人材を確保するには従業員が長く働ける体制をつくり、定着させることが欠かせません。従業員の定着を促すため、出産・育児、介護などの従業員のライフサイクルに合わせた支援制度をつくる会社が増えています。
両立支援等助成金はこうした支援制度を運用する際の負担を軽減するための制度です。
この記事では両立支援等助成金の概要、各コースの内容、令和6年に新設された「育休中業務代替支援コース」について解説します。
助成金の概要についてはこちらで解説しています。
参考記事:助成金とは?注意点など知っておきたい基礎知識をわかりやすく解説!
目次
両立支援等助成金とは
両立支援等助成金とは、仕事と家庭の両立支援に取り組む事業主を支援する助成金です。
共働き世帯や介護を必要とする高齢者等が増加する中で注目が集まっている両立支援等助成金の基本的な概要をご紹介します。
両立支援等助成金の目的
両立支援等助成金の目的は、従業員が働きながら育児や介護を行う事ができる職場環境や体制を、それらを整えて運用する企業への支援を通じて普及させることにあります。
最近では、ライフサイクルに合わせて働き方を選べる企業に人材が集まるようになっています。子育てにおいては、女性だけでなく男性も育休がとれる体制づくり、また、少子高齢化に伴う介護と仕事の両立は、企業だけでなく日本社会全体の課題としてその取り組みが求められています。
両立支援等助成金は、人材不足の時代に備え、従業員が働きやすい体制を構築しようとしている企業に貢献している制度といえます。
両立支援等助成金の種類一覧
両立支援等助成金には、以下の3つのコースがあります。
出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
このコースでは、男性労働者の出生時育児休業取得にかかわる雇用環境、業務体制を整備し、実際に取り組む企業が助成されます。
【対象事業主】
中小企業事業主のみ
【主な受給要件】
1. 第1種
男性労働者の出生時育児休業取得にかかわる雇用環境、業務体制の整備。
男性労働者が子どもの出生後8週間以内に開始する連続5日以上の育児休業を取得すること。
2. 第2種
第1種の助成金を受給していること。
第1種の申請をしてから3事業年度以内に、男性労働者の育休率が30ポイント以上上昇していること。もしくは、第1種の申請年度に①子どもが生まれた男性労働者が5人未満②育休取得率が70%以上の場合、その後の3事業年度の中で2年連続70%以上になったこと。
また、第1種申請の対象となった育休取得した男性労働者の他に2人以上いること。
【受給額】
1. 第1種
20万円
2. 第2種
- 事業年度以内に30ポイント以上上昇した場合:60万円
- 事業年度以内に30ポイント以上上昇した(または連続70%以上)場合:40万円
- 事業年度以内に30ポイント以上上昇した(または連続70%以上)場合:20万円
もしくは、第1種受給年度に育休対象の男性が5人未満かつ育児休業取得率70%以上の場合
1~2年目に取得率70%以上:40万円
2~3年目に取得率70%以上:20万円
また、自社の育児休業取得状況に関する情報を公表した場合には、第1種の支給額2万円(1事業主あたり1回限り)を加算して支給します。
介護離職防止支援コース
このコースでは、介護休業の取得に直面した労働者と面談し、介護状況や働き方の希望内容を確認したうえで、「介護支援プラン」を作成します。介護支援プランに沿った介護休業の取得・職場復帰しやすい体制づくりを目指します。
【対象事業主】
中小企業事業主のみ
【主な受給要件】
1. 介護休業
- 介護支援プランにもとづいて業務を引き継ぎ、対象労働者が所定労働日の合計5日間以上の介護休業を取得すること。
- 面談結果を踏まえたうえで対象労働者を職場復帰させ、原則として復帰後3カ月以上継続雇用していること。
2. 介護両立支援制度
介護支援プランによる措置を従業員に事前に周知し、以下のうち1つ以上の介護両立支援制度を対象労働者が合計20日以上利用し、制度利用後から継続雇用していること。
- 所定外労働の制限制度
- 時差出勤制度
- 深夜業の制限制度
- 短時間勤務制度
- 介護のための在宅勤務制度
- 法を上回る介護休暇制度
- 介護のためのフレックスタイム制度
- 介護サービス費用補助制度
【受給額】
1.介護休業
休業取得時:30万円
職場復帰時:30万円
2.介護両立支援制度:30万円
また、助成金の加算対象となる取り組みは以下の2つです。
1.介護休業中の労働者の業務を他の労働者が代替した場合に、助成金を加算して支給します。
- 代替する労働者を新規雇用(新たな派遣受け入れを含む)した場合:職場復帰時の支給額に20万円を加算
- 他の労働者に代替させる際に業務の見直し・効率化を行うとともに、代替した労働者に対して増額して賃金を支払った場合:職場復帰時の支給額に5万円を加算
2.介護休業を取得または介護両立支援制度を利用した対象労働者に対して、以下の2つの取り組みを行った場合、介護休業(休業取得時)または介護両立支援制度の支給額に15万円を加算します。
- 制度などの個別周知の取り組み
- 仕事と介護を両立しやすい雇用環境整備
育児休業等支援コース
このコースでは、育児休業の取得を希望する労働者と面談し、育児状況や働き方の希望内容を確認したうえで、「育休復帰支援プラン」を作成します。育休復帰支援プランに沿った育児休業の取得・職場復帰しやすい体制づくりを目指します。
また、このコースは「育休取得時・職場復帰時」「業務代替支援」「職場復帰後支援」「新型コロナウイルス感染症対応特例」の4つの取り組みに分けられています。
【対象事業主】
中小企業事業主のみ
【主な受給要件】
1.育休取得時・職場復帰時
- 育休復帰支援プランにもとづいて、対象労働者の育休開始日の前日までに業務の引継ぎを実施し、連続3カ月以上の育休を取得させること。
- 職場復帰時には、面談結果を踏まえて元々の職に復帰させ、その後も6カ月以上継続雇用していること。
2.業務代替支援
- 育児休業取得者を、育休後に元々の職に復帰させるなどを就業規則に規定すること。
- 対象労働者が3カ月以上の育休を取得した間、代替要員を確保するか業務を見直して周囲の社員でカバーすること。
- 対象労働者が復職後、6カ月以上継続雇用されていること。
3.職場復帰後支援
- 育休復帰後、仕事と育児の両立が困難な場合に、育児・看護休業法を上回る①子の監護休暇制度もしくは②保育サービス費用補助制度を導入していること。
- 対象労働者が復帰後6カ月以内に、上記の①10時間以上②3万円以上の利用実績があること。
4.新型コロナウイルス感染症対応特例
- 小学校、保育園、幼稚園などが臨時休業になった場合や子どもが新型コロナウイルス感染症に感染した又はそのおそれがある場合に、子どもの世話を行う必要がある労働者が、特別有給休暇を7日以上取得できる制度について規定化していること。
- 対象労働者1人につき、規定した制度に定めた特別有給休暇を1日(分割の場合は、1日の平均所定労働時間)以上取得していること。
【受給額】
1.育休取得時・職場復帰時
休業取得時:30万円
職場復帰時:30万円
2.業務代替支援
新規雇用:50万円
手当支給など:10万円
3.職場復帰後支援
制度導入時:30万円
制度利用時;
①子の監護休暇制度:1,000円×時間
②保育サービス費用補助制度:実費の2/3
また、自社の育児休業取得状況に関する情報を公表した場合に、「育休取得時」「職場復帰時」「業務代替支援」「職場復帰後支援」のいずれかの支給額に2万円が加算されます。(1事業主あたり1回限り)
不妊治療両立支援コース
不妊治療両立支援コースとは、「不妊治療と仕事との両立のための職場環境整備」と「不妊治療両立支援の策定・措置を実施」した中小企業主を支援するコースです。
【主な受給要件】
- 不妊治療休暇・両立支援制度について労働協約または就業規則に規定し、規定する範囲内で運用していること。また、制度を労働者に周知していること。
- 両立支援担当者を選任し、相談に対応していること。
- 対象労働者について、不妊治療両立支援プランを策定していること。
- 対象労働者に対し、プランに基づき、不妊治療休暇・両立支援制度のうちいずれかの制度または各制度を組み合わせて、年度内に当該労働者の所定労働日において、合計して5日以上利用させたこと。
【受給額】
支給要件 | 助成額 |
環境整備、休暇の取得など | 30万円 |
長期休暇の加算 | 30万円 |
※どちらも1事業あたり1回限りの支給。
【2024新設】柔軟な働き方選択制度等支援コース
令和6年度から新設されたばかりのコースです。
柔軟な働き方選択制度等支援コースとは、育児を行う労働者の柔軟な働き方を可能にするための制度を2つ以上導入し、そのうちの1つの制度を労働者が利用した場合に事業主を支援するコースです。
【主な受給要件】
- 育児を行う労働者の柔軟な働き方に関する制度の内容・利用手続きについて、労働協約または就業規則に規定していること。
- 対象制度利用者と面談を実施し、「面談シート」に記録したうえで、面談結果を踏まえて対象制度利用者のための「育児に係る柔軟な働き方支援プラン」を作成すること
- 対象制度利用者が、柔軟な働き方選択制度等のうちの1つを、利用開始から6か月間で一定の基準以上利用したこと
【受給額】
導入した制度の数 | 助成額 | 支給人数/回数 |
---|---|---|
2つ | 20万円 | 1事業主1年度につき5人まで |
3つ | 25万円 |
※育児休業などに関する情報公表を行った場合、1事業主1回限り2万円が加算される。
【2024新設】育休中業務代替支援コース
令和6年度から新設されました。
育休中業務代替支援コースとは、育児休業中や育児短時間勤務期間中の環境整備のために、「業務を代替する労働者への手当支給」や「代替要員の新規雇用を実施」した事業主を助成するコースです。
このコースの目的は、中小企業に勤め、職場と家庭の両立を図る労働者の継続雇用を目指す中小企業を支援することにあります。
以下の3つの取り組みに応じて、業務体制整備経費や業務代替手当などが助成されます。
- 手当支給等(育児休業)
- 手当支給等(短時間勤務)
- 新規雇用
参考:厚生労働省「令和6年1月から両立支援等助成金に「育休中等業務代替支援コース」を新設します」
また、育休中業務代替支援の詳細は、以下の記事で解説しています。育休に取り組む中小企業の方は、ぜひご覧ください。
関連記事:【令和6年拡充】両立支援助成金の「育休中等業務代替支援コース」を解説
育児休業に関する内容をこちらで詳しく解説しています。
参考記事:【2023最新】企業におすすめ!育児休業の申請に活用できる助成金一覧
「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!
助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説両立支援等助成金を申請する際の注意点
ここでは、両立支援等助成金を申請する際の注意点を解説します。
適切な労務管理が必要
両立支援等助成金を申請する際には、自社の従業員の適切な労務管理が必要です。それは、労務管理が適切に行われていることが支給要件とされ、確認書類として、就業規則や労働者名簿、賃金台帳などを提出することが求められるためです。
労務管理に不備があると助成金を受給できません。常に適切に管理しましょう。
助成は事業主単位
両立支援等助成金の助成は、事業所単位ではなく事業主単位です。1事業主に対し、1回のみ助成されるコースも多くあります。
また受給対象は、ほぼ中小企業の事業主だけに限られます。自社の規模を以下の表と照らし合わせて、対象範囲内かどうか確認してください。
小売業・飲食業 | 資本額または出資額が5千万円以下 または常時雇用する労働者数が50人以下 |
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サービス業 | 資本額または出資額が5千万円以下 または常時雇用する労働者数が100人以下 |
卸売業 | 資本額または出資額が1億円以下 または常時雇用する労働者数が100人以下 |
その他 | 資本額または出資額が3億円以下 または常時雇用する労働者数が300人以下 |
取り組み実施前に制度を整備する
各コースにおける支給要件を満たすための取り組みを実施する前に、制度を整備することが必要です。
例えば、「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」の場合、「対象者の育児休業における開始日の前日まで」に、必要とされる制度を就業規則や労働協約に定めなければなりません。
また、期限が設けられている取り組みもあるため、要件の詳細まで確認しましょう。
まとめ
両立支援助成金を上手に活用し、従業員の働きやすい環境をしっかりと整え、優秀な人材の確保と従業員の雇用継続を図りましょう!
「支給要件を満たせているかわからない」「申請手続きができるか不安」という場合には、プロのコンサルタントに相談するのがおすすめです。まずは無料診断を試してみてはいかがでしょうか。
誰に相談すべきか悩んでいる方はこちらもご覧ください。
参考記事:助成金・補助金は誰に相談すべき?探し方と事前に準備したい内容を解説