派遣社員を活用する企業は多くありますが、キャリアアップ助成金を利用することで自社の負担を少なく派遣社員を正社員化できることはあまり知られていないかもしれません。
キャリアアップ助成金のうち、正社員化コースはアルバイトやパートだけでなく、派遣社員も支給対象です。派遣社員を直接雇用したいと検討している企業であれば、キャリアアップ助成金についても理解を深めておくと良いでしょう。
そこで、この記事では派遣社員の正社員化に利用できる「キャリアアップ助成金」の概要や正社員化コースの詳細、申請方法を紹介します。また、令和5年11月にあった改正内容についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
派遣社員の正社員化で受給できる「キャリアアップ助成金」とは
派遣社員の正社員化(直接雇用への転換)を実施することで受給できる「キャリアアップ助成金」の概要を解説します。
概要
キャリアアップ助成金とは、非正規雇用の労働者(有期雇用労働者や短時間労働者、派遣労働者)の企業内でのキャリアアップに対する取り組みを支援する助成金です。ここでのキャリアアップは、大きく「正社員化」と「処遇改善」に区分されています。
キャリアアップ助成金を利用することで、派遣社員の正社員化により企業にかかる負担を軽減できます。
コース一覧
キャリアアップ助成金には、以下の7つのコースがあります。
正社員化支援 | 正社員化コース | 有期雇用労働者等を正社員化 |
障害者正社員化コース | 障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換 | |
処遇改善支援 | 賃金規定等改定コース | 有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を改定し3%以上増額 |
賃金規定等共通化コース | 有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用 | |
賞与・退職金制度導入コース | 有期雇用労働者等を対象に賞与または退職金制度を導入し支給または積立てを実施 | |
短時間労働者労働時間延長コース | 有期雇用労働者等の週所定労働時間を延長し、社会保険を適用 | |
社会保険適用時処遇改善コース | 有期雇用労働者等に新たに社会保険を適用させるとともに、労働者の収入を増加させる |
こちらでも解説しているので、あわせてご覧ください。
関連記事:【2023年最新】キャリアアップ助成金とは?各コースを徹底解説
派遣社員の正社員化が対象になっているのは、「正社員化コース」です。そのため、この記事では「正社員化コース」について取り扱います。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)
ここでは、キャリアアップ助成金(正社員化コース)の概要や対象事業者、対象となる労働者などについて解説します。利用を検討する際は、自社が支給要件を満たしているかどうかを確認しましょう。
対象となる事業者
キャリアアップ助成金の対象となる事業者は、以下の5つの項目にすべて該当する必要があります。
- 雇用保険適用事業所の事業主
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主
※キャリアアップ管理者は、複数の事業所および労働者代表との兼任はできません。 - 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に係るキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主
- 実施するコースの対象労働者の労働条件、勤務状況および賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることができる事業主
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主
対象となる労働者
キャリアアップ助成金の対象となる労働者の主な条件を以下にまとめました。
- 有期雇用労働者または無期雇用労働者(賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる就業規則等の適用を通算6か月以上受けて雇用されている)
- 有期または無期派遣労働者(6か月以上の期間継続して派遣先の事務所その他派遣就業場所ごとの同一の組織単位における業務に従事している)
- 特定紹介予定派遣労働者(賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる就業規則等の適用を通算6か月以上受けて雇用されている)
また、正社員に転換してから6か月間の給与が、正社員化する6か月前の給与と比べて3%以上増額することも求められます。この他にも微細な条件があるため、対象に当てはまるかどうか慎重に確認することが必要です。
支給額
2023年11月29日以降に正社員化された場合の支給対象期間は、12か月です。12か月での助成金の支給額は以下のようになっています。
企業規模 | 有期雇用労働者 | 無期雇用労働者 |
---|---|---|
中小企業 | 80万円 | 40万円 |
大企業 | 60万円 | 30万円 |
また、派遣労働者を派遣先で正社員として直接雇用する場合には、有期雇用労働者・無期雇用労働者のどちらも28万5,000円が加算されます。この他にも条件を満たすと加算措置が適用される場合があります。
詳細については、助成金コンサルティング業者に相談するか、厚生労働省「キャリアアップ助成金」をご覧ください。
「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!
助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説【令和5年11月】キャリアアップ助成金(正社員化コース)の改正内容
令和5年11月にキャリアアップ助成金(正社員化コース)は4つの点で拡充されました。支給要件が緩和され、助成額が拡充されたことで、より利用しやすくなっています。ここでは、令和5年11月の変更点を解説します。
助成額の見直し
助成額が引き上げられました。改正前と改正後の助成額は以下の通りです。
企業規模 | 改正前(6か月) | 改正後(12か月) | ||
---|---|---|---|---|
有期雇用労働者 | 無期雇用労働者 | 有期雇用労働者 | 無期雇用労働者 | |
中小企業 | 57万円 | 28万5,000円 | 80万円 | 40万円 |
大企業 | 42万7,500円 | 21万3,750円 | 60万円 | 30万円 |
対象となる有期労働者の要件緩和
対象となる有期雇用労働者の雇用期間が、「6か月以上3年以内」から「6か月以上」に緩和されました。長期にわたり勤務している有期雇用労働者も対象になったため、助成金を受けられる労働者の幅が広がりました。
ただし、有期雇用期間が通算5年以上の有期雇用労働者については、助成額は「無期→正規」の転換と同額となります。そのため、有期からの転換よりも助成額が半額になる点は注意が必要です。
正社員転換制度の規定に関する加算措置
新たに正社員転換制度を規定し、実際に転換した場合に、助成額に20万円(大企業の場合15万円)の加算措置が新設されました。
そのため、「有期→正規」に1人目を転換した際には、80万円+20万円で100万円(大企業の場合には60万円+15万円で75万円)が支給されます。また、有期雇用労働者だけでなく、無期雇用労働者の転換制度を新設した場合においても同様に加算されます。
ただし、1事業所あたり1回のみ加算されます。
多様な正社員制度規定に関する加算措置
正社員制度規定において、勤務地限定・職務限定・短時間正社員制度を新たに規定し、実際に転換した場合の加算措置が増額されました。
企業規模 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
中小企業 | 9.5万円 | 40万円 |
大企業 | 7.125万円 | 30万円 |
この増額により「有期→正規」に1人目を転換した際には、80万円+40万円で120万円(大企業の場合には60万円+30万円で90万円)が支給されます。また、有期雇用労働者だけでなく、無期雇用労働者の転換制度を新設した場合においても同様に加算されます。
ただし、1事業所あたり1回のみ加算されます。
詳細については、助成金コンサルティング業者に相談するか、厚生労働省の「キャリアアップ助成金「正社員化コース」を拡充しました!」をご覧ください。
キャリアアップ助成金の申請方法
それでは、最後にキャリアアップ助成金の申請方法を以下にまとめました。
- キャリアアップ計画書を作成し、実施前日までにハローワークなどに提出する
- 就業規則などを整え、労働基準監督署へ届け出る
- 対象となる労働者を正規雇用に転換する
- 転換後、対象の労働者に6か月以上の期間、正社員化前と比較して3%以上増額した賃金を支払う
- 支給申請書類を提出する
キャリアアップ助成金の申請方法については、以下の記事でも詳しく紹介していますので、あわせてご覧ください。
関連記事:【2023】キャリアアップ助成金の申請の流れ!各コースの手続きを解説
また、キャリアアップ計画書や就業規則については、以下の記事で解説しています。
関連記事:【記入例あり】キャリアアップ計画書とは?目的や作成方法、提出先までを解説
関連記事:【規定例あり】キャリアアップ助成金に対応した就業規則とは?必要事項を解説
まとめ
キャリアアップ助成金の正社員化コースを利用することで、派遣社員の正社員化にかかる費用負担を軽減できます。
派遣社員を正社員として直接雇用することは、社員のモチベーション向上や優秀な人材確保につながるため、積極的に検討する企業も増えています。
そのためには、自社の正社員制度規定から見直しが必要になるかもしれません。取り組みを実施する際には、キャリアアップ助成金の支給要件に満たす規定になるよう、基準として活用することもおすすめです。
これからキャリアアップ助成金の申請を検討される場合には、まずプロのコンサルティング業者が行う無料相談を受けてみてはいかがでしょうか。