仕事に就くのは比較的簡単でも、長く続けることは難しいものです。その仕事が労働者の能力や興味関心に合致した内容かどうか、給料や福利厚生などの条件、そして同僚や管理者を含む職場環境といった要素が絡み合っているからです。

今回は雇用後の労働者の職場定着をはかるための環境作りに活用できる、「職場定着支援助成金」について見ていきましょう。

この制度は当初、保育や介護などが重点分野でしたが、 平成28年4月1日から保育・介護関連以外の事業主も助成金の受給対象となりました。

職場定着支援助成金の概要

職場定着支援助成金とは、 従業員の離職率の低下に取り組む事業主を対象とした助成金です。この制度は、雇用管理の改善を推進することで、魅力的な職場づくりをはかり労働者の定着と確保を目指すことを目的としています。この助成金の制度は雇用管理の改善を行う事業主に助成を行う「個別企業助成コース」と事業者の組合などに助成を行う「中小企業団体助成コース」の2つがあります。今回は、個別の事業者に対する個別企業助成コースの中身をみていきましょう。

個別企業助成コースの助成対象には 「雇用管理制度助成」「介護福祉機器等助成」「介護労働者雇用管理制度助成」そして「保育労働者雇用管理制度助成」の4種類があります(※1)。

雇用管理制度助成とは?

まずは「雇用管理制度助成金」についてみていきましょう。これは、労働者を雇用する企業が、評価・処遇制度、研修制度、健康づくり制度、メンター制度、短期間正社員制度の5つの中から、新たに雇用管理制度を導入や実施した場合に制度導入の助成を行うというものです。新設した雇用管理制度を適切に運用した結果、従業員の離職率が低下した場合には目標達成助成が別途支給されます。金額は、制度導入後に10万円、目標達成後に60万円となっています。複数の制度を導入しても金額は変わりません。

次に各種制度の導入助成を受けるための要件を確認していきましょう。 要件はいずれかではなく、すべてを満たすことが求められているので注意が必要です。

評価・処遇制度については、評価・処遇制度の導入後に賃金の総額が低下していないこと、合理的な条件で事業主の費用負担が就業規則に記載されていること、手当を新たに新設する場合には基本給を減額するものでないこと、そして退職金制度を導入する場合には、勤続年数に応じて退職金が支給される制度であることなどの要件が満たされていなければなりません。

研修制度については、1人10時間以上の研修を受けさせること、入学金や教材費を含んだ研修の受講料や研修を受ける期間中の賃金・研修場所までの交通費は事業主が全額負担する制度を就業規則に記載すること、集合研修である新入社員研修や管理職研修を作ることなどの要件があります。

健康づくり制度は、人間ドック、生活習慣病予防検診、腰痛健康診断のうちいずれかの法定健康診断以外の健康づくりを新たに制度化することが定められているものです。健康診断にかかる費用の半額以上を事業主が負担すること、制度の条件や事業主の負担費用分が労働協約や就業規則に明記されていること、そして労働者が健診を受けるために必要な配慮を行うことを事業主に求めています。

メンター制度の導入は、労働者のキャリア形成に関する課題や職場の問題解決を支援するための措置が目的です。先輩が後輩をサポートする制度であること、メンターに民間が実施する研修や養成講座を受講させること、その研修費用は事業主が負担すること、面談方式のメンタリングを労働者に実施すること、制度の条件や事業主の費用負担について労働協約や就業規則に明記することなどが規定されています。

そして保育事業者にのみ短時間正社員制度があります。短時間正社員はフルタイム正社員の労働時間に比べて短いことが必要です。

各助成要件の詳細については、実際に厚生労働省の案内を確認してください。

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介護福祉機器等助成金とは?

介護事業者が介護に従事する労働者の体の負担を軽減するために、新たな介護福祉機器を導入し適切な運用を行ったことで労働環境の改善が認められた場合に、導入費用の半額(上限300万円)を支給するものです。対象の介護福祉機器は、移動・昇降用リフト、自動車用車いすリフト、エアーマット、特殊浴槽、ストレッチャー、自動排泄処理機、そして車椅子体重計となっています。1品につき10万円以上のものを導入した場合に助成を受けられます。計画に基づいて、機器を導入・運用した後、一定の導入効果が得られたと認められなければ助成金の支給はされません。

介護福祉機器の導入や運用の効果を把握することや、機器のメンテナンス、雇用管理責任者を選任していることも必要です。

介護労働者雇用管理制度助成とは?

介護事業者が、介護に従事する労働者を職場に定着させるために 職務や職責、職能、資格、勤続年数などに応じた賃金制度の整備を行った場合に、50万円が支給されるものです。雇用する労働者全員について適用する必要があります。目標達成助成は2回の評価時離職率ポイントによって支給決定されます。助成金支給額は1回目の達成時に60万円、2回目の達成時に90万円です。

注意する点としては、離職率の低下ポイントは事業者の規模によって定められていますが 計画時より評価時の離職率が目標のポイントまで低下しただけでは目標達成助成を受けられないということです。具体的には、1回目の評価時での離職率は30%以下、2回目の評価時には20%以下になっていることが求められています。

仮に、計画時の離職率が40%で評価時に31%だった場合、低下ポイントは目標値を達成しているものの、30%以下にするという目標が達成できていないため、目標達成助成を受けることはできません(※2)。

保育労働者雇用管理制度助成金とは?

保育事業者が、保育に従事する従業員を職場に定着させるため、職務、職責、職能、資格、勤続年数等に応じて賃金制度の整備を行った場合に50万円、離職率の低下効果がみられたときに追加の助成があります。基本的な考え方は、先の介護労働者雇用管理制度助成と同じです。

これまでに紹介した制度はすべて、 事前に3カ月以上1年以内の期間での計画をすることが必要です。定められた期間内に計画書を提出し、労働局長の認定を受けなければなりません。制度の導入や、導入後の効果測定を行った後、計画期間終了後2カ月以内に申請書を労働局に提出することによって助成金が支給されます。

おわりに

職場定着支援助成金は平成28年4月1日より特定の業種だけではなくどの業種でも取り組むことができるようになりました。さまざまな種類がある助成金のなかでも比較的申がしやすく、これから雇用管理制度を導入して従業員を定着させたいと考えている経営者の方に是非受取って頂きたい助成金です。

支給額は制度一つあたり数十万円と事業の大きな助けになると思いますので、今後の経営に活用して頂けましたら幸いです。

制度の導入や、助成金の計画書・申請書の作成方法で分からないことがあれば最寄りの労働局や助成金代行業者に相談をしてみてみましょう。

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黒沢晃
黒沢晃(助成金コンサルタント)
商社にて新卒採用の人事を担当した後、人材コンサルタントとして企業の人事戦略を支援。2016年から中小企業や個人事業主を対象として助成金を活用した経営サポートに従事。現在は年間100社以上をサポートする。