厚生労働省から返済不要でもらうことができる助成金は数多くの種類が存在します。

例えば社員に育休を取得させたり、非正規雇用を正規雇用に契約を転換する場合、そのためにかかった費用を一部助成してもらうことができるのです。

――しかし、この助成金は誰でも受給できるものではなく、受給するための条件「受給条件」というものが存在します。例えば、なんでもかんでも受給できてしまうと、誰もが中身のない空事業を立ち上げて助成金を受給しようなどと考えてしまいますよね?助成金とは労働者の生活の安定や労働環境の改善、ひいては日本国の経済の発展のためにあるものなので、無条件に受給できてしまっては本来の意義が損なわれてしまうため「受給条件」というものが設けられているのです。

では、助成金の受給条件とはどのようなものがあるのでしょうか?

全ての助成金に共通する受給条件とは

助成金は数多くの種類があり、毎年種類が更新されたりします。

例えば2018年にはキャリアアップ助成金というものがありますが、アルバイトや派遣社員などの非正規雇用をしている従業員を正社員に転換することで1人当たり最大60万円が助成されます。この助成金の受給条件は「非正規雇用を正規雇用(無期雇用)の契約に転換すること」という条件があります。

この他にも助成金は数百種類存在しますが、各個別の条件とは別にどの助成金にも共通する共通の受給条件があります。

本項ではこの共通の受給条件についてちょっとお役所っぽい記述が続きますが、できる限り分かりやすく解説していきたいと思います。

助成金を受給できる事業主

厚生労働省によると、助成金を受給するためには以下の3つの要件を全て満たさなければならないとしています。

  1. 雇用保険適用事業所の事業主であること
  2. 支給のための審査に協力すること
    1. 支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等を整備・保管していること
    2. 支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等の提出を、管轄労働局等から求められた場合に応じること
    3. 管轄労働局等の実地調査を受け入れること など
  3. 申請期間内に申請を行うこと

各雇用関係助成金に共通の要件等

1番について、雇用保険適用事業所とは従業員を雇用する時に届け出が必須のものですね。

2番については、「しっかり労働基準法に則ってルールを守ってモラルを欠くことなく会社を運営していますよね?」という確認です。例えば最低時給を割っていたり、過度に残業をさせている場合や会社都合退職がある場合に助成金を受給できなくなりますから、こういった審査や調査を清廉潔白受けてくださいということを言っているわけです。

3番については、当たり前ですが申請しないともらえませんよということです。お役所では「申請しないともらえないなんて書いてないじゃないか!うちにもよこせ!」と後から言われないためにこういったことまで書いておく必要があるのです。お~怖。

受給対象外となる事業主

一方で、助成金の対象外とされる事業主も存在します。まぁともあれ厚生労働省の記述についてチェックしてみましょう。

  1. 不正受給をしてから3年以内に支給申請をした事業主、あるいは支給申請日後、支給決定日までの間に不正受給をした事業主
  2. 支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない事業主
  3. 支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に、労働関係法令の違反があった事業主
  4. 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれら営業の一部を受託する営業を行う事業主
  5. 暴力団関係事業主
  6. 支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主
  7. 不正受給が発覚した際に都道府県労働局等が実施する事業主名等の公表について、あらかじめ同意していない事業主

各雇用関係助成金に共通の要件等

最近は助成金の不正受給が頻繁に報道されたりしていますが、例えば会社都合退職の従業員がいた場合に無理矢理自己都合退職にさせて助成金を受給するような場合も不正受給に当たります。会社都合退職者が半年以内にいる場合は助成金が受給できなくなりますから、なんとかして隠蔽を働こうとする事業主もいます。会社都合退職は解雇だけでなく、例えば月45時間以上の残業が3ヶ月以上連続した従業員が退職した場合――これも会社都合退職と見なされてしまいます。また、ハラスメントや給与の減額が原因で退職した場合も会社都合退職として見なされてしまいます。注意しましょう。

要するに労働基準法を始めとする法律や労働者の権利を守ってくださいということです。このあたりの労働基準法を守っていない事業主というのは非常に多いです。例えば広告業界にはみなし労働時間制を採用している会社が多いですが、みなし労働だからといって残業代を支払わないことは違法になります。もちろん、深夜労働に対する賃金も支払う必要があります。

4番の「性風俗関連営業云々…」とありますが、この場合、接待業務に従事しない労働者――例えばWEBデザイナーの雇入れに関しては助成金の受給が認められるケースもあります。

生産性要件を満たせば受給額がUPする

さて、色々と小難しいことを書きましたが、要するに反社会的勢力でなく、しっかりルールを守って組織を運営していれば基本的に助成金を受け取ることができるということです。

ここから、さらに以下の要件を満たしていれば、助成金を受給できる額がアップします。

1. 助成金の支給申請等を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること。(「生産性」は次の計算式によって計算します。)
生産性 ゠(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷(雇用保険被保険者数)

2. 1の算定対象となった期間(支給申請を行った年度の直近年度及び当該会計年度から3年度前の期間)について、雇用する雇用保険被保険者(短期雇用特例被保険者および日雇労働被保険者を除く)を事業主都合によって解雇(退職勧奨を含む)していないこと。

各雇用関係助成金に共通の要件等

分かりやすく言えば、「一人あたりが稼ぐ売上が上がっていればさらに助成金を差し上げます」あるいは「助成金っを受給してしっかり運用した結果を出してくれたらご褒美をあげます。」ということです。

これらを生産性要件と言いますが、これは一部の助成金を受給する場合に適用される要件です。

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「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!

助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説

助成金の受給を諦める前に

ここまで読んでいただいて、「なんだ…うちは残業も多いし残業代も支払っていないし、対象外か…国のお金でお寿司食べたかったなぁ」とお考えの経営者諸君もいらっしゃるかもしれませんが、多くの助成金申請者は最初は対象外であることが多いです。

やんごとなき厚生労働省の方々が考えておられることは筆者には分かりかねますが、「助成金を受け取るために労働環境を整える事業主が増えたらいいな」と考えているのではないかと思います。――近年労働者が直面している「過重労働」や「低賃金」を解消するためには、経営者に動いてもらう必要があります。そういった経営者を動かすための一つの方法として助成金があるのです。

助成金を受給するために労働環境を整えると従業員はハッピー、経営者諸君も助成金がもらえてハッピー、国も労働時間の短縮や生産性の向上できてハッピー…そんな三方良しのものが助成金なのです。決して経営者諸君がおいしいお寿司を食べるためのものではありません。

しっかり労働環境を整えて、従業員が高い生産性を出せるような環境を創出し、全うな方法で売上を伸ばしていく…そのための助成金です。――まぁ、売上を伸ばしていけるかどうかは経営者たる皆さんの手腕次第ですが、

助成金受給のために何から始める?

助成金の受給するためには、まずは法律に準拠した労働環境を創出する必要があります。――でも、どこが違反していて、どこがOKなのかということは相当労務に詳しくないとわかりませんよね?

そんな場合は助成金受給のためのコンサルタントを使ってみるのもありかもしれません。――もちろん自分で一から調べて助成金の受給の申請まですることもできますが、勉強して申請書類を整えてお役所まで申請しにいって…結構手間がかかります。

助成金の申請をワンストップで行ってくれるのが社労士事務所や助成金のコンサルタントです。まずはこういったプロに相談してみてはいかがでしょうか?

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弊社担当のご紹介
黒沢晃
黒沢晃(助成金コンサルタント)
商社にて新卒採用の人事を担当した後、人材コンサルタントとして企業の人事戦略を支援。2016年から中小企業や個人事業主を対象として助成金を活用した経営サポートに従事。現在は年間100社以上をサポートする。