キャリアアップ助成金は助成金の中でも特に人気の高いものです。そんなキャリアアップ助成金は、どのようなときに申請するもので、どのような活用方法があるのでしょうか?
目次
キャリアアップ助成金とは?
キャリアアップ助成金とは、労働者の意欲、能力を改善させ、事業の生産性を高め、優秀な人材を確保するために企業が取り組む活動の一部の金額を助成するというものです。
厚生労働省のパンフレットでは、キャリアアップ助成金は以下のように定義されています。
「キャリアアップ助成金」は、有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップなどを促進するため、正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度です。
キャリアアップ助成金のご案内 – 厚生労働省
キャリアアップ助成金は7つのコースに分かれていますので、それぞれ簡単にご紹介していきたいと思います。
1.正社員化コース
アルバイトやパートタイム労働者のような有期契約労働者を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した場合に一人あたり最大720,000円が支給されるコースです。
頑張ってくれているアルバイトが安定した生活を送れるように正規雇用してあげたい、でもうちの会社にそんな余裕がない……そんなときに活用されるのが正社員化コースです。
このコースには3パターンが考えられます。一つは無期契約をしている非正規社員を正規社員に転換するパターン、一つは有期契約をしているアルバイトを無期契約に転換するパターン、もう一つは有期契約をしているアルバイトを正規社員に転換するコースです。このパターンによって助成額は異なりますが、無期契約から有期契約に転換するだけで285,000円が助成されます。
2.賃金規定等改定コース
すべての社員または雇用形態別や職種別など一部の有期契約労働者等の基本給の賃金規定等を2%以上増額改定し、昇給させた場合に最大285,000円が支給されるコースです。
また、賃金改定によって社員の労働生産性が向上した場合、追加で65,000円が助成されます。
3.健康診断制度コース
有期契約労働者等を対象とする法律で定められている範囲外の健康診断をを新たに規定し、延べ4人以上実施した場合380,000円が助成されるコースです。
例えばこれまでの健康診断に加えて新たに歯科検診を健康診断を受けさせる場合などに活用することができます。また、これによって生産性の向上が認められた場合、追加で10万円が助成されます。
4.賃金規定等共通化コース
雇用する有期契約労働者等に関して、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した場合に570,000円が助成されます。
アルバイトなのに正社員クラスの職務をこなしている、労働契約が違うだけで不公平だ――そんなときに申請する助成金です。また、生産性の向上が認められれば追加で150,000円が助成されます。
5.諸手当制度共通化コース
雇用する有期契約労働者等に関して、正規雇用労働者と共通の諸手当に関する制度を新たに設け、適用した場合に380,000円助成します。
非正規社員にもボーナスを与えたり、家賃補助を与える場合に申請するコースです。これによって生産性の向上が認められた場合、追加で100,000円が支給されます。
6.選択的適用拡大導入時処遇改善コース
社会保険の適用拡大の措置を実施する事業主が、雇用する有期契約労働者等について、新たに被保険者とし、有期契約労働者等の基本給を増額した場合に30名を上限として1人あたり95,000円が助成されます。
これによって労働者の生産性向上が見られる場合、追加で一人あたり最大25,000円が支給されます。
7.短時間労働者労働時間延長コース
雇用する有期契約労働者等について、週所定労働時間を5時間以上延長または労働者の手取り収入が減少しないように週所定労働時間を1時間以上5時間未満延長し、新たに社会保険に適用させることに加えて賃金規定等改定コースまたは選択的適用拡大導入時処遇改善コースを実施した場合に助成します。
短時間労働者の週所定労働時間を5時間以上延長し新たに社会保険に適用した場合、15人を上限として一人あたり190,000円が助成されます。また、生産性の向上が見られる場合に追加で一人あたり50,000円が助成されます。
キャリアアップ助成金の活用方法3選
さて、上記を踏まえて、具体的にどのように活用すれば良いのかを以下で解説していきたいと思います。
優秀な派遣社員を逃したくないとき
非正規労働とは企業側も簡単に解雇することができますが、逆もまた然りです。今の職場環境よりも労働条件が良いところがあれば簡単に移ることができます。
このため、正社員以上に大切にしなければ簡単に見切りを付けられてしまいます。――しかし、会社としてもできるだけ今の労働条件を保ったまま運営していきたい…そんなときにキャリアアップ助成金が活用できます。
特に能力の高い派遣社員はすぐに他の企業に取られてしまいますから、「ずっとうちで働いて欲しい」と思ったら吉日です。正社員化コースは、派遣労働社員を雇い入れることでも申請することができます。
さらに正社員登用したことで派遣労働者がやる気を出してくれて、生産性が向上すれば助成金も増額しますから、一石二鳥というわけです。
労働者の生活をよくしてあげたい時
「派遣のAさん、いつも頑張ってくれているからもう本当はもっと還元してあげたい」そんなことを考えている経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
制社員登用は厳しくても社会保険に加入させてあげたりするだけで、かなり生活は楽になるはずです。例えば、給与を少しでも上げてあげれば少し楽になるはずです。
雇用する側にも労働環境改善に意欲があって、労働者側も良い生活がしたい(誰もが思っていることでしょうが)という気持ちがあるのであればキャリアアップ助成金を活用しましょう。
労働生産性を高めたい時
皆さんはモチベーション理論という経営学のセオリーについてご存知でしょうか。
モチベーション理論とは、テイラーの『科学的管理法』に始まった実践的な経営学の理論のことですが、今日に至るまで様々な研究がされてきました。
この中で、今でも様々な企業が取り入れている理論として、ハーズバーグが提唱した『二要因理論』というものがあります。
ハーズバーグは、労働者のモチベーションを決定づけるものは、大きく分けて2つの要因があるということを提唱しました。一つは仕事の内容からもたらさられる満足感(動機づけ要因)、もう一つは仕事の環境からもたらされる不満(衛生要因)だと言うのです。
動機づけ要因とは、「やりがいがある」とか、「責任感がある」とか「褒められる」ことでプラスに働く要因のことです。動機づけ要因はプラス方向に働いてもマイナス方向に働くことはほとんどないとされています。例えば、「責任感がないから仕事をやめたい」とか「褒めてくれないから仕事をやめます」とはならないですよね?
一方で、衛生要因はプラス方向に働くことは少なく、逆にマイナス方向に働きます。要するにモチベーションの低下につながるものです。衛生要因には例えば、賃金や対人関係、作業条件などが当てはまります。「給与があまりにも能力に見合っていないから仕事をやめます。」とか「作業環境が劣悪なので、仕事を辞めます」というのはなんとなく納得できます。
二要因理論によると、労働者のモチベーションを保つためには「2つの要因をバランスよく保ち労働者がプラスに感じてもらえるようにする必要がある」ということになります。
例えばですが、労働者は以下のようなことを考えます。
結果として-1になってしまっているため、Aさんはモチベーションが低下してしまい、仕事をやめようと考えたのです。
会社としては、Aさんの残業時間を減らして、給与を上げたり、Aさんが作業しやすい環境を整えてあげる必要がありますね。そうすることで、Aさんはやる気を出してくれて生産性を高めてくれるかもしれません。
この二要因理論が完全無欠に正しいというわけではなく、本当はもっと複雑なことを考えているものですが、賃金や労働環境を整えることで生産性が上がるということは学問でも言われていることだということがご理解いただけたかと思います。
経営学や社会学というものは、「考えてみれば当たり前のことを科学する学問」ですので、難しいものではありません。近年はより実践的にどのように労働者はやる気を出すかということが長年研究されています。興味がある人は調べてみてください。