新型コロナウイルスの流行により、事業継続が危うくなった企業や事業転換を迫られた企業が多くありました。そうした企業が事業を継続するための取り組みを支援するために産業雇用安定助成金が制定されました。
しかし、2023年に入ると社会がコロナ禍に対応できるようになり、徐々に経済活動は安定してきています。そのため、産業雇用安定助成金も大きく制度が変更されています。
そこで、この記事では産業雇用安定助成金の概要や各コースの対象、助成金額をわかりやすく解説します。
産業雇用安定助成金とは
産業雇用安定助成金は、「自社の人材を出向させて、雇用維持や人材育成を行う事業主を支援する助成金制度」です。
令和7年では、産業雇用安定助成金には以下の3つのコースが設置されています。
- スキルアップ支援コース
- 産業連携人材確保等支援コース
- 災害特例人材確保支援コース
本記事では、3つのコースの対象となる要件や助成金額などを解説します。
なお、雇用維持支援コース・事業再構築支援コースは令和5年をもって廃止となりました。


産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)の支給要件・助成額
産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)とは、「スキルアップを目的に在籍型出向を行い、復帰した際に賃金を出向前よりも5%以上向上させた事業主に対して、当該事業主が負担した出向中の賃金の一部を助成する制度」です。
このコースの対象になるには、出向元企業と出向先企業が「出向契約」を結ぶことが前提です。出向契約のもとに、労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結び、出向先企業に一定期間勤務することを在籍型出向と呼びます。
ここでは、スキルアップ支援コースの支給要件・助成額を要約して解説します。
対象となる「出向」
出向には、いくつかの要件を満たすことが必要です。主な要件を以下にまとめています。
- 1か月以上2年以内の出向であること
- 労働者のスキルアップを目的として実施すること
- 出向期間終了後は元の事業所に戻って働くことが前提であること
- 労働者の出向復帰後6か月間の各月の賃金を、出向前賃金と比較していずれも5%以上上昇させること
対象となる出向元事業主
対象となる出向元事業主の主な要件をまとめました。
- 雇用保険適用事業所であること
- 労働者のスキルアップにより企業活動を促進し、雇用機会等の増大を目的として出向を実施すること
- 職業能力開発推進者を選任していること
- 出向終了から6か月間にわたり、対象労働者を出向元事業所で継続して雇用していること
対象となる労働者
対象となる労働者は、以下の2つの要件を満たす労働者です。
- 出向元事業主に雇用される雇用保険被保険者
- 「出向実施計画(変更)届」(様式第1号)に記載のある労働者
ただし、有期契約労働者や出向開始日の前日時点において、出向元事業主に被保険者として雇用された期間が6か月未満の労働者などは対象外となっています。
助成金額
助成金額は、以下のとおりです。
助成金額 | 中小企業 | 中小企業以外 |
---|---|---|
助成率 | 2/3 | 1/2 |
助成額 | 以下のうち、いずれか低い額に助成率をかけた額(最長1年)
|
|
上限額 | 8,870円/1人1日当たり (1事業所1年度あたり1,000万円まで/1人あたり1回まで) |
スキルアップ支援コースの詳細や最新情報は、厚生労働省のホームページをご覧ください。
参考:厚生労働省「産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)」
「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!
助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説産業雇用安定助成金(産業連携人材確保等支援コース)の支給要件・助成額
産業雇用安定助成金(産業連携人材確保等支援コース)とは、「景気の変動や産業構造の変化などの理由で事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、生産性向上のための取り組みを行うため、その取り組みに必要な新たな人材の受け入れを支援する制度」です。
ここでは、産業連携人材確保等支援コースの支給要件・助成額を要約して解説します。
対象となる事業主
対象となる事業主の主な要件をまとめました。
- 「事業再構築補助金」または「ものづくり補助金」の採択および交付決定を受けていること
- 生産量(額)、販売量(額)または売上高等事業活動を示す指標が、ものづくり補助金の事業計画書の申請日の属する月の前々々月から前月の3か月間の月平均値が、前年同期に比べ10%以上減少していること
- 対象労働者に対して、1年間(助成対象期間)に350万円以上の賃金を支払っていること(ただし、助成金の支給については、支払われた賃金が175万円以上の支給対象期に限る)
- 対象労働者の雇用において、以下の3つの条件をすべて満たすこと
①雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇用すること
②期間の定めのない労働契約を締結する労働者(パートタイム労働者は除く)として雇用すること
③事業再構築補助金またはものづくり補助金の補助事業実施期間の初日から当該期間の末日までに雇用すること
対象となる労働者
対象となる労働者は、以下の2つの要件に該当することが必要です。
・以下のいずれかに該当する労働者
①専門的な知識や技術が必要となる企画・立案、指導の業務に従事する者
②部下を指揮や監督する業務に従事する者であって、係長相当職以上の者
・1年間に350万円以上の賃金が支払われる労働者
助成金額
助成金額は、以下のとおりです。
中小企業 | 中小企業以外 | |
---|---|---|
助成額 | 250万円/人 (125万円×2期) |
180万円/人 (90万円×2期) |
助成対象期間 | 1年 |
1事業主当たり、支給は5人までです。雇用から6か月を支給対象期の第1期、次の6か月を第2期として、2回に分けて支給されます。
産業連携人材確保等支援コースの詳細や最新情報は、厚生労働省のホームページをご覧ください。
参考:厚生労働省「産業雇用安定助成金(産業連携人材確保等支援コース)」


産業雇用安定助成金(災害特例人材確保コース)の支給要件・助成額
産業雇用安定助成金(災害特例人材確保コース)とは、「令和6年能登半島地震の影響を受けた事業主が、在籍型出向により労働者の雇用を維持する場合に、出向元・出向先の双方の事業主に対して、出向期間中の賃金の一部を助成する制度」です。
ここでは、災害特例人材確保コースの支給要件・助成額を要約して解説します。
対象となる「出向」
災害特例人材確保コースの対象となる「出向」の主な要件をまとめました。
- 令和6年能登半島地震の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図ることを目的に行う出向であること
- 出向した労働者が、出向期間終了後は元の事業所に戻って働くことを前提としていること
- 令和6年12月17日~令和7年12月31日までの間に開始され、出向期間は1か月以上1年以内であること
- 出向元と出向先が、親会社と子会社の間の出向でないことや代表取締役が同一人物である企業間の出向でないことなど、資本的、経済的・組織的関連性などからみて独立性が認められること
対象となる事業主
災害特例人材確保コースの対象となる出向元事業主の主な要件をまとめました。
- 石川県七尾市、中能登町、羽咋市、志賀町、宝達志水町、輪島市、穴水町、珠洲市、能登町に所在する雇用保険適用事業所であること
- 令和6年能登半島地震に伴い、売上高または生産量などの事業活動を示す指標において、最近1か月間の値が前年同期に比べ、10%以上減少していること
- 出向の実施について労使間で事前に協定を締結し、その協定に基づいて出向を実施すること
対象となる労働者
災害特例人材確保コースの対象となる労働者の主な要件をまとめました。
- 出向元事業主に雇用されている雇用保険被保険者
- 「出向実施計画(変更)届(出向元事業主)」(様式第1号)に記載のある労働者
- 出向元事業主に被保険者として雇用された期間が6か月以上である労働者
助成率
災害特例人材確保コースの助成率・助成上限額は、以下のとおりです。
助成率 | 中小企業:4/5 中小企業以外:2/3 |
---|---|
上限額(出向元・出向先の合計) | 8,870円 ※雇用保険の基本手当日額の最高額(令和7年8月1日時点) |
助成対象期間 | 出向中に必要な賃金の一部を最長1年まで(令和7年12月31日を超える場合は、当該日まで) |
災害特例人材確保コースの詳細や最新情報は、厚生労働省のホームページをご覧ください。
参考:厚生労働省「産業雇用安定助成金(災害特例人材確保支援コース)」
産業雇用安定助成金の申請方法・注意点
ここでは、産業雇用安定助成金の申請方法や申請時の注意点を解説します。
申請の流れ
産業雇用安定助成金の基本的な申請の流れをまとめました。
- 出向の計画を立てる
- 出向実施計画を作成し、申請書類とともに労働局に提出する
- 出向を実施する
- 申請書類を準備し、労働局に支給申請を行う
- 助成金が振り込まれる
コースごとに、必要なプロセスや申請書類が異なる場合もあるため、公募要領の確認や助成金コンサルタントへの申請サポートを依頼するなど、適切な申請を行いましょう。
申請時の注意点
産業雇用安定助成金の申請時には、以下の点に特に注意が必要です。適切に対応することで、スムーズな手続きとトラブル回避につながります。
・玉突き出向は対象外となる
出向先が労働者を解雇し、自社から出向者を受け入れるような「玉突き出向」は、制度の趣旨に反するため助成の対象外となります。また、退職勧奨などの形を取って退職させるケースも申請不可です。
・出向契約に秘密保持条項を盛り込む
出向中に自社のノウハウや技術が流出する可能性があります。万一の事態に備えて、出向契約には「社内機密の取り扱い」を禁止する条項を明確に盛り込むと安心できます。
・書類の不備が双方の支給を阻む可能性あり
出向元・出向先の両方が要件を満たさないと、助成金が不支給になる可能性があります。申請書類は確実に準備・確認することが重要です。


まとめ
この記事では、産業雇用安定助成金の各コースをわかりやすく解説しました。
産業雇用安定助成金は、他社へ出向させることで雇用調整や人材のスキルアップにつなげる施策を支援する助成金です。活用することで、幅広い施策を実施しやすくなります。
ただし、令和4年~5年にかけて大幅にコース編成されたため、活用を検討している企業は支給要件や助成額について再度確認するようにしましょう。
特に、はじめて助成金を利用する場合には、プロのコンサルティング業者に申請サポートを依頼するとスムーズな手続きにつながります。まずプロのコンサルティング業者が行う無料診断を受けてみてはいかがでしょうか。


