雇用調整助成金は2024年4月に改定され、これまで以上に教育訓練による雇用調整が実施しやすくなるように見直されました。経済上の理由で教育訓練の実施が難しいもののリスキリングを強化したい場合には、雇用調整助成金の活用を検討すると良いでしょう。
しかし、すべての教育訓練が対象となるわけではないため、支給要件を確認することが必要です。
そこで、この記事では雇用調整助成金で教育訓練を実施する場合の支給要件や助成率、申請書類について解説します。
目次
教育訓練に活用できる雇用調整助成金とは
雇用調整助成金とは、経済上の理由によって事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員を一時的に休業・教育訓練・出向させることで雇用維持に努めた場合に助成される制度です。
ここではまず、雇用調整助成金の支給対象となる事業主について復習します。
支給対象となる事業主
雇用調整助成金の主な対象事業主の要件を以下にまとめました。以下の要件は、休業・教育訓練・出向といった取り組み内容に関わらず、すべての事業主が満たす必要があります。
1.「景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由」により、事業活動を縮小していること
ここでいう「経済上の理由」とは、景気の変動や産業構造の変化などのことであり、以下のような状況が該当します。
- 地域経済の衰退
- 原材料の供給環境の悪化
- 競合製品・サービスの出現
- 消費者物価、外国為替その他の価格の変動
2.「事業活動の縮小」として、以下の生産量要件・雇用量要件を満たしていること
- 【生産量要件】売上高または生産量などの事業活動を示す指標の最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していること
- 【雇用量要件】雇用保険被保険者数および受け入れている派遣労働者の最近3か月間の月平均値が、前年同期と比べて大企業の場合は5%を超えてかつ6人以上、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上増加していないこと
教育訓練を実施して雇用調整助成金の受給を目指す場合、まずは自社が支給対象となっているかどうかを確認することが大切です。そこで雇用関係助成金全体の概要や支給要件、助成額などの詳細は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:【2024最新】雇用調整助成金とは?支給対象や助成額を解説
またここから、雇用調整助成金における「教育訓練」を実施する場合の支給要件や助成額、申請書類について解説します。
雇用調整助成金で助成対象となる教育訓練の要件
雇用調整助成金で助成対象となる教育訓練について解説します。
対象となる教育訓練
雇用調整助成金の対象となる教育訓練の要件を以下にまとめました。
- 労使間の協定による教育訓練であること
- 事業主が指定した対象期間内(1年間)に行われること
- 判定基礎期間における対象労働者の休業または教育訓練を実施する延日数が、所定労働延日数の1/20(大企業の場合は1/15)以上となること(休業等規模要件)
- 職業に関連する知識、技術の習得または向上を目的とする教育や訓練、講習などであること
- 所定労働日の所定労働時間内において実施すること
- 以下のいずれかに該当すること
- 事業所内訓練:就労の場における通常の生産活動と区別して、受講者の所定労働時間の全日または短時間(2時間以上所定労働時間未満)にわたり行われること
- 事業所外訓練:教育訓練の実施主体が事業主以外で、受講者の所定労働時間の全日または短時間(2時間以上所定労働時間未満)にわたり行われること
対象となる教育訓練の例
以下に対象となる教育訓練の具体的な例を紹介します。自社で行う教育訓練の内容を検討する際の参考にしてください。
【事業所内訓練】
- 事業所内で経験等を有する社員が講師役となり、休業中の生産ラインを活用して安全に作業を行うための確認や生産性を向上する講習
- 事業所内に外部講師を招き、業務改善のためのノウハウを教示する講習
【事務所外訓練】
- 官公庁や地域において産業や中小企業を支援する機関が実施するDX化に関する講習
- 業務に関連する資格・免許取得のための教育訓練を行っている機関が実施する講習
対象にならない教育訓練
以下のいずれかに該当する場合、雇用調整助成金は受給できません。よく確認することが必要です。
不支給要件 | 具体例 |
---|---|
職業に関する知識、技能または技術の習得または向上を目的としないもの |
|
職業または職務の種類を問わず、職業人として共通して必要となるもの (法令の遵守のために 必要な知識の習得を目的とするものは除く。) |
接遇・マナー講習 |
実施目的が訓練に直接関連しない内容のもの |
|
通常の生産・事業活動と区別がつかないもの |
|
教育訓練の実施状況が確認できないもの | 指導員や講師が不在のまま行われるもの(自習やビデオの視聴) |
対象労働者の要件等から対象外となるもの | 入社時研修 |
法令で講習の受講が義務づけられているもの (労働者が資格を取得・更新するための法定講習などの場合を除く。) |
労働安全衛生法関係の教育 |
教育訓練実施時間中に業務が行われるもの(教育訓練の時間と区別可能な形で行われる場合を除く。) | OJT教育 |
教育訓練科目、職種等の内容に関する知識または技能、実務経験、経歴を有する指導員または講師(資格の有無は問わない)により行われないもの | 総務部の社員による製造現場における安全講習 |
再就職の準備のためのもの | 再就職するための職業訓練 |
過去に行った教育訓練を、同一の労働者に実施するもの | |
海外で行われるもの | 海外研修 |
外国人技能実習生に対して実施するもの |
対象となる労働者
教育訓練の対象となる労働者は、雇用保険被保険者であることです。
ただし、以下の8つのいずれかに該当する場合は対象外となるため注意が必要です。ここでは概要のみの解説となるため、詳細は支給要件を確認するか助成金コンサルタントに相談しましょう。
- 教育訓練を行った日の属する判定基礎期間の初日の前日まで、同一の事業所に引き続き被保険者として雇用された期間が6か月未満の場合
- 解雇・退職予定の場合
- 雇用保険法第37条の5第1項の申出をして高年齢被保険者となった場合
- 日雇い労働被保険者
- 特定求職者雇用開発助成金などの支給対象の場合
- 週入国管理および難民認定法により、国内で就労できない場合
- 役員や同居の親族、個人事業主などを2つ以上の事業主間で相互に交換して雇用し、相互に労働者となっている場合の当該すべての労働者
- 事業主間の関係性において独立性が認められない事業主から、役員や同居の親族、個人事業主などが労働者として送り込まれた場合の当該労働者
「そもそも助成金って何?」「個人事業主でももらえるものなの?」という疑問をお持ちの方はこちら!助成金の制度や仕組みについてわかりやすく解説しています!
助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説雇用調整助成金(教育訓練)の助成率
雇用調整助成金において教育訓練を実施した場合の助成額は、教育訓練を実施した場合の賃金に相当する額に、助成率(中小企業:2/3、大企業:1/2)を乗じて得た金額です。
ただし、1人1日当たり雇用保険基本手当日額の最高額(令和6年8月1日時点で8,635円)が上限額となっています。
教育訓練実施率 | 企業規模 | 助成率 | 教育訓練加算額 |
---|---|---|---|
1/10未満 | 中小企業 | 2/3 | 1,200円 |
大企業 | 1/4 | ||
1/10~1/5未満 | 中小企業 | 2/3 | |
大企業 | 1/2 | ||
1/5以上 | 中小企業 | 2/3 | 1,800円 |
大企業 | 1/2 |
※教育訓練実施率:休業等の延日数のうち、教育訓練を実施した日数の割合
雇用調整助成金(教育訓練)の申請書類
最後に、雇用調整助成金において教育訓練を実施する場合の主な申請書類を以下にまとめました。
休業・教育訓練の場合 | |
---|---|
計画届提出時 |
|
支給申請時 |
|
各書類の詳細や提出タイミング、記入方法については以下の記事をご覧ください。
関連記事:【記入例あり】2024年雇用調整助成金の申請書類一覧まとめ
まとめ
この記事では、雇用調整助成金で教育訓練を実施する場合の支給要件や助成率、申請書類について解説しました。
職業に関する知識、技能または技術の習得または向上を目的とした教育訓練であれば、雇用調整助成金の対象となり、費用の一部が助成される可能性があります。
「支給要件を満たしているかわからない」「申請方法に自信がない」などの場合には、助成金コンサルタントに依頼すると確実な受給につながります。まず以下から無料相談を試してみてはいかがでしょうか。