厚労省が行った商業別雇用動向調査によると、宿泊・飲食業の入職者数が最も多い一方、離職者数も最多となっていることが分かりました。入職率33.5%、離職率30.0%と入れ代わりの激しさが伺えます。
3年以内の離職率を学歴別に見た場合でも、宿泊・飲食業の離職率の高さは最多で、大卒は52.3%、短大・専門学校卒は58.2%、高卒は66.9%となっています。高卒に至っては、3年間で3分の1程度しか残らないという結果が出ています。
どのような業界でも人手不足が問題とされている昨今、どれだけ人を雇ってもすぐに辞めてしまっては求人のコストだけが嵩んでしまうため、これは大きな問題といえるでしょう。
離職率の高さの理由は?
では、離職率がここまで高く、雇ってもすぐに人が辞めていく原因はどこにあるのでしょうか。
「労働力人口の減少」「店舗の多さ」「賃金の安さ」「長時間労働」「労働環境」など、間単に思いつくだけでも、これだけの理由が挙げられます。
宿泊業と飲食業が一括りにされていますが、個別に考えると、それぞれ異なる離職理由が見えてきます。
宿泊業
宿泊業介は人材の流動性が高く転職が一般的なため、問題は離職率ではなく離職理由。長く業界にいるほど、キャリアアップのための転職が増えるといわれています。しかし、冒頭で紹介した調査は3年以内の離職なので、キャリアアップが理由とは考え難いでしょう。
考えられるのが変則的な勤務形態──具体的には「休日の少なさ」と「長時間勤務」です。
土日祝日を合わせると年間休日は120日となり、一般的な会社ではこの日数が採用されています。しかし宿泊業の場合、部署によるものの多くは100日前後といわれています。
また、毎日決められた時間規則的に働けるわけではありません。宿泊客が多い日は長時間で暇な日は短時間、週の勤務時間の合計が40時間になるよう調整されているのです。
さらに、「変形労働時間制」の場合、労働時間を計算して休日の日数を決めるため、1日の労働時間が長い場合休日が多くなり、少ない場合休日が少なくなります。
こうした特殊な勤務形態のため、続けることができずに離職する人が多い傾向にあると思われます。
飲食業
飲食業の特徴として、競合他社が多いことが挙げられ、ある調査によるとおよそ7割の飲食店は赤字というデータがあります。
また、アルバイト募集の多さからも分かるように、就職のハードルはあまり高くない飲食業界ですが、その反面給与が低く、スキルアップが実感し難いという声もあります。これらの理由から、将来的な不安を感じて離職する人が少なくないようです。
しかし、何よりも多く挙げられる離職理由は、労働環境です。もちろん店により異なるので一概に決め付けられるものではありませんが、開店準備や弊店作業を含めると、勤務時間は長く長時間労働になりがちです。チェーン店の場合、パートタイムやアルバイトが多いこともあり、正規雇用の社員に労働時間のしわ寄せがくることも珍しくありません。
環境の改善が必要
宿泊業・飲食業の離職理由の共通点として、その苛酷な労働環境が挙げられます。
時間が変則的で長時間労働というのは、心身に負担がかかるだけでなく、プライベートが犠牲になってしまうという大きな問題があります。
現役で業界に関わっている人の話を聞いても、労働環境は昔から厳しいまま変わっていないそうです。特に飲食業の場合、以前頻繁にニュースに取り上げられた「ブラックバイト問題」からも、労働環境の苛酷さは推し量ることができるでしょう。仕事を続けるためには、賃金を含めた労働環境以外の何かが必要なのかもしれません。
労働環境の整備は、そこで働く人のためのものです。
一朝一夕で結果が出るものではなく、数字で分かるような目に見えた結果が出るものでもありません。とはいえ、上述したように課題は明確です。離職率を減らすのは、ある意味お客を増やすよりも大変なことかもしれません。
宿泊・飲食業の経営者の方は、離職率ワースト1という事実を理解した上で、いずれ業界から人がいなくなってしまうという危機感を持って、環境改善に踏み切る必要があるでしょう。
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助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説補助金・助成金の利用を
環境改善といっても、まず何よりも先立つものは資金です。しかし、気軽に使えるお金などない、というのが、多くの意見でしょう。そこで、補助金・助成金の活用をお勧めします。
補助金・助成金は、原則返済が不要な資金です。個人事業主でも受給できる助成金も多く存在するので、ぜひご確認ください。
特にお勧めしたいのが、「キャリアアップ助成金」です。パートタイムや派遣社員など期限付き雇用労働者のキャリアアップのため、処遇改善などの取り組みを行った事業主が受給できる助成金です。正規雇用することで対象となる助成金などがあり、アルバイトやパートタイムが多い飲食業と特に親和性が高い助成金といえるでしょう。
「受給条件にあっているか」「どう動けばいいか」など、疑問や質問があれば、社労士に相談してみるのも良いでしょう。業界全体が縮小傾向にある宿泊・飲食業では、増加する離職者問題をどうするか、一刻の猶予もありません。補助金・助成金を上手に活用した、労働環境の改善をぜひご一考ください。