事実、平成25年には380人だった国籍離脱者も平成29年には770人と倍以上に増加しています。このようなことからも、負のスパイラルを脱却しないことには日本の経済は停滞していくと考えられているのです。
その脱却の方法の一つとして、ようやく施行されたのが「働き方改革関連法」です。
働き方改革の三本柱
働き方改革は、「労働人口の減少」という課題を解決するために、三本柱と呼ばれる改革を予定しています。この三本柱とは以下のようなもの。
- 長時間労働の是正
- 同一労働同一賃金
- 高度プロフェッショナル制度
長時間労働の是正によって労働者に時間的な余裕を与え、出生率の増加や生産性の向上を目指し、同一労働同一賃金によって多様な働き方ができる社会を実現し、介護や育児など多様なニーズに対応。さらに高度プロフェッショナル制度の導入によって実力主義社会の基盤を構築し、国民全体の生産性向上を図る――そんな狙いがあるのです。
労働時間が短くなれば配偶者を見つける機会も増えるだろうし、多様な働き方ができれば育児や介護がしやすくなります。――そして、出生率が増加すれば将来の労働人口の減少に歯止めをかけることができて、実力主義社会が実現されれば労働者の生産性が向上が期待できるわけです。
働き方改革で何が変わるのか?
「そんな国の都合に振り回されるのは嫌だ。」などとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、「法律」という形で導入されてしまった以上、事業主も雇用や就業規則を見直していかなければなりません。
さて、今回の働き方改革関連法の施行によって変更されるものとして、代表的なことに以下のようなものがあります。
- 時間外労働の上限規制
- 有給休暇取得の義務化
- 産業医権限の強化
- 60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%⇒50%に
- 同一労働同一賃金制度の導入
- 高度プロフェッショナル制度の導入
- 労働時間の客観的な方法による管理の義務化
- 勤務間インターバル制度の導入
- フレックスタイム制の見直し
それぞれ、以下のページで分かりやすく解説しております。
また、施行日と内容については以下の通りです。
施行時期 | 改正される内容 | 働き方改革関連法施行以前 | 働き方改革関連法施工後 |
---|---|---|---|
2019年4月 | 残業時間の規制(大企業のみ) | 三六協定を締結していれば、時間外労働上限なし | いかなる理由であっても年720時間、複数月平均80時間、月100時間を上限とする |
年次有給休暇の取得強制 | 付与の義務はあったが、取得するかは個人の自由 | 年5日の有給休暇を取得させなければならない。 | |
産業医・産業保険機能の強化 | 事業者が産業医に提供すべき情報は少なかった | 産業医の権限や責任が強化され、事業者が産業医に提出しなければならない情報が増える | |
労働時間の管理方法の客観化 | 裁量労働制を採用する労働者は、労働時間の通達を行う必要がなかった | 裁量労働制であっても客観的な方法で労働時間を管理する義務が発生 | |
2020年4月 | 残業時間の規制(中小企業) | 時間外労働上限なし | いかなる理由であっても年720時間、複数月平均80時間、月100時間を上限とする |
非正規雇用の公正な待遇(大企業のみ) | パートやアルバイト・派遣労働者の待遇について強制はされていなかった | 非正規契約であっても、労働内容が正社員と同じレベルのものであれば正社員と同じ賃金を支払う必要がある | |
2021年4月 | 非正規雇用の公正な待遇(中小企業) | パートやアルバイト・派遣労働者の待遇について強制はされていなかった | 非正規契約であっても、労働内容が正社員と同じレベルのものであれば正社員と同じ賃金を支払う必要がある |
2023年4月 | 月60時間を越える時間外労働に対する割増賃金の改定 | 時間外労働は一律基本給の1.25倍を支払えばよかった | 月60時間を越える時間外労働に対しては1.5倍の割増賃金を支払う必要がある |
2019年の4月から開始されるもので特に注意しておきたいのは、「有給休暇の取得義務化」ですね。年次有給休暇が10日以上与えられる労働者――つまり、全労働日の8割以上出勤している労働者はパートタイマーやアルバイトであっても取得させる必要があります。
有給休暇を計画付与させることも可能ですが、取得させなければ即労働基準法違反となりますので注意しましょう。
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さて、この働き方改革ですが、こうしてみると事業者側の負担は非常に大きいです。時間外労働について厳密に管理する必要があり、さらに有給休暇を社員が希望しなくても取得させなければならず、さらに時間外労働の割増賃金も増加することになります。インターバル制度の導入やフレックスタイム制の見直しによって就業規則や労使協定を見直す必要もあるかもしれませんね。
多くの事業者は、「働き方改革って面倒だ。本当にやらなきゃいけないことなの? なんだかんだ言って見逃してくれるのでは? 」と思ってしまうかもしれません。
――しかし、面倒なこととはいえ「法律」ですから、施行された以上は守らなくてはなりません。違反すれば懲役刑や罰金刑といった刑事罰に問われることになりますし、罰則がないものであっても、例えば労働者が労働基準監督署に駆け込んだ場合には賠償金を支払う必要があります。
罰則付きの法改正
今回の改正で新たに刑事罰の対象となる改正法は、以下の通りです。
- 残業時間の上限規制
- 5日以上の年次有給休暇の取得
- 産業医機能の強化
- 割増賃金率の猶予措置廃止
上記に違反すれば6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられます。「なんだかんだ言って見逃してくれる」と油断している事業主も多いかもしれませんが、労働基準監督署というのは警察と同じような機能を持っており、捜査や書類送検を行う権限があります。場合によっては逮捕することもできるのです。――つまり、「この事業主は故意に違反していて、改善する気がない」と判断されればそのまま逮捕されてしまうことだって十分に有り得るのです。
また、刑事罰の対象とならない改正についても、注意が必要です。あくまで「刑事罰にはならない」だけで、例えば同一労働同一賃金制度解禁後も非正規労働者に対して不合理な賃金格差がある場合、労働者に対して賠償金を支払う必要があります。このように、刑事罰こそないもののペナルティがあるものばかりですので、注意してください。
企業は何をしなければならないのか
本来であれば、2019年4月に働き方改革関連法が施行されるという事前情報を得ているはずですから、前もって準備をしておくべきですが、「全く準備ができていない」という事業者も多いと思います。
そんな場合は、まずは何から始めれば良いのでしょうか。以下で解説していきます。
1.改正される労働関連法の把握
まずは改正される法律について知ることが大事です。何が罰則になって、何が罰則にならないかということを整理しましょう。
2.施行時期について知る
次に、改正法律によって施工時期が変わります。また、中小企業には猶予期間が設けられているものもありますので、いつから対応しなければならないのかを整理しましょう。
おそらく最初に対応しなければならないのは、「有給休暇の取得義務化」でしょう。この改正法は2019年から全事業者対象となります。
3.猶予期間には準備をしておく
法律が施行される前にはある程度準備をしておきましょう。例えば同一労働同一賃金制度が始まると、正社員の給与を下げるか、非正規労働者の給与を上げるかどちらかの対応をしなければなりません。施行と同時に焦って賃金を上げざるを得ない状況に陥ると、それだけ人件費が増加してしまいますので、事前に内容を把握して準備をしておくということが必要になります。
4.就業規則や労使協定の見直し
フレックスタイム制を導入している会社やインターバル制度の導入を予定する会社は、就業規則や労使協定についても見直しをする必要があります。働き方改革関連法でも「必要に応じて就業規則の見直しを行え」とありますので、良い機会ですので、改訂できる箇所は改訂するようにしましょう。
働き方改革にメリットはあるのか?
さて、様々なことに対応しなければならない働き方改革ですが、労働者にばかりメリットがあるものでもありません。働き方改革は事業者にとってもメリットがあるのです。
例えば社員のモチベーションアップによる生産性の向上。心理学では「好意の返報性」と呼ばれますが、人は相手から何かをしてもらうと、それに対してお返しをしようと深層心理が動きます。より働きやすい環境を提供することは労働者のモチベーションアップにもつながるのです。
次に、積極的に働き方改革に取り組むことで優秀な人材を確保し、定着させることができるでしょう。これからは実力主義の社会になりますので、優秀な人材ほど労働環境を選べるようになります。つまり働き方改革に取り組まなければ優秀な人材はどんどん出ていきますし、働き方改革を取り入れれば優秀な人材の確保や定着をさせることもできるでしょう。
働き方改革を開始するなら助成金を導入しよう
さて、企業が働き方改革に取り組むには様々なことに対応する必要があります。――しかし、今なら例えば「同一労働同一賃金制度の導入」や「介護休業・育児休業制度の導入」によって助成金を受け取ることが可能です。
助成金とは、厚生労働省から支給される返済不要の支援金で、この他にも様々な「働き方改革の準備」に活用できるものがあります。中には最大1000万円を超える助成金もありますので、一度チェックしてみてください。