2019年4月に施行される働き方改革ですが、一部では、「残業代が支払われなくなる」とか、「みなし労働によって働かせ放題になる」みたいな噂が出回っています。しかし、働き方改革の三本柱と呼ばれる改革の一つに「長時間労働の是正」というものがあります。――これはどういうことなのでしょうか?

今回は、働き方改革を今一度おさらいすると共に、「残業時間が支払われなくなる」という噂の真偽について解説していきたいと思います。

働き方改革とみなし労働制の関係性とは?

結論から申し上げると、働き方改革によって残業代が支払われなくなるというのは、半分は嘘です。

どういうことかというと、働き方改革によって改正される法律を企業が遵守していれば、「働かせ放題」とか「みなし労働」というものは蔓延しないのです。

そもそも働き方改革によって改正される内容は、主に以下のようなものです。

  • 時間外労働の上限規制
  • 有給休暇の取得義務化
  • インターバル制度の導入
  • 時間外労働の割増賃金率を25%から50%に
  • 同一労働同一賃金制の導入
  • 高度プロフェッショナル制度の導入
  • 産業医の権限強化

これらいずれも、「国民が健康に働き、不合理な待遇を排除する」という名目のもと施行される改正法律です。――ではなぜ「残業代が支払われなくなる」とか「永遠に働かされる」ということが言われているのでしょうか。

噂の出処は、「高度プロフェッショナル制度」

インターネットなどで多くの方が危惧されているのは、高度プロフェッショナル制度に関する法律を曲解したものです。この高度プロフェッショナル制度は、専門性の高い職種において、裁量労働制――つまり、労働時間に対してでなく成果に対して賃金を支払おうというものです。

例えば、プログラマーなどは専門性の高い職種に当てはまります。この制度を利用すればプログラマーは労働時間に縛られることなく、期日までにある成果物を納品することで賃金が支払われます。例えば「WEBサイトにJavaScriptを用いたシステムを新たに導入する」という業務があったとします。この業務は、営業時間中に行おうが真夜中に行おうが成果物は変わることはありませんよね? このように「いつ働くかは任せるけど、期日までに納品してね」といったような雇用形態を裁量労働制といいます。ですので、極端な話1日で終われば残り1ヶ月間は昼間から飲んだくれていようが何も言われませんし、1ヶ月間毎日10時間稼働してようやく終わらせたとしても残業代が支払われることはありません。

欧米ではこういった働き方も普通になっていて、「実力主義」の社会では理にかなった労働契約だと言えます。

しかし、これまでも裁量労働制を採用した会社というのは日本にもいくつか存在していました。こういった企業の一部は、見かけだけ裁量労働制を採用し、実際には朝礼に出席させるなどして時間の拘束を行い、残業代を支払わない……ということをしてきたのです。

そのため、この高度プロフェッショナル制度を推進することで、「定額働かせ放題」の社員が増加するのではないかと危惧されているわけです。

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長時間労働の是正が逆効果になることも危惧されている

一方で、「長時間労働の是正」ということが逆効果になるのではないかと危惧されていたりもします。

今回の働き方改革関連法の目玉である時間外労働の上限規制は、これまで三六協定を締結することで事実上、上限なく働かせることができたことに対して「月100時間、複数月平均80時間、年間720時間」という上限を設定するものです。改正労働基準法施行以降は、いかなる理由があっても上限時間を超えて労働者を働かせることができなくなります。

――しかし、逆に考えると所定の時間外労働時間を超過すると、それを隠蔽しようとする企業が出てくる可能性があるのです。どういうことかというと、月120時間の時間外労働をさせたとした場合、20時間も法律で定められた労働時間をオーバーしているわけですから、明らかに法律違反となってしまいます。この20時間分をなかったことにするとどうなるでしょうか――。おそらく20時間分の残業代が支払われなくなってしまいます。

もちろん、残業をさせたにも関わらず賃金を支払わないことは裁量労働制でもない限り違法になのですが、日本の企業は恒常的にこういった虚偽の報告をしてきました。所謂サービス残業というものですね。

平成29年度には、残業代の未払いは厚生労働省の調査の結果446億円にものぼります。――しかも、前年から319億円も増加してです。どれだけの企業が違法な「サービス残業」をさせていて、それが野放しになっていたかということがこの調査によって明確になりました。

こういった背景も相まって、「残業代がカットされるのでは? 」ということが実しやかに囁かれているのです。

働き方改革によって労働者が救済される

しかしこういった噂を触れ回る人は、大きな誤解をしています。

まず第一に、高度プロフェッショナル制度の対象となるのは、年収が1075万円以上の労働者です。また、裁量労働制であっても80時間を超える時間外労働を行う労働者に対しては産業医の面談が義務化されることになります。それに、裁量労働制というのは、これまでも適用されていた労働契約です。こういったことから、高度プロフェッショナル制度が導入されたからといって、裁量労働制の悪用が増えることはないでしょう。

次に、時間外労働について。これまでは、法律によって時間外労働について規制を設けるようなことはされていませんでした。――それが、「100時間を超えたらどんな理由があってもアウト」ということになったのです。また、時間外労働について賃金を支払わない企業というのは、一定数存在していました。つまり、法律改正によってそれほど多くの企業が違反することになるとは考えにくく、むしろ過度な労働を強いる企業を書類送検しやすくなったとも言えます。

「残業代が支払われているか」ということを調査するためには労働時間や支払われている賃金、契約内容などを調査する必要がありますが、今回の改正で100時間を超えれば法律違反となったのですから、タイムカードを見れば違反企業かどうかが一発で分かるのです。

みなし労働であっても違反は違反

みなし労働制を採用する企業であっても、みなし分を超えた時間外労働に対しては残業代を支払う必要がありますし、上限時間を超えて良いということはありません。

このため、働き方改革によって残業代未払いの企業が増加したり、みなし労働制を悪用する企業が増える可能性は少ないのです。

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弊社担当のご紹介
佐藤亜樹
佐藤亜樹(助成金コンサルタント)
入社7年目。採用コンサルティングを担当後、中小企業の助成金申請のサポートに従事する。2018年からは助成金を活用した働き方改革関連法に対応するノウハウを提供するセミナーを開催するなど、精力的に活動中。