ダイバーシティ経営の推進が求められる現代において、企業が持続的に成長するために誰もが働きやすい環境づくりが不可欠です。その中でも、重度障がい者を雇用する際には業務におけるサポートだけでなく、通勤に伴う物理的・経済的なハードルの解消が重要です。

こうした企業に向けて、厚生労働省では「重度障害者等通勤対策助成金」を設けています。活用することで、自社にかかる負担を軽減しながら、重度障がい者の雇用を実現できます。

そこで、この記事では重度障害者等通勤対策助成金の概要や支給要件、助成額について解説します。

重度障害者等通勤対策助成金とは

重度障害者等通勤対策助成金とは、「通勤が特に困難と認められる障がい者を雇用し、通勤を容易にするための措置を行う事業主、もしくはそうした事業主が加入する事業主団体に対し、費用の一部を助成する制度」です。

重度障害者通勤対策助成金は、通勤を容易にするためのコースが8つ設けられています。

  1. 重度障害者等用住宅の賃借助成金
  2. 指導員の配置助成金
  3. 住宅手当の支払助成金
  4. 通勤用バスの購入助成金
  5. 通勤用バス運転従事者の委嘱助成金
  6. 通勤援助者の委嘱助成金
  7. 駐車場の賃借助成金
  8. 通勤用自動車の購入助成金

各コースの詳細は、のちほど詳しく解説します。

対象となる事業主

各コース共通の対象となる事業主の要件をまとめました。

  • 重度身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者、通勤が特に困難と認められる身体障がい者(重度障がい者など)を労働者として雇用するか、継続して雇用している事業主
  • 上記の重度障がい者などを雇用している事業主の加入する事業主団体

ただし、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に規定する就労継続支援A型事業所の場合、支給対象にならない場合があります。以下に、適否についてまとめました。

〇:支給対象 △:一部支給対象とならない ×:支給対象とならない

A型事業所の施設職員の場合 A型事業所と雇用契約のある利用者の場合
重度障害者等用住宅の賃借助成金
指導員の配置助成金
住宅手当の支払助成金
通勤用バスの購入助成金
通勤用バス運転従事者の委嘱助成金 △:送迎加算に関する届出書を提出している事業所は、支給対象とならない
通勤援助者の委嘱助成金 ×
駐車場の賃借助成金
通勤用自動車の購入助成金

対象となる障がい者

以下に、支給対象となる障がい者についてまとめました。

支給対象となる重度障がい者など
重度障害者等用住宅の賃借助成金
  • 重度身体障害者
  • 3級の視覚障害者
  • 3級または4級の下肢障害者
  • 3級の体幹機能障害者
  • 3級または4級の乳幼児期以前の非進行性の脳病変による移動機能障害者
  • 5級の下肢障害、5級の体幹機能障害および5級の乳幼児期以前の非進行性の脳病変による移動機能障害のいずれか 2つ以上の重複者
  • 知的障害者
  • 精神障害者
指導員の配置助成金
住宅手当の支払助成金
通勤用バスの購入助成金
通勤用バス運転従事者の委嘱助成金
通勤援助者の委嘱助成金
駐車場の賃借助成金
通勤用自動車の購入助成金
  • 2級以上の上肢障害者
  • 2級以上の乳幼児期以前の非進行性の脳病変による上肢機能障害者
  • 3級以上の体幹機能障害者
  • 3級以上の心臓、じん臓もしくは呼吸器またはぼうこうもしくは直腸、小腸、ヒト免疫不全ウィルスによる免疫もしくは肝臓の機能の障害のある方
  • 4級以上の下肢障害者
  • 4級以上の乳幼児期以前の非進行性の脳病変による移動機能障害者
  • 5級の下肢障害、5級の体幹機能障害および5級の乳幼児期以前の非進行性の脳病変による移動機能障害のいずれか2つ以上の重複者

参考:高齢・障害・求職者雇用支援機構「重度障害者等通勤対策助成金」

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重度障害者等通勤対策助成金の各コースの支給要件

重度障害者等通勤対策助成金の各コースの支給要件について解説します。

重度障害者等用住宅の賃借助成金

重度障害者等用住宅の賃貸助成金とは、「重度障がい者などを入居させるための特別な構造または設備を備えた住宅を賃借する事業主を助成する制度」です。

支給対象となる住宅の主な要件をまとめました。

  • 障がい特性に応じた特別の構造または設備を備えていること
  • 新規に賃借すること
  • 住宅から事業所までの移動時間が10分程度の距離であること
  • 徒歩または車いすなどで通勤できること
  • 対象障がい者が入居している住宅であること
  • 世帯用の場合、対象障がい者が配偶者・6親等以内の血族の方・3親等以内の姻族の方、その他で機構が認める方のいずれかと同居する住宅であること

指導員の配置助成金

指導員の配置助成金とは、「重度障がい者などが5人以上入居する住宅に指導員を配置する事業主を助成する制度」です。

支給対象となる指導員の業務は、当該住宅に入居した5人以上の支給対象障害者の通勤を容易にするための指導、援助であって、通勤が確実に行われるようにする日常的な健康管理、生活指導、援助等の業務を含みます。

また、支給対象となる指導員の人数は、住宅に入居する対象障がい者の人数に応じて以下のように異なります。

対象障がい者の人数 指導員の人数
5人以上9人以下 1人
10人以上19人以下 2人以下

※対象障がい者数が20人以上の場合、支給対象障がい者が10人増すごとに指導員を1人加えた人数が限度となる。

住宅手当の支払助成金

住宅手当の支払助成金とは、「重度障がい者などが自ら住宅を借り受け、賃料を支払っている場合に、その者に対して、重度障がい者など以外の労働者が住宅を借り受けた場合に通常支払われる住宅手当の限度額を超えて住宅手当を支給する事業主を助成する制度」です。

支給対象となる住宅もしくは住宅手当の主な要件をまとめました。

  • 対象障がい者が自ら通勤を容易とするために新規に住宅を賃借し、その賃料を支払っている住宅であること
  • 住宅から事業所までの移動時間が10分程度の距離であること
  • 徒歩または車いすなどで通勤できること
  • 移動環境において、対象障がい者の障害特性に配慮した住宅であること
  • 対象障がい者への住宅手当の限度額を超えた住宅手当の支払いを、就業規則などに定めたうえで実施していること
  • 対象障がい者の移転は、転入届または転居届に規定する届け出を行っていること

通勤用バスの購入助成金

通勤用バスの購入助成金とは、「通勤する5人以上の重度障害者などのために通勤用バスを購入する事業主を助成する制度」です。

支給対象の通勤用バスは、事業主が自らが所有し、対象障がい者以外の通勤、対象障がい者の私用や事業所の営業活動などの対象障がい者の通勤以外の用途に使用することは認められません。

通勤用バス運転従事者の委嘱助成金

通勤用バス運転従事者の委嘱助成金とは、「通勤する5人以上の重度障がい者などのために通勤用バスの運転に従事する者を委嘱する事業主を助成する制度」です。

通勤用バスは、事業主が所有または賃貸するものに限ります。また、通勤用バスの運転に従事する者の委嘱は、法人に対する委託は含まれません。

通勤援助者の委嘱助成金

通勤援助者の委嘱助成金とは、「重度障がい者などの通勤(公共交通機関を利用する通勤に限る)を容易にするための指導・援助などを行う通勤援助者を委嘱する事業主を助成する制度」です。

支給対象となる措置は、以下のいずれかに該当し、通勤を容易にするための指導・援助などを実施する場合です。

  • 対象となる障がい者を雇用した場合
  • 採用後に障がい者になった者が職場復帰する場合
  • 対象障がい者の障害の程度が重度化したことに伴い、通勤を容易にするための指導・援助などが必要となった場合
  • 人事異動・職務内容の変更、公共交通機関の廃止などに伴い、対象障がい者が通勤経路の変更を余儀なくされた場合
  • 対象障がい者の住居の転居に伴い、対象障がい者が通勤経路の変更を余儀なくされた場合
  • その他、機構が通勤援助者を委嘱し、対象障がい者の通勤を容易にするための指導・援助などを行うことが必要と認める場合

駐車場の賃借助成金

駐車場の賃借助成金とは、「自ら運転する自動車により通勤することが必要な重度障がい者などに使用させるために駐車場を賃借する事業主を助成する制度」です。

賃借する駐車場の主な要件をまとめました。

  • 新規に賃借する駐車場であること
  • 駐車場から事業所(または自宅)までの移動時間が10分程度の距離であること
  • 駐車場から事業所(または自宅)までの移動が、徒歩または車いすなどで通勤できること
  • 駐車場の構造や駐車場からの移動環境において、対象障がい者の障害の種類、程度を十分考慮した通勤環境で、かつ道路の路面外に設置されているものであること
  • 駐車する場所の指定(駐車区画)、駐車する自動車の指定(車種・車両ナンバーなど)が契約書などにより確認できること
  • 対象障がい者の通勤のために使用すること

通勤用自動車の購入助成金

通勤用自動車の購入助成金とは、「自ら運転する自動車により通勤することが必要な重度障がい者などのために通勤用自動車を購入する事業主を助成する制度」です。

購入する通勤用自動車の主な要件をまとめました。

  • 対象事業主自らが所有するものであること
  • 対象障がい者に使用させるための乗車定員5名以下の自動車であって、対象障がい者の障害の種類、程度に応じて、対象障がい者が自ら運転するために必要な構造または設備を備え、かつ通勤の用途に適した自動車であること
  • 道路運送車両法等に定める「小型自動車」および「軽自動車」
  • 対象障がい者の通勤のために使用すること

参考:高齢・障害・求職者雇用支援機構「重度障害者等通勤対策助成金」

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重度障害者等通勤対策助成金の助成率・助成限度額

コースごとの重度障害者等通勤対策助成金の助成率・助成限度額についてまとめました。

助成率 助成限度額
重度障害者等用住宅の賃借助成金 3/4
  • 世帯用月10万円
  • 単身者用月6万円
指導員の配置助成金 1人につき月15万円
住宅手当の支払助成金 1人につき月6万円
通勤用バスの購入助成金 1台700万円
通勤用バス運転従事者の委嘱助成金 委嘱1回6,000円
通勤援助者の委嘱助成金 委嘱1回2,000円
駐車場の賃借助成金 1人につき5万円
通勤用自動車の購入助成金 1台150万円
1級または2級の両上肢障害の場合、1台250万円

参考:高齢・障害・求職者雇用支援機構「重度障害者等通勤対策助成金」

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まとめ

この記事では重度障害者等通勤対策助成金の概要や支給要件、助成額について解説しました。

重度障がい者などの通勤にかかる負担を低減するためには、企業としての献身的な支援が必要な場合があります。そうした場合には、重度障害者等通勤対策助成金を活用することで、自社の負担を低減できるでしょう。

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黒沢晃
黒沢晃(助成金コンサルタント)
商社にて新卒採用の人事を担当した後、人材コンサルタントとして企業の人事戦略を支援。2016年から中小企業や個人事業主を対象として助成金を活用した経営サポートに従事。現在は年間100社以上をサポートする。