助成金に関心を持って情報を収集されている方々は、「不正受給」という言葉を一度は見聞きしたことがあるのではないでしょうか。

この助成金の不正受給とは、一体どのようなものなのでしょうか。また、不正受給をしてしまった場合にはどのような罰則があるのでしょうか。

助成金の不正受給とは

そもそもですが、助成金はどんな企業でも受けられるものではあるものの、支給要項というものがあり、これを満たしていなければ受け取れないものです。助成金の支給要項は、「日本の経済を発展させる」とか「国民の生産性を向上させる」といった政府が掲げる目標と合致するように綿密にねられたものです。

例えば、助成金の中でも特に有名なものの一つに「キャリアアップ助成金」というものがありますが、これは例えばアルバイトの従業員を無期雇用や正社員に転換して契約をする際に受け取れる助成金です。このキャリアップ助成金を受け取るためには、雇用契約を転換した従業員のサインが必要になります。キャリアアップ助成金は、分かりやすく言えば「非正規雇用によって貧困に喘ぐ国民を正社員にしてもらうために、厚生労働省がその費用の一部を助成しますよ」というものです。政府が掲げる「労働問題の解決」につながる助成金ということです。

さて、例えばですが、雇用主がおいしいお寿司を食べたいがために、最初から無期契約で雇用していた社員に対して、「君は無期契約だけど、有期雇用だったことにしてくれ。あと、ここにサインしてね。」などと指示して助成金を受給しようと考えたとします。キャリアアップ助成金は代表がおいしい食べ物を食べるためにあるものではないので、当然不正受給に当てはまります。

このように、助成金の「コンセプト」に反するようなことはほとんどの場合不正受給になってしまいます。

「バレないから大丈夫でしょ」は甘い

バレないと思っている人もいらっしゃるかもしれませんが、キャリアアップ助成金の支給申請を行うためには、就業規則をチェックされたり現在の労働環境に関して綿密にチェックされることになります。審査官が就業規則やタイムカードの記録などを隅から隅まで見て矛盾点がないか、労働基準法に準拠しているか、ということをチェックするためです。

例えば、就業規則で「正社員には○○手当を支払う」というものがあったとして、上述したような不正受給を行ったとします。――すると、「この人は有期契約社員なのになぜ手当が出ているのですか?」と労働局からツッコミが入ることになります。

たとえその場はうまくごまかせたとしても、「この会社怪しいな」と思われてさらに審査の目が厳しくなるでしょう。マークされれば抜き打ち調査や従業員へのヒアリングなどのような実地調査も執行されます。

何が言いたいかというと、絶対に不正受給は発覚しますので、間違っても不正受給をしようと思わないようにしましょう、ということです。

不正受給になるのはどのような場合?

助成金には様々な種類がありますが、各種共通する要件があります。それは「労働関係法令に違反していないこと」です。

日本では「ブラック企業」という言葉が広辞苑に載るくらいには劣悪な労働環境が蔓延しており、一部業界では80%を超える企業が労働関連法令に違反しているという統計が出ています。

――では、よくある労働関係法令の違反とは、どのようなものなのでしょうか?以下では一部ではありますが、ご紹介していきたいと思います。

1.労働時間管理ができていない

雇用主は、労働者の労働時間を適正に把握する義務があります。このため、雇用主は過去3年間分の従業員の打刻の記録を3年間保存しなければなりません。そして、この適性に管理された労働時間を元に賃金を支払う義務があります。

例えば従業員の労働時間が100時間1分だったとして、1分は切り捨てて100時間として給与を支払うといった行為は許されないのです。

2.給与の支払いが適切でない

残業時間に対する賃金の未払いは助成金を受給する上で多くの企業に見受けられるのが、不適切な賃金の支払いです。

例えば、「うちは見なし残業だから残業代は支払っていません」という会社も多いですが、見なし残業でも見なし分を超える残業代は支払わなければいけません。

3.最低賃金を下回っている

中には最低賃金を下回る賃金で雇用している会社も見受けられます。

例えば、東京都の見なし残業制の会社が25万円の賃金で300時間労働させたとしましょう。この場合1時間あたりの賃金は833円となり、東京都が定める最低賃金の985円を下回ることになってしまいます。

そもそも、所定の労働時間を超える残業をした場合、時間外手当を支払う必要がありますから、これでは最低賃金を大きく下回っていることになります。

4.労働時間が法律で定められている時間を超過している

次に多いのが所定労働時間の超過です。

労働基準法では、「1日8時間以内、1週間40時間位内、1週間のうちに1日または4週間で4日以上は休暇を与えなければならない」とされています。例外として36協定を締結することで残業時間を延長することはできますが、当然36協定にも限度というものがあります。

もちろん複雑な手続きを踏めば事実上労働時間に際限はなくなりますが、恒常的に労働時間の延長を行えばそれは1ヶ月に1度労使協定を行ってしっかり書類を提出していたとしても違反となります。

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不正受給を行えば罰則も

不正受給を行えば、厳罰な処分がくだされることもあります。

具体的には以下のようなペナルティが課せられます。

1.支給の取消

当たり前ですが不正受給が発覚すれば支給された助成金は返還しなければなりません。

2.助成金の追加申請の禁止

不正が発覚すれば取り消し後3年間は新たに助成金を申請することはできなくなります。

3.社名の公表

助成金の不正受給をしたとして、労働局のHPに以下の情報が公開されることになります。

  1. 事業主名称
  2. 代表者氏名
  3. 事業所名
  4. 事業所所在地
  5. 事業所概要
  6. 不正受給の概要

「労働局のHPなんて誰も見ないだろう」などと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、社名や代表の氏名で検索したときにそのページが引っかかることもあります。

これだけインターネットが普及した社会ですから、このようなマイナス情報があれば取引先や新たに雇用する従業員との関係が悪化することは必然でしょう。

4.刑事告発

刑法に触れるような不正があった場合は刑事告発もされることになります。実際に不正受給で5年以上の懲役が言い渡された事例も複数存在します。

清廉潔白な受給を心がけよう

悪いことを考えてお金を儲けようとすると、それよりも大きな反動が必ず返ってきます。

例えば約87万円の補助金をだまし取って2年6ヶ月の懲役刑に課せられた事例もありますので、邪な気持ちは捨てて清廉潔白な助成金の受給を心がけましょう。

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黒沢晃
黒沢晃(助成金コンサルタント)
商社にて新卒採用の人事を担当した後、人材コンサルタントとして企業の人事戦略を支援。2016年から中小企業や個人事業主を対象として助成金を活用した経営サポートに従事。現在は年間100社以上をサポートする。