厚生労働省から支給される助成金を受給するためには、厚生労働省が定める受給要件というものを満たす必要があります。この時に注意しておきたいのが、「労働関連の法律に違反していないこと」というものです。
実は、労働基準法ならびにその他の法律に抵触していると助成金を受給することができないのですが、日本では多くの事業者が労働関連法案に違反しています。——それも故意ではなく、知らない間に。
今回は、多くの事業者に見られる労働関連の法律違反についてご紹介していきますので、助成金を申請する前に自社に当てはまるものがないかチェックしてみてください。
1. 残業に関する違反
残業代未払いとは、所定の労働時間を超過しているにも関わらず残業代が支払われていないことです。「うちは残業代支払っているよ」という事業者ももしかしたら残業代未払いに当てはまっているかもしれません。——というのも、時間外労働や深夜労働に対しては割増賃金を支払う必要があるのです。
この割増分を支払っていなければ、当然残業代未払いということで、労働基準法違反となってしまいます。それぞれの割増賃金の計算は以下のように行う必要があります。
- 時間外労働は、通常の賃金の25%以上
- 深夜労働は、通常の賃金の25%以上
例えば月給250,000円(時給換算1,562円)のAさんがある日仕事が終わらず、定時が19時であるところ深夜3時まで残業をしたとします。この時残業時間は、8時間(便宜上休憩時間は考慮しないものとします。)となります。——つまり、1.25倍の1,952円の時給で計算する必要があります。また、深夜労働(22時〜翌6時)にも差し掛かっていますから、22時〜3時までの労働は時給2,343円で計算しなければいけません。合計すると、残業代は以下のようになります。
もちろん、みなし残業を採用しているとしても、みなし分を超過するものは支払わなければいけません。
また、以下のような場合も残業になりますので、注意しましょう。
- 1週間で40時間を超えて労働している場合
- 休憩時間中に労働をしている場合
- 勤務後に実施される職業訓練
2. 休日に関する違反
休日についても特に飲食業界では多くみられる違反です。飲食業界では週6日間従業員が労働するケースがよく見られますが、法律では最低4週間に4日休日を与えなければならないということが決められています。
4週間の起算日は就業規則に定めておく必要があり、定められていない場合は、ある地点から計測して4日間以上の休日がない場合は、休日手当を支払わなければならない可能性があります。
この類の違反は、シフト制の職場でよく見られます。例えばある従業員が、6月に海外旅行を予定しており、5月に他の従業員とシフトを入れ替えてもらった場合、5月の休みが0になってしまうということも考えられます。この場合、企業はその従業員に対して5月の出勤の4日間は休日労働として割増賃金を支払う必要があるのです。
休日労働は、基本賃金の1.35倍の割増賃金を支払う必要があり、これが深夜労働になる場合はさらに1.25倍合計1.6倍の割増賃金となります。
「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!
助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説3. 休憩時間に関する違反
休憩時間に関する労働問題というのは日頃ニュースにはなりません。それもそのはずで、休憩時間に関する労働基準法違反で書類送検された企業というのは、0件。——だからといって、どの企業も違反していないわけではありません。単純に休憩時間ごときのために通報する人がいなかったり、送検されるほどの罰則が与えられていなかったりという要素が大きいでしょう。しかし違反は違反です。助成金の申請をするにあたっては、休憩時間に関する労働法の違反もあってはなりません。
休憩時間は、
- 6時間以上の労働に対して45分以上
- 8時間以上の労働に対して60分以上
が与えられなくてはなりません。また、休憩時間中にはいかなる命令を労働者に与えてはなりません。例えば、
- お昼行くなら備品買ってきて
- 上司の弁当を買ってきなさい
- 電話をとらせたりメールを返信させたりする
このようなことが休憩時間中にあってはなりません。休憩時間に労働者が何をしようと会社はそれに干渉してはならないのです。また、命令をすることもできません。
4. その他の違反
上記で紹介した以外にも、以下のようなことは労働関連法案の違反にあたります。
- 出産前、出産後休暇を認めない
- 生後1年未満の子供を育てる人に、育児時間を与えない
- 就業規則を作成しない、届け出しない
- 採用時に、労働条件を明らかにしていなかった
- 名ばかり管理職
まとめ
日本の企業は、世界で第四位の質の高さを持つ日本人労働者を格安の時給で使役することができるため、世界各国の企業に比べて非常に有利だと考えられています。今回ご紹介してきたものに対して「え!?こんなことも労働法違反なの!?」と思われた方も多いかもしれませんが、労働関連法案は最低限守られるべきもので、世界の事業主はもっと莫大な人件費を支払って経営しているのです。
助成金を申請するかしないかの問題ではなく、労働関連の法律にはもちろん罰則もあり、是正勧告の後に懲役刑や罰金が課せられることもありますので、助成金の申請をするにあたって労働環境を整備してみてはいかがでしょうか?