キャリアアップ助成金は、アルバイトやパートなどの非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を助成する制度です。

多くの企業が利用している制度ではありますが、申請前にまず自社の体制を整える必要があります。その一つとして欠かせないのが、就業規則です。自社の就業規則が、キャリアアップ助成金の求める要件に対応しているかどうかを確認しましょう。

この記事ではキャリアアップ助成金のうち正社員化コースを中心に、必要とされる就業規則の要件をわかりやすくまとめました。令和4年4月に改定された内容に対応できるようあわせて解説していますので、参考にしてください。
※令和5年11月29日に大幅な改定がありました。本記事の情報は11月29日以前の情報です。最新情報は、厚生労働省のホームページより、キャリアアップ助成金「正社員化コース」を拡充しました!2023年11月29日以降における変更点のご案内をご覧ください。

また、キャリアアップ助成金の基本的な情報が知りたいという方は、以下の記事もご覧ください。
関連記事:【2023年最新】キャリアアップ助成金とは?各コースを徹底解説

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キャリアアップ助成金に必要な「就業規則」とは

キャリアアップ助成金を申請するには、就業規則を作成し提出する必要があります。

就業規則とは

就業規則とは、職場内の労働者に関するルールのことです。具体的には、給与や労働時間、休日規定などの労働条件や労働者の規律などを定めています。

10名以上の従業員が在籍している場合には就業規則を作成し、所属する労働基準監督署に届けることが労働基準法に定められています。作成後は従業員に周知し、有効に機能させることが必要です。

また、10名未満の事業場であっても会社と従業員の義務や権利を確立するために、就業規則の作成が推奨されています。(キャリアアップ助成金の申請には、10名未満の事業場であっても就業規則の作成・提出が必要です。)

就業規則の提出が必要な理由

キャリアアップ助成金の受給に就業規則の提出が必要な理由は、キャリアアップ助成金の目的である「パート・アルバイト・派遣社員などの非正規雇用労働者のキャリアアップを促進する」ことにあります。

非正規雇用労働者のキャリアアップを促進する際に、対象となる非正規労働者の基準やキャリアアップの方法が記載されたものが就業規則なのです。たとえば、パート従業員を正社員に転換したい場合に「転換の条件は?」「転換の時期は?」「誰が転換を決定するのか?」などの要件を定めています。このため、就業規則がないと、キャリアアップ助成金の支給要件を満たす体制の構築ができません。

また、キャリアアップ助成金を申請した場合にも、就業規則が支給要件を満たしていることが前提となります。キャリアアップ助成金の申請を目指す場合には、就業規則の作成や変更を実施しましょう。

【令和4年4月】キャリアアップ助成金(正社員化コース)の改定内容

キャリアアップ助成金は、令和4年4月に制度の見直しがありました。改正内容を就業規則にも反映させることが必要です。ここでは、正社員化コースにおける改定内容を解説します。

無期雇用労働者への転換の助成を廃止

有期雇用労働者から無期雇用労働者への転換の助成が廃止されました。現在では、有期雇用労働者・無期雇用労働者のいずれも正規雇用労働者への変換のみ助成されます。

変更後の支給額は、以下のようになっています。

  • 有期→正規:1人あたり57万円
  • 無期→正規:1人あたり28万5,000円

賞与もしくは退職金、昇給の適用が必須に

正社員の定義が変更され、「賞与もしくは退職金の制度」と「昇給制度」のどちらも適用される正社員への転換が必要になりました。

キャリアアップ助成金を申請予定で、これらの制度の記載が就業規則にない場合には、明示する必要があります。実態に則った形で、支給・実施時期などの要件まで記載するようにしましょう。

非正規雇用労働者の定義の変更

非正規雇用労働者の定義が、以下のように変更されました。

改定前:6カ月以降雇用している有期雇用労働者もしくは無期雇用労働者
改定後:賃金の額もしくは給与の計算方法が、「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」の適用を6カ月以上受けて雇用されている有期雇用労働者もしくは無期雇用労働者

たとえば、契約社員と正社員で、異なる賃金規定(基本給や昇給幅の違い)などが適用されるケースが挙げられます。

より詳細な改定内容の変更については、以下の厚生労働省からのお知らせをご覧ください。
参考:厚生労働省「キャリアアップ助成金が変わります~ 令和4年4月1日以降 変更点の概要~」

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キャリアアップ助成金(正社員化コース)に対応した就業規則にするための必要事項と規定例

キャリアアップ助成金(正社員化コース)における就業規則の必要事項と、その規定例を紹介します。

労働者の区分の定義

就業規則に、労働者の区分を定義します。
正社員や契約社員、パート・アルバイトなど世間一般的な呼び方はありますが、就業規則において「どのような従業員を指すのか」を定めることが必要です。
「第○条(従業員の定義)
正社員……期間の定めのない雇用契約を締結する者であって、就業規則第○条に定める労働時間により就業する者。
パートタイマー……機関の定めのある雇用契約を締結する者であって……

適用範囲の条文において定義するか、労働者区分ごとに規則を作成して定義することが一般的です。記載例は、以下のようになります。
「第〇条(適用範囲)
この規則は、正社員に適用する。」

転換を実施するタイミングや手続き

正社員化コースにおいては、下記の転換における要件を記載することが求められます。

  • 転換における面接試験や筆記試験などの手続きの方法
  • 勤続年数、人事評価の結果、所属長の推薦などの客観的に確認可能な要件・基準
  • 転換や採用時期

記載例は、以下のようになります。
「第〇条(正規雇用への転換)

  1. 勤続〇年以上の者又は対象訓練修了者で、本人が希望する場合に、正規雇用に転換することがある。
  2. 転換時期は毎月最初の営業日とする。ただし、所属長が推薦した場合にはこの限りではない。
  3. 人事評価結果がB以上の評価を得ている者もしくは所属長の推薦がある者に、面接と試験を実施し、合格した場合に転換する。」

賞与、退職金、昇給

さきほど解説したとおり、賞与もしくは退職金、かつ昇給が適用されている正社員への転換が求められています。

記載例は、以下のようになります。
「第〇章(賃金)
第〇条(昇給)

  1. 昇給は、勤務成績その他が良好な労働者について、毎年〇月〇日をもって行うものとする。
  2. 顕著な業績が認められた労働者については、前項の規定にかかわらず昇給を行うことがある。
  3. 昇給額は、労働者の勤務成績等を考慮して各人ごとに決定する。

第〇条(賞与)
1.賞与は、原則として、以下の算定対象期間に在籍した労働者に対し、会社の業績等を勘案して支給日に支給する。

算定対象期間 支給日
〇月〇日から〇月〇日まで 〇月〇日
〇月〇日から〇月〇日まで 〇月〇日

ただし、会社の業績の著しい低下やその他やむを得ない事由により、支給時期を延期し、又は支給しないことがある。」

契約期間や試用期間

有期雇用労働者を正社員に転換する場合には、契約期間を定めましょう。

記載例は、以下のようになります。
「第〇条(労働契約の期間等)
会社は、有期労働契約の締結にあたり期間を定める場合には3年を限度とし、契約時に本人の希望を考慮のうえ個別に決定する。」

キャリアアップ助成金や厚生労働省のホームページに、就業規則の規定例やモデル就業規則も掲載されています。より詳しい内容を確認したい際はご覧ください。
参考:キャリアアップ助成金のご案内(令和5年度版)
参考:厚生労働省「モデル就業規則について」

キャリアアップ助成金(正社員化コース)に対応した就業規則は、いつまでに必要?

就業規則は、いつまでにキャリアアップ助成金の要件に対応させれば助成金の支給対象となるのでしょうか。というのも、実際に適用することが求められているため、就業規則を作成・変更するだけでは申請できません。

そのため、キャリアアップ助成金を受給するには、非正規雇用労働者に対して最低でも6カ月前から要件を満たす就業規則を適用している必要があります。たとえば、令和5年4月1日に非正規雇用労働者を正社員に転換する場合には、令和4年10月1日には要件を満たす就業規則を適用していなければなりません。

適用後は、就業規則に示されたとおりに賃金や賞与、労働時間などについて運用しましょう。就業規則とのズレが確認された場合、不支給になる可能性があります。

まとめ

キャリアアップ助成金は、企業内のキャリアアップを促進するために、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を実施する事業主を助成する制度です。

キャリアアップ助成金を受給するには、キャリアアップ助成金に対応した就業規則を作成・更新する必要があります。また、就業規則は、6カ月以上適用しなければなりません。そのため、自社の就業規則について確認し、必要であれば迅速な就業規則の変更が求められます。

自社の就業規則がキャリアアップに対応しているかどうかは、プロの助成金コンサルに確認することがおすすめです。これからキャリアアップ助成金の申請を検討される場合には、まず以下の無料相談を受けてみてはいかがでしょうか。
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黒沢晃
黒沢晃(助成金コンサルタント)
商社にて新卒採用の人事を担当した後、人材コンサルタントとして企業の人事戦略を支援。2016年から中小企業や個人事業主を対象として助成金を活用した経営サポートに従事。現在は年間100社以上をサポートする。