キャリアアップ助成金は、非正規雇用者の企業内キャリアアップなどを促進するための助成金で、例えばパートタイマーやアルバイトを無期契約する際に受け取ることができる助成金です。

アルバイトや派遣労働者を雇用していれば、利用することができる人気の助成金ですが、キャリアアップ助成金を申請するためにはどのようにすれば良いのでしょうか。

今回は、申請の方法と流れについて簡単に解説していきたいと思います。

キャリアアップ助成金を受け取るための前提条件

さて、キャリアアップ助成金を申請するためには、助成金の受給要件を満たさなければいけません。これはどのような助成金でも共通している要件です。

1 雇用保険適用事業所の事業主であること
2 支給のための審査に協力すること
(1)支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等を整備・保管していること
(2)支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等の提出を、管轄労働局等から求められた場合に応じること
(3)管轄労働局等の実地調査を受け入れること など
3 申請期間内に申請を行うこと
各雇用関係助成金に共通の要件等

お役所的な取り決めでややこしく聞こえるかもしれませんが、噛み砕くと「雇用保険入っているよね? 」「やましいことしていないよね? 」「何もせずもらえるものではないよ」ということです。

また、上記の他に、以下に当てはまる人は助成金を受け取ることができません。

  1. 不正受給をしてから3年以内に支給申請をした事業主、あるいは支給申請日後、支給決定日までの間に不正受給をした事業主(※不正受給とは、偽りその他不正の行為により、本来受けることのできない助成金の支給を受けまたは受けようとすることを指します。例えば、離職理由に虚偽がある場合(実際は事業主都合であるにもかかわらず自己都合であるなど)も不正受給に当たります。)
  2. 支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない事業主(支給申請日の翌日から起算して2か月以内に納付を行った事業主を除く)
  3. 支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に、労働関係法令の違反があった事業主
  4. 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれら営業の一部を受託する営業を行う事業主(※これらの営業を行っていても、接待業務等に従事しない労働者の雇い入れに係る助成金については、受給が認められる場合があります。)
  5. 暴力団関係事業主
  6. 支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主
  7. 不正受給が発覚した際に都道府県労働局等が実施する事業主名等の公表について、あらかじめ同意していない事業主

各雇用関係助成金に共通の要件等

ここで注意しておきたいのは、「労働関係法令の違反があった事業主」というポイントです。実はナチュラルに労働基準法を違反する企業は多く、申請期間中には労働局等の実地調査が入ることがあります。――つまり、申請期間中に労働関連法令の違反が発覚する場合があるのです。例えば、「三六協定を結んでいないのに時間外労働をさせている」や、「サービス残業のせいで時給換算時に各自治体が定める最低賃金を割っている」などということがあっては受給することができません。

上記「受給できる事業主」に当てはまらないあるいは「受給できない事業主」に当てはまる場合は助成金を申請することができませんので、ご注意ください。

キャリアアップ助成金の受給要件

上記の前提条件とは別にキャリアアップ助成金特有の受給要件があります。

  • 雇用保険適用事業所の事業主であること
  • 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主であること
  • 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であること
  • 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備している事業主であること
  • キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること

キャリアアップ助成金のご案内 – 厚生労働省

ここには、「しっかり従業員のキャリアアップに取り組んで、それが正当に評価できるように書類を整えてくださいね。」ということが書いてあります。
難しいことは考えず、清廉潔白に事業を営んでいて不正を働こうとしなければOKということです。

キャリアアップ助成金を申請するまでの流れ

助成金申請のフロー
キャリアアップ助成金には、いくつかのコースがあり、正社員化コースのみ少し申請のフローが異なるためここでは分けてご紹介していきたいと思います。

正社員化コースの申請フロー

正社員化コースは、有期無期問わずアルバイト・パート・派遣労働者などの非正規雇用者を正社員に転換するコースです。

正社員の形態は特に規定はなく、短時間労働正社員、勤務地限定正社員などに転換することも可能です。

1.キャリアアップ計画の作成・提出

申請計画書は、以下の厚生労働省の公式HPからダウンロードすることができます。

申請様式のダウンロードページ(キャリアアップ助成金)

ここでは、キャリアアップ管理者(社内で従業員のキャリアップに対する責任を持つ人)の取り決め、キャリアアップ対象者の取り決め、KPI(施策の目標)の設定を行います。

要するに「誰を正社員化して、誰がそれを管理して、なんのために正社員化をするのか」ということを計画書に書き起こす必要があります。

2.就業規則の改定

次に、正社員転換規定が就業規則に記載されていない場合はこの改定を行う必要があります。

さて、就業規則は勝手にホイホイ書き換えては良いものではなく、労働基準法90条によると「労働組合あるいは労働者の過半数以上を代表する労働者の意見を聞かなければならない」と定められています。勝手に変更したとあっては労働関連法令の違反となった助成金を受給できなくなってしまいますので、注意してください。

3.正社員転換

正社員への転換は、就業規則に基づいたものでなくてはなりません。改定した就業規則あるいはすでに定められている就業規則に基づいて正社員への契約転換を行います。

ここで注意しておかなければならないのは、正社員転換後、対象労働者の賃金が転換前と比べて5%以上アップしている必要があるということです。

4.転換後6ヶ月間の賃金支払

次に6ヶ月間の給与を支払います。「6ヶ月間雇用する」ではなく「6ヶ月間の給与支払い」なので注意してください。

例えば6月1日に正社員転換して、給与が翌月15日支払いの場合、12月1日ではなく、12月15日までが対象期間ということになります。

5.助成金申請

6ヶ月間の賃金の支払いが完了したら、完了から起算して2ヶ月以内に助成金の申請を行いましょう。

正社員化以外のコースの申請の流れ

続いては賃金規定等改定コースや諸手当制度共通化コースなど、その他のコースの申請の流れです。

1.計画書の作成

厚生労働省の公式HPから計画書をダウンロードし、必要事項を記入してください。

複数のコースを申請する場合は、同じ書類内に書き込むことも可能です。

2.計画の実行

計画書に記入した計画を実行してください。必要に応じて就業規則の改定も行う必要がありますので、注意してください。

3.取組後6ヶ月の賃金支払

正社員化コース同様に6ヶ月間の給与を支給してください。6ヶ月の雇用ではなく6ヶ月賃金の支払いです。

4.給与支払い完了後2ヶ月以内の支給申請

支給申請を忘れると受給できないため、給与の支払いが完了翌日に申請するようにしましょう。

Check!

「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!

助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説

助成金を受給するためのコツ

助成金は、厚生労働省が定める受給要件を満たせば受給できるものでありますが、受給要件を満たしていなければ受給することができません。

ですので、コツも何もルールに従うだけなのですが、念の為注意点をご紹介しておきたいと思います。

儲けるためのものと思わないこと

助成金は厚生労働省から返済不要で支給される資金ではありますが、利益目的で申請するものではありません。――あくまで、従業員の労働環境改善やモチベーションアップによる生産性向上のための資金だと考えてください。

例えば、助成金を受給するために6ヶ月後に正社員に転換することを予定して非正規で従業員を雇用するなどということはあってはなりません。

不正を働こうとしないこと

助成金を受給するにあたっては、かなり綿密な調査が入ることになります。――例えば、労働関連法案に違反する企業は助成金申請で見つかったりして労働局から指導が入ることがあります。

例えば会社都合で退職させた従業員がいるにも関わらず自己都合退職として処理した場合、これが発覚すれば不正受給と見なされ、最悪の場合懲役刑も課せられてしまいます。

予め法令に遵守しておくこと

例えば時間外労働が3ヶ月連続で45時間以上で、これを苦として従業員が自己都合退職をした場合、後に従業員の告発によって会社都合退職となってしまうことがあります。このような従業員がいる場合に助成金の申請期間中に従業員がハローワークに行って失業保険を申請した場合、労働基準法違反が発覚し、不正受給と見なされ助成金の返還や罰金などの様々なペナルティが課せられることになります。

このため、助成金を受給する企業は事前に労働関連法案を遵守しておく必要があります。

この他、東京都の企業が見なし残業制を利用して月の労働時間が260時間(残業100時間)の従業員に対して、256,100円の給与を下回る賃金を支払っている場合、これも労働基準法違反となります。東京都の最低賃金である985円を下回るためです。

まとめ

助成金の受給は不正受給をしないようにさえ気をつけていれば受給することができます。

――ただ、就業規則の改定や計画書の作成、その他労働基準法の遵守などを確認することは大変な作業です。これらを解決してくれるのが、社労士です。社労士は法律で唯一助成金の申請代行をすることが認められている士業です。

このため、多くの企業は助成金を申請するために社労士に申請代行を依頼するのです。

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黒沢晃
黒沢晃(助成金コンサルタント)
商社にて新卒採用の人事を担当した後、人材コンサルタントとして企業の人事戦略を支援。2016年から中小企業や個人事業主を対象として助成金を活用した経営サポートに従事。現在は年間100社以上をサポートする。