過度な労働時間を強いられた結果、精神的・肉体的負担により突然死を招く過労死問題。大手広告代理店で起きた、長時間の残業による新入社員過労自殺問題が記憶に新しい。
2018年8月21日には社員4名に違法な残業(100時間超え)をさせたとして書類送検された会社もあるようです。

働き方改革の3本柱の1つに「残業規制」として盛り込まれているように、この過労死問題は国全体の大きな問題として認識されており、厚生労働省も対策に乗り出しています。

労働環境だけでは片付けることができないこの大きな問題は、働き方改革により解決するのでしょうか。

違法な残業で書類送検

大阪府の会社が2018年8月に、社員4名に最大月178時間の残業をさせたとして書類送検されました。
具体的な社名は伏せさせていただきますが、この会社は違法な時間外労働をさせ、深夜労働などに対する割増賃金を支払わなかったとして検挙されたようです。

世間、あるいは国からの労働時間に対する規制はますます厳しくなっています。

過労死について

過労死は1970年頃から見られ、1980年代に注目されはじめたのですが、当初は労災認定が困難で、労災補償申請の多くは棄却されていました。

英語辞典に「karoshi(カロウシ)」として日本語の読みそのままで掲載されており、日本のみならず世界でも通じる言葉になっています。このように広く認知されている言葉ですが、では過労死の定義とはなんでしょうか。
「過労死等防止対策推進法第2条」によると、過労死は以下のように定義されています。

  • 業務における過重な負荷による脳血管疾患、心臓疾患を原因とする死亡
  • 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
  • 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害

いわゆる過労死には過労自殺も含まれており、精神的な要因によるうつ病からの自殺も過労死の範疇として捉えられており、要約すると「過度な残業や過密労働による、業務における肉体的・精神的に過度な負荷を原因とする死」ということになります。

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過労死と残業の関係

現在の労働行政では、時間外労働時間の目安となる過労死ラインは80時間となっており、月20日出勤の場合、1日4時間以上の残業で超える計算です。2~6ヶ月間、平均80時間以上の残業をしていると、過労死と認められやすいことになります。また、直前月に100時間を超える残業をしている場合も認めやすいとされています。

とはいえ、上記時間はあくまで目安です。残業時間が過労死ラインに達していなくては労災認定されない、ということではありません。

基本的なことですが、労働基準法では1日8時間週40時間以下に収まるよう法廷労働時間を定めています。この法廷労働時間を超える場合、36協定を結び届出なければなりません。

しかし、無制限に働かせてよいわけではなく、当然残業の上限時間や割増賃金が決められています。このような法規を守らない企業がいわゆるブラック企業と呼ばれており、過労死問題と密接に結びついているのです。

抜け道をなくす残業時間の上限規制

働き方改革関連法案が成立したことで、残業についての規制が変わることが決まりました。
具体的にはどのような改正が行われるのでしょうか。
現状の規定には、36協定を結んでいれば突発的な事態が起きた場合や、繁忙期における残業時間の上限はありませんでした。
・時間外労働の上限は、原則「月45時間、年360時間」
・突発的かつ一時的な特別の事情が予想される場合に限り、一年で6ヵ月を超えない期間内で、前述の原則を超える時間外労働時間を設定することができる(特別条項付36協定の締結)

つまり、36協定を結んでいればいくらでも残業させられる抜け道があったということです。

しかし、そこを法で取り締まろうとしたのが今回の法案。
・休日労働を含んで、単月は「100時間」未満となること
という制限が加わりました。

残業上限規制が適用されるタイミングは企業規模や、業種によって異なります。
・大企業 :2019年4月1日より施行
・中小企業:2020年4月1日より施行

また、人手不足が深刻な業種、例えば運送業や建設業などは一定期間の猶予が認められるようです。

働き方改革と残業時間

現状は、残業の上限を過労死ラインの80時間と設定しています。また、残業代は60時間までが25%、60時間を超えると残業代として50%の割増賃金を払わなければなりません。

つまり、長く働かせればそれだけ残業代がかさむので、経営者は残業させないようにするだろうという考えです。このように、残業時間の上限を設けたり、残業代を割増したりすることで、働き方改革では残業時間を抑制しようとしています。

「残業を制限されると仕事が回らない」「正規の残業代を出すと会社が潰れる」、という経営者もいるかもしれません。確かに、現在の日本では残業が常態化しており、定時後も当たり前のように仕事をしている人が多くいます。

しかし、本来残業とはイレギュラーな仕事の仕方であり、発生する方が珍しいはずです。

働き方改革により労働環境が変わっても、働く人間がその環境に対応できなくては、本来の改革とはいえません。

これから先、変化する労働環境に適応するために、労働への意識を変えていくことが求められています。生産性を向上させ、残業時間を減らしましょう。

働き方改革はどこまで労働環境を変えられるか

冒頭で挙げた広告代理店に限らず、長時間労働が強いられている職業は少なくありません。例えば医師や教員など、職務の重要さもあり、なかなか労働時間を減らすことができないものと推察されます。

働き方改革の対象としてまず思いつくのは、一般の会社員でしょう。しかし、抜本的な働き方改革のためには、今後こうした専門的な職業の働き方まで想定して改革を進めていく必要があります。

過労死問題は、働き方の問題であるとともに、人の命の問題です。働き方改革の成否は、日本経済だけでなく日本国民の人生を左右するといっても過言ではありません。

今後、過労死・過労自殺といった悲劇を繰り返さないためにも、私たち一人ひとりが働き方を改革していく必要があるのではないでしょうか。

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黒沢晃
黒沢晃(助成金コンサルタント)
商社にて新卒採用の人事を担当した後、人材コンサルタントとして企業の人事戦略を支援。2016年から中小企業や個人事業主を対象として助成金を活用した経営サポートに従事。現在は年間100社以上をサポートする。