「働き方改革関連法」により、企業はこれまでの労働環境を改善し、時間外労働や働き方の実現に向けた取り組みを行うことが義務付けられました。この対応をサポートするために策定されたのが、「働き方改革推進支援助成金」です。必要性を理解しつつも、資金的に対応することが難しいと感じている企業の方は、必見の助成金といえるでしょう。

この記事では、中小企業の働き方改革の実施状況や、「働き方改革推進支援助成金」の基本情報について解説します。

働き方改革の実施状況

まず、実際に日本における働き方改革に取り組んでいる企業の実施状況を確認していきましょう。

2020年版の中小企業白書のデータによると、従業員規模別にみた働き方改革における内容別の理解度は、企業規模が小さい企業ほど低下する傾向にあります。「有給休暇の確実な取得」「時間外労働の上限規制」「同一労働・同一賃金の実施」の3つの項目でいずれも同様の特徴が見られています。

また、実際の働き方改革への対応状況も中小企業であるほど対応が難しいと感じている企業が多くいることがわかります。

企業規模 対応済み 対応方針を検討中 対応が困難 対応するつもりはない
0-5人 35.7% 38.9% 22.9% 少数
6-20人 35.4% 47.6% 16.3% 少数
21-50人 36.2% 53.1% 10.5% 少数
51-100人 35.2% 56.0% 8.7% 少数
101-300人 33.0% 62.0% 5.0%
301人以上 23.5% 73.0% 少数

参考:中小企業庁「第1部令和元年度(2019年度)の中小企業の動向」

対応をすることが困難であると感じている企業のうち、働き方改革を行うための資金繰りに頭を悩ませている企業も多いのではないでしょうか。特に中小企業においては、まず助成金を確認することがおすすめです。

働き方改革推進支援助成金とは

働き方改革を進めるうえで確認しておきたい助成金の一つに、働き方改革推進支援助成金があります。

「働き方改革推進支援助成金」とは、働き方改革に取り組む中小企業の事業主を対象にしている助成金です。職場環境の整備に必要な費用の一部に対して資金が援助されます。

実施内容により、以下の4つのコースが設定されています。
・働き方改革推進支援助成金 (労働時間短縮・年休促進支援コース)
・働き方改革推進支援助成金 (勤務間インターバル導入コース)
・働き方改革推進支援助成金 (労働時間適正管理推進コース)
・働き方改革推進支援助成金 (団体推進コース)

それぞれのコースについて詳しく解説していきます。この情報は2023年1月3日現在のものであるため、申請を検討されている方は、厚生労働省のホームページから最新情報を確認してください。

働き方改革推進支援助成金 (労働時間短縮・年休促進支援コース)

2020年4月1日から、中小企業に時間外労働の上限規制が適用されたことを受けて生まれた制度です。生産性を向上させ、時間外労働の削減や年次有給休暇、特別休暇の促進に向けた環境整備に取り組む中小企業の事業主を支援するコースです。

支給対象となる事業主

以下のすべてに当てはまる中小事業主が支給対象となります。

1. 労働者災害補償保険の適用事業主であること。
2. 交付申請時点で、「成果目標」1から4の設定に向けた条件を満たしていること。
3. 全ての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること。
(※)中小企業事業主とは、以下のAまたはBの要件を満たす中小企業となります。

業種 A:資本(出資額) B:常時雇用する労働者
小売業(飲食店を含む) 5000万円以下 50人以下
サービス業 5000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

支給対象となる取組

以下のうち、いずれか1つ以上を実施することで支給対象となります。

  1. 労務管理担当者に対する研修
  2. 労働者に対する研修、周知・啓発
  3. 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) によるコンサルティング
  4. 就業規則・労使協定等の作成・変更
  5. 人材確保に向けた取組
  6. 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
  7. 労務管理用機器の導入・更新
  8. デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
  9. 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
  10. (小売業のPOS装置、自動車修理業の自動車リフト、運送業の洗車機など)

※研修には、勤務間インターバル制度に関するもの及び業務研修も含みます。
※原則としてパソコン、タブレット、スマートフォンは対象となりません。

成果目標の設定

取組を行ううち、以下の成果目標から1つ以上を選択し、その達成を目指して実施することが必要です。

  1. 全ての対象事業場において、令和4年度又は令和5年度内において有効な36協定について、時間外・休日労働時間数を縮減し、月60時間以下、又は月60時間を超え月80時間以下に上限を設定し、所轄労働基準監督署長に届け出を行うこと
  2. 全ての対象事業場において、年次有給休暇の計画的付与の規定を新たに導入すること
  3. 全ての対象事業場において、時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入すること
  4. 全ての対象事業場において、特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、新型コロナウイルス感染症対応のための休暇、不妊治療のための休暇)の規定をいずれか1つ以上を新たに導入すること

また、上記の成果目標に加えて、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを成果目標に加えることができます。

支給額

取組の実施に要した経費の一部を、成果目標の達成状況に応じて、以下のいずれかのうち低い方の金額が支給されます。

  1. 成果目標1から4の上限額および賃金加算額の合計額
  2. 対象経費の合計額×補助率3/4(※)

(※)常時使用する労働者数が30人以下かつ、支給対象の取組で6から9を実施する場合で、その所要額が30万円を超える場合の補助率は4/5

参考:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」

働き方改革推進支援助成金 (勤務間インターバル導入コース)

そもそも「勤務間インターバル」とは、勤務終了後、次の勤務までに一定時間以上の「休息時間」を設けることです。その目的は、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、健康保持や過重労働の防止を図ることです。
2019年4月から、制度の導入が努力義務化されたことを受け、勤務間インターバル制度の導入に取り組む中小企業の事業主を支援するために制定されているコースです。

支給対象となる事業主

以下のすべてに当てはまる中小事業主が支給対象となります。

  1. 労働者災害補償保険の適用事業主であること。
  2. 次のアからウのいずれかに該当する事業場を有する事業主であること。
    (ア) 勤務間インターバルを導入していない事業場
    (イ) 既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下である事業場
    (ウ) 既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場
  3. 全ての対象事業場において、交付申請時点及び支給申請時点で、36協定が締結・届出されていること。
  4. 全ての対象事業場において、原則として、過去2年間に月45時間を超える時間外労働の実態があること。(※)
  5. 全ての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること。

(※)基本的には1月45時間を超える時間外労働の実態があれば、要件を満たすこととなるため、問い合わせを行うことがおすすめです。

支給対象となる取組

以下のうち、いずれか1つ以上を実施することで支給対象となります。

  1. 労務管理担当者に対する研修
  2. 労働者に対する研修、周知・啓発
  3. 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) によるコンサルティング
  4. 就業規則・労使協定等の作成・変更
  5. 人材確保に向けた取組
  6. 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
  7. 労務管理用機器の導入・更新
  8. デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
  9. 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
    (小売業のPOS装置、自動車修理業の自動車リフト、運送業の洗車機など)

※研修には、勤務間インターバル制度に関するもの及び業務研修も含みます。
※原則としてパソコン、タブレット、スマートフォンは対象となりません。

成果目標の設定

成果目標は、休息時間数が「9時間以上11時間未満」または「11時間以上」の勤務間インターバルを導入し、定着を図ることです。

具体的には、事業主が事業実施計画において指定した各事業場において、以下のいずれかに取り組んでください。

  1. 新規導入
  2. 適用範囲の拡大
  3. 時間延長

上記の成果目標に加えて、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを成果目標に加えることができます。

支給額

取組の実施に要した経費の一部を、成果目標の達成状況に応じた金額が支給されます。基本的には、対象経費の合計額の3/4です。ただし、上限があるため、確認するようにしてください。

参考:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」

働き方改革推進支援助成金 (労働時間適正管理推進コース)

2020年4月1日から、賃金台帳等の労務管理書類の保存期間が5年(当面の間は3年)に延長されたことを受けて定められた制度です。
生産性を向上させ、労務・労働時間の適正管理の推進に向けた環境整備に取り組む中小企業の事業主を支援するコースです。

支給対象となる事業主

以下のすべてに当てはまる中小事業主が支給対象となります。

  1. 労働者災害補償保険の適用事業主であること。
  2. 全ての対象事業場において、交付決定日より前の時点で、勤怠(労働時間)管理と賃金計算等をリンクさせ、賃金台帳等を作成・管理・保存できるような統合管理ITシステムを用いた労働時間管理方法を採用していないこと。
  3. 全ての対象事業場において、交付決定日より前の時点で、賃金台帳等の労務管理書類について5年間保存することが就業規則等に規定されていないこと。
  4. 全ての対象事業場において、交付申請時点で、36協定が締結・届出されていること。
  5. 全ての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること。

支給対象となる取組

以下のうち、いずれか1つ以上を実施することで支給対象となります。

  1. 労務管理担当者に対する研修
  2. 労働者に対する研修、周知・啓発
  3. 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) によるコンサルティング
  4. 就業規則・労使協定等の作成・変更
  5. 人材確保に向けた取組
  6. 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
  7. 労務管理用機器の導入・更新
  8. デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
  9. 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
    (小売業のPOS装置、自動車修理業の自動車リフト、運送業の洗車機など)

※研修には、勤務間インターバル制度に関するもの及び業務研修も含みます。
※原則としてパソコン、タブレット、スマートフォンは対象となりません。

成果目標の設定

取組を行ううち、以下のすべての成果目標の達成を目指して実施することが必要です。

  1. 全ての対象事業場において、新たに勤怠(労働時間)管理と賃金計算等をリンクさせ、賃金台帳等を作成・管理・保存できるような統合管理ITシステム(※)を用いた労働時間管理方法を採用すること。
    (※)ネットワーク型タイムレコーダー等出退勤時刻を自動的にシステム上に反映させ、かつ、データ管理できるものとし、当該システムを用いて賃金計算や賃金台帳の作成・管理・保存が行えるものであること。
  2. 全ての対象事業場において、新たに賃金台帳等の労務管理書類について5年間保存することを就業規則等に規定すること。
  3. 全ての対象事業場において、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に係る研修を労働者及び労務管理担当者に対して実施すること。

上記の成果目標に加えて、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを成果目標に加えることができます。

支給額

取組の実施に要した経費の一部を、成果目標の達成状況に応じた金額が支給されます。基本的には、対象経費の合計額の3/4です。ただし、上限額は100万円となっています。

参考:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(労働時間適正管理推進コース)」

働き方改革推進支援助成金 (団体推進コース)

このコースは、中小企業ではなく、中小企業主の団体等を支援する制度です。団体等の傘下である事業主の労働者の労働条件を改善するために、時間外労働の削減や賃金引上げに向けた取組を実施した場合に、その事業主団体等に対して助成します。

支給対象となる事業主

以下のすべてに当てはまる事業主団体等が支給対象となります。

  1. 原則3事業主以上で構成(共同事業主においては10事業主以上)し、1年以上の活動実績があること。
  2. 事業主団体等が労働者災害補償保険の適用事業主であること。
  3. 中小企業事業主の占める割合が、構成事業主全体の2分の1を超えていること。

支給対象となる取組

以下のうち、いずれか1つ以上を実施することで支給対象となります。

  1. 市場調査の事業
  2. 新ビジネスモデル開発、実験の事業
  3. 材料費、水光熱費、在庫等の費用の低減実験(労働費用を除く)の事業
  4. 下請取引適正化への理解促進等、労働時間等の設定の改善に向けた取引先等との調整の事業
  5. 販路の拡大等の実現を図るための展示会開催及び出展の事業
  6. 好事例の収集、普及啓発の事業
  7. セミナーの開催等の事業
  8. 巡回指導、相談窓口設置等の事業
  9. 構成事業主が共同で利用する労働能率の増進に資する設備・機器の導入・更新の事業
  10. 人材確保に向けた取組の事業

成果目標の設定

成果目標は、支給対象となる取組内容について以下2つの達成を目指して取り組むことが求められています。

  1. 事業主団体等が事業実施計画で定める時間外労働の削減又は賃金引上げに向けた改善事業の取組を行うこと
  2. 構成事業主の2分の1以上に対してその取組又は取組結果を活用すること

支給額

取組の実施に要した経費の一部を成果目標の達成状況に応じて、以下のいずれかのうち低い方の金額が支給されます。

  1. 対象経費の合計額
  2. 総事業費から収入額を控除した額(※1)
  3. 上限額500万円(※2)

(※1)例えば、試作品を試験的に販売し、収入が発生する場合などが該当します。
(※2)都道府県単位又は複数の都道府県単位で構成する事業主団体等(構成事業主が10以上)に該当する場合は、上限額1,000万円です。

参考:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)」

Check!

「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!

助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説

2023年度「適用猶予業種等対応コース」が新設予定

2023年度に新設予定である「働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)」について、2023年1月現在、公表されている情報を解説します。

まず、適用猶予業種等対応コースとは、2024年4月に上限規制の適用が予定されている建設業などの一部の業種におけるさらなる支援を目的に設立されるコースのことです。こうした業種では、現在も顕著な長時間労働の実態が認められています。

対象事業と業務

時間外労働の上限規制の適用猶予とされている以下の事業や業務が対象となっています。

  • 建設事業
  • 自動車運転の業務
  • 医業に従事する医師
  • 砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)

支給対象となる取組

労働時間短縮や生産性向上に向けたさまざまな取組が支給対象となります。例えば以下のような取組が例として挙げられます。

  • 就業規則等の作成・変更費用
  • 研修費用(業務研修を含む)
  • 外部専門家によるコンサルティング費用
  • 労務管理用機器等の導入・更新費用
  • 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新費用
  • 人材確保等のための費用等

助成率

取組にかかった経費の合計額の3/4です。ただし、事業規模30名以下かつ労働能率の増進に資する設備・機器等の経費が30万円を超える場合は、4/5となる予定です。

対象事業となる企業の方は、厚生労働省のホームページから最新情報を確認してみてください。また、発表された資料は以下になりますので、気になる方は是非ご覧ください。
参考:厚生労働省「令和5年度予算概算要求の主要事項」

まとめ

働き方改革は今や社会的に求められている改革の一つですが、すべての企業が対応できる資金的余裕があるわけではないでしょう。そこで、働き方改革推進支援助成金の活用を検討してみてはいかがでしょうか。成果をあげることで、実施によって発生した経費の一部が支給される助成金となっています。

2023年度の申請受付はまだ発表されていないため、随時最新情報をチェックしてみてください。

また、助成金の基本知識について知りたい方は以下の記事をご覧ください。
関連記事:「助成金とは?注意点など知っておきたい基礎知識をわかりやすく解説!」

助成金のWeb無料診断はこちらから

助成金申請を完全サポート 助成金申請を完全サポート
弊社担当のご紹介
黒沢晃
黒沢晃(助成金コンサルタント)
商社にて新卒採用の人事を担当した後、人材コンサルタントとして企業の人事戦略を支援。2016年から中小企業や個人事業主を対象として助成金を活用した経営サポートに従事。現在は年間100社以上をサポートする。