さまざまなシーンで多様性が認められる現代にあって、事業所の雇用にもまた人材のバリエーションの可能性が広がっています。従業員に幅広い個性を受け入れることは、社会的なイメージアップにもつながりますが、雇用側の努力だけではかんたんに実現できません。特定求職者雇用開発助成金は高齢者や障害をもつ人を始めとする、就職が困難であるとされる求職者の雇用に助成される制度です。活用の仕方によっては、事業の可能性の広がりも期待できます。特定求職者雇用開発助成金について詳しく解説していきましょう。

特定求職者雇用開発助成金の目的

特定求職者雇用開発助成金は、社会的に弱い立場にある人の現状を改善しようとする、アファーマティブ・アクションの一環となる制度です。身体や精神に障害をもつ人や、母子家庭、父子家庭の親など、社会的にハンディがあり就職が難しい状況にある人たちに対して、継続的に安定した仕事に就ける機会を提供しています。

雇用する側のメリットとしては、従業員として雇い入れることで助成金を受給でき、人件費負担が軽減されます。社会的弱者といっても業務能力は人それぞれです。多様性に富む人材を受け入れることにより、事業所としての在り方を見直すきっかけともなり得ます。

特定求職者雇用開発助成金の種類

・特定就職困難者コース
身体障害者、知的障害者、精神障害者、母子家庭の母、父子家庭の父などの就職困難者を、ハローワークなどの紹介を受け、継続して雇用する事業者に最大で3年間助成されます。

・生涯現役コース
雇入れ日現在の満年齢が65歳以上で、離職、失業の状態にある求職者をハローワークなどの紹介を受け、継続して雇用する事業者を助成します。助成対象期間は1年間です。

・被災地雇用開発コース
東日本大震災によって被災し、離職した人や求職中の人を、ハローワークなどの紹介を受けて、継続して雇用する事業者に助成金が支給されます。助成対象期間は1年間です。

・発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
障害者手帳を持たない発達障害や難病のある求職者を、ハローワークなどの紹介を受けて継続して雇用する事業者に助成金が支給されます。助成対象期間は中小企業が2年間、それ以外は1年間です。

・三年以内既卒者等採用定着コース
既卒者や中退者をハローワークなどの紹介を受けて、新卒枠で雇用する事業者に対し、最大で3年間助成金が支給されます。「既卒者等コース」と「高校中退者コース」の2種類があります。

・障害者初回雇用コース
障害を持つ従業員を雇用した経験がない事業主に対し、ハローワークなどの紹介を受けて初めて障害者を雇用する場合に助成金が支給されます。受給額は最大で120万円です。

・長期不安定雇用者雇用開発コース
就職氷河期などにより、安定的な就職の機会を逃した求職者を、正規雇用で採用する事業者を助成します。対象となるのは過去10年間に5回以上離職または転職をくり返しており、雇入れ日時点の満年齢が35歳以上60歳未満の求職者で、支給対象期間は1年間です。

・生活保護受給者等雇用開発コース
生活保護受給者や生活困窮者をハローワークなどの紹介を受け、継続して雇用する事業主に対して助成されます。助成対象期間は1年間で、最大60万円の支給となります。

このように特定求職者雇用開発助成金には数多くの種類がありますが、この記事では特定就職困難者コースについて詳しく解説していきます。

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助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説

特定求職者雇用開発助成金の対象者

  • 60歳以上の者
  • 身体障害者
  • 知的障害者
  • 精神障害者
  • 母子家庭の母等
  • 父子家庭の父(児童扶養手当を受給している方に限る)
  • 中国残留邦人等永住帰国者
  • 北朝鮮帰国被害者等認定駐留軍関係離職者(45歳以上)
  • 沖縄失業者求職手帳所持者(45歳以上)
  • 漁業離職者求職手帳所持者(45歳以上)
  • 手帳所持者である漁業離職者等(45歳以上)
  • 一般旅客定期航路事業等離職者求職手帳所持者(45歳以上)
  • 認定港湾運送事業離職者(45歳以上)
  • その他就職困難者(アイヌの人々:北海道に居住している45歳以上の者であり、かつハローワークの紹介による場合に限る)

特定求職者雇用開発助成金を受給できる条件

  • 雇用保険の適用事業主であること
  • ハローワーク、地方運輸局または適正な紹介業務を行う民間の職業紹介事業者等の紹介により雇用すること
  • 継続して雇用することが確実であると認められること
  • 雇入れ日の前後6か月間内に事業主の都合による従業員の解雇をしていないこと

このほかにも審査への協力や管轄労働局等の実地調査を受け入れ、その他の詳細な条件があります。
重要なのは、一時的な雇用ではなく継続する常用雇用の意志があると認められることです。最初から短期雇用の意図があり、助成金目的が発覚した場合には不正受給と見なされる可能性があります。
また、性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業や反社会的勢力に関連する事業では、申請が認められません。

特定求職者雇用開発助成金の支給額と支給期間

特定求職者雇用開発助成金の支給額と支給期間については以下の通りです。

・短時間労働者以外
高年齢者(60歳以上65歳未満)、母子家庭の母等の支給額は 60万円です。ただし中小企業以外では50万円となります。助成対象期間は1年で、30万円ずつが2期に分けられて支給されます。
身体・知的障害者の支給額は120万円で、中小企業以外では50万円となります。助成対象期間は2年間で30万円が4期に分けられて支給されます。
重度障害者等(重度障害者、45歳以上の障害者、精神障害者)の支給額は240万円で、中小企業以外では100万円の支給です。助成対象期間は3年間で40万円ずつ6期に分けられて支給されます

・短時間労働者
高年齢者(60歳以上65歳未満)、母子家庭の母等の支給額は40万円で、中小企業以外は30万円です。助成対象期間は1年で、20万円が2期に分けられて支給されます。
障害者の支給額は80万円で、中小企業以外は30万円です。助成対象期間は2年で、20万円が4期に分けられて支給されます。

特定求職者雇用開発助成金の申請方法

  1. 労働局に申請書の送付を依頼する
  2. ハローワークに申請書を提出
  3. 人材の紹介を受ける
  4. 対象者を雇用する
  5. 助成金の第1期支給申請
  6. 申請書確認・調査
  7. 支給の可否決定と通知
  8. 助成金の支給

雇用開始から助成金を実際に申請するまでは、6ヵ月以上見なければなりません。また、申請書に添付する書類も多数あります。主な必要書類は次の通りです。

  • 特定求職者雇用開発助成金 第1期支給申請書
  • 支給要件確認申立書 (特定求職者雇用開発助成金)
  • 対象労働者雇用状況等申立書(特定就職困難者雇用開発助成金)
  • 雇用契約書または雇入通知書
  • 対象労働者であることを証明する書類(児童扶養手当証明書、障害者手帳など)
  • 登記簿謄本など事業内容が確認できる書類
  • 出勤簿、タイムカード
  • 賃金台帳

まとめ

特定求職者雇用開発助成金は社会的弱者であるがゆえに、就職が困難な人を救済する制度です。雇用する側にとっても隠れた才能をもつ人材を、負担軽減しながら採用できるチャンスとなる可能性があります。特定求職者雇用開発助成金にはさまざまな種類があり、助成金の額や対象期間も異なります。多少の手間はかかりますが、利用価値の高い制度といえます。活用可能と思われる助成金があれば積極的に申請し、従業員の雇用についての多様性を広げていきたいものです。

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黒沢晃
黒沢晃(助成金コンサルタント)
商社にて新卒採用の人事を担当した後、人材コンサルタントとして企業の人事戦略を支援。2016年から中小企業や個人事業主を対象として助成金を活用した経営サポートに従事。現在は年間100社以上をサポートする。