厚生労働省や自治体へ申請することができる助成金の中には、IT活用によって業務を効率化し、生産性の向上を促すものがあります。今回は、IT導入を進めることによって受給できる助成金をご紹介していきましょう。

IT活用で助成金が出るってどういうこと?

日本は先進国の中でも労働生産性が長期間にわたって最下位であることは有名な話です。実は日本人労働者は、世界の労働者と比較した時に質の高さでは第4位であるといわれています。

一方でその質の高い労働者を、他国に比べると格安の最低賃金で利用することができるにも関わらず日本企業の業績は伸び悩んでいます。どういうことかというと、日本人労働者は年功序列、終身雇用という日本的経営が破綻してもなおその時代の働き方を引きずっており、このため良くも悪くも事業主は経営努力をせずとも世界の企業と渡り合ってくることができたのです。

しかし、それもIT技術の進歩によって限界が見えてきました。例えば、諸外国ではデータに基づいた経営というのは当たり前になっているのですが、日本の会社は長年培った感覚による経営を続けています。これでは隣国である中国や韓国、近年伸びてきているブラジルやインドのような国に追い抜かれてしまっても仕方ありません。——このような背景から、無理やりにでも企業の労働生産性を向上させる必要があると日本政府や自治体は判断し、IT技術の導入をすることで補助金や助成金を支給する制度を策定したのです。

要するに中小企業のIT技術導入を支援することで労働生産性を向上させ、諸外国に負けない経済を保とうとしているわけです。前置きが長くなってしまいましたが、このためIT技術導入を支援するための助成金や補助金というものは様々なものがあります。以下では、IT関連の助成金の一部をピックアップしてご紹介していきたいと思います。

1. 人材確保支援助成金

人材確保支援助成金は企業が離職率の軽減や従業員のモチベーションアップに活用できる助成金です。その中でもITに関連するのは人事評価改善等助成コースです。このコースでは、新たな人事評価制度(例えば、有資格者や個人のスキルに応じて給与をアップさせるなど)を設けることを通して生産性向上や離職率の低下を図る事業主に対して助成金が支給されるというものです。

IT技術というのは、導入したからといって使いこなせなければ意味がありません。このため、IT技術を持った人材を確保あるいは創出していく必要があります。例えば、飲食店の曜日ごとの売上を分析して新しいメニュー開発を行おうとした場合、「水曜日には女性客が多く、ヘルシー志向のメニューが売れる傾向にある」というデータを導き出すためには、データを集計して計算するスキルが必要になります。従業員にこのスキルを取得してもらうために「データ分析のスキルを持っていれば給与を上げる」という人事評価制度を新たに策定しましょうというのがこの助成金制度です。

受給額

人事評価制度整備によって支給される助成金・・・50万円

生産性が向上し、離職率が低下し、賃金の増加が実際になされた場合の助成金・・・80万円

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助成金とは?対象者や受給条件・申請の方法まで徹底解説

2. 人材開発支援助成金

人材開発支援助成金は、上記で紹介した人事評価改善等助成コースよりも目先の施策によって支給される助成金です。具体的には従業員をセミナーへ参加させたり、職務に関連した技能を身に着けるための訓練を実施したりする場合に支給される助成金です。

例えば、「IT導入をすれば業務効率化によって長期的に売上が向上するのは分かるけど、人件費を支払うのにギリギリだからセミナーの参加なんて命令できない」という場合に活用することが可能です。

経営者からしてみれば、「スキルなんて勤務時間外に身に着けてほしい」というのが本音ですが、労働者からすれば「仕事で使うものなのであれば、セミナー参加費も出してほしいしできれば平日にやりたい」というのが本音でしょう。もちろん、雇用主が労働者に命令をすることができるのは勤務時間中ですので、労働基準法によれば労働者の言い分が正しいのです。これがIT導入の妨げになっては意味がありませんので、厚生労働省がセミナーの参加費や研修期間中の労働者の時給を補助してくれる——そんな助成金が人材開発支援助成金です。

受給額

複数のコースがありますので、人材開発支援助成金の詳細ページをチェックしてみてください。

3. キャリアアップ助成金

突然ですが、皆さんは内閣が推進する「働き方改革」の内容をご存知でしょうか? 様々な改革が予定されている安倍内閣による改革ですが、この目玉は「同一労働同一賃金」であるといわれています。

この制度は、正規雇用であろうが非正規雇用であろうが、同じ業務内容を行っている人間は同じ賃金が支給されるべきだというものです。これによって非正規契約として労働している若者を貧困から救い、自由な働き方で豊かな生活が送れるような社会を実現しようという考えですが、これを目指すためにキャリアアップ助成金というものが活用することができます。

キャリアアップ助成金の「賃金規定等改定コース」は、非正規労働者の中で正規雇用労働者と同じ業務内容あるいはスキルを持っているものの給与をアップさせることで受給することができる助成金です。

これからの時代は働き方が多様化していきますから、正社員でなければ無能で非正規であれば有能でないという一般的な考え方は通用しなくなってきます。労働者は自分を高く評価してくれて、なおかつ働きやすい環境で労働をしたいと望みますから、早めにこういった環境を整備してIT技術を持った優れた人材を囲い込んでおくのも一つの経営戦略ではないでしょうか。

受給額

複数のコースがあるため、キャリアアップ助成金の詳細ページをチェックしてみてください。

まとめ

今回は、IT技術を導入するために活用可能な助成金をご紹介してきました。助成金は厚生労働省が支給しているということもあって人材に関するものが多いですが、ツールの導入などには経済産業省が支給する補助金も活用することができます。助成金と補助金をうまく使い分けて、業務効率化を目指していきましょう。

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黒沢晃
黒沢晃(助成金コンサルタント)
商社にて新卒採用の人事を担当した後、人材コンサルタントとして企業の人事戦略を支援。2016年から中小企業や個人事業主を対象として助成金を活用した経営サポートに従事。現在は年間100社以上をサポートする。