キャリアアップとは、「特定の分野について今よりもさらに専門的な知識や技術を身に付け、能力を向上させることにより経歴を高めること」を指します。多くの場合は、社会人が職務経歴を高め、今よりも良好な待遇や評価を得るための営みといえるでしょう。
自社の従業員のキャリアアップを支援する企業に対しては、厚生労働省から助成金が受け取れる場合があります。従業員が働きやすい職場環境を整備し、キャリアアップに応じた待遇へと改善させることに対して、助成金を通じて国がバックアップしているのです。
この記事では、キャリアアップ助成金とは何か、それぞれのコースや申請方法、申請時の注意点を解説します。
目次
キャリアアップ助成金とは
「キャリアアップ助成金」とは、パート・アルバイト・派遣社員など非正規雇用労働者を正社員として転換する、処遇を改善するなどの取り組みを実施した企業に対する助成金制度です。
キャリアアップ助成金の目的
キャリアアップ助成金の目的は、非正規雇用労働者の企業内におけるキャリアアップを促進することです。
キャリアアップを推進し労働者のモチベーション・能力を向上させることで、事業や業務の生産性を高め、優秀な人材確保につながります。そのため、多くの企業がキャリアアップ助成金を活用し、非正規雇用労働者のキャリアアップを推進しています。
キャリアアップ助成金は誰がもらえる?
キャリアアップ助成金の対象事業者について解説します。
助成対象となる事業主
キャリアアップ助成金の支給対象となる事業主は、下記に掲げる各コース共通の要件を満たす事業主で、個人事業主、公益法人や特定非営利活動法人(NPO法人)、医療法人、社会福祉法人なども含まれます。
- 雇用保険適用事業所の事業主
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の認定を受けた事業主
- 対象労働者の労働条件や勤務状況、賃金の支払い状況などに関する書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにできる事業主
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主
ただし、支給申請日の前日から過去1年間に労働関係法令の違反を行っていたり、暴力団と関係があったりすると、受給できません。自社が対象事業主に当てはまるのかどうかは、プロの助成金コンサルティング業者に確認することがおすすめです。
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助成対象外となる事業主
対象要件を満たしていても、以下のいずれかに該当するとキャリアアップ助成金を受給できません。必ず申請前に支給要件に該当するか確認しましょう。
- 支給申請した年度の前年度より前のいずれかの保険年度で、労働保険料を納入していない事業主
- 支給申請の前日から過去1年間に、労働関係法令を違反した事業主
- 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれらの営業の一部を受託する営業を行う事業主
- 暴力団と関わりのある事業主
- 暴力主義的破壊活動を行った、または行う恐れがある団体等に属している事業主
- 支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主
- 支給申請時または支給決定時に、雇用保険適用事業所の事業主でない事業主(雇用保険被保険者数が0人や事業所が廃止されている場合など)
「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!
助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説キャリアアップ助成金の種類一覧
従業員のキャリアアップをサポートする助成金は、以下の6つのコースに区分されています。それぞれの基本的な支給要件と助成額を解説します。詳細は助成金サポートまでご相談ください。
なお、短時間労働者労働時間延長コースは令和6年3月31日に廃止になっています。
正社員化コース
派遣労働者などの有期契約労働者や無期雇用労働者などの非正規雇用労働者を、正規雇用労働者に転換または直接雇用した会社に対して支給されるキャリアアップ助成金です。
正社員化コースは、令和5年11月29日に改定され、多くの企業が活用しやすいように拡充されています。
支給要件
事業者や労働者に要件が定められており、代表的な要件を抜粋しました。
- 就業規則に則って6カ月以上雇用した非正規雇用者を正社員として転換すること
- 正社員に転換した際に、転換前よりも3%以上賃金を引き上げること
- 正社員に転換後、6カ月以上継続して雇用すること
助成額
助成額は以下のとおりです。
企業規模 | 有期契約労働者 | 無期雇用労働者 |
---|---|---|
中小企業 | 80万円(40万円×2期) | 40万円(20万円×2期) |
大企業 | 60万円(30万円×2期) | 30万円(15万円×2期) |
また特定の措置を実施した場合、助成額に加算されます。
例えば、新しく正社員転換制度を規定し、1人目の労働者を転換した場合には中小企業は20万円(大企業は15万円)が加算されます。
なお、加算措置だった生産性要件は2023年3月31日で廃止されています。
令和5年11月に改定された正社員化コースの詳細は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:【2024年度】キャリアアップ助成金の正社員化コースをわかりやすく解説!
障害者正社員化コース
障害のある有期雇用労働者を、正規雇用労働者に転換した場合などに支給されるキャリアアップ助成金です。
支給要件
有期雇用から正規雇用、有期雇用から無期雇用、無期雇用から正規雇用のいずれかに転換することです。
助成額
対象者の診断結果や企業規模に応じて助成金額が異なります。
例えば、重度身体障害者・重度知的障害者・精神障害者を有期雇用している中小企業が、彼らを正社員として転換した場合には120万円(大企業の場合は90万円)が助成されます。
障害者正社員化コースの詳細は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:【2024最新】キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)を解説
賃金規定等改定コース
非正規雇用労働者の基本給などの賃金規定を改定し、増額した企業に対して助成されるキャリアアップ助成金です。
支給要件
有期雇用労働者などの基本給の賃金規定を3%以上増額改定し、6カ月以上にわたり待遇改善を継続することが条件となります。
助成額
助成額は以下のとおりです。
企業規模 | 賃金引上げ率 3%以上~5%未満 |
賃金引上げ率 5%以上 |
---|---|---|
中小企業 | 5万円 | 6万5,000円 |
大企業 | 3万3,000円 | 4万3,000円 |
また、職務評価の手法を活用し、賃金規定などを増額改定した場合には中小企業は20万円、大企業は15万円加算されます。
なお、加算措置だった生産性要件は2023年3月31日で廃止されました。
賃金規定等改定コースの詳細は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:【2024最新】キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)を解説
賃金規定等共通化コース
有期雇用労働者と正規雇用労働者に共通の賃金規定を新たに規定・適用した企業に対して助成されるキャリアアップ助成金です。
支給要件
このコースの場合も6カ月以上にわたり、待遇改善を継続することが必要です。
助成額
中小企業は60万円、大企業は45万円です。
賃金規定等共通化コースの詳細は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)
賞与・退職金制度導入コース
有期雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入し、支給または積立を実施した企業に対して助成されるキャリアアップ助成金です。
本来、パート・アルバイト・派遣社員にもボーナスや退職金の制度が適用されるべきにもかかわらず、そうなっていない世の中の実態を改善するために設けられています。
支給要件
このコースの場合も6カ月以上にわたり、待遇改善を継続することが必要です。
助成額
助成額は以下のとおりです。
なお、加算措置だった生産性要件は2023年3月31日で廃止されました。
企業規模 | 賞与もしくは 退職金制度を導入 |
賞与・退職金制度を 同時に導入 |
---|---|---|
中小企業 | 40万円 | 56万8,000円 |
大企業 | 30万円 | 42万6,000円 |
賞与・退職金制度導入コースの詳細は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:キャリアアップ助成金(賞与・退職金制度導入コース)
社会保険適用時処遇改善コース
雇用する短時間労働者に、以下のいずれかの取り組みを実施した場合に助成されるキャリアアップ助成金です。
- 【手当等支給メニュー】新たに社会保険の被保険者要件を満たし、その被保険者となった際に賃金総額を増加させる取り組み(手当支給・賃上げ・労働時間延長)を行った場合
- 【労働時間延長メニュー】週の所定労働時間を4時間以上延長するなどを実施したことで、当該労働者が社会保険の被保険者要件を満たし、その被保険者となった場合
支給要件
上記の取り組みを実施し、支給対象期の期間以上にわたって雇用と賃金の支払いを継続することです。
助成額
手当等支給メニューと労働時間延長メニューのいずれかを実施するかにより、以下のように助成額が異なります。
・手当等支給メニュー
企業規模 | 1年目の取り組み | 2年目の取り組み | 3年目の取り組み |
---|---|---|---|
中小企業 | 40万円(10万円×4期)※1期:6か月 | 10万円 | |
大企業 | 30万円(7.5万円×4期)※1期:6か月 | 7.5万円 |
・労働時間延長メニュー
企業規模 | 延長時間 | 4時間以上 | 3時間以上 4時間未満 |
2時間以上 3時間未満 |
1時間以上 2時間未満 |
---|---|---|---|---|---|
賃金引上げ率 | – | 5%以上 | 10%以上 | 15%以上 | |
中小企業 | 30万円 | ||||
大企業 | 22.5万円 |
労働時間の延長時間が4時間未満の場合、以下の表に記載の賃金引上げ率に応じて基本給を引き上げることが必要です。
社会保険適用時処遇改善コースの詳細は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:【2024最新】キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)を解説
キャリアアップ助成金の申請方法
一連のキャリアアップ助成金について、申請から受給までの方法を解説します。
1.キャリアアップ計画書の作成や就業規則などの改定
まずは、社内でキャリアアップを推進するために、社内体制を整備します。
申請するコースの要件をよく理解し、自社でどのようにキャリアアップに取り組んでいくか決めましょう。その際に重要になるのがキャリアアップ計画書と就業規則などの改定です。キャリアアップ管理者を決め、労働組合などの意見を聞き取った上で、キャリアアップ計画書を作成し、就業規則の改定に臨みましょう。
キャリアアップ計画書の作成方法は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:【記入例あり】キャリアアップ計画書とは?目的や作成方法、提出先までを解説
関連記事:【規定例あり】キャリアアップ助成金に対応した就業規則とは?必要事項を解説
2.キャリアアップ助成金の申請
各コース実施日の前日までにキャリアアップ計画書を提出します。
キャリアアップ計画届および支給申請に必要な様式は、厚生労働省のサイトからダウンロードできます。
計画届には、事業所名、代表者名、労働組合等の労働者代表者名などの基本情報の他、キャリアアップ計画期間、コースの選択、対象者名、目標、目標を達成するために講じる措置などの必要事項を記入し、申請します。
3.取り組みの実施
キャリアアップ計画書や就業規則などに定められたとおりに、取り組みを実施します。
正社員化コース・障害者正社員化コースの場合には、実際に非正規雇用者を正社員に転換し、賃金を3%以上上昇させた待遇改善の下、6カ月間雇用し続けることが必要です。
4.助成金の支給申請
取り組みを実施し、要件を満たしたなら、支給申請を行います。支給申請には期日があるので、申請書類を早めに準備しましょう。
正社員化コース・障害者正社員化コースの場合には、非正規雇用者を正社員に転換後6回目の給与支給日の翌日から2カ月以内に申請を行ってください。その他のコースについてもそれぞれに申請期間が定められています。
5.助成金の受取り
キャリアアップに関する取り組みの実態と労務管理の状況について審査されたのち、通過できれば支給決定となります。支給決定通知書が交付され、指定口座に助成金が振り込まれます。
キャリアアップ助成金を申請する際の注意点
ここでは、キャリアアップ助成金を申請する際の注意点を解説します。
取り組み以前での就業規則などへの記載が必要
就業規則や労働協約の改定が必要な場合には、正社員への転換・処遇改善のどちらにおいても取り組み前に行うことが必須です。就業規則は事業場ごとに作成し、管轄の労働基準監督署へ届出を行いましょう。
取り組み後に就業規則を変更しても、助成金の対象にはなりません。また各コースによってどのような変更が必要かは異なります。そのため、自社において就業規則の変更が必要かどうかわからない場合には、助成金コンサルタントに相談することがおすすめです。
また、以下に正社員化コースにおける就業規則への規定例を紹介していますので、参考にしてください。
関連記事:【規定例あり】キャリアアップ助成金に対応した就業規則とは?必要事項を解説
審査が厳しい
一時期キャリアアップ助成金の不正受給が増加したことで、審査基準が厳しくなっています。そのため、「自社は支給要件を満たした体制を築いていること」を、パンフレットに記載されている必要書類により証明することが必要です。ただし、予告なく実地調査が行われる場合もあるため、協力できるように準備しておきましょう。
キャリアアップ助成金の審査を通過するポイントは、以下の記事をご覧ください。
関連記事:キャリアアップ助成金の審査は厳しい?受給するためのポイントを解説
適切な労務管理が必要
キャリアアップ助成金の要件に、労働関係法令や社会保険関係法令を遵守していることが含まれています。そのため、そうした法令を遵守している証拠として賃金の支払いや雇用契約書、出勤簿、賃金台帳などを作成し、適切に管理することが必要です。
キャリアアップ助成金を不正受給した場合の罰則
残念ながら、キャリアアップ助成金を不正受給する事業主もあります。不正受給をすると、以下のようなペナルティが課されます。
- 助成金の返還
- 違約金・延滞金の支払い
- 事業者名や代表者名などの情報が公表される
- 5年間、雇用関係の助成金を受給できなくなる
- 刑事告発される可能性がある
要件を満たしていない場合に、「少しなら虚偽の内容を記載してもバレないだろう」と不正してしまうとその後の事業継続が危ぶまれる可能性さえあります。
以下の記事で、不正受給のペナルティや不正が発覚する理由などを解説しています。
関連記事:キャリアアップ助成金を不正受給するペナルティとは?不正が発覚する理由も解説
また、不正受給にならないよう、支給要件を以下の記事にあるチェックリストを活用して満たしていることを確認しましょう。
関連記事:【令和5年版対応】キャリアアップ助成金チェックリスト一覧!
まとめ
キャリアアップ助成金は、自社の従業員がスキルや知見を磨き上げて、得意分野でより輝ける活躍を続けていく将来をサポートします。
助成金の申請には十分な準備が必要です。「どのようにキャリアアップを推進すべきかアドバイスがほしい」、「キャリアアップ助成金の申請方法がわからない」などお悩みの際は、
まずは助成金のプロが行う無料相談を利用してみてはいかがでしょうか。
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