「働き方改革」でも頻繁に論じられている長時間労働問題。
過労死や過労自殺のニュースが大きく世間を騒がせており、違法残業に伴う長時間労働は以前から度々問題として取り上げられていることは、皆さんご存知でしょう。
単純な労働時間の問題だけでなく、労働生産性の問題、引いては人の命にまで及ぶこの長時間労働問題は、大きな問題として取り上げられているにも関わらず、何度も繰り返されています。
では、なぜ違法残業はなくならず、今もなお長時間労働は蔓延しているのでしょうか。
基本的な労働時間
厚労省は、1ヶ月80時間を超える時間外・休日労働が疑われる事業場や、過労死などの労災請求があった約2.6万事業場を対象に監督指導を実施しました。
平成29年度の監督指導結果によると、45%に当たる1万1592事業場で違法な時間外労働が発覚。このうち、実際に月80時間を超える時間外・休日労働を行わせていたのは74%に上り、月200時間を超えていたのは2%という結果でした。
そもそも、残業は法廷時間外労働であり、労働基準法に定められている限度を超えた労働時間になります。日本の労働法規では、「1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけない」とされており、違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
一方で、「時間外労働・休日労働に関する協定届」いわゆる「36協定(サブロク協定)」により、あらかじめ労働基準監督署に届け出ていれば時間外労働をさせることが可能です。とはいえ、当然ながら無制限に働かせて良いわけではなく、月45時間など限度時間が設けられています。
しかし、平成25年度に厚労省が行った調査によると、中小企業の56.6%が労使協定を締結しておらず、その半数以上が違法残業を課していることが判明しました。
違法残業がなくならない理由
「過労死」という言葉が世界的に通用するほど、日本の違法残業・長時間労働は問題視されています。事実、海外のニュースでも取り上げられるほどです。電通の新入社員過労死事件は、まだ記憶に新しいのではないでしょうか。この事件に限らず、違法残業は大企業、中小企業を問わず多くの企業でまかり通っています。
ニュースで取り上げられるようになり国会で議論されるなど、近年になりようやく国が対策に乗り出しましたが、古くは1980年代から取り沙汰されていました。
では、なぜこうした違法残業はなくならないのでしょう。
違法残業が蔓延する原因、なくならない理由は複数考えられますが、その一つとして罰則の弱さがあると考えられます。
上述したように、労働法規に違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。つまり、違法残業を課した結果過労自殺に追い込んだとしても、最大で罰金30万円と、残業代をはるかに下回る金額で済ませることができるのです。自殺を選択しなければならないほど過酷な労働を強いてもこの程度では、企業からすれば痛くもない金額。これでは違法残業はなくならないでしょう。
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助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説働き方改革による違法残業対策
働き方改革により時間外労働の上限が規制され、以下のように取り決められました。
- 原則は、労使合意による36協定にもとづき「月45時間・年360時間」
- 年間の残業時間は720時間(月平均60時間)
- 1月最長で100時間未満
- 月の残業が45時間を超えていいのは6ヶ月まで
これにより違法残業が抑制され、長時間労働の改善が期待されています。
一方で、問題がないわけではありません。
例えば、月の残業時間が80時間で過労死ラインといわれているところ最長100時間未満としているなど、矛盾しているという意見もあります。上限が過労死ラインと重なっているということは、「過労死ラインまで働かせることを国が認めている」と受け取ることもできるのです。また、月を跨げば30日間で150時間以上の残業が可能になる、という抜け道があるという指摘もあります。
現状、まだまだ整備できているとはいえない法制度。これから先、政府には違法残業の厳罰化など、法律面からの働き方改革の推進が求められます。
企業に求められるコンプライアンス
平日の長時間残業はもちろん、休日出勤などを繰り返すことで、過労死ラインとされる月80時間(1日4時間)を超える長時間労働を繰り返した結果、過労死にいたる。少子高齢化に伴う労働力人口の減少が著しい日本において、これ以上の損失はないでしょう。
働き方改革により、法的な面から長時間労働が見直され始めている現在、それでも違法残業に伴う長時間労働の問題を解決するには、何よりも働かせる側──企業の意識改革が必要です。
同時に、労働者側も長時間労働を減らす努力が求められます。働き方と働かせ方、双方を改革することで長時間労働を減らし、社会全体で過労死という大きな損失、大きな悲しみをなくしていきましょう。