働き方改革は「労働人口の減少に歯止めをかけ、日本経済の発展に寄与する」という目的を達成するために、三本柱というものが設定されています。この三本柱はどのようなもので、どういった目的のもと制度化されようとしているのでしょうか。
また、三本柱は企業や労働者にとってどのような影響を与えるのでしょうか。今回は、働き方改革の三本柱についてフォーカスを当てて解説していきたいと思います。
働き方改革の柱は三本
働き方改革の三本柱は、最近では五本柱とも呼ばれますが、具体的には以下のようなものです。
- 同一労働同一賃金
- 残業時間上限規制
- 脱時間給制度(高度プロフェッショナル制度)
それぞれどのようなものなのかを以下でざっくり説明していきます。
残業時間の上限規制
これまで日本という国では、残業時間において事実上制限はありませんでした。日本の労働基準法では、「労働時間は一日8時間、週40時間」という上限が設定されており、一日の労働時間は休憩時間を除き最大8時間という話は当たり前のように皆さんはご存知だと思います。これを越える労働については残業として残業代を支払う必要がありますね。これは「みなし労働」や「年俸制」の会社でも同じです。
そして、労使間で三六協定というものを締結し、労働局に届け出ることで事実上無制限に残業をさせることが可能だったのです。(実際には、このような労働基準法の定めが守られていないことも多いのですが……)
働き方改革では、このような残業時間に上限を設け、「いかなる状況においても、月100時間、年間平均80時間の労働時間を超えてはならない」という上限を設定されることになりました。
同一労働同一賃金
日本の労働環境は正社員とアルバイトやパートの格差が非常に大きいです。非正規労働者の賃金は正社員の賃金の60%程度だと言われており、欧米諸国が80%程度であることを考えると、契約内容が異なるだけで合理的ではない格差が生まれていることがわかります。
こういった格差は労働者の自由な働き方を阻害します。例えば、1ヶ月に契約を50本取ってくることができるアルバイトと、5本しかとれない正社員の給料は、どちらが高くあるべきでしょうか。もちろん優秀な人材に給与を多く支払うのが合理的です。しかし日本では「アルバイトだから賃金は安くて良い」などの考えが染み付いてしまっており、多くの労働者が「正社員」というものにしがみついています。正社員でなくなると生活が苦しくなってしまうからです。そのため介護や子育てで多忙になろうとも仕事を辞めることができず、「介護うつ」「ダブルケア」など様々な問題に発展しているのです。
これを是正するために、「同じ労働内容であれば、正社員であろうがアルバイトであろうが、同じ給料を支払いましょう」という制度を設けようとしているのです。
高度プロフェッショナル制度
高度プロフェッショナル制度は、「脱時間給制度」とも呼ばれており、主に年収が1,000万円を越えるコンサルタントなどを対象に、時間ではなく成果物に対して給与を支払うようにしようという制度です。
日本では「朝礼に出席して、指定の時間まで働く。その成果に応じて昇給はするが、すぐに昇給することはない」という働き方が一般的ですね。しかし例えば、業務を全て自動化できる人材が全く働かずして同僚と同じパフォーマンスを実現したとすれば、どうでしょうか。わざわざ出社させる必要はありませんよね?
このように、専門性の高い職種に対しては、時間ではなく成果に応じて給与を支払う制度を導入することで、より優秀な人材が働きやすい環境を実現しようとするものが高度プロフェッショナル制度です。
一方で、残業や休日手当などが出なくなるという問題もあり、例えば無理なノルマを課せられて残業や休日出勤を強制されるような労働が蔓延する可能性があるという批判も多い制度です。
それぞれ、どのような目的なのか
日本の労働環境には様々な問題があります。「長時間労働」「生産性の低さ」「企業の経営努力の少なさ」「古い慣習」「年功序列の弊害」……数えればキリがないですね。
こういった日本の企業が持つ課題を是正しようとするのが働き方改革です。
例えば長時間労働をさせられるということは、労働者にとっても良くないことですし、それに甘えて経営努力をしない経営者にとっても良くないものです。こういった労働者も事業主もお互いに甘えてしまい、堕落することで生産性が低迷し、これが年功序列・終身雇用などの古い慣習に囚われる原因にもなっています。
よりよい社会実現のために
こういった問題を是正するべく、働き方改革の三本柱というものがあるのです。
長時間労働を是正することで、労働者は自らのスキルを磨く時間を得ることができて、企業は時間あたりの生産性を高めようと動きます。
同一労働同一賃金制度が導入されれば、優秀な人材は自由な働き方をできるようになり、逆に能力がないのに高給を得ている人材を是正することができます。さらに非正規契約でも豊かな生活が送れるようになれば、出生率の増加や介護や育児による生活の困窮を防ぐことができるかもしれません。
高度プロフェッショナル制度がうまく運用されれば、専門性の高い人材を海外に流出させず、日本の企業の発展につなげることができるかもしれません。
全ては、誰もが働きやすく、豊かな生活を送ることができるように……ひいては日本経済の発展のためにあるのが働き方改革なのです。