中小企業退職金共済制度は、従業員の退職金準備に特化した制度です。独自では退職金制度を整備するのが困難な個人事業主でも、退職金の原資をつくることができ、福利厚生に役立ちます。中退共は加入手続きがかんたんな上、退職金が直接従業員に支払われるため事務処理が容易で、リスクもありません。しかし、その仕組みを知らないと、損をする可能性もあります。ここでは中退共を活用するための基礎知識と、受給金額について解説していきます。

中小企業退職金共済制度(中退共)とは

中小企業退職金共済制度(中退共)は、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する、中小企業の退職金対策をサポートする制度です。
企業が従業員一人一人に対して定額の掛金を納め、その一部を国が助成します。臨時雇用など一部の例外を除き、従業員全員加入が原則です。掛金はフルタイム従業員の場合は、5,000円から3万円の間で選択ができ、勤続年数によってはまとまった退職金が受け取れます。

退職時には退職する従業員の請求に従って、中退共から直接退職金が支払われます。

中小企業退職金共済制度(中退共)のメリット

  • 新規加入で助成が受けられる
  • 会社の業績に応じて増額ができ、助成の対象となる
  • 掛金が非課税になる
  • 24ヵ月以上の勤務で掛け金を上回る積立ができる
  • 退職金支払い時のリスクがない
  • 従業員が退職金を受け取る時は「退職所得」として扱われ、所得税の負担が軽くなる
  • 短時間労働の従業員には特例掛金月額が適用でき、掛金が抑えられる

助成対象の期間では掛金から助成額が控除され、出費を抑えることができます。また、掛金は法人企業では損金扱い、個人事業では必要経費として全額非課税となり、税負担がありません。
従業員の退職時には直接中退共から退職金が支払われるため、事業所のキャッシュフローに与えるリスクはまったくありません。1週間の労働時間が30時間未満の従業員については、掛金が2,000~4,000円の特例掛金月額を選ぶことが可能です。

中小企業退職金共済制度(中退共)のデメリット

  • 掛金の減額が難しい
  • 支払われた掛金は返金されない
  • 勤務期間が24ヵ月以上でないとマイナスになる
  • 懲戒解雇でも退職金が支払われる
  • 勤続年数が少ないと死亡保障としては不足

設定された掛金の減額は、従業員全員の合意と厚生労働大臣の認定が必要となるため、現実的には難しいといえます。また12ヵ月未満で退職した場合、退職金は支払われませんが、一度納めた掛金は1円も戻されません。24ヵ月以上勤続しなければ、掛金を超える金額に達しません。事業者側の理由を問わず退職金が支払われるため、懲戒解雇された従業員も受け取りが可能です。万が一従業員が死亡した場合には、遺族に対する「死亡退職金」となりますが、勤続年数が短いと金額的に不足する恐れがあります。

中小企業退職金共済制度(中退共)の種類

<中小企業退職金共済制度(中退共)の種類>
■新規加入掛金助成
初めて中退共を活用する事業主に対しては、加入4ヵ月後から1年間、掛金が助成されます。

■掛金月額変更掛金助成
従業員に対しての月額掛金を増額する場合、増額する月から1年間、掛金が助成されます。

新規加入掛金助成の受給要件と受給額

新規加入掛金助成を申請するにあたり、次の2点が要件として挙げられます。

  • 中小事業主であること
  • 初めて中退共制度に加入する事業主であること

また、以下に該当しているときは対象外となります。

  • 同居の親族のみを雇用する事業主
  • 社会福祉施設職員等共済制度に加入している事業主
  • 適格退職年金制度から移行してきた事業主
  • 存続厚生年金基金(解散存続厚生年金基金)から移行の希望を申し出た事業主

助成される金額は、各従業員の月額掛金の1/2が、5,000円を上限として控除されます。
また、1週間あたりの労働時間が30時間未満の特例掛金月額の従業員については、掛金2,000円では300円、3,000円では400円、4,000円では500円がそれぞれ上乗せされた額で控除されます。

掛金月額変更掛金助成の受給要件と受給額

掛金月額変更掛金助成を受給するにあたっては、中退共制度に既に加入している事業主であることが条件となりますが、同居の親族のみを従業員として雇用する事業主は利用できません。

助成の対象となるのは、月額18,000円以下の従業員の掛金を増額変更する場合に限られ、20,000円以上の月額掛金からの増額は助成の対象外です。
助成金額は、増額後の掛金から増額前の掛金を差し引いた、差額の1/3です。助成金は、金融機関への払い込み分から控除されます。

月額変更助成期間中に再度の増額変更があったときには、新規分が有効となり前回分は無効になります。この場合には、過去の払い込み掛金の中でもっとも高い金額が増額前と見なされ、増額後との差額が計算されます。

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まとめ

退職金制度は福利厚生の充実をアピールでき、雇用対策にも効果的です。中小企業退職金共済制度は、資金力の乏しい事業所にとって心強い制度といえます。一方で従業員の入れ替わりが激しく、勤続年数が短くなりがちな場合には、掛金以上の戻りが取れず、マイナスとなりかねません。中退共の利用条件を良く確認し、活用効果について検討することが大切です。これから加入を考えている場合には、新規加入掛金助成をうまく利用して負担を軽減しながら、退職金制度整備の実現を目指していけるでしょう。

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黒沢晃
黒沢晃(助成金コンサルタント)
商社にて新卒採用の人事を担当した後、人材コンサルタントとして企業の人事戦略を支援。2016年から中小企業や個人事業主を対象として助成金を活用した経営サポートに従事。現在は年間100社以上をサポートする。