働き方改革は「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金」「高度プロフェッショナル制度(脱時間給)」の3つの柱からなる8つの労働関連法改正です。

この働き方改革は2019年4月から順次施行されていきますが、働き方改革に対する否定的な意見も出ていますね。――では、具体的に働き方改革はどのような問題点があるのでしょうか。

1.是正箇所が違う

今回の働き方改革関連法の目玉となるのが、「改正労働基準法の施行」というものがあります。

この新しい法律は、「時間外労働は年間720時間、単月100時間、複数月平均80時間」という上限に対していかなる理由があっても超えてはならないというもの。これまで制度を悪用することで上限なく働かせることができたものに対して上限を設定したというものです。

しかし、現在日本で問題となっているのは、長時間労働はもちろんですが、時間外労働に対して給与が支払われていないことです。事実、平成29年度には労働基準監督署による是正措置によって、446億円の時間外労働の給与未払いが発覚しています。この額は前年比319億円増という異常な数値です。

このことを考えると、厚生労働省などが統計を取っているデータ上の時間と実際の労働時間は大きくかけ離れていることがわかります。なぜなら、厚生労働省や労働局が取得しているデータは「給与が支払われた時間」であるためです。

つまり多くの企業が「残業代を支払いたくない」という理由で労働時間を改ざんして報告しているということになります。このため、今回の長時間労働の是正施策として残業時間に上限を設けたとしても、根本的な問題は解決しないと考えられているのです。

弁護士白書を見ると、労使間の紛争は年々増加傾向にあり、本来是正すべきは「きっちり労働時間を報告している会社」ではなく、「労働時間に関して虚偽の報告を行う会社」であり、上限の設定はさらなる「虚偽の報告」を加速させる恐れがあるのです。

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2.下請け企業にしわ寄せが行く問題

次に考えられる問題点は、大企業で「労働時間の削減」が実施されることによって、そのしわ寄せが下請け企業に回ってくるということです。

大企業が正社員を使役できなくなって減少した労働力は、どこに回るのでしょうか? 日本社会の構造を鑑みるとこれらは生産性の向上なるもので対処できるものではなく、そのまま下請け企業――つまり中小企業に降りてくると考えられるのです。

足りない部分は全て外注で補おうとするはずで、すでに付き合いのある取引先に対して追加のタスクを依頼したりすることになるでしょう。例えば広告レポートの作成を代理店に指示する……なんてことは日常的に見られることですが、こういった「下請け酷使」こそ是正されるべきものです。なぜなら長時間労働の一番の問題はそこにあるのですから……。

とにかく、働き方改革関連法施行以降は、しばらく中小企業が大企業の足りない労働力を補うような動きが見られると考えられます。これは、長時間労働を是正どころか推進してしまう恐れがあるのです。これはデータを見ると明らかで、『過労死防止対策白書』では、「顧客の要望」に関連する理由によって残業をするという人が非常に多いことがわかっています。

今後は日本の企業の大半を占める中堅・中小企業の労働者が残業を余儀なくされる状況が増加する可能性があります。

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3.企業体質と不調和な実力主義

日本の労働現場は長らく「年功序列」を続けてきました。それに伴って、企業体質も年功序列に適合した形になってきたのです。しかし「同一労働同一賃金」や「高度プロフェッショナル制度」のような制度が開始して実力主義社会が正しく運用されれば、「上司よりも賃金が高い部下」が出てくることもあるでしょう。こうなってしまっては、日本の職場環境のバランスが崩れることになります。

日本人全員が「実力ある者が高い賃金をもらうべきだ」という思考を持っていれば問題なく実力主義は運用されるでしょうが、現在の日本の企業体質では、実力主義は正しく運用されない可能性が高いです。

働き方改革は「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金」「脱時間給」の三本柱によって支えられるもので、これらどれかが機能しなくなってしまうと他の施策も逆効果になってしまいます。

果たして、日本の企業体質に「働き方改革」は合理的なものなのでしょうか。

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まとめ

今回は、働き方改革の問題点について触れてみました。

働き方改革は労働者や企業にとってメリットがあるものでもありますが、逆にデメリットや問題点をはらんでいるものでもあります。しかし、こういったデメリットや問題点から目をそらしていてはいけません。

問題点を理解した上で、デメリットを克服し、最適な運用ができるように考えていかなければならないのです。

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弊社担当のご紹介
佐藤亜樹
佐藤亜樹(助成金コンサルタント)
入社7年目。採用コンサルティングを担当後、中小企業の助成金申請のサポートに従事する。2018年からは助成金を活用した働き方改革関連法に対応するノウハウを提供するセミナーを開催するなど、精力的に活動中。