キャリアアップ助成金の正社員化コースは、2023年11月に閣議決定された令和5年度補正予算案によって、大幅に拡充されました。2024年以降、正社員化コースはより活用しやすい助成金として生まれ変わります。
しかし、「そもそも正社員化コースはどのようなコースなのか?」「拡充されてどのように変わるのか?」わからないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事ではキャリアアップ助成金の正社員化コースの概要や拡充内容をわかりやすく解説。また、支給要件や支給金額、申請の流れ、注意点についてもまとめています。
目次
キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは、パート・アルバイト・派遣社員など非正規雇用労働者に対し、「正社員として転換する」「処遇を改善する」などの取り組みを実施した企業に対する助成金制度です。
取り組み内容により、以下の6つのコースがあります。
正社員化を支援するコース | 処遇改善を支援するコース |
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【各コース共通】対象事業主の要件
今回解説する正社員化コースも含めた6つのコースすべてで共通となる事業主の要件をまとめました。
- 雇用保険適用事業所の事業主
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を配置している事業主
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主
- 対象労働者の労働条件や勤務状況、賃金の支払い状況などを明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにできる事業主
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主
中小企業事業主の範囲
キャリアアップ助成金における中小企業の範囲を以下にまとめました。
業種 | 資本金額・出資額の総額または常時雇用する労働者数 |
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小売業(飲食店を含む) | 資本金5,000万円以下または労働者50人以下 |
サービス業 | 資本金5,000万円以下または労働者100人以下 |
卸売業 | 資本金1億円以下または労働者100人以下 |
その他の業種 | 資本金3億円以下または労働者300人以下 |
キャリアアップ助成金について知りたい方は、こちらをご覧ください。
参考記事:【2023年最新】キャリアアップ助成金とは?各コースを徹底解説
キャリアアップ助成金(正社員化コース)における正規雇用労働者の定義
キャリアアップ助成金(正社員化コース)において、「正規雇用労働者」の認識が間違っていると、助成申請が通らない可能性があります。ここで、「正規雇用労働者」の定義について理解しましょう。
正規雇用労働者の定義 |
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同一の事業所内の正規雇用労働者に適用される就業規則が適用されている労働者。ただし、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている者に限る。 |
以下の点に、注意が必要です。
- 「賞与」における注意点
原則として不支給の場合や、賞与を支給することが明瞭でない場合は、支給対象外となります。
例えば、「賞与の支給は、会社業績による」(※いわゆる決算賞与は対象外。)という規定は対象外となります。 - 「昇給」における注意点
就業規則などに客観的な昇給基準に関する規定がなく、賃金の降給や賃金据え置きの規定がある場合は、対象外となります。ただし、客観的な昇給基準がある場合には、賃金改定の規定や降給の可能性のある規定を定めていても、支給対象となり得ます。
例えば、「会社が必要と判断した場合には、会社は、賃金の昇降給その他の改定を行う。」という客観的な判断基準がない場合には、対象外となります。
確実に助成金を受給するためには、こうした定義を理解したうえで、賞与や退職金、昇給に関する就業規則を整備することが必要です。
「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!
助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説キャリアアップ助成金(正社員化コース)の支給要件
改正された点を踏まえ、受給するための条件を解説します。
対象となる事業主
「有期雇用労働者・無期雇用労働者→正社員化」する場合における主な要件のみを、以下に抜粋しました。
1 | 有期雇用労働者等の正規雇用労働者への転換制度を就業規則または労働協約などに規定していること |
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2 | 1で規定した制度にもとづき、雇用する有期雇用労働者等を正社員化していること |
3 | 正社員化後6か月間の賃金を、正社員化前6か月間の賃金より3%以上増額させていること |
4 | 支給申請日において当該制度を継続して運用している事業主であること |
またこの他にも、「派遣労働者→正社員化」する場合にも14の要件を満たすことが必要です。
参考記事:【最新版】派遣社員の直接雇用におすすめ!キャリアアップ助成金について詳しく解説
各要件には詳細な注意点があるため、助成金コンサルに相談し、自社が要件に該当するかどうかを確認することがおすすめです。
対象となる労働者
助成金の対象となる労働者の主な要件をまとめました。
1 | 支給対象事業主に、賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則の適用を通算6か月以上受けて雇用される有期雇用労働者または無期雇用労働者 |
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2 | 正規雇用労働者として雇用することを前提に雇い入れられた有期雇用労働者等でないこと |
3 | 正社員化の前日から過去3年以内に親会社や子会社、関連会社などの密接な関係の事業主において正規雇用労働者として雇用されたことがないこと |
4 | 正社員化を行った適用事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族以外の者であること |
5 | 支給申請日において、正社員化後の雇用区分の状態が継続し、離職していない者であること |
6 | 支給申請日において、有期雇用労働者または無期雇用労働者への転換が予定されていない者であること |
7 | 正社員化後の雇用形態に定年制が適用される場合、正社員化日から定年までの期間が1年以上であること |
8 | 支給対象事業主または密接な関係の事業主の事業所において定年を迎えた者でないこと |
9 | 障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律施行規則に規定する就労継続支援A型の事業所における利用者以外の者であること |
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の支給金額
改正点を踏まえ、支給金額をまとめました。支給金額がいくらになるのか知りたいという方は、参考にしてください。
支給金額
正社員化コースの支給金額は以下のとおりです。
企業規模 | 有期雇用労働者→正社員 | 無期雇用労働者→正社員 |
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改定後 | 改定後 | |
中小企業 | 80万円 | 40万円 |
大企業 | 60万円 | 30万円 |
加算額
労働者を正社員に転換した際に、以下の場合に支給金額に加算されます。
措置内容 | 有期雇用労働者 | 無期雇用労働者 |
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派遣労働者を派遣先で正社員として直接雇用する場合 | 28万5,000円 | |
対象者が母子家庭の母等または父子家庭の父の場合 | 9万5,000円 | 4万7,500円 |
人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化した場合 | 9万5,000円 | 4万7,500円 |
上記のうち、自発的職業能力開発訓練または定額制の訓練修了後に正社員化した場合 | 11万円 | 5万5,000円 |
「勤務地限定・職務限定・短時間正社員」制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換した場合 | 40万円 | 30万円 |
新たに多様な正社員に関する制度を規定し、該当する雇用区分に転換などした場合 | 20万円 | 15万円 |
参考:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和5年度版)」
参考:厚生労働省「キャリアアップ助成金「正社員化コース」を拡充しました!」
【令和5年11月改正】正社員化コースの4つの拡充点
令和5年11月にキャリアアップ助成金(正社員化コース)は4つのポイントで拡充されました。2023年11月29日以降に正社員化した場合には、拡充された内容が適用されます。
改定前に比べ、さらに活用しやすくなっているため、正社員化コースを検討している企業の方は確認しておくと良いでしょう。
拡充内容 | 概要 |
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助成額の見直し | 「有期雇用労働者→正社員」の場合の助成額:57万円→80万円に拡充 「無期雇用労働者→正社員」の場合の助成額:28万5,000円→40万円に拡充 ※金額はいずれも中小企業の場合 |
有期雇用労働者の要件緩和 | 対象となる有期雇用労働者の雇用期間:6か月以上3年以内→6か月以上に緩和 |
加算措置の新設 | 新たに正社員転換制度を規定し、制度に該当する雇用区分に転換した場合:20万円(1人目を転換すると、助成額は合計100万円) ※金額は中小企業の場合 |
加算措置の拡充 | 正社員制度規定に、勤務地限定・職務限定・短時間正社員制度を新たに導入する事業主に対する加算額:9万5,000円→40万円(1人目を転換すると、助成額は合計120万円)に増額 |
参照:厚生労働省「キャリアアップ助成金「正社員化コース」を拡充しました!」
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の申請の流れ・申請書類
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の申請の流れ・申請書類を解説します。
申請の流れ
申請の流れを以下にまとめました。
- キャリアアップ計画の作成・提出
取り組みの実施日の前日までにキャリアアップ計画を作成し、管轄の労働局またはハローワークに提出します。 - 就業規則などの改定
正社員への転換規定がない場合には、就業規則を改定します。 - 正社員化の実施
就業規則などに基づき、非正規雇用労働者を正社員転換します。 - 正社員化後6か月の賃金を支払う
正社員化してから6か月間継続して雇用するとともに、転換前と比べて3%以上増額した賃金を支払います。 - 支給申請を行う
6か月間の賃金支払いが完了した翌日から2か月以内に支給申請を実施します。 - 助成金を受け取る
審査に通過すれば、助成金の受給となります。
計画の提出や支給申請は、窓口への持参、郵送、電子申請の3つの方法から選んで行うことが可能です。申請書類は、できる限り早めに準備しましょう。
申請書類
以下に、正社員化コースの申請書類をまとめました。
- キャリアアップ助成金支給申請書
- 正社員化コース内訳
- 正社員化コース対象労働者詳細
- 支給要件確認申立書
- 支払い方法・受取人住所届(雇用関係助成金をはじめて利用する場合のみ)
また他にも添付書類の提出も必要です。申請書類の詳細は、以下のチェックリストを活用してください。
関連記事:【令和5年版対応】キャリアアップ助成金チェックリスト一覧!
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の注意点
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の注意点を解説します。
試用期間を設けると、支給額が少なくなる
正社員への転換において試用期間を設けると、試用期間中は正社員とはみなされません。そのため、有期雇用からの転換ではなく無期雇用からの転換となり、支給額が少なくなります。
正社員としての適性や能力の有無は、非正規で雇用している間に判断することがおすすめです。
就業規則の適用時期に注意が必要
正社員への転換や賞与などに関する就業規則を改定した場合には、適用時期に注意しましょう。というのも、キャリアアップ助成金(正社員化コース)の場合には非正規雇用労働者を正社員転換する6か月以上前に就業規則などを変更する必要があるためです。
そのため、正社員化を始める6か月以上前から準備を始めなければなりません。早めに準備することを心がけましょう。
まとめ
この記事では、キャリアアップ助成金の正社員化コースを詳しく解説しました。
少子高齢化の深刻化により、企業は優秀な人材の獲得や社内の人材育成が急務といえます。その中で、キャリアアップ助成金の正社員化コースを活用することで、自社のキャリアアップにかかる負担を大きく軽減できるでしょう。
令和5年11月には、より活用しやすいように正社員化コースが拡充されています。助成金の活用を検討されている企業は、一度コンサルティング業者に取得について相談してみることがおすすめです。
特に、はじめて助成金を利用する場合には、プロのコンサルティング業者に申請サポートを依頼するとスムーズな手続きにつながります。まずプロのコンサルティング業者が行う無料診断を受けてみてはいかがでしょうか。