企業が一時的な事業縮小や影響を受けた際、従業員の雇用を維持しながら休業等を実施するための支援制度に、雇用調整助成金があります。事業主が従業員に支払った休業手当の一部が国から助成されるため、申請要件に該当する場合は活用の検討がおすすめです。
しかし、「休業手当をいくら支払えば良いのか」「どの日が休業に該当するのか」「支給要件を満たすための書類は何か」といった実務的な疑問を抱える事業主も多いでしょう。
そこで、この記事では、雇用調整助成金における休業手当の定義や助成金の要件、計算方法について解説します。
雇用調整助成金とは?
雇用調整助成金とは、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るために休業・教育訓練・出向にかかった費用を助成する制度です。
景気変動や産業構造の変化などの経済的な理由により、売上高や生産量などの指標が一定期間で減少していることなど、事業縮小を示す要件を満たす必要があります。
本制度で対象となるのは、以下の3つの措置です。
- 休業:従業員を一時的に休ませること
- 教育訓練:休業・業務短縮中の従業員に教育訓練を行うこと
- 出向:従業員を一定期間、他社に勤めさせること
雇用調整助成金の詳細や支給要件、助成額の詳細は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:【2024最新】雇用調整助成金とは?支給対象や助成額を解説
雇用調整助成金における「休業手当」の位置づけ
雇用調整助成金における「休業手当」は、企業の経済上の理由によって従業員を一時的に休ませる際、事業主が支払うべき手当のことです。
労働基準法26条では、「会社都合で働くことができない労働者」に支払う義務のある手当と位置づけられています。厚生労働省のガイドブックでは、休業は以下のように定義されています。
「労働者が所定労働日に働く意思と能力があるにもかかわらず、労働できない状態」
つまり、従業員が「働きたい・働ける」状態で、企業側の事情によって就労できない場合に休業が成立し、その支払い対象となる休業手当が助成の基準になります。
一方、以下のようなケースは休業に該当しません。
- 有給休暇を取得している
- ストライキなど、労働者に労働の意思がない
- 病気やケガなどにより、労働能力がない
こうした状態は、雇用調整助成金の対象となる「会社都合の休業」ではないため、適用外となります。
雇用調整助成金では、「会社の経済上の理由により、働かせられない」ことが前提であることを覚えておきましょう。
「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!
助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説雇用調整助成金の対象となる「休業手当」の支給要件とは?

雇用調整助成金の対象となる「休業手当」の支給要件とは、助成金を申請する際に満たしておくべき基準のことです。ここでは、雇用調整助成金の対象となる「休業手当」の支給要件をまとめました。以下のすべての要件を満たす必要があります。
- 労使間の協定によること
- 事業主が自ら指定した対象期間内(1年間)に行われること
- 対象労働者の休業または教育訓練の実施日の延日数が、所定労働延日数の1/20(大企業の場合は1/15)以上となること
- 休業手当の支払いが、労働基準法第26条の規定に違反していないこと(休業手当の支払い額は平均賃金の6割以上であること)
- 所定労働日の所定労働時間内において実施されること
- 海外の拠点で実施される休業ではないこと。
- 所定労働日の全1日にわたるもの、または所定労働時間内の対象労働者について1時間以上行われるもの(短時間休業)であること
ここでは、支給要件の中から、休業手当として支払う金額の目安と計算方法について解説します。
休業手当として支払う金額の目安
休業手当として支払う金額の目安は、平均賃金の60%以上です。労働基準法に基づいた金額であり、原則として「過去3か月の総賃金÷過去3か月の総暦日数」で計算します。
実際に「どのくらいの金額が支払額となるのか」について具体例を基に計算してみましょう。
| 月 | 暦日数 | 基本給例 | 通勤手当例 | 残業手当例 |
|---|---|---|---|---|
| 4月 | 31日 | 25万円 | 1万円 | 1万円 |
| 5月 | 30日 | 25万円 | 1万円 | 1万円 |
| 6月 | 31日 | 25万円 | 1万円 | 2万円 |
- 合計暦日数:92日
- 総賃金:75万円 + 3万円 + 4万円 = 82万円
上記3か月間の総賃金・総暦日数だとした場合、平均賃金や休業手当の最低支払額は以下のように計算できます。
| ①平均賃金の計算 | ①休業手当の最低支払額 |
|---|---|
| 総賃金82万円÷92日 =8,913円 |
8,913円×60% =5,347円 |
つまり、この従業員の場合、1日あたり最低5,347円を休業手当として支払う必要があります。
また、個人ごと・日ごとに1時間以上の休業を行う「短時間休業」と呼ばれる取り組みも、雇用調整助成金の対象です。短時間休業の休業時間は30分単位とし、30分に満たない場合は切り捨てます。例えば、以下のように計上します。
| 所定労働時間が8:00~17:00の事業所の例 |
|---|
| ①9:00~11:20で短時間休業を行った場合:2時間分として計上 ②8:00~8:45および16:10~17:00で短時間休業を行った場合:45分+50分=95分で、1.5時間の短時間休業の時間として計上 ※時間の計上は上記のとおりですが、支払った休業手当は、支給申請の際に30分未満分の額を切り捨てる必要はありません。 |
雇用調整助成金「休業手当」の場合の助成率

雇用調整助成金「休業手当」に取り組んだ場合の助成率は、以下のとおりです。
| 企業区分 | 助成率 |
|---|---|
| 中小企業 | 2/3 |
| 大企業 | 1/2 |
※教育訓練を併用した場合は加算がありますが、ここでは「休業手当」に限定した助成率を記載しています。
なお、1人1日あたりの助成金の上限額は8,870円(令和7年度)です。ただし、上限額は毎年度「雇用保険料率・助成率等の改定」により変動するため、申請前に厚生労働省の公式資料で最新の金額を確認する必要があります。
実際の受給できる助成金額の例
ここでは、実際の計算例を用いて、雇用調整助成金を活用した場合に、どれくらいの助成が受けられるのかを具体的に紹介します。
例えば、以下のようなケースを想定してみましょう。
- 休業日数:30日
- 休業させた従業員数:12人
- 1人あたりの休業手当日額:9,500円
- 助成率(中小企業):2/3
- 助成金の上限(1人1日):8,870円
| ①休業手当総額の計算 | 会社が従業員に支払う休業手当の総額を計算します。 30日×12人×9,500円=342万円 |
|---|---|
| ②助成金の支給額 | 実際に受給できる助成額を算出します。 342万円×2/3=228万円 |
| ③上限額の確認 | 上限額8,870円(令和7年度)と照らし合わせます。 8,870円×12人×30日=319万3,200円 つまり、今回の場合「上限額(319万3,200円)」の方が「助成率で計算した額(228万円)」よりも高額です。 |
| ④助成額 | 助成額は228万円になると考えられます。 |
| ※実質負担額 | 企業が最終的に負担する金額も確認してみます。 342万円-228万円=114万円 |
今回紹介した助成率と計算例からも、雇用調整助成金を活用することで、休業手当の大部分を国が負担してくれることがわかります。特に、中小企業は2/3の助成率が適用されるため効果が大きく、企業の資金繰り改善に大きく寄与してくれるでしょう。
ただし、上限額の確認を含め正確な計算が重要です。不安がある場合には、助成金コンサルタントに「自社の場合の助成金額はいくらになるか?」を相談してみるのもおすすめです。
まとめ
この記事では、雇用調整助成金における休業手当の定義や助成金の要件、計算方法について解説しました。
雇用調整助成金は、経済環境の変動などにより一時的に休業が必要になった企業を支援する制度です。休業手当は平均賃金の60%以上を支払う必要があり、要件や計算方法を正しく理解することが重要です。
ただし、適切な手続きを行うことで、企業の負担を大きく軽減できる可能性があります。そのため、雇用調整助成金の受給を検討している事業主の方は、プロのコンサルタントへの依頼がおすすめです。
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