近い将来の起業を考えている、あるいはすでに個人事業主として起業したばかりというときには、資金への不安がつきまといます。
そこで活用していきたいのが助成金や補助金です。国では地方を含めた経済活性化策として、起業する人を支援するため数多くの助成や補助を行っています。中には法人化していなくても受給できるものも多く見られますが、一般的には意外と知られていないようです。
ここでは個人事業主でも受け取れる、助成金と補助金の概要について紹介していきます。
目次
個人事業主が受け取れる助成金・補助金早見表
まずは個人事業主が受け取れる助成金と補助金を一覧にしてみました。チェックしてみましょう!
名称 | 対象者 | 支給額 |
---|---|---|
人材開発支援助成金・特定訓練コース | 高い訓練効果が認められる労働訓練を実施した会社 |
賃金助成:1時間あたり760円・生産性要件を満たす場合は960円 経費助成:45%・生産性要件を満たす場合は75% 実施助成:1時間あたり665円・生産性要件を満たす場合は840円 |
人材開発支援助成金・一般訓練コース | 労働訓練を実施した会社 |
賃金助成:1時間あたり380円・生産性要件を満たす場合は480円 経費助成:30%・生産性要件を満たす場合は45% 訓練経費助成支給限度額:20~100時間未満7万円、100~200時間未満15万円、200時間以上20万円 |
人材開発支援助成金・教育訓練休暇付与コース | 有給教育訓練休暇制度を活用して訓練を実施した会社 | 制度導入助成として30万円を支給・生産性要件を満たす場合は36万円 |
人材開発支援助成金・特別育成訓練コース | 有期契約労働者の訓練を実施した会社 |
Off-JT分の支給額:1人1時間当たり 760円 OJT分の支給額:1人1時間当たり 760円 |
トライアル雇用助成金 | 職が困難な求職者を試行的に3ヶ月雇用した事業主 | 1名につき月額4万円~6万円 |
新規加入掛金助成 | 中小企業退職金共済制度に初めて加入する事業主 | 各従業員の月額掛金の1/2 |
特定求職者雇用開発助成金 | 就職が困難であるとされる求職者を、ハローワークなどを通じて継続雇用する事業主 | 60~120万円 |
地域雇用開発助成金 | 雇用機会の少ない地域に新たに雇用を創出した事業主 | 50~800万円 |
創業補助金 | 新たに事業を始める事業主 | 創業にかかった費用の1/2 |
小規模事業者持続化補助金 | 小規模(小売業の場合常時使用する従業員の数5人以下)事業者 | ~50万円 |
小規模事業者海外展開戦略支援 | 海外へ事業展開する事業主 | ~160万円程度 |
補助金と補助金の違いは?項目別に比較
助成金も補助金も、返済義務のない公的な資金援助であるという点には違いありません。しかし、利用に際しては、押さえておきたい相違点があります。
【助成金】
管轄省庁 | 主に厚生労働省 |
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対象 | 主に雇用や労働環境に関する取り組み |
審査方法 | 書類の不備、要件を満たしているかといった形式的な審査 |
支給額 | 数十万~百万円強 |
【補助金】
管轄省庁 | 主に経済産業省 |
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対象 | 経済、地域の活性化 |
審査方法 | 厳密な審査有り。補助金給付の内容に沿った事業計画書の提出と面接による。 |
支給額 | 数百万~数十億円 |
助成金が雇用者に対する企業側の施策への評価となるのに対して、補助金は事業性の確かさが問われます。労働環境を重視しており、従業員のキャリアアップなどを含めた施策を実現したいと考えるのであれば助成金、事業の拡充を考えるならば補助金を申請するというのが選択のポイントです。
助成金は対象とのズレがなく、規定に則った書類を提出すればほぼ助成される反面、給付金額はそれほど多くありません。補助金は場合によっては相当額の金額が支給されますが、その分審査が厳密に行われます。
ただどちらにしても、申請から実際の給付が行われるまで数ヵ月から1年以上かかります。運転資金が不足して切羽詰まった状態のときには、あまり役に立ちません。
少なくとも給付までの間、立て替えられるだけの自己資金が必要であると考えておけば間違いはないでしょう。
「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!
助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説個人事業主が受け取れる助成金
個人事業主が受け取れる助成金には、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。主な助成金を見ていきます。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は従業員のキャリア形成をバックアップする制度で、次の4つのコースが設定されています。
特定訓練コース
若年労働者に対する訓練、労働生産性の向上に貢献する訓練など、高い訓練効果が認められる訓練が対象
申請可能な対象 | 中小企業、中小企業以外、事業主団体等 |
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支給額 |
賃金助成:1時間あたり760円・生産性要件を満たす場合は960円 経費助成:45%・生産性要件を満たす場合は75% 実施助成:1時間あたり665円・生産性要件を満たす場合は840円 |
一般訓練コース
その他のコース以外の訓練が対象
申請可能な対象 | 中小企業、事業主団体等 |
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支給額 |
賃金助成:1時間あたり380円・生産性要件を満たす場合は480円 経費助成:30%・生産性要件を満たす場合は45% 訓練経費助成支給限度額:20~100時間未満7万円、100~200時間未満15万円、200時間以上20万円 |
教育訓練休暇付与コース
有給教育訓練休暇制度を活用した訓練が対象
申請可能な対象 | 中小企業 |
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支給額 | 制度導入助成として30万円を支給・生産性要件を満たす場合は36万円 |
特別育成訓練コース
有期契約労働者の訓練が対象
申請可能な対象 | 中小企業 |
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支給額 |
●Off-JT分の支給額 賃金助成:1人1時間当たり 760円 ●OJT分の支給額 実施助成:1人1時間当たり 760円 |
トライアル雇用助成金
トライアル雇用助成金は、職業経験や技能、知識の不足などにより就職が困難な求職者を試行的に雇用する事業主に対して助成される制度です。一般、障害者をそれぞれ対象とする、2種類のコースがあります。
受給可能な条件としては常用雇用の意図がある事業者で、ハローワーク、地方運輸局または職業紹介事業者によって職業紹介を受け、原則として3ヵ月のトライアル雇用を行うことです。1週間の労働時間が他の勤務者と同程度とし、雇用保険を適用する必要があります。
トライアル雇用助成金の支給額は、対象者1人につき月額4万円です。ただし対象者がひとり親家庭の母親、または父親の場合には月額5万円となります。
支給期間はトライアル開始日から最長3ヵ月で、助成金は各月額の合計額が1回に支給されます。
トライアル雇用助成金は正規の就職活動では就業が難しい労働者と、人材確保にあまり経費をかけられない事業主とのマッチングを図る制度ですが、トライアル後の雇用について強制はありません。
適性を見極めながら、正規採用か否かを決定することができます。
中小企業退職金共済制度に係る新規加入掛金助成及び掛金月額変更掛金助成
中小企業退職金共済制度は、従業員の退職金準備に特化した制度です。
企業が従業員一人一人に対して定額の掛金を納め、その一部を国が助成します。臨時雇用など一部の例外を除き、従業員全員加入が原則とされています。
この制度では少ない掛金から退職金の準備ができるのに加え、掛金が非課税となったり、24ヵ月以上の勤務で掛け金を上回る積立ができたりといったメリットがあります。
中小企業退職金共済制度には、初めて加入する事業主に対し加入4ヵ月後から1年間、掛金が助成される「新規加入掛金助成」と、従業員に対しての月額掛金を増額する場合、増額する月から1年間、掛金が助成される「掛金月額変更掛金助成」の2種類の助成があります。
新規加入掛金助成を受給できるのは新規加入の中小事業主で、受給額は5,000円を上限として各従業員の月額掛金の1/2が払い込み掛金から控除されます。
掛金月額変更掛金助成の受給は中退共制度に既に加入している事業主であることが条件となり、助成の対象となるのは、月額18,000円以下の従業員の掛金を増額変更する場合に限られます。
助成金額は、増額後の掛金から増額前の掛金を差し引いた、差額の1/3で、金融機関への払い込み分から控除されます。
特定求職者雇用開発助成金
特定求職者雇用開発助成金は高齢者や障害をもつ人を始めとする、就職が困難であるとされる求職者を、ハローワークなどを通じて継続雇用する際に助成される制度です。特定求職者雇用開発助成金には次の8つのコースが設定されています。
・特定就職困難者コース
対象者:身体障害者、知的障害者、精神障害者、母子家庭の母、父子家庭の父など
助成: 60~120万円 最大で3年間助成
・生涯現役コース
対象者:雇入れ日現在の満年齢が65歳以上
助成対象期間:1年間
・被災地雇用開発コース
対象者:東日本大震災によって被災し、離職した人や求職中の人
助成対象期間:1年間
・発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
対象者:障害者手帳を持たない発達障害や難病のある求職者
助成対象期間;中小企業2年間、それ以外は1年間
・三年以内既卒者等採用定着コース
対象者:既卒者や中退者
助成対象期間:最大3年間
「既卒者等コース」と「高校中退者コース」の2種類
・障害者初回雇用コース
受給対象事業者:障害者を初めて雇用する事業主
助成金:最大で120万円
・長期不安定雇用者雇用開発コース
対象者:就職氷河期などにより、安定的な就職の機会を逃した雇入れ日時点の満年齢が35歳以上60歳未満の求職者
助成対象期間:1年間
・生活保護受給者等雇用開発コース
対象者:生活保護受給者、生活困窮者
助成:最大60万円 1年間
地域雇用開発助成金
地域雇用開発助成金は雇用機会の少ない地域において、雇用の場を増やすことに貢献した事業主に対し、雇用に関連する設備や整備費用の一部が支給される制度です。
同意雇用開発促進地域・過疎等雇用改善地域または特定有人国境離島地域などに指定されているエリアにおいて、居住する求職者を継続的に雇用した場合に受給対象となります。
受給申請の際は施設・設備の設置・整備及び、地域に居住する求職者等の雇い入れに関する計画書を労働局長に提出する必要があります。
助成対象となる設置・整備費用は1点あたり20万円以上で、合計額が300万円以上である場合に限られます。
助成金の給付条件として、事業の完了日に雇用保険一般被保険者数が、計画日の前日の数と比べて3人(創業の場合は2人)以上増加していることが認められなければなりません。
実際の支給金額は、負担した設置・整備費用と支給対象者の増加数によって細かく決められています。例えば、設置・設備費用が300万円以上1,000万円未満で、支給対象者の増加人数が3人の場合の支給額は、48万円です。ただし中小企業事業主の場合は、1回目の支給時に限り支給額の1/2の金額が上乗せされます。
創業の場合は、さらに1回目の支給額の1/2の金額が上乗せされます。
個人事業主が受け取れる補助金
個人事業主が受け取れる補助金には、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。主な補助金を見ていきます。
創業補助金
創業補助金は、新たに事業を始める人に対して資金の一部を支給する制度です。
補助金の対象としては、主に次のような条件を満たしている必要があります。
- 新たに創業する者であること
- みなし大企業でないこと
- 個人の場合、日本国内に居住し、日本国内で事業を興す者であること
- 事業実施完了日までに、新たに1名以上雇い入れること
- 産業競争力強化法に基づく認定市区町村における創業であること
- 産業競争力強化法に基づく認定市区町村または認定連携創業支援事業者から同法第2条第25項に基づく認定特定創業支援事業を受ける者であること
- 訴訟や法令順守上の問題を抱えている者ではないこと
- 反社会的勢力との関係を有せず、反社会的勢力から出資等の資金提供を受けていないこと
創業補助金の支給額は、補助対象と認められる経費の1/2以内とされています。
実際の金額としては外部調達資金がある場合では50万円以上200万円以内、外部調達資金がない場合では50万円以上100万円以内となっています。例えば、マーケティング調査費用が150万円だった場合には、1/2の75万円が補助されます。
外部調達資金のある事業所で、設備費に500万円かかった場合には、1/2の250万円のうち上限の200万円が支給額となります。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者が行う事業の持続的発展を促すという目的で設けられた制度です。給付を受けた小規模事業者は、商工会・商工会議所の支援を受けながら経営計画を作成し、その計画に沿って販路開拓などに取り組みます。
補助金申請にあたり、経営計画書と補助事業計画書の作成後、商工会もしくは商工会議所へ事業支援計画書の作成・交付を依頼し、その後申請、審査という流れとなります。小規模事業者持続化補助金の対象者には、次のような条件があります。
- 卸売業・小売業:常時使用する従業員の数5人以下
- サービス業(宿泊業・娯楽業以外):常時使用する従業員の数5人以下
- サービス業のうち宿泊業・娯楽業:常時使用する従業員の数20人以下
- 製造業その他:常時使用する従業員の数 20人以下
補助金を受給するためには、事業内容が策定した「経営計画」に基づいて実施する販路開拓等の取組を、商工会議所の支援を受けながら進めていく必要があります。
補助率は補助対象経費と認められた額の2/3以内です。補助上限額は50万円で、75万円以上の補助対象となる事業費に対しては、50万円が支給されます。75万円に満たない場合には、補助対象経費の2/3の金額となります。
中小企業・小規模事業者海外展開戦略支援事業
中小企業・小規模事業者海外展開戦略支援事業では海外に販路を求める事業者に対して、さまざまな面からバックアップを行っています。中小企業・小規模事業者海外展開戦略支援事業の中で行われる施策には、次のような6つの事業イメージがあります。
情報提供、助言
海外の法規制や輸出に関する手続きなど各種情報の提供や助言などを行います。
国内での簡易診断の場合には補助額の条件を50万円とし、補助率は2/3 です。海外での現地診断も行う場合には、補助額の上限は160万円、補助率は同じく2/3です。
海外展開戦略策定支援
海外展開戦略策定に繋げるため、海外現地における事業の実現可能性調査やWebサイトの外国語化等を支援します。輸出企業の場合の補助上限は50万円で、補助率は1/2 です。直接投資の場合では、補助上限が140万円、補助率は1/2です。 Webサイトに関する支援の場合は補助上限が100万円、補助率は1/2となります。
販路開拓支援
海外展開を検討している企業に対して、海外展示会等を通じた商談機会の提供、商談後のフォローアップ等、段階に応じた支援を実施します。展示会出展に関する翻訳費用の2/3が補助されます。
中小企業海外展開現地支援プラットフォーム
海外の主要拠点にコーディネーターを配置し、大使館や金融機関などの官民支援機関と連携して法務・労務・税務等の専門的な個別課題の解決や海外拠点の設立・移転・撤退等への支援を行います。
必要に応じて現地政府機関、在外公館をはじめとした公的機関や法律・会計事務所などへの紹介や取次も可能です。
経済連携協定利用円滑化促進事業
2015年に規定された「完全自己証明制度」について理解を深めるためのセミナー開催や、他国制度の情報が幅広く提供されています。申告書の作成とそれにともなう検認の対応など、輸出を希望する事業者からのさまざまな相談に対応する相談窓口が設置され、個別に課題解決を行っています。
ローカルファイル作成・保存支援等事業
移転価格文書化制度に基づく文書の作成・保存に向けて、文書作成に必要な情報の把握を行う等の態勢整備を支援します。
「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類」と呼ばれるローカルファイルの作成に関するアドバイスや相談を行う窓口を設置し、積極的な支援を行っています。
まとめ
事業に対する助成金や補助金というと、法人でないと申請できないと受け止められがちですが、個人事業主が受給できる制度は数多くあります。創業時の設備資金や、広報費、従業員に対する労働環境の整備など、さまざまな局面において活用できる助成金や補助金が提供されています。ただ公金な事業支援であるだけに公募の期間が短く、書類作成に手間がかかるという難点もあります。どのような制度があるのかを良く知り、採択の可能性の高いものを十分に吟味することが受給のポイントといえるでしょう。