「働き方改革」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。2018年6月に成立した働き方改革法案が、いよいよ2019年の4月から順次適用されていきます。

今回は、働き方改革とはどのようなもので、どのような法律が適用されていくのかということについてご紹介していきたいと思います。

働き方改革とは

働き方改革とは、少子高齢化や介護問題、育児問題を原因として急激に減少しつつある日本の労働人口をなんとかしようという目的で掲げられた安倍内閣の政策の一つです。

高度経済成長時代には世界第二位の経済大国となり、アメリカの驚異と見なされた日本も少子化や時代の変遷と共に経済が衰退しつつあります。結果として今となっては中国と大きく差が開いてしまいましたね。

日本が衰退した原因として挙げられるのが、「少子化」「高齢化」「古い企業体質」です。少子高齢化によって労働人口は減少し、さらに年功序列やモーレツ社員という古い企業体質に頼った経営を引きずったまま、生産性は先進国最下位を50年連続で継続しています。

今や高度経済成長時代の日本は見る陰もなく、若者は貧困し、それが少子化に拍車をかけ、挙句の果てには介護問題まで出てくる始末です。これをテコ入れしなければ日本の労働人口が大きく減少してしまいます。日本で働くことに嫌気がさして海外に出ていく若者もいることでしょう。以下のグラフは総務省が発表した労働人口の増減グラフです。

引用:総務省

2060年にはピーク時の半分まで労働人口が減ることが予想されています。――こういった問題を根本的に見直すべく「働き方改革」という名の日本構造改革が始まろうとしているのです。

働き方改革はなぜ必要なのか?施行に至るまでの背景を解説

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働き方改革を支える三本の柱

減少する労働人口に歯止めをかけるだけでは、現状維持以外のものにはなりません。このため、内閣は労働人口がこれ以上減らないようにすると共に、労働人口を増加させ、さらに労働者一人ひとりの生産性を高めるという施策に出ることにしました。

どういうことかというと、

  1. 生産性を向上させ、少ない労働人口で経済成長ができるように整備
  2. 出生率を向上させ、少子化に歯止めをかけることで労働人口減少を防ぐ
  3. 現時点で働ける人に働きに出てもらう

この3つを同時に行うことで、経済成長の鈍化を改善しようというのです。――しかし、政府も「皆さん!働きに出てください!そして子供を産んでください!さらに能力を高めてください!」などと言っても簡単に国民が動いてくれないことは知っています。国民を動かすために、政府は「働き方改革三本柱」という形で施策を展開しようとしています。この3つが、

  • 労働時間の是正
  • 正規・非正規間の格差解消
  • 高度プロフェッショナル制度(脱時間給)

です。

一つずつ見ていきましょう。

労働時間の是正

日本では、「会社と自分は一心同体」という思想が強く根付いています。これは戦後、日本の壮絶な経済成長を支えた「日本的経営」が理由です。「年功序列・終身雇用・労働組合」我々日本人なら一度は聞いたことがあるフレーズではないでしょうか。

この日本的経営は、人口が増加し続けるあるいは一定を保っている社会ではうまく機能するものでした。しかし、時代は代わりIT化が進んだ現在においては日本をこれほどまでに落ちぶれさせた諸悪の根源となってしまいました。

近年ではこの日本的経営から脱却を図ろうと、「成果主義」というものが導入されてきましたが、これが逆に労働者を苦しめることになってしまっています。厚生労働省の統計によれば労働時間は減少しているものの、この統計は「賃金を支払った労働時間」であるため、サービス残業については加味されていないものなのです。これだけIT化が進んだにもかかわらず労働時間が変わっていないとも言われています。

こういった長時間労働は、労働者が能力を開発する時間を奪い、疾病や精神病作り出すものであるため、非常に不健全だと考えられているのです。

この労働時間問題について、法律を改正することで是正しようとしています。

今までは三六協定さえ締結していれば上限なしに働かせることができたのですが、働き方改革では残業時間を「いかなる理由があっても月100時間まで、年間720時間まで」という上限が設けられたのです。

正規・非正規間の格差解消

次にテコ入れが入るのは、非正規労働者の待遇の改善です。

日本の非正規労働者は正社員に比べて非常に待遇が悪く、「非正規労働者の賃金は正社員の60%」だと言われています。世界各国では80%程度の格差であることを考えると、かなり大きな格差です。

こういった格差は多様な働き方を阻害します。現時点の日本では正社員でなければ豊かな暮らしを送ることができず、誰もが正社員に固執しています。これでは例えば「育児をしながら労働をする」とか「介護をしながら労働をする」ということが難しくなってしまいます。

つまり、非正規と正規労働者の格差を是正することで国民が自由な働き方をできるような環境を整備し、ワークライフバランスを維持しようとしているのです。政府はこれを「同一労働同一賃金」と銘打って、働き方改革の目玉として力を入れていくと公表しています。

同じ内容の労働であれば非正規労働者であっても、高給を支払うべきだという能力主義的な考え方ですね。例えば、プログラミング言語を扱うことができる非正規労働者と事務処理すらまともにできない正規労働者では、前者のほうが賃金が高くなるなんて時代がくるかもしれません。

このように、特に能力が高い労働者が多様な働き方ができるような実力主義社会の基盤を構築することで、女性や高齢者であっても働きやすい環境の実現を目指していこうというのです。

高度プロフェッショナル制度(脱時間給)

最後の柱が高度プロフェッショナル制度と呼ばれるものです。高度プロフェッショナル制度とは、年収が1,075万円を超える労働者が希望した場合に時間に縛られない働き方ができるような制度です。

例えばエンジニア。WEBエンジニアなどの場合は外部とやり取りをすることが少ないので、9時~18時に働こうが、13時~21時に働こうが結果は変わらないですよね? あるいは、極端な話ですが13時~15時に働いたとしても、結果が同じなのであれば企業としてはわざわざ時間を縛って働かせなくても良いかもしれません。

上記のような雇用形態を「裁量労働」といいますが、色々な条件がつくものの「裁量労働を希望する労働者がいれば認めるべきだ」という法律がこれです。このような働き方を希望する労働者は多いものの、日本では裁量労働は「残業代を支払わないために導入する」といった間違った導入がされてきた雇用形態であるため、まだまだ法律の改正が必要ですが、一応導入働き方改革関連法の施行によって導入されることが決まっています。

多様な働き方を認めることで誰もが働きやすい社会を実現するための一歩といったところでしょうか。

法律の改正

働き方改革によって改正されるのは、労働基準法だけではありません。

  • 労働基準法
  • 労働安全衛生法
  • 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
  • じん肺法
  • 雇用対策法
  • 労働契約法
  • 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
  • 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

これら8つの法律を「働き方改革関連法」として改革を行います。もちろん違反すれば罰則もあります。

労働関連法について少し詳しい人は「とかいって、これまでも労働基準法なんてあってないようなものだったではないか」とおっしゃられるかもしれませんが、こういった法律の改正が少しでも労働者間で理解が深まれば、摘発される企業も増えるでしょう。

具体的には、以下のような改正がされることになります。

  • 時間外労働の上限規制
  • 有給休暇の消化義務
  • 高度プロフェッショナル制度
  • 同一労働同一賃金の推進
  • 衛生管理の強化

助成金などによる政策促進

厚生労働省は、労働者が働きやすい環境を作り出すためにいくつかの助成金を設けています。助成金とは、条件さえ満たせば支給される返済不要の資金のことで、例えば以下のようなものが当てはまります。

  • 非正規労働者と正社員の待遇や手当の共通化
  • 介護休業・育児休業などの制度を設ける
  • 非正規労働者を正社員に転換する
  • 65歳以上の高齢者を雇用する
  • 労働者の能力開発のためにセミナーや自社研修に参加させる

こういった条件を満たすことで企業は一部の経費を厚生労働省に負担してもらうことができるのです。

また、助成金を受給するためには「労働関連法令に違反していないこと」というものも条件になるので、長時間労働の是正や残業代の未払いにも繋がります。

働き方改革関連法って何?どんな法律?

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まとめ

働き方改革の図
働き方改革は、「労働人口」という問題を解決するために「三本の柱」という改革を「働き方改革関連法の改正」や「助成金」によって実現しようとするものです。

事業者にとっては「不都合なこと」が多く思えてしまいますが、実はそんなことはなく、働き方改革の実現は事業者にとってもプラスになることがあるのです。助成金というものも一つの良い例ではないでしょうか。

この当たりの話は別の記事でも解説していければと思います!

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弊社担当のご紹介
佐藤亜樹
佐藤亜樹(助成金コンサルタント)
入社7年目。採用コンサルティングを担当後、中小企業の助成金申請のサポートに従事する。2018年からは助成金を活用した働き方改革関連法に対応するノウハウを提供するセミナーを開催するなど、精力的に活動中。