「事業活動に車両を使用したい」「業務効率化のために社用車を買い替えたい」と検討しているものの、費用負担が大きいことから踏み出せずにいる中小企業や個人事業主は多くいるでしょう。

こうした状況を受けて、近年では「業務改善助成金」を活用し、車両購入を通じて業務の効率化や生産性向上を図る企業が増えつつあります。原則的には対象外とされていますが、一定の条件を満たせば助成対象に含まれる可能性があるため、車両購入を検討している企業は、一度条件を確認してみることをおすすめします。

この記事では、業務改善助成金の概要や車両の購入が対象となる要件や対象範囲を解説し、また、実際の活用事例を紹介します。

業務改善助成金とは?

業務改善助成金とは、中小企業・小規模事業者が「生産性を向上させるための設備投資など」を行い、かつ「従業員の賃上げを実施した」際に支給される国の助成制度です。

申請を行う事業場の引き上げ前の事業場内最低賃金によって、以下のように異なる助成率が設定されています。

引き上げ前の事業場内最低賃金:1,000円未満 4/5
引き上げ前の事業場内最低賃金:1,000円以上 3/4

※助成額の上限額は、組織規模や賃金を引き上げる労働者数、賃金の引き上げ額によって変動します。

業種を問わず、多くの中小企業・小規模事業者が賃上げや生産性向上のために、業務改善助成金を活用しています。業務改善助成金の概要や支給要件の詳細は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:【令和6年度】業務改善助成金とは?変更点や助成額、支給要件を解説

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業務改善助成金では車両購入は対象?

通常、業務改善助成金では車両の購入は原則として助成対象外です。しかし、車両購入が対象として認められるケースもあるため、その要件や対象となる車両の例について解説します。

車両購入が助成対象となるケース

以下のいずれかに該当する場合には、車両の購入が対象として認められる可能性があります。

  • 介護・福祉業などにおいて、「リフト付き車両」や「スロープ付き車両」などの導入が、業務改善のために明確に必要であると認められる場合
  • 特例事業者のうち、「物価高騰等要件」に該当する場合

「物価高騰等要件」とは、原材料費の高騰などの社会的・経済的慣行の変化といった外的要因により、申請前3か月間のうち任意の1か月の利益率(売上高総利益率または売上高営業利益率)が、前年同期に比べ、3%ポイント以上低下している事業者のことを指します。

ただし、どちらの場合においても業務改善や生産性向上の手段として、直接寄与すると認められることが必須です。例えば、「配送や訪問業務の効率化につながる」「作業時間の短縮が見込める」といった具体的な効果を説明できることが求められます。

対象となる車両の例

助成対象となり得る車両の例を、以下にまとめました。

介護・福祉業などの場合
  • リフト付き福祉車両
  • 車いす搭載車両など
「物価高騰等要件」に該当する場合 定員7人以上または車両本体価格200万円以下の自動車や貨物自動車(特種用途自動車を除く)

  • 軽貨物車、トラック
  • 建設・農業・整備業などで作業効率向上に直結する特殊車両(高所作業車・フォークリフト)など

助成対象となる関連費用

自動車購入時に支払う費用のうち、助成対象・助成対象外となる費用をまとめました。

助成対象の費用 助成対象外となる費用
  • 車両本体費用
  • 検査登録(届出)手続の代行費
  • 車庫証明手続の代行費
  • 納車費用
  • カーペットマット・ドアバイザーなどの通常装備されるもの
  • 検査登録(届出)手続預かり法定費用
  • 車庫証明手続預かり法定費用
  • 販売車両リサイクル料金
  • 自動車取得税
  • 自動車重量税
  • 自動車賠償責任保険
  • オーディオなどのオプション装備
  • 希望ナンバー交付手数料など

また車両導入以外にも、関連費用として以下のような費用も対象に含まれる可能性があります。

  • 車両の特装・改造費(リフト・スロープ・積載装置など)
  • 作業効率化に資する装備(デジタルタコグラフ・ドラレコなど)
  • 車両に搭載するITツール(運行管理システム・予約管理システムなど)

ただし、業務効率化や生産性向上と関係のない快適性に関連する装備やデザイン変更などの改造は対象外となります。

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業務改善助成金を車両購入に活用する場合の申請方法

ここでは、業務改善助成金を車両購入に活用する場合の申請手順・スケジュールや必要書類について解説します。

申請手順・スケジュール

業務改善助成金を車両購入に活用する場合の申請手順・スケジュールを以下にまとめました。

  1. 交付申請書類の作成・提出
  2. 提出書類の審査(約3か月)
  3. 交付・不交付の決定
  4. 事業の実施
  5. 事業完了後、支給申請書の作成・提出(事業完了から1か月後もしくは翌年度4月10日のいずれか早い日までに)
  6. 提出書類の審査(原則20日以内)
  7. 支給・不支給の決定
  8. 助成金が支払われる

上記のように、業務改善助成金は中長期での取り組みが求められます。申請を受けたいと思っても、すぐに助成金を受領できるわけではないため、資金繰りに注意して取り組む必要があります。

申請に必要な書類

車両購入にかかる要件のうち、「物価高騰等要件」に該当する場合には、以下の申請書類の提出が求められます。

  • (様式第1号)交付申請書
  • (様式第3号)事業計画変更申請書
  • (様式第5号)事業廃止承認申請書
  • (様式第7号)事業完了予定期日変更報告書
  • (様式第8号)状況報告
  • (様式第9号)事業実績報告書
  • (様式第10号)支給申請書
  • (様式第12号)消費税及び地方消費税に係る仕入控除税額報告書

さらに物価高騰等要件に該当する場合には、以下のいずれかの申出書の提出も必要です。

  • 物価高騰等要件に係る事業活動の状況に関する申出書(売上高総利益率)
  • 物価高騰等要件に係る事業活動の状況に関する申出書(売上高営業利益率)

参考:厚生労働省「業務改善助成金」

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業務改善助成金を車両購入に活用した事例

ここでは、業務改善助成金を車両購入に活用した事例について紹介します。

送迎用車両の導入事例

大分県で社会保険・社会福祉・介護事業を営む企業の車両導入事例をまとめました。

導入した車両 7人以上乗車可能な大型の送迎専用車両を2台導入した。
背景
  • 送迎用車両が小さく、複数回送迎を行っており業務効率が悪かった。
  • 車両数の不足により、送迎希望者がいても断らざるを得なかった。
成果
  • 1日あたりの送迎回数は0.5 回削減された。
  • 送迎業務に必要な人員が4名から3名に減少した。
  • 送迎希望者を新たに2名受け入れ可能となり、売上高が向上した。
賃金引上げ実績
  • 利用したコース:90円コース
  • 引上げ労働者数:4人
  • 事業場内最低賃金:822円→918円

参考:厚生労働省「生産性向上のヒント集(令和6年3月作成)」

軽貨物自動車の導入事例

愛知県で建設業を営む企業の車両導入事例をまとめました。

導入した車両 軽貨物自動車と工事用電動工具、工具用バッテリー2基を 導入した。
背景 業務用車両や工事用工具が必要な際には、リース先へ借りに行く必要があったうえ、リースする工具は、燃料補充や冷却に時間がかかっていた。自社保有することによる業務効率化を検討した。
成果
  • アイドリング時間がなくなり、作業時間が最大50%削減し、1日の作業量が倍増した。
  • 車両の走行距離が削減し、移動時間とガソリン代が削減した。
賃金引上げ実績
  • 賃金の引上げ労働者数:1人
  • 事業場内最低賃金を107円引き上げた。
  • 事業場内最低賃金を上回る従業員の賃金を引き上げた。

参考:厚生労働省「生産性向上のヒント集(令和5年3月作成)」

リフト付き福祉車両の導入事例

滋賀県で障がい者福祉事業を営む企業の車両導入事例をまとめました。

導入した車両 リフト付き福祉車両、乾燥機能付き洗濯機、大容量冷蔵庫を導入した。
背景 以下の理由から、車両や機器の導入による業務効率化を検討した。

  • 車いす利用者の送迎時には2名で行き、介助はすべて人力で行っていた。
  • 洗濯機に乾燥機能がないため、洗濯物の作業に手間と時間がかかっていた。
  • 冷蔵庫の容量が小さいため毎日買い出しに行く必要があった。
成果
  • 車いす利用者の送迎時間や買い出し回数が半減した。
  • 洗濯物の干す・取り込みにかかる時間が削減した。
賃金引上げ実績
  • 賃金の引上げ労働者数:5人
  • 事業場内最低賃金を90円引き上げた。
  • 事業場内最低賃金を上回る従業員の賃金を引き上げた。

参考:厚生労働省「生産性向上のヒント集(令和5年3月作成)」

新型マイクロバスの導入

鳥取県で宿泊業を営む企業の車両導入事例をまとめました。

導入した車両 新型のマイクロバスを導入した。
背景
  • 既存の送迎バスは、顧客の乗り心地が悪かった。
  • 既存の送迎バスの不具合対応や部品交換などの修理代やメンテナンスの手間がかかっていた。
成果
  • 送迎客の乗り心地が改善した。
  • 修理の必要性が減って燃費が向上し、修理代やガソリンの費用が削減した。
賃金引上げ実績
  • 賃金の引上げ労働者数:12人
  • 事業場内最低賃金を90円引き上げた。
  • 事業場内最低賃金を上回る従業員の賃金を引き上げた。

参考:厚生労働省「生産性向上のヒント集(令和5年3月作成)」

まとめ

この記事では、業務改善助成金の概要や車両の購入が対象となる要件や対象範囲を解説し、また、実際の活用事例を紹介しました。

支給要件を満たし、業務改善に寄与する合理的な理由を説明できれば、業務改善助成金は車両購入に活用できる可能性があります。そのため、まずは自社の状況と支給要件を照合することが大切です。

業務改善助成金で車両購入を検討している事業主の方は、プロの助成金コンサルタントに相談することがおすすめです。確実な受給を目指すためにも、まず以下から無料相談を試してみてはいかがでしょうか。
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黒沢晃
黒沢晃(助成金コンサルタント)
商社にて新卒採用の人事を担当した後、人材コンサルタントとして企業の人事戦略を支援。2016年から中小企業や個人事業主を対象として助成金を活用した経営サポートに従事。現在は年間100社以上をサポートする。