景気の変動や競合他社の出現など、さまざまな背景により経営が困窮してしまう事業主は多いでしょう。そういった事態に直面した事業主を支援するための「雇用調整助成金」という制度があるのはご存じでしょうか。

雇用調整助成金を活用することで、自社の社員の雇用を守りながら経営を回復するための資金を調達できます。

そこで、この記事では雇用調整助成金の概要や支給要件、助成金額、申請の流れを解説します。また、令和6年度の石川県能登半島地震に伴う特例措置についても紹介していますので、該当する事業主はぜひ申請時の参考にしてください。

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雇用調整助成金とは

雇用調整助成金とは、景気の変動や産業構造の変化などの経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が従業員の休業・教育訓練・出向を行う際に、かかった費用を助成する制度です。
一時的な雇用調整を行うことで、従業員の雇用維持の促進を目的としています。

また、これまで新型コロナウイルスの流行やリーマンショック、東日本大震災の際には特例措置もあわせて実施されてきました。
なお、「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例措置」は2023年3月31日で終了しているので注意が必要です。

この記事では令和6年4月に改訂された制度内容について解説します。

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雇用調整助成金の支給要件

雇用調整助成金の主な支給要件として、「雇用関係助成金共通の要件」と「雇用調整助成金独自の要件」の2つを解説します。

雇用関係助成金共通の要件

雇用調整助成金は、厚生労働省が主導する雇用に関する助成金制度(雇用関係助成金)の一つです。雇用関係助成金には、以下の共通要件が定められています。

  • 雇用保険適用事業所の事業主であること
  • 審査に必要な書類を整備・保管している事業主であること
  • 審査に必要な書類の提出や実地調査に協力する事業主であること

雇用調整助成金の支給要件

雇用調整助成金独自の主な支給要件をまとめました。

  • 売上高又は生産量などの事業活動を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していること。
  • 雇用保険被保険者数および受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上、中小企業以外の場合は5%を超えてかつ6人以上増加していないこと。
  • 実施する雇用調整が一定の基準を満たすものであること。
  • 1.休業の場合
    労使間の協定により、所定労働日の全一日にわたって実施されるものであること。
    2.教育訓練の場合
    休業の場合と同様の基準のほか、教育訓練の内容が、職業に関する知識・技能・技術の習得や向上を目的とするものであること。
    3.出向の場合
    対象期間内に開始され、3か月以上1年以内に出向元事業所に復帰するものであること。

  • 過去に雇用調整助成金の支給を受けたことがある事業主が新たに対象期間を設定する場合、直前の対象期間の満了の日の翌日から起算して1年を超えていること。

参考:厚生労働省「雇用調整助成金」

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雇用調整助成金の助成金額・助成率

雇用調整助成金の助成金額・助成率は、以下のとおりです。

【令和6年3月31日以前に対象期間を始めていた事業主】

企業規模 助成率 教育訓練加算額
中小企業 2/3 1,200円
大企業 1/2

【令和6年4月1日以降に対象期間を始める事業主】

教育訓練実施率 企業規模 助成率 教育訓練加算額
1/10未満 中小企業 2/3 1,200円
大企業 1/4
1/10~1/5未満 中小企業 2/3
大企業 1/2
1/5以上 中小企業 2/3 1,800円
大企業 1/2

※累計の支給日数が30日に達した判定基礎期間までは、見直し前と同様です。累計の支給日数が30日に達した判定基礎期間の次の判定基礎期間からの助成率・助成金額です。

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雇用調整助成金の申請の流れ

雇用調整助成金の申請の流れをまとめました。
雇用調整助成金の支給申請の窓口は、原則として都道府県労働局ですが、ハローワークになる場合もあります。事業所の管轄となっている労働局やハローワークに問い合わせてみましょう。

  1. 雇用調整の計画
  2. 雇用調整の計画届を作成・提出
  3. 雇用調整の実施
  4. 支給申請
  5. 審査ののち、支給決定
  6. 支給額の振込

雇用調整助成金を申請する際は期限内に手順を踏めるよう、事前に準備することが必要です。計画届提出時と支給申請時にはそれぞれ異なる書類を提出することが求められるため、早めに必要書類を確認しましょう。

申請書類については、以下の記事で解説しています。あわせてご覧ください。
関連記事:【記入例あり】2024年雇用調整助成金の申請書類一覧まとめ

雇用調整助成金を不正受給した場合のペナルティ

雇用調整助成金を不正受給すると、以下のようなペナルティが発生します。

  • 不正にかかる助成金の不支給または支給が取り消される。また、すでに支払われた分は全額返金となる。
  • 不正受給により返還を求めた額、不正受給の日の翌日から納付の日まで年3%の割合で算定した延滞金および不正受給により返還を求められた額の20%に相当する額の合計額を請求金として支払うこととなる。
  • 支給を取り消した日、不支給とした日から5年間は、雇用保険料を財源とする助成金などを受給できなくなる。
  • 詐欺、脅迫、贈賄等刑法に触れる行為があった場合、刑事告発される可能性がある。
  • 不正受給が次のいずれかに該当する場合、事業主名などが公表される。

1.不正受給による支給取消額及び不正を理由として不支給決定を受けた支給申請額の合計額が100万円以上の場合であって、返還命令後1か月以内に全額納付されないとき。

2.不正の態様・手段、組織性などから判断して、管轄労働局長が特に重大または悪質であると認めるとき。

参照:厚生労働省「雇用調整助成金について」
参照:厚生労働省 都道府県労働局 ハローワーク(公共職業安定所)「雇用調整助成金ガイドブック~雇用維持に努力される事業主の方々~」

不正受給が発覚すると、金銭的なペナルティだけでなく社会的な信用を失い、事業継続が難しくなることが多くあります。絶対に不正受給はしないようにしましょう。

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【令和6年】能登半島地震に伴う特例措置とは

雇用調整助成金では、令和6年に発生した能登半島地震に伴う特例措置を実施しています。ここでは、概要や通常制度との違いを解説します。

令和6年能登半島地震の災害に伴う特例措置は、能登半島地震の影響により雇用調整を行う事業主を支援する措置です。
業種の制限はなく、全国の事業主が対象です。基本的に新潟、富山、石川、福井の各県内に事業所がある場合に、要件が大きく変更されています。

また、能登半島地震に起因する場合には以下の場合も「経済上の理由」に該当します。

  • 取引先の地震被害のため、原材料や商品等の取引ができない場合
  • 交通手段の途絶により来客がない、従業員が出勤できない、物品の配送ができない場合
  • 電気、水道、ガス等の供給停止や通信の途絶により、営業ができない場合
  • 風評被害により、観光客が減少した場合
  • 事業所、設備などが損壊し、修理業者の手配や修理部品の調達が困難なため、早期の修復が不可能なことによる事業活動が阻害された場合

通常制度との違い

以下に通常制度との違いをまとめました。

項目 通常制度 令和6年能登半島地震の特例措置
要領事項 対象事業主 経済上の理由により事業活動を縮小した全国の事業主 令和6年能登半島地震に伴う経済上の理由により事業活動を縮小した全国の事業主
(対象期間初日:令和6年1月1日~令和6年6月30日)
生産指標要件 最近3か月間の月平均値が前年同期比10%以上低下
※事業所設置後1年未満は対象外
最近3か月→最近1か月10%以上低下
※事業所設置後1年未満も対象
雇用量要件 最近3か月間の月平均値が前年同期と比べ、一定規模以上増加していないこと 撤廃
計画届 事前の提出が必要 計画届の提出日が令和6年3月31日までの場合は、事前に提出されたものとみなす
残業相殺 所定外労働があった場合、休業等の実績から相当分を差し引く 4県について撤廃
※新潟県、富山県、石川県、福井県
省令事項 支給日数
  • 1年100日
  • 3年150日
3年150日を適用しない
4県について1年300日
対象労働者 雇入れ後6か月未満は対象外 雇入れ後6か月未満も対象
クーリング要件 過去に雇用調整助成金の支給を受けた対象期間満了の日の翌日から起算して1年を超えていること 撤廃
助成率
  • 大企業1/2
  • 中小企業2/3
4県の事業所が実施する休業・訓練・出向について

  • 大企業2/3
  • 中小企業4/5
対象となる休業の規模
  • 大企業1/15以上
  • 中小企業1/20以上
4県について

  • 大企業1/30以上
  • 中小企業1/40以上

(参照:厚生労働省「雇用調整助成金|令和6年能登半島地震の災害に伴う特例措置について」)

能登半島地震の影響が大きく、経営が苦しい4県の事業主は、利用を検討することがおすすめです。

まとめ

この記事では、雇用調整助成金の概要や支給要件、助成金額、申請の流れを解説しました。

令和6年に発生した石川県能登半島地震に伴う特例措置も発表されるなど、雇用調整助成金は経営に困窮する事業主を支援できるよう、定期的に内容が改訂されています。
そのため、雇用調整助成金の申請を検討している場合には、支給要件をよく確認することが必要です。

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黒沢晃
黒沢晃(助成金コンサルタント)
商社にて新卒採用の人事を担当した後、人材コンサルタントとして企業の人事戦略を支援。2016年から中小企業や個人事業主を対象として助成金を活用した経営サポートに従事。現在は年間100社以上をサポートする。