キャリアアップ助成金の正社員化コースは、2023年11月に閣議決定された令和5年度補正予算案によって、大幅に拡充されました。2024年以降、正社員化コースはより活用しやすい助成金として生まれ変わります。
しかし、「そもそも正社員化コースはどのようなコースなのか?」「拡充されてどのように変わるのか?」わからないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事ではキャリアアップ助成金の正社員化コースの概要や拡充内容をわかりやすく解説。また、支給要件や支給金額、申請の流れ、注意点についてもまとめています。
目次
キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは
キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは、非正規雇用労働者を正規雇用に転換した事業主を助成する制度です。
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者や無期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者などが対象となっており、以下の6つのコースがあります。
【正社員化支援】
- 正社員化コース
- 障害者正社員化コース
【処遇改善支援】
- 賃金規定等改定コース
- 賃金規定等共通化コース
- 賞与・退職金制度導入コース
- 短時間労働者労働時間延長コース
この記事では、多くの企業が人材確保や人材育成に役立てている正社員化コースについて取り扱います。
キャリアアップ助成金について知りたい方は、こちらをご覧ください。
参考記事:【2023年最新】キャリアアップ助成金とは?各コースを徹底解説
【令和5年11月改正】正社員化コースの4つの拡充点
令和5年11月にキャリアアップ助成金(正社員化コース)は4つのポイントで拡充されました。2023年11月29日以降に正社員化した場合には、拡充された内容が適用されます。
改定前に比べ、さらに活用しやすくなっているため、正社員化コースを検討している企業の方は確認しておくと良いでしょう。
1.助成額の見直し
今回の改正により、1人当たりの助成金の支給対象期間が、6か月→12か月に拡充されました。そのため、申請のタイミングも1期(6か月)から2期(12か月)に変更されています。
また、助成額も以下のように見直されています。
企業規模 | 有期雇用労働者→正社員 | 無期雇用労働者→正社員 | ||
---|---|---|---|---|
改定前 | 改定後 | 改定前 | 改定後 | |
中小企業 | 57万円 | 80万円 | 28万5,000円 | 40万円 |
大企業 | 42万7,500円 | 60万円 | 21万3,750円 | 30万円 |
改定前は、中小企業が有期→正規に転換した場合に、1期(6か月)で57万円が支給されました。一方、改定後には2期(12か月)で80万円(1期あたり40万円)となります。
また、1人目の労働者の転換時には、このあと解説する「3.正社員転換制度の規定に関する加算措置」と「4.多様な正社員制度規定に関する加算措置」が受けられます。
2.対象となる有期雇用労働者の要件緩和
正社員化コースの対象とすることができる有期雇用労働者の雇用期間に関する条件が以下のように緩和されました。
対象となる有期雇用労働者の雇用期間 | 改定前 | 改定後 |
---|---|---|
6か月以上3年以内 | 6か月以上 |
3年以上の長期にわたり自社で働く有期契約社員の正社員転換も対象となるため、企業にとって嬉しい要件緩和といえるでしょう。
ただし、有期雇用期間が通算5年を超えた有期雇用労働者は、「無期→正社員」に転換した場合と同額になります。
3.正社員転換制度の規定に関する加算措置
新たに正社員転換制度を規定し、制度を導入する事業主に対して加算措置が新設されました。
新たに正社員転換制度を規定し、制度に該当する雇用区分に転換した場合 | 加算額 |
---|---|
中小企業 | 20万円 (1人目を転換すると、助成額は合計100万円) |
大企業 | 15万円 (1人目を転換すると、助成額は合計75万円) |
また、「無期→正規」の転換制度を新たに規定した場合にも、同額が加算されます。
4.多様な正社員制度規定に関する加算措置
新たに多様な正社員(勤務地限定・職務限定・短時間正社員)制度を導入する事業主に対する加算額を増額します。
新たに多様な正社員に関する制度を規定し、該当する雇用区分に転換などした場合 | 加算額 | |
---|---|---|
改定前 | 改定後 | |
中小企業 | 9万5,000円 | 40万円 (1人目を転換すると、助成額は合計120万円) |
大企業 | 7万1,250円 | 30万円 (1人目を転換すると、助成額は合計90万円) |
1事業所当たり1回のみ加算されます。また、「無期→正規」の転換制度を新たに規定した場合にも、同額が加算されます。
参考:厚生労働省「キャリアアップ助成金「正社員化コース」を拡充しました!」
「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!
助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説キャリアアップ助成金(正社員化コース)の支給要件
改正された点を踏まえ、受給するための条件を解説します。
対象となる事業主
まず、全コース共通で対象となる以下の5つの要件を満たす必要があります。
- 雇用保険適用事業所の事業主
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を配置している事業主
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主
- 対象労働者の労働条件や勤務状況、賃金の支払い状況などを明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにできる事業主
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主
その他にも、正社員化コース独自の要件があります。
「有期雇用労働者・無期雇用労働者→正社員化」する場合、事業主は以下の13の要件を満たすことが必要です。ここでは、そのうち6つの要件を抜粋しています。
- 有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換する制度を、就業規則または労働協約その他これに準ずるものに規定している事業主
- 1.の制度の規定に基づき、雇用する有期雇用労働者等を正社員化した事業主であること
- 2.により正社員化された労働者を、正社員化後6か月以上の期間継続して雇用し、当該労働者に対して正社員化後6か月分の賃金を支給した事業主
- 多様な正社員への転換の場合にあっては、1.の制度の規定に基づき正社員化した日において、対象労働者以外に正規雇用労働者(多様な正社員を除く)を雇用していた事業主
- 支給申請日において当該制度を継続して運用している事業主
- 正社員化後6か月間の賃金を、正社員化前6か月間の賃金より3%以上増額させている事業主
また、「派遣労働者→正社員化」する場合にも14の要件を満たすことが必要です。
参考記事:【最新版】派遣社員の直接雇用におすすめ!キャリアアップ助成金について詳しく解説
対象となる労働者
助成金の対象となる労働者にも12の要件があります。ここではそのうち2つを抜粋します。
- 支給対象事業主に、賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等の適用を通算6か月以上受けて雇用される有期雇用労働者または無期雇用労働者
- 6か月以上の期間継続して派遣先の事業所その他派遣就業場所ごとの同一の組織単位における業務に従事している有期派遣労働者または無期派遣労働者
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の支給金額
改正点を踏まえ、支給金額をまとめました。支給金額がいくらになるのか知りたいという方は、参考にしてください。
支給金額
正社員化コースの支給金額は以下のとおりです。
企業規模 | 有期雇用労働者→正社員 | 無期雇用労働者→正社員 |
---|---|---|
改定後 | 改定後 | |
中小企業 | 80万円 | 40万円 |
大企業 | 60万円 | 30万円 |
加算額
労働者を正社員に転換した際に、以下の場合に支給金額に加算されます。
措置内容 | 有期雇用労働者 | 無期雇用労働者 |
---|---|---|
派遣労働者を派遣先で正社員として直接雇用する場合 | 28万5,000円 | |
対象者が母子家庭の母等または父子家庭の父の場合 | 9万5,000円 | 4万7,500円 |
人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化した場合 | 9万5,000円 | 4万7,500円 |
上記のうち、自発的職業能力開発訓練または定額制の訓練修了後に正社員化した場合 | 11万円 | 5万5,000円 |
「勤務地限定・職務限定・短時間正社員」制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換した場合 | 40万円 | 30万円 |
新たに多様な正社員に関する制度を規定し、該当する雇用区分に転換などした場合 | 20万円 | 15万円 |
参考:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和5年度版)」
参考:厚生労働省「キャリアアップ助成金「正社員化コース」を拡充しました!」
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の申請の流れ・申請書類
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の申請の流れ・申請書類を解説します。
申請の流れ
申請の流れを以下にまとめました。
- キャリアアップ計画の作成・提出
取り組みの実施日の前日までにキャリアアップ計画を作成し、管轄の労働局またはハローワークに提出します。 - 就業規則などの改定
正社員への転換規定がない場合には、就業規則を改定します。 - 正社員化の実施
就業規則などに基づき、非正規雇用労働者を正社員転換します。 - 正社員化後6か月の賃金を支払う
正社員化してから6か月間継続して雇用するとともに、転換前と比べて3%以上増額した賃金を支払います。 - 支給申請を行う
6か月間の賃金支払いが完了した翌日から2か月以内に支給申請を実施します。 - 助成金を受け取る
審査に通過すれば、助成金の受給となります。
計画の提出や支給申請は、窓口への持参、郵送、電子申請の3つの方法から選んで行うことが可能です。申請書類は、できる限り早めに準備しましょう。
申請書類
以下に、正社員化コースの申請書類をまとめました。
- キャリアアップ助成金支給申請書
- 正社員化コース内訳
- 正社員化コース対象労働者詳細
- 支給要件確認申立書
- 支払い方法・受取人住所届(雇用関係助成金をはじめて利用する場合のみ)
また他にも添付書類の提出も必要です。申請書類の詳細は、以下のチェックリストを活用してください。
関連記事:【令和5年版対応】キャリアアップ助成金チェックリスト一覧!
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の注意点
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の注意点を解説します。
賞与・昇給は原則義務付ける必要がある
キャリアアップ助成金(正社員化コース)では、正規雇用労働者の定義は「同一の事業所内の正規雇用労働者に適用される就業規則が適用されている労働者。ただし、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている者に限る。」と記載されています。
ただし、単に就業規則に記載すれば良いというわけではありません。例えば、以下のような記載では対象外となるため注意が必要です。いわゆる決算賞与は対象外となります。
- 「賞与は支給しない。ただし、業績によっては支給することがある。」
- 「賞与の支給は、会社業績による。」
試用期間を設けると、支給額が少なくなる
正社員への転換において試用期間を設けると、試用期間中は正社員とはみなされません。そのため、有期雇用からの転換ではなく無期雇用からの転換となり、支給額が少なくなります。
正社員としての適性や能力の有無は、非正規で雇用している間に判断することがおすすめです。
就業規則の適用時期に注意が必要
正社員への転換や賞与などに関する就業規則を改定した場合には、適用時期に注意しましょう。というのも、キャリアアップ助成金(正社員化コース)の場合には非正規雇用労働者を正社員転換する6か月以上前に修行規則などを変更する必要があるためです。
そのため、正社員化を始める6か月以上前から準備を始めなければなりません。早めに準備することを心がけましょう。
まとめ
この記事では、キャリアアップ助成金の正社員化コースを詳しく解説しました。
少子高齢化の深刻化により、企業は優秀な人材の獲得や社内の人材育成が急務といえます。その中で、キャリアアップ助成金の正社員化コースを活用することで、自社のキャリアアップにかかる負担を大きく軽減できるでしょう。
令和5年11月には、より活用しやすいように正社員化コースが拡充されています。助成金の活用を検討されている企業は、一度コンサルティング業者に取得について相談してみることがおすすめです。
特に、はじめて助成金を利用する場合には、プロのコンサルティング業者に申請サポートを依頼するとスムーズな手続きにつながります。まずプロのコンサルティング業者が行う無料診断を受けてみてはいかがでしょうか。