2019年4月から、ついに働き方改革関連法が施行されます。この働き方改革関連法は労働基準法や労働契約法などを含む8つの法律のことを指しますが、強制的に適用されるものなのでしょうか。

強制のものと強制のものでないものがある

そもそもですが、働き方改革関連法とは、以下、8つの改正法律のことです。

  1. 労働基準法
  2. 労働安全衛生法
  3. 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
  4. じん肺法
  5. 雇用対策法
  6. 労働契約法
  7. 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
  8. 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

この中には、特定の事業者にしか関係のないものもありますね。例えば、じん肺法というのは、粉じん作業に従事する労働者にしか関係のないものです。

一方で、労働基準法や労働契約法については人を雇用する事業主であれば全て関係のある法律です。パートやアルバイトを雇用している場合は短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律も対象となりますね。

つまり全く何もしなくて良い事業者もいれば早急に対応しなければいるということです。その上で「働き方改革関連法は強制か? 」という疑問に答えるなら、強制のものもあるが、強制でないものもあるという答えになります。

つまり複数ある改正の中には、義務となるものと義務でないものがあるということです。以下では、これらを切り分けて、特に注意しておきたい一部の改正についてご紹介していきたいと思います。

義務となる改正

義務となる改正では、違反すれば懲役刑や罰金の対象となります。法令を遵守できない企業というのは取引先からの信頼も損ねてしまいますので、注意しましょう。

残業時間の上限規制

最初に気をつけておきたいのは、労働基準法の改正によって労働時間に「いかなる理由があっても超えてはならない上限」が設けられたということです。

これまでは三六協定を締結し、労働基準監督署に届け出を行っていれば上限なく時間外労働をさせることが可能でしたね。——しかし、2019年4月以降は年間720時間、月100時間、複数月平均80時間という上限を超えてはならないということになりました。特に気をつけておきたいのは複数月平均80時間という上限です。

例えばある月の残業時間が90時間になったとします。すると、次の月の時間外労働は70時間以内に抑えなければならなくなります。時間外労働が恒常的に行われている職場では、知らぬ間に上限を超えていたなんてことも考えられます。注意しましょう。

なお、この労働基準法の改正については、中小企業は1年間の猶予が与えられており、2020年4月から適用されます。

5日以上の年次有給休暇の取得

これまで取得までは義務化されていなかった有給休暇の取得が義務化されました。対象となるのは、年次有給休暇が10日以上付与される労働者で、労働者が自主的に有給休暇を消化しない場合は事業者が強制的に取得させる必要があります。

また、労働者ごとに「年次有給休暇管理簿」というものを作成することも義務になります。この制度は2019年4月から大企業も中小企業も適用されます。もし取得させなければ懲役刑や罰金刑を課せられますので、注意しましょう。

パート・アルバイトの不合理な待遇の改善

これまで事業者にとってパートやアルバイトというのは、安い賃金で使役することができる便利な人材でした。しかし、働き方改革関連法施行後は、正社員と同一の労働をさせる場合は、同一の賃金を支払う必要があります。

正社員と非正規労働者が業務を行っており、その賃金に格差がある場合は、正社員の賃金を下げるか、非正規労働者の賃金を上げるかどちらかを行う必要があります。

この制度は2020年4月から大企業のみに適用され、中小企業は2021年の4月から適用開始となります。パートやアルバイトを使っている事業主は事前に備えて置かなければ法律の改正と同時に急に人件費が上がるということも考えられます。注意しておきましょう。

産業医機能の強化

これからは裁量労働制の契約であっても、事業主は労働者の健康を維持するために労働時間客観的な方法(ICカードやPCの使用時間等)で把握し、届け出を行う必要があります。また、これまでは月100時間を越える労働者のみだった産業医面談の実施も月80時間を越える労働者に広がりました。

働き方改革関連法の施行によって産業医の権限が強化され、責任も大きくなりましたので、めちゃくちゃな労働環境であれば産業医から指導が入ることも増えるでしょう。

割増賃金率の猶予措置廃止

これまで中小企業は時間外労働に対して基本給の1.25倍という割増賃金を支払っていれば法律違反とはなりませんでした。大企業では月60時間を越える時間外労働に対しては1.5倍の割増賃金を支払っていることはご存知でしたか? 経営基盤がしっかりしていない中小企業は猶予措置というものが設けられており、特別に1.25倍という割増賃金率が認められていたのです。

2023年の4月からは、中小企業に対する猶予措置が廃止されるため、例えば100時間の時間外労働を行う労働者に対して、40時間分は1.5倍の割増賃金を支払う必要があります。時給が2,000円である場合は、100時間の時間外労働を行った労働者には、

2,000円×20日×8時間+2,000円×1.25×60時間+2,000円×1.5×40時間=590,000円

——となりますので、59万円の賃金を支払う必要があります。

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努力義務となる改正

努力義務となる改正は特に罰則などは設けられておりませんが、法律で定められているものであるため産業医や労働基準監督署から指導される場合があります。また、労働者が告訴を行った場合などは事業者側が賠償金等を支払う必要がでてきます。

勤務間インターバル制度

勤務間インターバル制度は、前日の終業時刻から始業時刻までは少なくとも11時間を空けなければならないというものです。長時間労働が恒常的に行われる職場では、導入が推奨されます。

例えば、23時まで労働した場合、就業規則で定められた始業時刻が9時であったとしても、9時に出社をさせてはいけません。インターバル制度を導入すると少なくとも11時間を空ける必要があるため、10時以降の出社となります。

現在は努力義務とされていますが、今後義務化される可能性もありますし、労働者の健康管理のために導入しても良いかもしれません。

高度プロフェッショナル制度の導入

年収が1075万円以上の一定の専門知識を持った労働者(プログラマーやコンサルタント等)を対象に、労働者が希望する場合に裁量労働制として労働させることができるというものです。

例えばプログラミングなどは人によってコーディングの速度も異なると思います。こういった場合に高度プロフェッショナル制度を導入し、自由な働き方を選択できるようにしておくことは優秀な人材を確保する上でとても重要なことです。

ただし、裁量労働についても労働時間の管理は行う必要があり、上述のインターバル制度の導入も措置として講じなければなりません。

まとめ

今回は、働き方改革関連法の施行に伴って、事業者の義務となる制度と現時点では努力義務となっている制度についてご紹介してきました。

いずれにしても、多様な働き方を認め労働者が働きやすい職場環境をつくっていくことは、優秀な人材を確保する人事戦略としてとても有効的ですし、これからの時代は「働きやすい職場」がスタンダードになるかもしれません。

現在でも「給料が低い職場に人が集まらない」というのと同じで「働き方改革によってできた制度を導入していない企業には人が集まらない」なんてことになるかもしれません。

今なら厚生労働省から支給される返済不要の支援金「助成金」を活用しながらこのあたりの労働環境を整備していくことも可能ですので、是非労働環境の改善に取り組んでみてはいかがでしょうか?

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弊社担当のご紹介
佐藤亜樹
佐藤亜樹(助成金コンサルタント)
入社7年目。採用コンサルティングを担当後、中小企業の助成金申請のサポートに従事する。2018年からは助成金を活用した働き方改革関連法に対応するノウハウを提供するセミナーを開催するなど、精力的に活動中。