企業の経営が厳しくなる中で、従業員を守るために活用できる支援策の一つに「雇用調整助成金」が挙げられます。

しかし、雇用調整助成金を受けるためには、一定の条件を満たす必要があります。例えば、事業活動の縮小や休業の実施、休業期間中の休業手当の支払いなどです。また、不支給要件にひとつでも当てはまると支給は受けられません。

そこで、この記事では、雇用調整助成金の具体的な条件について詳しく解説し、どのような企業や状況で申請できるのかをわかりやすく紹介します。

雇用調整助成金とは

雇用調整助成金とは、「経済的に困窮した事業主が、従業員の雇用維持を図るために休業・教育訓練・出向を行う場合に、その費用を助成する制度」です。

ここでいう経済的に困窮した事業主とは、景気の変動、産業構造の変化などの理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主のことを指します。そのため、例年繰り返される季節的な変動による事故または災害によるものなどは、支給対象外となります。

助成率・助成金額

雇用調整助成金の助成率は、取り組み内容により、以下のように異なります。

休業・教育訓練を実施した場合 休業手当・教育訓練を実施した場合の賃金に相当する額に、以下の助成率を乗じた額

  • 中小企業:2/3
  • 大企業:1/2

※1人1日あたり雇用保険基本手当日額の最高額(令和6年8月1日時点で8,635円)が上限

教育訓練を実施した場合 上記に、1人1日あたり1,200円が加算される
出向を実施した場合 出向元事業主の出向労働者の賃金に対する負担額(出向前の通常賃金のおよそ1/2が上限額)に、以下の助成率を乗じた額

  • 中小企業:2/3
  • 大企業:1/2

※1人1日あたり雇用保険基本手当日額の最高額に330/365および支給対象期の日数を乗じた額が上限

また、支給を受けた日数の合計が30日に達したあとの次の判定期間からは、教育訓練をどれだけ実施したか(実施率)によって、助成率や加算額が以下のように変わります。

教育訓練実施率 企業規模 助成率 教育訓練加算額
1/10未満 中小企業 2/3 1,200円
大企業 1/4
1/10~1/5未満 中小企業 2/3
大企業 1/2
1/5以上 中小企業 2/3 1,800円
大企業 大企業

参考:厚生労働省「雇用調整助成金:雇用調整助成金ガイドブック(令和7年4月1日現在版)」

雇用調整助成金の概要や申請の流れについては、以下の記事をご覧ください。
関連記事:【2024最新】雇用調整助成金とは?支給対象や助成額を解説

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雇用調整助成金の対象事業主の条件

ここでは、雇用調整助成金の対象事業主の条件を解説します。

雇用調整を実施する事業主

雇用調整を実施する事業主の主な条件をまとめました。

  • 雇用保険の適用事業主であること
  • 売上高または生産量などの事業活動を示す指標の最近3か月間の月平均値が、前年同期に比べ10%以上減少していること(生産量要件)
  • 雇用保険被保険者数や派遣労働者の最近3か月間の人数が、前年同期と比べて「大企業の場合は5%を超えてかつ6人以上」「中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上」増加していないこと(雇用量要件)
  • 雇用調整の実施について、事前に労使間で協定し、その決定に沿って雇用調整を実施すること
  • 受給に必要な書類を整備し、労働局などに提出するとともに、提出を求められた場合に、それに応じて速やかに提出すること

不支給要件

該当すると雇用調整助成金が不支給となる主な条件をまとめました。

  • 不正行為によって助成金の支給を受けたまたは受けようとしたことで、支給申請日または支給決定日の時点で、助成金の不支給措置が取られている
  • 支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度における労働保険料の滞納がある
  • 支給申請日の前日から起算して過去1年において、労働関係法令違反により送検処分を受けている
  • 事業主もしくは事業主団体、事業主の役員などが、暴力団員である
  • 事業主もしくは事業主の役員などが、暴力主義的破壊活動を行ったまたは行う恐れがある団体に属している

参考:厚生労働省「雇用調整助成金:雇用調整助成金ガイドブック(令和7年4月1日現在版)」

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雇用調整助成金の支給対象となる休業・教育訓練・出向の条件

雇用調整助成金の支給対象となる休業・教育訓練・出向の条件を解説します。

休業

雇用調整助成金の支給対象となる休業は、以下のすべての条件を満たす必要があります。

  • 労使間の協定によるものであること。
  • 事業主が自ら指定した対象期間内(1年間)に行われるものであること。
  • 判定基礎期間における対象労働者にかかる休業または教育訓練の実施日の延日数が、対象労働者にかかる所定労働延日数の1/20(大企業の場合は1/15)以上となること(休業等規模要件)。
  • 休業手当の支払いが労働基準法第26条の規定に違反していないこと。
    ※休業手当の額は、平均賃金の6割以上とする必要がある
  • 所定労働日の所定労働時間内において実施されるものであること。
  • 海外の拠点で実施される休業ではないこと。
  • 所定労働日の全1日にわたるもの、または所定労働時間内に当該事業所における対象労働者について1時間以上行われるもの(短時間休業)であること。

教育訓練

雇用調整助成金の支給対象となる教育訓練は、以下のすべての条件を満たす必要があります。

  • 労使間の協定によるものであること。
  • 事業主が自ら指定した対象期間内(1年間)に行われるものであること。
  • 判定基礎期間における対象労働者に係る休業又は教育訓練の実施日の延日数が、対象労働者に係る所定労働延日数の1/20(大企業の場合は1/15)以上となるものであること(休業等規模要件)。
  • 職業に関連する知識、技術を習得させる、または向上させることを目的とする教育、訓練、講習などであること。
  • 所定労働日の所定労働時間内において実施されるものであること。
  • 事業所内訓練もしくは事業所外訓練であること。

なお、事業所内訓練と事業所外訓練の定義は以下のようになっています。

事業所内訓練
  • 事業主が自ら実施するものであること。
  • 生産ラインまたは就労の場における通常の生産活動と区別して、受講する対象労働者の所定労働時間の全日または短時間(2時間以上~所定労働時間未満)にわたり行われるものであること。

※OJTや教育訓練過程で生産されたものを販売もしくは事業所内で活用する場合も対象外となる

事業所外訓練
  • 教育訓練の実施主体が助成金を受けようとする事業主以外であること
  • 受講者の所定労働時間の全1日または短時間(2時間以上で所定労働時間未満)にわたり行われるものであること。

出向

雇用調整助成金の支給対象となる出向は、以下のすべての条件を満たす必要があります。

  • 雇用調整を目的として行われるものであること。
    ※人事交流・経営戦略・業務提携・実習のためなどに行われるものではなく、かつ出向労働者を交換しあうものでないこと。
  • 労使間の協定によるものであること。
  • 出向労働者の同意を得たものであること。
  • 出向元事業主と出向先事業主との間で締結された契約によるものであること。
  • 出向先事業所が雇用保険の適用事業所であること。
  • 出向元事業主と出向先事業主が、資本的、経済的・組織的関連性などからみて、独立性が認められること。
  • 出向先事業主が、当該出向労働者の出向開始日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過した日までの間に、当該出向者の受入れに際し、その雇用する被保険者を事業主都合により離職させていないこと。
  • 事業主自らが指定した対象期間(1年間)内に開始されるものであること。
  • 出向期間が3か月以上1年以内であって、出向元事業所に復帰するものであること。
  • 本助成金の対象となる出向の終了後6か月以内に、当該労働者を再度出向させるものでないこと。
  • 出向元事業所が、出向労働者の賃金の一部(全部を除く)を負担していること。
  • 出向労働者に、出向前に支払っていた賃金と概ね同じ額の賃金を支払うものであること。
  • 出向元事業所において、雇入れ助成の対象となる労働者や他の事業主から本助成金などの支給対象となる出向労働者を受け入れていないこと。
  • 出向先事業所において、出向者の受入れに際し、自己の労働者について本助成金等の支給対象となる出向を行っていないこと。

参考:厚生労働省「雇用調整助成金:雇用調整助成金ガイドブック(令和7年4月1日現在版)」

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まとめ

この記事では、雇用調整助成金の具体的な条件について詳しく解説しました。

雇用調整助成金を受給するための条件は複雑であるため、よくガイドブックを読み込むことが大切です。従業員とコミュニケーションを図りながら、雇用維持に向けた取り組みを推進しましょう。

雇用調整助成金の受給を検討している事業主の方で、「この条件に自社は該当するのかわからない」という場合には、プロのコンサルタントに依頼すると確実な受給につながります。まず以下から無料相談を試してみてはいかがでしょうか。
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弊社担当のご紹介
黒沢晃
黒沢晃(助成金コンサルタント)
商社にて新卒採用の人事を担当した後、人材コンサルタントとして企業の人事戦略を支援。2016年から中小企業や個人事業主を対象として助成金を活用した経営サポートに従事。現在は年間100社以上をサポートする。